とある町
終盤に入りそうです。多分。
見つけた町に近づくと、二人の男の旅人が逃げているようなみっともない走り方で門から出てきた。
彼らはのんきに歩いている一也たちの前まで来ると足を止めた。
「えっと、どうしたんですか」
息も絶え絶えで彼らは言う。
「人が死んでる__この町、は山のように死体が転がってる」
とたんに一也が目を見開いて驚く。
「......! 本当ですか」
「こんなとこで嘘つくと思うかよ。信じられないならいってみるといい。未だに虐殺は続いてるだろうよ」
なんとなくではあるが虐殺の犯人の予想がついた。
「もしかして虐殺してるやつらって__三人組の青年達ですか」
二人の男は深くうなずいた。
「なんだ、知り合いか? 俺らも殺されかけたんだ。止めてくれ」
一也達が知り合いだと分かった瞬間に男達の口調は荒くなった。
けれど知り合いとはいってもいい意味での知り合いではない。
むしろ二人の男と同じで、殺されかけたという悪い関係にある。
「知り合いっちゃあ知り合いですけど......俺たちも殺されかけたんですよ」
糸川もうんうんと首を縦に振る。
すると二人の男は感心したような表情を作った。
「よく生きてるな。あいつらLv70だぞ」
前よりLvが高くなっている。
おそらく一也達を殺すためにはこの前のLvでは足りないと思ったのだろう。
「お二人のLvは30前後ですね。他の殺された人たちもそうなんでしょうか」
糸川が冷静に尋ねる。
「どうだろうな__でもまあそれくらいなんじゃないのか。大抵のやつらは一撃で死んでいったぜ」
一也はふと思ったことを口にした。
「生きている人もいるんですか?」
二人の男はううんと少し唸る。
「まあ、今はもう死んでるかもしれないが、一人だけ戦ってるやつはいたぞ」
「それも結構対等に戦ってたぜ。三人の剣をうまく捌いてたな。多分Lv80くらいだ」
話を聞くと、その対等に戦っていた人はどうやら女性のようで、それも中学生くらいの見た目だったらしい。
「中学生ですか......」
「ありゃあどうみても中学生だな。勝ってくれてるといいが......見てる限りでは無理そうだ」
会ってみたいと思うけれど、そんな危険な町の中に入って、命をかけてとまでは思わない。
情報ありがとうございましたと頭を下げる。二人の男はよっぽどこの町が恐ろしかったのか、一也たちの礼を聞くとすぐに走っていった。
去り際に一人の男が何かに気づいたのか声を上げる。
「そういや兄ちゃんの右足のミサンガ」
「ミサンガがどうしました?」
「戦ってる中学生のやつも、それつけてたぜ。色も全く同じだった」
「__!」
このミサンガは市販のものではない。誕生日に妹が作ってくれた手製のミサンガだ。
まったく同じものをつけた中学生の女の子。このゲームに入る瞬間の(2)というログイン履歴。
まさか、このオンラインゲームに妹が来てしまっているのか。
二人の男が見えなくなってしまうまで一也は呆然と突っ立っていた。
どうするんだと悩むまでもなく、無理やり糸川の手を引いて町の門をくぐる。
今や抵抗する糸川のことなど頭に入っていない。妹の事が好きだとかそういうことはないが、家族なのだ。勝てない可能性の方が高くても、戦って彼女を救わなければならない。
死体から発散される血と肉の生臭い匂いの中を突き進む。
進むにつれて足元にきた死体を蹴り飛ばす。すると、糸川に顔を叩かれた。
「いってぇ」
「どうしたの。急に無口になるし人は蹴るしどういうこと」
見た目からして怒ることがなさそうな糸川も今は怒っていた。
焦る一也は早口でまくし立てるように話す。
「どうもこうもねぇよ。戦ってる中学生は多分俺の妹だ」
糸川が大袈裟に思うほど目を見張った。
「ほんとなの?」
「ああ。ミサンガが一緒なら絶対だ」
