悪魔な人間
人間はとても単純。
お人好しに装えば「お人好しな奴」になり、鬱陶しく装えば「鬱陶しい奴」と勝手になるのだ。
裏の顔を知ろうとしない。表だけいいという諦めなのか。ただ知れないだけなのか。
知った気でいるのも少なくはない。
後は偏見。
人間はまず見た目で判断する。
格好良ければ「格好いい人」。可愛ければ「可愛い人」。
人間は単純でいて残酷。
見た目で全てが決まり、表の表情だけで生きている。
私はずっとこの世界を生きてきたため、そういう人間の行動は分かっている。
学校では、そこはかとない性格でやっていた。
取り敢えず一週間。
上手い具合にクラスに溶け込み、空気の一つとなっている。
一方の戒の方はというと、とんでも無く派手な生活を送っていた。
転校して二日目にいつの間にか彼女ができ、その五日後。所謂、昨日別れたそうだ。
戒曰く、『経験というのは大事』らしい。
「まぁ、こうして一週間過ごしてきたわけだけど、どうだい?」
私と戒は毎日こうして情報の交換のやり取りなどをしている。
そうしないと行ってる意味がない。楽しみがない。というやつだ。
「あの黒田って奴。注意が必要ね」
私はそのやり取りの中で、彼の名前を出した。
黒田司。年齢17歳。趣味不明。特技不明。
学力は可もなく不可もなく。
普通であり、それでもって謎が多い人物。
「あー。黒田君ね。あの目は奇想天外だね」
「あの目をそんな表現するとは思わなかったわ」
一応、戒もただ遊んでいた訳ではないらしい。黒田の目には気づいていた。
「そんなことよりもだよ!」
「何よ」
戒の目には黒田という人物はあまり印象にないらしい。
それより他になにかあるようだ。
「学校というものに付き物である『いじめ』ってやつが我がクラスで起きてるのさ」
「………ん?」
うん?
いじめが起きている?そんな馬鹿な。
クラスは至って普通、いや、それどころか男女の隔ても無い協力的なクラスだったはず。
「知らないかい?」
「知ってるわよ」
何故嘘をついたのかは秘密ということに。
「飯田君も可哀想にねー。ま、人間のすることだ。仕様がないね」
『いじめ』は人間に付き物の話。
強い者が弱い者を苦しめる、私達にとっては不可解な行動。
何のためにするのかが分からない。ストレスを発散したいだけというわけではないらしい。
この『いじめ』は人間の奥底にある黒が見え隠れする行動とも言える。
そして、このクラスでの標的。飯田平吾。
まだ一週間しかこの学校、クラスに居ないが、彼は言動がおかしいのは感じ取れた。
一言で言うと自己中心。
が、その割に陰湿で、普通の人は嫌うと思われる。
しかし、このクラスに限ってそんなことはないだろうと思っていたが…。
「そうね」
まぁ、そんなことを言っても死に神にとっては関係ない話である。
特に学校という場においては日常茶飯事と言ってもいいほどの話。
私や戒がどうこうする話ではない。
この一週間はずっと黒田のことを見続けたということもあり、飯田に意識が向かなかったのだろう。
決してクラスの状況が読めてないとかそんなのではない。絶対に。
次の日。確かに飯田はいじめを受けていた。
ロッカーや机の中にはゴミしか入っていなかったりと、精神的なものが多いようにも見える。
「芽惟ちゃん。行こっ」
「あぁ、えぇ」
私の方は、言えば飯田と正反対。
僅か一週間でクラスのメンバー全員と仲良くなれた。
中でも、今話しかけてきた彼女は特に仲がよい。
五十嵐宇美。年齢17歳、趣味は買い物。性格は明るく摩訶不思議なところもあるが、可愛さ故に人気がある。
これも偏見というやつ。
しかし宇美は『裏の顔』もそう悪いわけではない。純粋な子だ。
「って…次なんだっけ?」
「数学よ」
天然でもある。
飯田は、所謂、グループからはみ出る存在になっていた。
ここのクラスはいくつかのグループによって成り立っている。
男子グループ、女子グループから、さらに、気が合う同士で組を創っているのだ。
私はどちらかというと、女子グループの宇美と同じ。という位置であろうか。
少人数ではあるが、平和なグループだ。
飯田は孤立していた。何をするにも。
他のクラスに友達がいるわけでもなく、ただ一人だった。
孤立といえば、黒田も似ている。
一応、男子グループという輪の中には入っているが、進んで連もうとしなかった。
「宇美」
「どうしたの?」
休み時間。宇美を引き止める。
