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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
21/82

ウォークラリー

「カッパとビニール袋と……」

「着替え用の体操服に」

「あと、お菓子」


バックに入れられたじゃがりこ等を、即座に取り出す。文句を言ってくるが、気にしない。


明日の準備を手伝うと言ってきかないので、仕方なく任せているとすぐこれだ。旅行かなにかと勘違いしている節がある。


「ホルダー様。明日は何時起きですか?」

「一応、遅れないように7時起きだけど」


わかりました、と言って律儀に目覚ましをセットし始める。


あれはアッシュちゃんが、あげたお小遣いで初めて買ったものだ。


「ちょっと! それうるさいって言ったじゃん!」

「駄目です。これもホルダー様のためですから。そもそも、貴方は寝すぎなんです」


言葉の通り、この3人の中で一番の早起きはアッシュちゃんだ。いつも朝7時には起床している。


そして一番遅いのはモミジちゃん。この子は僕が起こすまで、ずっと眠りこけている。


しかし……と、ベットの上でわちゃわちゃしている2人を見て、改めてベットを増やして良かったと思える。


大きめのベットを二つ繋げているので、3人が寝転がってもまだ余裕があったりする。


後2人ぐらい増えても、なんとか大丈夫な計算だ。


「この盾は持っていかないんですか?」

「いや、流石にね」


レインちゃんの言葉に、首を横に振る。


「向こうでも貸し出してくれるみたいだし、必要ないよ」



そうこうしている間に、時刻は12時を回っていた。


「寝るよ、みんな」


そう言うと返事をして、ベットに入っていく。改めてこの光景、犯罪臭が凄いな……


電気を消して、床に置かれた寝袋の中に入る。


緊張して眠れないなんてことはなく、すぐに眠りへとつけた。


◇◇◇


「ほら、学校の窓から手を振ってくれてますよー」


そう言われて窓を見ると、上級生の方々が授業中にも関わらず窓から身を乗り出して、声援を送ってくださる。


何を頑張れば良いんだろ。



バスの列は校門を抜けると、道路へと入る。遂に、僕たちの林間合宿は始まった。


クラスメイトたちの士気は高い。隣同士、仲の良い友達と会話が弾んでいる。


「なー、トノサマガエルってどこら辺がトノサマなんだ?」

「知らなーい」


それに比べて、僕たちのところは悲惨だった。


今更言うのはなんだけど、僕と東雲君はそんなに仲が良いわけじゃない。今まで、そこまで話したことはなかったし。


席が近いクラスメイト程度の、距離感でしかないんだから。


「そう言えばよ。夏目奏多について調べてみたんだが」


何か時間を潰すための共通の話題はないかと探っていると、面白い話題を提供してくれた。


「奏音さんのお兄さんの」

「そうそう。あの人って、超凄い人なんだってな」


基本的に、世間に対して無関心だったんだ。


そんなこと、調べなくてもわかる。


「仕事でシーカーやってるんだってな。しかも、東京にあるダンジョンを中心に」


これがいかに凄いかは、シーカーでないとわからない。



まず仕事でシーカーをやるということ。

シーカーとはサラリーで食っていけているわけじゃなく、どちらかと言うと農家に近い職業体系をしている。


自らの得たダンジョン産のアイテムで日銭を稼ぐ。これが、シーカーがその日暮らしだと揶揄されるわけなんだが。


とは言っても、一流のシーカーが一回のダンジョン攻略で稼ぐ額は一般的なサラリーマンの年収に相当したりする。

馬鹿にされるほど、安定しない職業でもない。


ただ一部、給料を貰ってダンジョンに潜るシーカーもいる。


その給料の出所は地方自治体とか市役所とか。ダンジョンから起こる被害を最小限に抑えるために。


要するに、そこの専属のシーカーになるってこと。



更にそこに、東京のダンジョンを中心にとなると、その数は更に絞られていく。


東京が今もなお日本の首都であり続けるのは、そこに質の高く難易度の高いダンジョンが集まっているからだ。


必然的にシーカーも多く集まり、そのシーカーたちの求められるレベルも桁違いに高くなる。


そんな粒揃いのシーカーがいる中で、それでも不安だと考えた東京のお偉いさんたちが、頼み込み相手、それが夏目奏多なんだ。



その妹がどうしてここに、と考えなくもないけど、向こうには向こうの事情があるに違いない。


今はただ、その幸運を噛み締めるだけだ。



「それで。ついでに経歴まで調べてたんだけど、聞き慣れない単語があったんだよな」


そう言って、高校生選手権の名前を出す東雲君。目の前の男が、シーカーであるのを信じられなかった。


高校生選手権とは、シーカーである高校生なら誰もが栄光を夢見る大会のこと。

高校生のシーカーを対象に開かれるそれは、ダンジョンのタイムアタックや直下堀りを通じて、日本一の高校生を決めるんだ。


夏になると必ずテレビで取り上げられるぐらいの知名度は誇り、歴史も前々大会で50回を記念するほどに長かったりする。



と、僕が懇切丁寧に説明すると、『俺たちも出てみない?』とかいう、頭の悪い発言をかましてくる。


「予選にすら出れないよ」