「でもこのオンラインゲームに三条くんの妹が来てるなんてわかんないでしょ。さっきの話を丸々信じるのは良くないんじゃないかな」
「このまま次の町へ行って、もし俺の妹が死んだらどうするんだ」
糸川は困ったように口を閉じ、何も話そうとしない。
「俺がこのオンラインゲームに入る時、ログイン履歴があったんだ。これなら妹が入っててもおかしくないだろ。無視することなんてできねえよ」
糸川はまったく反応を見せない。肩を小さく震わせてうつむいたままだ。
こんなことをしている時間が惜しい。手を引こうとしてさっきより強い抵抗をうけた。
「待ってよ......」
懇願するような表情で糸川は一也を見た。
「私たち、死んじゃうかもしれない。前勝てたの、偶然だよ、絶対」
「なにいってんだよ」
「勝てなかったらどうするの。Lv70になったんでしょ。ああもう、勝てないよ」
糸川の言っていることが正しいというのは一也もわかっている。
しかし妹の命が危険にさらされているときに何もしないのは兄として、人間として間違っている。それになにより、理屈抜きで妹の二葉を救いたいと一也が思うのはあたりまえだった。
「勝てなかったときのことを考えると怖いさ。でも、それ以上に家族を見殺しにしたくない」
「戦ってる女の子が妹じゃなかったらどうするの? 行って負けてゲームオーバーなんて絶対にイヤ!」
一也だってそんな結末を願っているわけではない。
できることならばこの話自体、嘘であってほしい。
さっきの二人がただの嘘つきだったのであればどれだけ楽だろう。
けれど、
「もし、妹が戦っている可能性が少しでもあるのなら、俺はそこに行きたい。家族に死んでほしくないと思うのは間違ってないだろ。分かってくれ、頼む」
糸川の肩は相変わらず小さく震えている。
そしてなにかを決断したように、恐る恐る彼女は口を開いた。
「あのさ......三条くん。__私が、死んじゃってもいいの?」
「そういうわけじゃ......」
「__いや。こんなことが言いたいんじゃない。三条くんはすぐに死ねるからいいよね。HP少ないし。でもね、私はそんな早く死ねないの。HP多いから、捕まって死ぬまで切り裂かれるの。ずっとずっと切られ続けるの。もしかすると体がぐちゃぐちゃになった頃でも死ねないかもしれない。そんな辛いの、嫌だよ。絶対に嫌」
糸川がそんな目にあうのは一也だって嫌だ。
自分が死んでしまうのも嫌だし、糸川が死ぬのも、妹が死んでしまうのも一也は嫌だった。
自分が欲張りだということはずいぶん前からわかっている。
妹も助けたいし糸川も救いたいし自分のことも出来る限り危険にさらしたくない。
けれど、欲張りなのは良くないというだけの理由で誰かの命をを切り捨てることはできない。
もちろん、それ以外の理由なら、自分の命を切り捨てるという選択になるだろう。
__いや、今、そうするべきなのではないか。
自分の命を犠牲にして二人の人間を守るというのは、案外悪くない話かもしれない。
それに、絶対に負けて殺されてしまうとは限らないのだ。ほんの小さな可能性の、みんなが生き残って無事に物事を終えるということも考えられなくはない。
「なあ、糸川」
「なに......」
「俺は町へ行くよ。戦ってるのが家族かどうか確かめに行く。そして妹だったなら敵と戦う」
糸川はこれ以上ないくらいに悲壮感の溢れる表情を作った。
しかし、すぐに元の柔らかいのんびりとした表情に戻した。
「分かった。行くよ__行けばいいんでしょう」
そう言った糸川の声は震えていた。
「べつにここに残っててもいいんだぞ」
「こんな危険なとこに私を一人で置いてくっての? 冗談じゃないわよバカ」
明らかに糸川は、一也の心のなさに悲しみながらも怒っていた。




