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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
20/82

班決め

「そう言えば。2人ってどういう関係なの?」


作戦会議も終わり、何とも言えない時間を4人で過ごしていると、夏目さんが僕と近藤さんの距離感について触れてくる。


「随分と仲が良いみたいだけど……そういう仲?」

「違う違う!」


大慌てで否定する。夏目さんだけには勘違いされたくなかった。


「……怪しくないか?」


ギロッと睨みつけるような視線が隣から飛んでくる。


彼も言葉には出さないが、気になっていたのか。ここぞとばかりに疑いの目を向けてくる。


有耶無耶にしていたツケが、ここで回ってきていた。


「近藤さんも、何か言ってよ」

「……うーん……友人代表、みたいな?」


不機嫌そうに、ややこしい表現方法を使ってきた。


「へー。でもやっぱり、仲良いよね。照れちゃうくらい」


その夏目さんの言葉に、うんうんと何度も頷く東雲君。世間一般の言う仲良しの定義が、知らぬ間に変わっていた。


「ま、あんたたち兄妹に比べたら負けるよ」

「えー? そう、かなー?」


今までとは打って変わって、嬉しそうにニヨニヨと表情を綻ばせる夏目さん……え? なにその表情?


一人ショックを受けていると、ざまぁ見ろとでも言いたげな表情で、こちらを嘲笑ってくる。


「ということで、この子は諦めな」

「何が、ということ……なの?」

「いやいや。こっちの話だから」


誰が、と思わず言いそうになる。


慈悲なのか、近藤さんも気を使ってくれたんだ。わざわざ自分からバラすなんてことはしない。


「あ、お兄ちゃんから連絡来た。私、そろそろ……」

「だね。もういい時間だし、私らも帰ろ」


近藤さんの言葉に頷く。もう少し、夏目さんと一緒にいたかったけど仕方がない。



「じゃあねー」


家の方向が違うということで女子2人は学校の方へと歩いていく。


去り際に振られた手に、東雲君は必死に振り返していた。


「ありがとう! 親友!」

「……なにが?」


2人が見えなくなったところで、ガバッと抱きついてきた。僕の目は一層濁っていたことだと思う。


「惚けんなよ。お前が誘ってくれたんだろ」

「まぁ、そうなんだけどさ……」


でも、喜んでいるところ悪いけど、近藤さんと付き合うのは無理なんじゃないかな? 難易度で言ったら飛び抜けてるよ。


野暮なので、言わないけどさ。


◇◇◇


「あれはブラコン……というやつですね」

「何それ? ブラッドコントロール?」

「……物騒ですね」

「じゃあ、ブラックコンドル」

「ちょっと可愛くなりました」

「いえ、ブラザーコンプレックスですね」

「……可愛くないです」


自室のベットの上では、3人がコントみたいなのを繰り広げてた。


カードが状態でも僕の心情は読み取れるらしく。二人の仲を応援すると、乗り気になっている。


役に立つとは聞いていたけど、そこまでしてくれるなんて……正直言って、迷惑ではあった。余計なお世話というやつだろう。


と思っていたら、3人していきなりカード化する。


それは合図だった。


「延壽? さっき子どもの声がしなかった?」

「気のせいだよ」

「なら良いけど……学校から電話かかってきたよ」


そう言われて、母さんから子機を受け取った。


「もしもし」

『お、釘抜か。悪いな、こんな遅くに』

「いえ……」

『それで用ってのは、浅間 健治についてなんだが』


その名を聞いて、背筋が伸びる。知らない名前じゃなかった。


浅間健治。

僕と同じクラスの生徒で、高校生活が始まって1週間足らずで不登校となっている。

勿論、イジメがあったとかじゃない。


「浅間君が、どうかしたんですか?」

『釘抜。お前、中学は浅間と同じだったんだよな。面識とかなかったりしないか?』

「いえ、あまり話したことは無いですね」

『そうか……いや、今度の林間合宿には浅間にも出席して欲しかったんでな。面識のあるヤツに学校に来るよう説得してもらいたかったんだが……釘抜は知らないか? 浅間と仲が良かったヤツとか』

