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ある町 part3

 やっぱり二葉だったのかと思ったとき、足はもう一歩を踏み出してしまっていた。

 助けてやりたいと強く思ったままで走っているからなのか普段よりスピードが出る。

 しかし走っている途中に肩を掴まれてバランスを崩してしまう。勢い余って思いっきり左回転して地面に体を強く打ちつけた。振り返ると糸川の手がまっすぐに伸びていた。


「なにしてんだよ!!」


 地面に手をつきながら、妹を助けなければいけないのに邪魔をするなと腹のそこから叫んだ。

 しかし糸川は冷静に返答をする。


「このまま飛び込むと死んじゃうだけだよ」


 声色はいつになく冷たかった。

 いわれて一也は少し落ち着いた。


「じゃあ、どうするんだよ」

「どうするこうするというか、妹さんを助けてからどうするかって話を私はしたいの。逃げるの? 戦うの?」

「そりゃあまあ、逃げるだろ」


 うんわかった、と小さく頷く糸川だった。

 戦うという選択肢がないわけでもないが、どうせ戦うのなら万全の状態で挑みたい。

 今は二葉を助けてから、とりあえず引いて、しっかりと準備をしてからあいつらと戦ってやろう。


「行くぞ」

「うん」


 あいかわらず糸川の声色は少し沈んでいた。

 二葉の戦っている小さな広場に向かって走り出す。広場に近づいたところで、ありったけの大声で叫んだ。

 

「二葉!!」


 すると、剣と剣のふれあう甲高い音がやんだ。

 二葉と三人組の青年たちがこちらをみてあからさまに驚いていた。


「えええ!? お兄ちゃん!?」

「久しぶりだなその呼び方」


 言いつつ二葉のとなりに滑り込むようなイメージで即座に陣を取る。

 少し遅れて息を切らしながら糸川もとなりにやって来た。

 場が落ち着いたところで、三人組の中央の青年が静かに声を上げた。


「また会ったね、君たち」

「もう二度と会いたくなかったんですけどね」

「そうか。でもね、僕たちは会いたかったよ」


 青年は右手に握った剣を軽く振り回した。

 それは今すぐにでも殺してやろうかというサインに見えなくもなかった。

 左側の目付きの悪い男が不思議そうに言う。


「で、お前たちは殺されに来たのか」

「そんなわけないじゃないですか。助けに来たんですよ、妹を」


 すると中央の青年がへえと声を上げた。


「僕たちが今戦っていたのが君の妹なのか」


 二葉の方へ目をやると、目が合って反応に困ったのか彼女はえへへと笑った。


「なんでプレイヤー狩りなんてことしてるんですか」


 視線を青年たちに向けて一也は言う。


「なんでって......教えても理解してくれるはずがないんだ」

「どういうことですか」

「プレイヤー狩りをする理由を教えたって、君たちは絶対に納得できないと思うよ」


 どんな理由があれば自分の死を認めることができるだろうか。

 たとえばここで妹を殺す代わりにお前が死ねと言われたらどうだ。結局自分が殺されるほうを選択するのだろうが少しは悩むだろう。

 要するに家族のために死ぬことだって嫌なのだ。

 ここでどんなプレイヤー狩りをする理由を教えられたって、それを認めてすんなりと死ぬことなんてできるはずがない。


「そりゃあどんなこと言われたって納得はしませんよ」

「いや、僕の言うことを信じられるのならば納得できると思う。けど君たちは僕のことを信じてくれないよね」

「あたりまえです」


 殺し合っている敵の発言を鵜呑みにして信じるのは、誘拐犯に誘拐犯とわかっていながらついていくようなもので、いうまでもなく危険だ。


「いままで殺してきた人たちも僕の言うことを信じてくれなかったよ。だから仕方なく許可なしで殺していったんだ。まあ許可を取るっていうのもおかしいことだと思うけどね」


 なんとなく悲壮感を漂わせながら青年は言った。青年は言葉を続ける。


「君たちもいままで殺してきた人と同じだ。だから、勝手に殺す」


 言いつつ青年は剣をしっかりと握り直した。すると、いまにも殺し合いが始まりそうな雰囲気が辺りを包む。

 対してこちらも二葉が剣を握り直し、一也も腰の鞘から細身のレイピアを抜いた。糸川も同じように剣を構えた。


 心なしか糸川が震えているように見えなくもなかった。

 しかし、そんな不安をぐちゃぐちゃに塗りつぶすように戦闘の火蓋は切られた。


 青年の剣が、一番手前の一に向けて降り下ろされる。

 その重い一撃をなんとかレイピアで弾き返して、二三歩下がって青年と距離をとった。糸川も二葉も他の二人とそれぞれ戦っているようだ。


「よそ見は危険だよ」

 

 あわてて視線をもとに戻すと、青年の右手に握られた剣がとてつもなく大きく振りかぶられていた。いつのまにと思うより早く風を切り裂くような轟音が響き、避ける間もなく一也の体に深々と食い込む。

 これはいうまでもなく即死級の攻撃だった。とたんにスキルが発動して一也のHPの減少を残り1で止める。

 しかし痛みが軽減されるなんていうことはもちろんなく、食い縛った口の端からは絶叫が漏れはじめて、それに比例するように胸の辺りから多量の血液が溢れ出した。


「そのスキルがなけりゃすぐ死ねたのに。残念だね」

「うるさいですよ......」


 呟きながら引っかかった疑問点について考えてみる。

 まえよりレベルが上がったとはいえ、青年降り下ろす剣のあの目にもとまらぬスピードはどういうことだ。

 レベルが10程度上がったところであれほどまでに変わるものなのか。というかそれ以前に、レベルが上がるにつれて上昇するステイタスの『素早さ』は、青年本来のスピードを増やすものではない。

 

 どういうことだと思いつつなんとかレイピアで応戦する。次の攻撃をくらってしまえば一也はゲームオーバーであり、それは死と完全に同義のものだった。

 

 それから少しの間切り合いを続けた。

 というよりかは一方的に青年が剣を振り回しているだけであって、一也は徹底して防御にまわるしかなかった。

 

「まだ諦めないのか」


 不快感をあらわにした青年がぽつりと呟いた。


「残念ですが、死ぬまではなんとか抵抗しますよ」

「へえ。じゃあ頑張ってみなよ」


 すると先ほどより攻撃の手が強くなった。まだ手を抜いていたのかとどんよりとした落胆めいたものが一也を襲う。

 しかし諦めることは絶対にない。


「なんでプレイヤー狩りなんてことするんですか」

「教えてもいいけど、信じてくれないんだよね。いままでもそうだったし、これからも絶対にそうだろう」

「そこまで言うなら教えてください。誰も信じないプレイヤー狩りをする理由、知ってみたいです」


 すると青年は攻撃の手を止めて、二三歩下がって距離をとった。

 そして落ち着きを払った声で言った。

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