Lv14 聖夜の古代都市 part5
額の汗を拭ったときに、唐突に変化は訪れた。時間が経って、今や慣れてきた『浮いている』という風景が、その色や形を大きく変えた。
視界を少しずつ彩るように、水溜まりと凹凸の激しい黄土色の壁が姿を表した。足元に目を移すとそこには土があり、後ろに目をやると泥の道に一也の足跡が残されていた。
「糸川」
「なに?」
「見えるようになった。地面とか周りとか」
驚いたという表情を見せる糸川。
「ほんとに?」
「そんなの嘘ついてどうするんだよ」
「__そりゃよかったね」
彼女はえへへと笑った。
繋いでいた手が自然に離される。これ以上は手を引く意味がないからあたりまえなのだが、しかし何かを失ったような感覚に襲われて喉が小さく音を立てた。寂しいのだろうか。なんというか、女々しいやつだなと自分に少し恥ずかしさを感じた。
「でも何でだろうね」
「そうだよな。こんな急に、それも予兆もなしに。ゲームの何かじゃなかったのか?」
「ゲーム側からだとこれはやりすぎじゃない? 正直言って私達じゃないとピラミッドレインディアは倒せなかったと思うよ」
確かにそうだろう。まさか服を脱いで見えないピラミッドレインディアに巻きつける、なんていう戦い方が正当なものではないことなど誰にでも分かる。そんなもの誰が思いつくのだ。偶々思いついた一也達は運が良かったと言うしかない。
「まさかプレイヤー狩りしてたやつらが?」
「それもないと思うよ。どうやったらこんなゲーム自体を変えちゃうような事ができるのよ」
「それによく考えてみれば糸川だけはなんで見えたんだろうな。いってしまえば糸川だけじゃなく古代遺跡も見えたわけだけど」
「ピラミッドみたいなやつだけが見えないっていうのはねえ。おかしいね」
そこでふと思った。
それは疑問のままにしておくにはもったいないくらいのものだったから、一也は訊いてみた。
「ここ、どこがピラミッドみたいなんだ?」
「こっからじゃわからないよ。逆三角形っていうのかな。この形は」
糸川は手をひねって逆三角形を作った。そのまっ平らな底面の裏側に二人はいるのだろう。
「逆三角形っていえばよかっただろ」
「思いつかなかったの」
そうですかと適当に相づちを打ってまた歩き出す。見えている見えていないの話は解決したほうがいいのだろうが、どうしてかめんどくさくなって諦めた。現に、解決せずとも普通に歩けているのだからゲームのバグかなにかだと折り合いをつけて放っておくことにした。