「でも、『麗姫』がいればワンチャンあるだろ?」

「馬鹿。二つ名持ちは、原則大会に出れないよ」

「なんだ、そうなのか……」


そう聞いて、あからさまに落ち込む。


そもそも、恵南さんと出れると思ってたところから、おかしいよ。



「だから、キノコだって!」

「タケノコだよ!」


夏目奏多についての話も終わり、無難な話し合いを続けていると、論争に発展してしまった。


勿論、好きな野菜についてではない。

あの日本が誇る、伝説的なチョコレート菓子の派閥争いだった。


「わかんねーやつだな! 一々、逆のことを言ってよ」

「それはこっちのセリフだよ」


2人で話しててわかった。彼とは絶望的に話が合わない。


お互いの趣味嗜好が間反対なんだ。狙いすましたかのように。


「だから、最後までチョコたっぷりなんだって!」

「こっちはゲームまでできるんだよ!?」


こうして話している間にも、いつの間にか対象とするものがすり替わっている。だと言うのに、やはり意見は合わない。


ここまで来ると、宿敵のように思えてきた。


なんとか時間をかけて説き伏せてやると、息巻いているとバスが急に停止した。



どうしたんだと窓を見ると、しおりで見た建物が。


「はー、やっと着いたー」

「俺、寝てたわ。肩、バッキバキ」


お互いに、苦笑いすることしかできなかった。


◇◇◇


挨拶も終わり、荷物を自分の部屋に置くと、建物の前に集合させられる。地面のアスファルトが痛い。


「配られた地図のヒントでチェックポイントを回って、チェックポイントに貼られた問題の答えをもう一枚の紙に記入してください」


ウォークラリーの簡単な説明がされる。


簡単すぎて、30秒もかからなかった。


「山には蛇や猪も出ることがあるので充分に注意してください。それと電気柵には近づかないように」


こう聞くと結構リスキーだよね、ウォークラリーって。迷子になったりすることもあるみたいだし。


良く今まで問題にならなかったものだ。


「それでは1組の1、2、3班が同時にスタートして、10分の間隔を置いて、3班ずつ順々にスタートしていってください」


やっと始まった。



「えー、結構ワクワクしない?」

「私、地図読めるか、ふあーん」


3歩後ろぐらいで女子がキャッキャする中で、僕は東雲君とともに黙々と歩いていた。


「しかしよー、正気じゃないよな。何キロも歩かせるとか」

「それはそう」


歩きながら、横手にある雑木林の方をチラチラと見る。


「どうした?」

「いや、誰かに見られている気配がして」

「………? 感じないぞ?」


その答えを聞いてホッとする。


シーカー、しかもスカウトにバレないってことは、大抵の人からは存在がバレずに済むってことだ。


そこにいるであろう3人娘の方をじっと見る……あれ?


隈無く探しても見当たらない。本当にいるよね?


「お前は心配性なんだって。気配なんて無い、早く行こうぜ」

「そ、そうだね」


気配があることじゃなくて、無いことに心配してるんだけど。


◇◇◇


「…………」

「どう? ホルダーさんの様子は」

「……いえ。今のところ問題は無いみたいです」


灰色の髪の少女が赤色の髪の少女に告げる。


その手には双眼鏡が握られていた。


「しかし大変なんだねー、学校も。ただただ長い距離歩くだけなんて過酷なことやらされるんだから」

「はい……私なら途中で倒れてますよ」


青い髪の少女が不安そうに瞳を揺らして身震いする。その様子がお気に召したのか、赤い髪の少女は更に揶揄う。


「聞くところによると。寒い冬の中、薄着で外を走らされ続けたりされるらしいよ」

「む、無理です……死んじゃいます」


余程悪い想像が見えたのだろう。顔面を蒼白にさせて、あまつさえ泣きそうになっていた。


「モミジさん。嘘を教えないでください」

「嘘じゃ無いって」


カラカラ笑いながら否定する態度は、どこか嘘っぽい。


が、これ以上追及しても無駄だと判断したのか、彼女たちの主人を見守ることを優先させた。


「これ、もーらい!」

「あ! わ、私の唐揚げ……返してください!」


背後では2人が何か言い争いをしていた。


その原因と思われるのは、彼女たちにそれぞれ買い与えられていたコンビニ弁当。


唐揚げは青い髪の少女の好物だった。


「むむむ……えい!」

「あ! 私のハンバーグ!!」


今度は青い方がやり返したらしい。


またまた、ハンバーグは赤い髪の少女の好物だった。


「……………」

「……………」


迸る一触即発の空気。


非戦闘員である灰色の彼女には、どうすることもできなかった。


だけど彼女は慌てない。自らのミックス弁当のおかずを一つずつ分け与える。


この状況を見越して、ハンバーグや唐揚げなどの多種多様のおかずが入れられている弁当を選んだのだ。


彼女は、賢かった。


「あんまり騒がないでください。誰かにバレでもしたら」

「バレないバレない。アッシュは心配性なんだって」


楽天的な彼女の発言にため息を吐く。


彼女は、愚かだった。


◇◇◇


「……………」

「? どうしたの、由香? 林の方なんか見てさ」

「ん? ううん。なんでもないよ」

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