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八百万の運命


人に限らず、私達死神の世界からしても、一番恐れるもの。

それが運命。

 だが、恐怖の感じ方が違う。

 人はもうその行動が決まっている。という意味での運命で恐れている。

 が、私達の場合。

運命というものは変えようと思えば変えられる。

死神は人の命なんて簡単に奪えてしまう。

しかし、運命を変える行為そのものが『神』に対する違反行為である。

 元々。神々には位が存在し、『八百万やおよろずの神』に続くのが『死の神』、所謂、死神となっている。

尚、死神の後に『守護神』が連なっており、ちなみに天使と悪魔は人間と神の中継役と考えてもらっていい。


話は戻る。

 その私達より位が上な八百万の神達が定めること。それが運命。

 私がその運命を変えるということは、八百万の神に背くという行為にもなるのだ。


運命は変えられない。死神である私にしても。

 それだけに運命すら読むことができない。

 できるとすれば、人が死に達する直前に感じることができる、あの嫌な感覚だけだろう。




「運命が見える?」

 少し笑いを含めた言い方。

 しかし黒田は相変わらずの目つきで私の瞳の奥を覗き込んでいた。

「君がここに来たのも運命」

 視線を外してくると、ついさっき飯田が落ちた開き窓の前に立つ。

「飯田がここから落ちたのも運命」

 全てが運命とでも言いたいのだろうか。

それはそうだ。私が今此処にいる、こうして死神として生きている。それもまた八百万の神の運命。

「見える。って?」

 私は答えを望み、急いだ。

「まぁ、そう慌てないで」

 いつものニッコリとした笑顔。

目を細目にして微笑む。これだけ見れば普通の好青年に見えてしまう不思議。

 黒田は再び移動するかと思うと、私の腕を掴んだ。

「…何?」

「ほら。そろそろここから離れないと、」

 何のことか分からないでいると、外からいきなり悲鳴が聞こえてきた。

『いやぁー!だ、誰か!』

 女性であろう声が助けを求めていた。飯田を発見したのだろう。

「そうね」

 ここで私達を発見されてはややこしくなる。

黒田が唱える運命のことについても気になるところだ。

 しかし。窓の外も見てないのにこの男…。


 これも『運命が見えていたから』とでも言うのか?




連れて行かれたかと思えば、普通に帰宅の岐路に着いただけであった。

「帰るの?」

「手を繋ぐ?」

 答えとなっていなかったので取り敢えず無視しておいた。

「まぁ。こういうことだよ」

 数秒の間、沈黙が流れると、そんな言葉と共に手を繋いできた。

その手は冷たく、まだ冬なのかと感じさせる。

 勿論、動揺などすることはない。寧ろ、恐怖さえ感じた。

「…いいとは言ってないのだけど」

「実はね。この手を繋ぐ行為。これは運命ではない」

 どうやらもう話は始まっていた。

 私は黙って黒田の方を見つめると、話を続けた。

「僕には運命が映像で見える。いつだって見れる。見たければ、ね」

「どんな感じで?」

「そうだね」

 冷たい手から離れ、すっと春日和の風が手の甲をなぞり温めた。

「フラッシュバックとでも言おうかな」

「未来が見えるの?」

「いつでもどこでもね」

 私もそんな感じではある、ほんの一分も満たない先ではあるが、死を予感できる。

 しかし、彼との違いは映像で見えないこと。私のはあくまで感覚だ。

「それで。先程、門を出たときに少し運命を見てみたんだ。

 そしたら運命では『手を繋ぐなんて行為をしない』ということになっていた」

 事は言い様。

端から見れば不審者とも言えよう。

大体、こんな馬鹿げたことを誰が信じようと思うのか?

 私はまだ信じれないでいた。

先程の悲鳴の件についても、そりゃあ人が倒れていたら悲鳴は聞こえるのが必然。

 只単にそれを予想しただけ。タイミングが良かっただけでは無いのか?


 と、そんなことを考えていると、あることに気づいた。

 ふと歩くのを止め、黒田と距離をとる。

「ちょっと待って。仮に認めたとするわ」

「ありがと」

 だが、そうなってしまうとある問題点が出てきてしまう。


「でも、何で飯田を助けなかったのよ…?」


 目の前でやってのけた、あの飯田への言葉は相当な重みのあるものであった。

 運命が見える。ということは即ち、飯田が自殺することも分かるはず。

「あれは助けてはいけない」

 冷たい言葉同様、黒田の目は冷酷な気を帯びていた。

「なん―」

「君は分かっていない」

 『なんで』と反論する前に黒田の口が開いた。

「あれだけいじめを受けていては助けるだけ無駄だ」

「無駄だなんて。冷酷じゃない」

 とは言いつつも、心の中では助けたところでどうしたらいいか分からないでいた。

 クラスから疎開し、いじめを受け続ける毎日。

 相談などが出来るならとっくの昔にしていただろう。

 それも出来ないとなると、待っているのは絶望。


「…少し早まったと、思えばいい」


 そう言ったきり、黒田は口を閉ざした。

 春風は私の髪を掻き分けるように通り抜けたが、彼には未だに冷風が当たっているかのように見えた。

 

 もしかすると、黒田は分かってみえていたのではないのか?

