表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
22/82

ウォークラリー(2)

明るく開けたところで、昼食を食べる。


ウォークラリー中、好きなタイミングで昼食を取って良いと書かれており、他の班が集まっていたここで、昼食をとると決めたんだ。


「これでやっと半分くらいか」

「結構歩いたよねー」

「ねー」

「今までの問題の答え、本当にあってたのかな?」

「間違ってんじゃね?」


東雲君が、そう言いたくなる理由もいたいほどわかった。


特にさっきの漢字の地名を読む問題で、『月川』と書いているのをツキカワと答えたのは絶対に違う。


「え? ミキのそれ、手作りなの!?」

「う、うん。朝早く起きて、作ってみたんだ」

「メチャクチャ上手なんだけど!」

「ほーん……確かに、美味そうだな」

「あ、あの! 良かったら……食べてみる?」

「良いの? サンキュ」

「ど、どうかな?」

「うん。美味い」

「…………良かった」


……ラブコメを繰り広げられることほど、苦痛なことはない。


なんというか、モテる故の一端を垣間見た気がする。



なんてことを考えていると東雲君と目が合い……逸らされた。


良かった。ここで、『お前も食べて見ろよ。美味いから』とか言われていたら、絶交していたところだ。


こういう、空気を読めるところもあるから憎めない。


◇◇◇


「ヒッ!!!」


班のメンバーから悲鳴が上がる。


ウォークラリーをしていたら、うちの生徒達が倒れているのを発見したんだ。そんな状況を前にしたら当たり前の反応。


固まっている皆んなをよそに、倒れている人たちの側に近寄る。


「近藤さん。し、死んでるの……?」

「ううん。まだ、息はある。全員、気絶してるだけだね」


その言葉にホッとする面々。だけどまだ安心できる状況ではない。


「気をつけて! 近くにこれをやった犯人がいるかも」


その言葉に、離れていた皆んなが一箇所に固まる。


「取り敢えず安全な場所に移動させなきゃ。私はここに残るから、あんたたちは近くのチェックポイントにいる先生に報告してきて」


その指示に従って、全員がこの場を去った。



しかし、異様な現場だ。


近くの木々は倒され、地面は抉られている。これは間違いなく、戦闘の形跡だった。


「でも、傷跡はどれも同じ」


更に言えば、全員の身体に傷跡が見つかった。誰一人として、衣服には切り傷もついていないのに。


間違いなく異能による犯行。しかも、犯人は単独犯。


「この子たちが弱かったのか、それとも……」



間違いなく、何かが起きている。


でも一体何のためにこんな……誰かを狙っている?


