ある町 part4
「僕たちがプレイヤー狩りをする理由はね__」
しかし残念ながら背後から聞こえてきた甲高い悲鳴によって言葉が打ち切られた。
反射的に振り向くと、そこには絶対に目にしたくないと思っていた光景があった。
二葉が、糸川にもたれかかって死んでいた。血まみれになって糸川に支えられている姿はどう見ても死んでいた。
目も深い黒色に染まっていてまったく動いていないうえに、細い背中には二本の剣が突き刺さっている。
叫んだのは糸川だろう。
そして見るに、二葉は糸川をかばって殺されてしまったのだろう。
糸川のHPがとてつもない量だということなんて二葉は知っているはずがない__
「____________________________」
レイピアなど放り捨て、声にならない悲鳴を上げて、二葉の近くにいる二人の青年に殴りかかった。
しかし上手いことガードされて弾き返されてしまう。
怒りやそういうものはどこにもなかった。
ものを無くしたような感覚はなく、むしろ感覚自体をなくしてしまったような気分になった。
青年たちもあれほど殺すなどといっておきながら、冷徹な機械のようなものにはなれなかったようだ。
顔には明らかな同情が色濃く浮かんでいる。
力が抜けてその場にへたりこむと青年たちは二三歩下がって距離をとった。
そして三人の青年は言葉を交わすこともなく即座に小さな広場から走り去った。
残されたのは一也と糸川と、死んでしまった二葉だけ。
二葉が死んでしまっただけのなにも得ていない虚しい戦いだった。
「三条くん......」
「......どうした」
心配した風な糸川の声にできるだけ気丈に返そうとしたが、どう頑張っても声だけは震えていた。
「ごめん。私のせいで......」
「糸川のせいじゃないよ。気にすんな」
無理やり笑って返してみたが自分でも顔が変に歪んでいるのがわかる。絶対に笑えていない。
それからひとつも言葉が出てこなくなった。
気づけば涙がこぼれ出していて、いまにも大声で泣き叫びそうになっていた。
それをなんとかこらえようとしていると、いつのまにか一也は気を失ってしまった。
●●
目を覚ますと真っ白なシーツの上で寝転んでいた。
体を起こして辺りを見回すと、ベッドがきれいに並べられていて、ここが宿屋だということがわかった。
そして隣にはパイプ椅子に座ったままですやすやと寝息をたてている糸川がいた。
起こさないようにと音をたてないよう静かにベットから足をおろしてスリッパを履く。
立ち上がって窓際に近づいて外を眺めると、見覚えのある、人が山のように死んでいた道には死体がひとつもなかった。
「起きたんだね」
背後から糸川の声がした。
「寝てられねえよ」
「よく言うね。三日も寝込んでたくせに」
「そんなに寝てたのか」
「うん」
まだ頭がぼーっとしている。
それが二葉を失った寂しさからなのか、三日も寝込んでいたからなのか、それとも胸を切られたときの後遺症かなにかなのか一也にはわからなかった。
「宿屋の人に聞いたんだけど、死体は死んだ日から二日経ったら自動的に消滅するらしいよ。それと、消滅するとき妹さんを見送ってきたから」
「ありがとな」
できれば一也も二葉のことを見送ってやりたかった。そう思うとまた涙がこぼれ落ちてくる。
なんとかごまかそうとしてベットに頭から飛び込んだ。真っ白なシーツで涙を拭って隠すようにその上に座る。糸川がつらそうな表情をしていたから目を合わせてにひひと笑ってやった。
「大丈夫なの......?」
「俺は一旦寝たら元気になるタイプの人間だからな」
これは嘘だ。まあ、まったくの嘘というわけではないが。
しかしそれだけで糸川が安心してくれるのならばありがたいものだ。
「私もね、お母さんが事故で死んでるのよ」
「うん」
「その時にお父さんに言われたんだ。家族が死んでも笑ってろって。悲しみながらでもいいから無理やり笑ってろってね」
でもそんなこといってるくせにお父さんは泣いてたんだよ、という糸川の続けた言葉に小さく吹き出した。糸川も小さく笑った一也を見て、これもまた小さく笑った。
「あのさ」
糸川が少しだけ真面目な表情になって言った。
「どうした」
「このまま引き下がるわけないよね。前までは戦うの嫌だったけど、なんかこう、やる気出てきた」
三日前だったら引き下がってしまっていたかもしれない。
しかし糸川と少しだけ話して、ずいぶんと気が楽になった。
「もちろん、引き下がるわけにはいかない」
それを見て糸川は安心したようだった。肩の力を抜いてほっと息をつく。
「じゃあ早めに次の町目指そうよ」
「だな」
それからすぐに宿を出て、続けざまに町を出たのだった。