飯田の情報が少し欲しかった。
「飯田ってやつ、一人よね」
「うん…飯田君は、まぁ…」
飯田の話は誰にしてもこんな対応。
飯田は容姿が、陰湿イメージとなっている。
猫背で眼鏡をかけ、無口でかつ自己中心なのだ。
嫌われても仕方がない。
いじめは確かにやっている側が一番悪いとは思うが、
何故自分はいじめを受けているのか。それを受け手側は考えていない。
変えようとしないのだ。自分を。
「あまり好きじゃないな…」
「そう。みんなもそんな感じ?」
「みんなはもっとだと思う…」
「、そう」
宇美はこういうことが嫌いなのだろう。
しかし、人間は自分優先な生き物。
ここで飯田に手を掛けてしまっては、今度は自分が狙われてしまう。
宇美の対応は『人間として正解』だ。
『どうして自分だけ』とか思っている内は、自分と向き合った方がいい。
ごく希に、何もしていないのにいじめを受けることがあるが、まぁこれは例外だ。
はじめにも言った通り、人は中身からではなく、見た目から入る。
偏見からだ。
飯田の場合、見た目も悪ければ、中身も悪い。
まぁ、最も。一回植え付けられた概念は取り払えないのが人間ではあるが。
もう手遅れ。ということだ。
こうなってしまえば、退学。酷い場合は自ら絶つこともあるだろう。
どうやら、死に神の出番はあるかもしれないらしい。
放課後。
私はいつも通り、戒と一緒に帰って、情報を交換していた。
飯田のことや、…黒田のことも。
が、途中、学校へ忘れ物をしたことに気づく。
「そういや、ちゃんと予習はやってるかい?」という戒の言葉で思い出した。
成績はそこそこ良い設定なので、予習と復習は欠かしていない。歴史は例外だが。
もうすぐ日没だったため、教室は少し暗くなってきている。
学校には絶対下校時間というものがあり、この学校は6時までらしい。
残り20分弱。急がねば。
少し駆け足で自分の教室の前まで来ると、何やら、教室から話し声が聞こえてきた。
「黒田君…僕、どうしたらいいだろう…」
「飯田…」
黒田と飯田だった。何やら真剣な話らしい。
黒田は外の窓にもたれかけ、飯田は立って黒田と向き合っていた。
歩みを止め、話を盗み聞きさせてもらうことにした。
「僕、このままじゃ…やってけないよ…」
「確かに…」
逆光で黒田の顔は見えないが、真剣に話を聞いていた。
飯田にとっては、唯一の話し相手は黒田なのだろう。同じ孤立するグループの一人として。
「もう…死のうかな…」
人間はすぐに死にたがる。死神からすると大変迷惑だ。
いじめに対してどうこうするわけでもなく、ただ、死ぬ。何もせず。
希望を見出す訳でもなく、死ぬ。
「………」
こう言うとき、肝心になってくれるのは、少ない中の友の言葉。
この言葉一つで、救われるのだ。
飯田は恐らく頼りにしているのがこの黒田だけ。
黒田から安心できるような言葉を言ってもらえるだけで、本当に安心できる。
一時の安定剤としてしかならないが。
「…ん?黒田?」
小声でそう呟く。
様子がおかしい。顔は見えないが、ずっと黙ったままだ。
「飯田…」
「なんだい…?」
「死ねよ」
恐ろしい一言だった。
人間が冗談で言う言葉ではない。
感情が無い言葉。言い方。
重圧が一気に飯田を押しつぶす勢いだった。
「………」
今度は飯田は黙り込む。
「…っ!」
それと同時に私の中で、あの嫌な感覚が出てきた。
これは不味い展開かもしれない。
「……、くそぉぉぉ!!!!」
いきなりそう叫ぶと、駆けだした。
一瞬、黒田を殴り込むのかと思ったが、そうではなかった。
「死ね」
最後の黒田のその一言で全てが終わった。
私は飯田が視界から消えるのを見た。
飯田は黒田の横の窓から飛び降りたのだった。
ここの教室の階は3階。
相当な偶然が重ならない限り、死ぬだろう。
飯田は飛び降りたのだ。
「ま、待て!」
そう私が言ったときには遅かった。
全てが終わっていて、黒田しかいなかった。
「あぁ、君は確か、出雲芽惟さん…だね」
「黒田!」
思わず声を荒げてしまいながら、近づいていく。
そこには、恐ろしい黒田の顔があった。
またあの無の目だ。
どこを見つめているのか分からない。
「何故、助けの言葉を掛けなかった!?」
こいつは正気なのか、さっきから顔色一つ変えない。
私は、魂を抜きに行く作業すら頭になかった。
「僕にはね、運命が見えるんだ」
この黒田という男は人間ではない。
人間という名の悪魔かも知れない。




