6-24.宰相様と対面(2)
宰相閣下からの指示は、ある程度は理にかなっているとは思う。
王都に来いって言うのも、平民で愛人という立場であろうと、今後も付き合いがあるなら式典に参加はできなくても、お祝いするべき立場でもある。
ラズ様の立場のため、面倒だけど武闘大会にも出るのは構わない。
ただ、奇病については対処を頼まれても、従えないかなぁと思う。
多分、その態度が出てしまっていたのか、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる。
「ふむ。奇病の裏方について、どこまで理解している?」
「え? いや、あまり……」
カイア様を呪っていた人達が呪詛返しを受けた人達。
さらに、他の呪いも明るみに出た。それらの呪詛返しを受けた人達を奇病って言ってる……だったはず。
「それが全てではない」
「えっ……じゃあ、あの、呪った貴族は、何をしたかったんですか? 奇病の件、私は自業自得だと思っています」
「自分よりもうまい汁を啜っている者は妬ましい。自分の身うちは可愛い。それは皆同じだ。貴族もまた、人でしかない」
「えっと……」
「国王派にとって、優秀な王弟は目障りでしかなかった。そんな王弟の息子を呪い、病弱にするだけでなく、本来成長と共に得るはずのステータスを奪い、我が子に与える。前王が率先してやったことだ。敵対派閥の子が犠牲になり、自分たちの子が優秀に育つと聞き、欲に目が眩み、企みに乗る。……愚かであるが、それも人だ」
うん。不利益を受けるのは自分が気に入らない敵対相手。
カイア様が成長するたびに、その呪いに関わる者が増えていったそうだ。
さらに、一人だけではなく、他の子にも同じように恩恵を受けさせたいと考える。カイア様が駄目なら、他の子どもを対象にしていく。
次第に敵対派閥だけでなく、呪いに関わらない家の子も対象になっていった。
「愚かな親どもが報いを受けるならばそれは当然だ。だが、倒れた者の多くは、幼い頃、自分の意思ではなく親に言われるままに呪いに関わることになった……幼い頃の些細な出来事として、記憶も定かでない。今回、初めて、優秀だと思っていた自分が、他人の能力を奪っていただけの卑怯者であったことを知った」
一応、宰相閣下も親は自業自得という考えではある。
ただ、今回倒れている奇病に罹った人の多くは、真実を知らなかったのか。
「そこまで被害者も加害者も多いのは、国として終わってません?」
「共通の秘密というのも結束力ができる。だからこそ、成り立つ派閥でもあった。だが……自分の咎が子に向かう。親にとって、子を失うことがどれほどのものか、君がわからぬわけではなかろう」
いや。ツルギさんの話だと、自分は子をあっさりと切り捨てたって話だったけど。
だいたい、子どもが「二人だけの秘密」というなら可愛いけど、いい大人がみんなでそれをやるってどうなんだろう。
それでも、子を失う親の気持ちは……理解できてしまう。
「どうかね?」
つい、唇を噛んで、爪が手のひらに食い込んだ。
それでも、ゆっくりと頷いた。
「……王弟殿下はなんて?」
治療をする。そこを断りにくくなってしまった。
ただ、それでも王弟殿下の意見を無視することはできない。
「自分の意志ではないところで過ちを犯してしまった者達。サフィールに、親として、個人的な感情を捨ててまで彼らを許してやれと言うことはない。重用してやる必要もない。だが、王としては、慈悲を与えて、生かすだけはしておくべきだ。それができる手駒があるのだからな」
王弟殿下の立場も考慮して、説得するということだろう。
手駒というのは気になるけど、その通りでもある。
「立場はあれど、人が考えることなど大した違いはない。個人の感情がある。だが、人が集まり国がある。国を崩壊させぬためにすべきことがある。甘い汁を啜っていた者を排除するだけで国が良くなるわけではない」
「だから、助けろ……ですか」
たしかに、奇病に倒れた人達ではなく、その親を排除した方が国は良くなりそう。
カイア様の親としては許せなくても、王としては慈悲が必要なのか。自分は関わらないという立場を取り続けるのも駄目というのは厳しい。
ただ、サフィールって呼び捨てにしたってことは、派閥は違ってもそれなりの付き合いがありそう。心情的にも立場的にも、断れないか。
「……わかりました。自分の意志ではないとはいえ、すでに大人でもあるのでしょうけど……それはそれとして、理解できました……できることは、やります」
「うむ。では、今後もよき関係であることを望む」
ある程度、指示に従うと示したためか、割と友好的に終わりそうだった。
だから、気になることを聞いてみた。
「あの、わざわざ来るほどの案件だったんでしょうか?」
「ふむ。意味はあったと考えている」
「えっと、どこらへんで?」
「クレイン・メディシーア。君がどういう人物かを見極める。敵も味方も、何も知らずに動くことは愚の骨頂。国のために何を受け入れ、何を捨てるのか。判断するには相手を知らねばならん。直近の一番の懸念材料は君だ」
「え? 私が?」
「異邦人は扱いにくい。君は薬師という特殊な立ち位置であり、そこに隠れて色々な能力がある。私は宰相として、国のため、王家の意思を無視してでも排除する必要があるのかを決めねばならない」
う~ん。私が害悪でも、王弟殿下が切り捨てないなら、宰相閣下が排除するということかな。
でも、ラズ様が「ごほん」とわざとらしく咳ばらいをすると、「今のところはその予定はない」と宰相からも言われた。
たぶん、今は大丈夫だと思う。直感さんは反応していないしね。
宰相閣下はこれから先も味方ではないけど、敵でもない。胃が痛くなりそうな関係が続くっぽい。