だとしたら狙われる人なんて、一人しかいない。


「奏音……っ!!」


◇◇◇


「川澄先生。3組、全員います」

「よし、これで残るは2組と5組か」


生徒の報告で、誰かに襲われ道端に倒れていた生徒を発見し、医務室に運ばれたのが今から40分ほど前。


そこから教員方の力を借りて、至急ウォークラリー中の生徒を呼び戻させた。


「被害の状況はどうなってますか」

「あの生徒たち以外に、4人の生徒が被害に遭っているのを確認しています」


舌打ちが出そうになる。


間違いなくこちら側の失態だ。もっと、警戒を強化すべきだった。今までが無事に終わっていたのもあって、油断していた。


後悔の念は尽きない。


「しかし、下手人の狙いは一体……」

「あるとしたら、夏目奏音でしょうね。あの生徒の……いや、あの兄の影響力を見誤っていました」


あの兄に恨みを持つやつは多いだろう。


ならばこそ、夏目奏音は唯一にして最大の弱点と言えた。だが、なぜそれが今になって……


言い訳にもならないが、言わずにはいられなかった。


「だとしたらなぜ、他の生徒を?」

「……間違えたのだしたら、随分とお粗末ですね」


怒りさえ湧いてきた。が、安心させるためなんとか冷静さを保つ。


「それで、夏目さんはまだ?」

「はい。帰ってきていません」

「わかりました。私も探しに行きます」


何をそんなに驚いているのか、人は多い方が良いはずだろうに。


「主任! まだお身体の方は!」

「そんなの気にしてたら、教職は務まりませんよ」


そう言うと、もはや止めるのは無理だと悟ったのか、大人しく口をつぐんだ。


「では、後は任しました。副主任」

「……はい」


重い重い。一々、重くとらえすぎなんだ。こいつは。


◇◇◇


「ああ、良かった。無事だったか」

「どうしたんすか先生。急に帰ってこいなんて」

「それは後で全体に周知する。で、釘抜の班は見てないか?」


さあ、とばかりに首を振る。


こいつらも見てないから……これで、帰ってきてないのはアイツらだけになった。


「あ、途中でなら見かけましたよ」

「本当か!?」

「はい。俺たちと同じとこで昼食取ってたんで」

「それはどこか教えてくれ」


言われたところに地図でマークをつける。


それは半分のチェックポイントを過ぎた辺りのところだった。


「で、この後は知ってるか?」

「いえ。俺たちの方が先に出たんで」

「それだけ知れたら充分だ」


こいつらは確か、後ろから教師に呼び止められたと言っていた。


つまり、その教師は釘抜たちとすれ違っていなければならない。が、ここに釘抜たちの姿はない。


つまり、その間で釘抜たちは行方不明になったってことになる。


「俺はこのことを主任に伝えに行く。お前らはじっとしとけよ」

「は、はい」


釘抜たち……生きてろよ、頼むから。


◇◇◇


「あ、あれ?」

「どしたー、レイン?」


不安げな顔を浮かべる青い髪の少女に、2人ババ抜きをしていた赤い髪の少女は何の気なしに尋ねる。


青い少女は、いつも不安げだった。


「いえ。なんだか様子がおかしいような」

「ルートなら、とっくの前に外れてたじゃん?」

「そうじゃなくて……他の生徒方の姿も見えませんし、とにかくどこかおかしいんですよー!」


その少女の必死な呼びかけに、最後の駆け引きを楽しんでいた2人の少女も、その腰を上げた、


「確かに……他の生徒の姿は見えませんね」

「これって今気づいたの?」

「面目ないです……その、ホルダー様たちの様子を確認していたので、ルートが外れてたこともあって、他の方々にまで注意が及んでいませんでした」


一陣の風が吹く。

3人の少女の頬に、冷たい汗が伝った。


「とにかく一旦、近づこう。この距離じゃ、すぐに対応できない」


その言葉に頷くと、青と灰色の髪の少女は一枚のカードへと変化し、それを手に持って赤色の少女は走った。


◇◇◇


「……やっぱ、間違えてね?」

「やっと自分の非を認めたんだね」

「違う違う。道だよ」


全員が内心思っていたが気を使って言い出せなかったことを、堂々と口にしやがる東雲君。


「だから言ったじゃん。自分の非を認めたのって」

「だから違……この道行こうって言ったの俺か?」


思わず頭を叩く。


その行為を咎める人は、誰一人としていなかった。


「仕方ない、戻ろ」

「この距離をか? もっと早く言ってくれれば……悪かったって。反省してるからそう睨むなよ」



一人、憤慨しながら先を歩いていると、隣で東雲君が誰か向こうから歩いてくるぞ、と突如として言う。


確かに豆粒のような、人影が見えた。


「あれは……うちの担任だな。焦ってどうしたんだ?」

「へー、見えるんだ。腐ってもシーカーってことね」

「……今だけだからな?」


そんな東雲君の言葉を無視して、元気良く手を振る。


そして、息を切らして走ってきた担任の先生と相対するのだった。


「お、お前ら……無事だったんだな。良かった……」

「あ、すいません。道を間違えてたみたいで」

「いや、そんなことはもう良い。早く帰ろう、皆んな集まってる」


そんなに時間が経ってたのか。気づかなかった。


「いや。ちょっと待った、先生。あそこの木々の中から、誰かがこっちを見ている」

「……っ!! 本当かっ!!」


焦った様子で僕たちの前に立つ先生。その表情は真剣そのもので、何か僕たちの知らない事情があるんだと感じ取った。


そして、その視線の正体を僕は知っていた。


「た、多分ウサギとかじゃないかな?」

「馬鹿言うなよ、完全に人間だった。シーカーの俺が保証する」

「僕も一応、シーカーだよ」

「黙ってろ、ひよっこ」


くっ……仕方ない!

ここはぼかしながら、真実を伝えよう。


「実はその視線の正体、僕の知り合いなんだ」

「は?」


東雲君と、担任の先生までもが僕を疑いの目で見てくる。


「最初言ってたでしょ? 誰かの気配がするって」

「ああ、言ってたな。で、知り合いって?」

「僕には過保護の兄がいるんだよ。林間合宿には着いて来ないでって強く言ってたのに、着いてきちゃってたみたいでさ」


これは、流石に苦しいかな。

恵南さんのしようとしてたことを、流用させてもらったんだけど。


「……信じるわ。で、なんでこの視線がその兄ちゃんだって?」

「だってそれ以外考えられないでしょ? 僕たちを見てるなんて」


僕の必死な説得が通じたのか、警戒心を急激に霧散させる東雲君。その後の差で、風邪をひきそうになる。


「お前も、苦労してんだな」

「うん。それなりにね」


危ない危ない。なんとか凌ぎ切れた。


……未だ、担任の先生の僕を見る目は、猜疑心が混じってるけど。


◇◇◇


「まさか、あの子。私の存在に気づいてたの?」


完全に自分のことを言い当てたような言種に寒気が走るが、瞬時にその可能性を否定する。


自分の隠密は完璧だった。


(……でも、あの言いよう)


『最初言ってたでしょ? 誰かの気配がするって』


その言葉が頭の中をリフレインする。



もし、気づかれていたとしたら?


それはつまり、私をも凌駕する才能の持ち主ってことでーー、



(いいえ。無益ね)


頭を振り、自分の目的を思い出す。犯人の捜索、ただ一つ。


(でも、報告はしておいた方が良いかしら?)


そう考えて、手元の携帯を操作する。



その口元は、ゆるゆるに緩み切っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