「いえ、特には……」

『そうか。すまんな、時間をとらせちまって』


そう言うと、電話を切る。


ただ、ツーツーと音が鳴るそれを、ギュッと握り締めていた。




『あ、釘抜君。もしかして……見ちゃってた?』

『な、な……なんで、その人を』

『なんでって、それはーー』


「……そりゃ、夢だよね」


薄暗い部屋の中、重苦しい気分で朝を迎える。


昨日、浅間君の話題を出されたからだろう。あの日の光景が、鮮明に夢へと現れた。


「……下に降りよ」


少女3人を揺り起こして、買いだめしていたおにぎりを与える。


モシャモシャと眠そうにしながらも、食べていた。



その光景に荒んだ心を少しでも癒されながら、一階へと降りた。


◇◇◇


「今日は、今度ある林間合宿でのグループ分けをやるぞ」


机の上に広げたしおりを見ながら、担任の話を聞く。


「書いてあるとおり、1日目に行うウォークラリーと飯盒炊爨はうちのクラス内で。2日目にやる、実習については各クラス合同でグループを作るからな」


しおりには、林間合宿の日程について事細かく書かれていた。


「それじゃ自由で……というわけにもいかないから。一応、ひとつだけ決めさせてもらうぞ。お前ら、男女半々の6人グループを作れよー。あまりとか、出ないようになー」


というと一斉に、男女も女子も、仲良いグループで固まり始めた。


少しでも出遅れると、はぶかれるからね。


「班長が決まったら、メンバーを報告しに……聞いてないか」


僕は、余裕の表情でいる東雲君に声をかけた。


「近藤さんと一緒の班になるの?」

「いや、無理にヘイトは買わない。焦らなくても、どうせ2日目には一緒に行動できるんだ」


『わかったかね? ワトソン君』とでも言いたげな、うざったい表情で語ってくる。


「取り敢えずあと一人、探そうよ」

「ああ、そうだな……って、もう誰も残ってないぞ」


東雲君の言う通り、余りはいなかった。


おかしいな。うちのクラスの男子は、18人のはずなんだけど。


「あ、あー。浅間がいないからか」

「そっか、浅間君を入れて18人なんだっけ」



「で、今度は女子の余ってるグループを探さないとな……」

「それが一番難易度が高いよね」


なんてことを言い合ってたはずなのに。


「東雲君。もうグループ決まってたりする? もし、まだだったら、私たちとーー」

「あ、ごめんね。もう東雲君は私たちとグループ作ってるから」

「なーんだ。残念、残念」


こんな感じで、東雲君は異様にモテてしまうので、簡単にグループは作れてしまう。凄く複雑な気分だった。


さっきから誰も彼も僕をいないかのように扱ってくるし、東雲君は東雲君で基本的に無関心だし。


女子の間から、クールだとか持て囃されていると聞いたときは何かの冗談かと思ったけど、今の東雲君を見たら頷けた。


悲しいことに、黙ってたらイケメンなんだ。彼は。


「班長誰にしよっか?」

「私は東雲君が良いと思うけど」

「釘抜で良いんじゃね?」

「うん、そうだね! 良いかな? 釘抜君」


自我の無い多数決に追いやられ、班長にされてしまう。



「お、釘抜。悪かったな昨日は」

「いえ、良いですよ」


班長になったので、メンバーの名前を書かれた紙を担任の先生に提出しに行った。暫くはあそこに戻りたくはない。


「あ、お前のところか。浅間が入ったのは」


昨日の件もあってか、気まずそうにこちらを見てくる。大変なんだよね、教師って職も。


「うん、わかった。一応こっちでも頑張ってみるけど、当日は5人の班になる可能性が高いのは、覚えててくれ」

「わかりました」


……久しぶりに、浅間君の家にでも寄ってみるかな。


◇◇◇


学校からの帰り道、いつものルートを外れ住宅街の方に行く。


4大ダンジョンの一つがここの近くにできてからと言うもの、ここら辺に住む人の数も急激に増えた。



「………やっぱり、まだ部屋に引きこもってる」


道路から見える2階の窓には遮光カーテンがかけられている。


あそこの部屋は健治君の部屋。何回か遊びに行ったときの記憶が蘇ってくる。



「健治君……僕は、待ってるから」


それだけ言い残して、家には立ち入らずにその場を去った。


◇◇◇


『杏香から聞いたよ。あんたの学校、林間合宿なんだってね』


家に帰るや否や、母さんが電話を渡してきて、それに出ると電話の相手は恵南さんだった。


用件はわかっている。


「着いて来なくて良いからね」

『……っ!! ……なんで?』


声にならない声をあげたかと思うと、根本的な言葉の意味を問いただしてくる。


勿論、違う学校だから。


「恵南さん。その日、学校があるでしょ。そうでなくとも、他の学校の学校行事に着いていくやつなんていないよ」

『ここにいる』


いないよ。結局、着いて来させないから。


恵南さんは僕を弟のように思っているのか、昔からとんでもない心配性だった。実妹の方にも、その心配をわけてあげてください。



こんな調子だから、別々の高校に入学するだけでも一苦労。


元々彼女のスペックは、僕なんかを遥かに凌ぐ。当然、頭脳も例外ではない。

だと言うのに、僕と同じレベルの高校を受けると言ったものだから、大騒ぎ。


誰がなんと言おうと聞かなかった彼女は、結局、僕が『一生口をきかない』と脅しをかけたことで、渋々自分のランクに見合った高校を受験して、余裕で合格した。



向こうの両親は、僕と離れることで恵南さんの僕への過保護な態度が落ち着けばと期待してたみたいだけど、逆効果。


離れれば離れるほど、尚更に積もってしまった。



「大丈夫だって。何かあっても、近藤さんに守ってもらうから」

『……本当に?』

「ほんとほんと。彼女の強さ、知らないわけじゃないでしょ」


そう言うと納得したのか、電話を切ってくれた。


言ってて情けなくなったけど、恵南さんを納得させるには、ああ言う他無かったと思う。



電話を終え、自室に戻ると携帯に近藤さんからメッセージが届く。


『今、キョンちゃんに脅されたんだけどーー、何か言った?』



僕は、ケータイを閉じた。

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