私は、このまま平穏に過ごしたいだけだから、上手くやり過ごしたいな。
「多くの異邦人が現れた。急激な変化が起きた。それだけだ。この国を帝国の二の舞にしないため、受け入れる土台を用意する。それが出来ねば国が淘汰される」
「……わかったような、わからないような」
国を背負う覚悟があることはわかったけど。
異邦人についての対処も、私だけではなく他も含めて考えてるんだろう。
「単純な話だ。今まで通りに力を振るうならば、王家の、王国の力だ。そうでなくてはならぬ。他の貴族に同等の力を持たせるわけにはいかない。王家内では考えが一致しているなら、口を出すことはしない」
「宰相。父上はなんて?」
「ラズに任せているで、話にならない。だからこそ、見極めに来る必要があった」
「そう」
それは、王弟殿下がきちんと私のことを宰相閣下に伝えてくれたら、こんな面倒なことにならなかった? ラズ様に視線を送るが、ラズ様は何か言いたそうにしていたが、結局、何も言わなかった。
「疲れた……」
「お疲れ様」
宰相閣下が帰っていった。
帰る前に、何かあった時の連絡手段としてと、宰相閣下の家門の入ったカフスを手渡された。
ラズ様の目が一瞬細くなったので、怖かった。
ただ、保険として持っておくように指示された。これを見せれば、宰相との連絡も取れるらしい。使う機会がないことを祈ろう。
「じゃあ、これで自由ですか?」
「一応ね。好きに過ごしていいよ」
最初に詫びがあったけど、別件の頼みがほとんどだった。
捕らえたことについては説明もなく、私の拘束は解かれることになった。
結構な期間を拘束されたので迷惑料が支払われたけどね。ただ、すでにお金についてはかなり余裕がある状態だからね。なんだか釈然としない部分はある。
「クレイン。調合器具とかも用意しておいたから、今後もこの部屋は自由につかっていいよ」
問題はなくなったので、ここに調合器具を置いて、今後は私専用の部屋として用意してくれるという。理由は、今後も危険な場合はここに来てもらうことがあるから。
それは嫌。
ただ、あり得なくもないんだろうな。
「今のところ、テイムされた魔物達を殺してでも潜入することはなかった。それはあくまで、事を荒立てないためだよ。相手が本気の場合には、魔物を殺してでも君を攫う可能性はある。なのに、研究に集中すると他のことが気にならないみたいだからね」
「……だから、場合によってはこちらで研究しろと?」
「そう。それもありだよってだけ。無理強いするつもりはないよ」
悩ましいところではある。今回については、あちらに戻るけどね。
素材の買い取り。ラーナちゃんに任せてるけど、色々と大変なはず。素材が悪くなる前に調薬や錬金で素材にしておく必要もある。
「あと、君は今回のスタンピードについては、冒険者ギルドの方も不参加を認めてるけど、一応、ギルド長のとこに顔は出してね」
「あ、はい……元々、ギルドの決定よりも先にソロル侯爵領に行くことにしたんでしたっけ? あっちはどうなってるんでしょう? 今からでも行きます?」
「自分の領より、他人の心配するくらいだから余裕もあるでしょ。そもそも、君が行くとなると護衛の手配とかしないと駄目だと僕も言われたから、今からはやめて」
いや、どうなんだろう。冒険者に護衛って意味が分からなくなる。
ただ、どうも今の時期は大人しくしろということらしい。
「国境閉鎖をして、他の地域からの出入りも制限させた。流行り病も最初が肝心ということで被害は王家からの支援物資も送ってる。ひとまず、封じ込めには成功したと考えていいよ」
「え? 本当に?」
「ツルギとクロウでしっかりと薬やスポドリを用意して、症状が軽いうちに対処できるようにした。現地で取り仕切ったのは嫡男だけどね」
「……つまり、ソロル侯爵は外祖父として口出しそうなので代替わりを?」
「まあ、今回で言うと、国王派との懸け橋も、流行り病も、何も成果を上げれなかった訳だしね。」
貴族として、流れが読めなかった。そもそもが、役割が変わったのを理解することなく、動いたこと。それが排除される要因なのか……まじで怖い。関わりたくない。
「複雑、ですね?」
「貴族なんてそんなもんだよ。兄上達が派閥内を取り仕切るから、僕らはこれ以上巻き込まれたりはしないと思うけどね」
ラズ様の言葉にホッとする。巻き込まれないなら良かった。
「奇病の治療は無理しなくていいから。そもそも、会ってみないと症状もわからないだろうしね。準備はしなくていいよ……聖教国側も君を気にしてるみたいだしね。とりあえず、今気にするのは、一回戦負けはしないように」
少し鍛えておく必要はあるかな。……我流ではなく、少しは騎士らしく?
「……ラズ様、騎士の戦い方教えられる人、紹介してください」
「フォルでもいいけど。兄上に頼んで、ツルギ派遣してもらう?」
「いや、あの人は対人戦は強いですけど、騎士の戦い方はしないですよ」
「騎士の戦い方ね……じゃあ、フォルの暗器もまずいか。適当に考えておくよ。ただ、宰相も言ったけど、異邦人もいるからね。公然の秘密にはなってるけど、ある程度ぼろがでないようにね」
流石に、何でもありの対人戦ではラズ様の顔に泥を塗らないように……。
そして、異邦人だと悟られないようにしろと……。
「ちなみに……馬ありって言ってましたけど、シマオウは?」
「騎士の戦い方を気にするならやめたら? そもそも、二対一になる構図はまずいしね」
「……わかりました」
シマオウは自己判断で襲えるけど、馬は出来ないのか。いや、出来てもしないのかな。きっと。
魔法ありはかなり有利だと思うんだけど……色々と準備しよう。