飯田が“いずれ自殺をしてしまう”ことを。

 だから黒田はあの言葉を?

 早く飯田を楽にさせてあげるために。


 別れ際。私は黒田の目を見た。

 その目は僅かに光りが差し込んでいた。


 ような気がした。




「おいおい。まさか黒田君と付き合ってるのかい?」

 戒の元に戻ると、そんな冗談が飛んできた。

「黒田ってやつ、未来が見えるらしいの」

「…未来ねぇ」

 話が続かないと見たのか、私の話に合わせてくれた。

 こういうところは分かってるのね、この男は。

「未来を操作できたりするのかい?」

「まぁ、そういうこと。黒田は運命をねじ曲げるのよ」

 それにしても、黒田の力は恐ろしいものだった。

八百万に歯向かうかのような力。

 私でも変えようとは思ったこと無いのに。

 運命というものは八百万の神にしか分からないものである。

 八百万の神達は人に運命を与え、楽しむ。それが娯楽になっている神もいるとか。

「八百万が黙ってないんじゃないかな。黒田君を」

「このままだとそうね」

 奴等だって、そう何回も運命を変えられては堪ったものではないだろう。

娯楽を奪われているのと同じだ。

 

まぁ、本当に運命を変えられていたのであれば、であるが。

 黒田自身は運命を変えることが出来ていると思っているだけで、それでさえも八百万の神達が創った運命なのかもしれない。

 その可能性は捨てきれない。


「ま。とにかくにも。八百万の誰かに聞かないとね」

 運命を創っているのは八百万ならば、それに聞けばいい。という発想だろうが。

「それよりも、守護神の奴に聞いた方が早いでしょ」

 地位的には私達より下の守護神ではあるが、八百万の神とは交流がさかんである。

 わざわざ私達が足を運ばなくとも、守護神に聞けば早いということだ。

「それでもし何も分からなかったら、それから八百万よ」

「なるほど、守護神ねぇ」

 私もよくは知らないが、聞いた話によると、30人の人間に対して一つの守護神がいるらしい。

 40人編成で成り立っている私のクラスの中には、少なくとも一人は守護神がいるという計算になる。

「もし黒田が運命を変えられるのなら、八百万は黙ってはいないわよね?」

「そりゃね」

 でもいきなり罰を下すだろうか。そこまで神達は気が短くないだろう。

 その証拠に、帰りしなに私と手を繋いだりと、運命は何回か変えている。が、すぐには何とも無かった。

「でもすぐに手を加えると思う?あの八百万が」

 しかし。これ以上運命をねじ曲げられてしまっては困る。

 そこで牽制球を入れるために、守護神を使うのではないか、という予想はあった。

「ふんふん、それで守護神を使うわけだね」

「そういうこと」

 そうなれば、黒田に直接関わってくる人物、ということになるが…。

「でも、黒田に接触している人物が分からないのよ」

「は?」

 間抜けな声で聞き返してきた。

 え、そういうことになるでしょ。黒田を止める為に接触する守護神がいるはず…。

「いやいやいや。五十嵐君じゃないの?」

「……は?」

 え、ちょっとコイツ本当に何言ってるの?五十嵐?宇美が守護神?

「うそー。僕、てっきりキミは守護神と知って接しているのかと…」

 嘘…。新事実よ。宇美が守護神だったなんて…。

 …それよりも。

 この状況をどうやって切り抜ける…?

もう最初に『分からない』って言っちゃったじゃない…。

どうにか誤魔化せないものか…。

「はっはっは!いやぁ、人間誰しも失敗はするもんさ!」

「死神よ!!」

 あぁー…もう、何で守護神って気づかなかったの…。


 …訂正が必要ね。

 

五十嵐宇美。年齢17歳、趣味は買い物。性格は明るく摩訶不思議なところもあるが、可愛さ故に人気がある。

 そして守護神の地位に着く神。


色々と探りを入れていかなければいけないらしい。



八百万の神……多くの神々のこと。「八百万」は「多数」を表す。


死神や守護神の中では『八百万』と約している。

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