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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
北東中継塔と灰色の庭

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第83話 地下外側点で、温水配管の反応を拾った

 外作業時間表は、拠点の壁に貼られていた。


 朝二、良。

 昼、避ける。

 夕方前、短時間。


 その横に、三枚の粉塵採取板が立てかけてある。接近点一、中間点、地下外側点。粉の付き方はそれぞれ違っていた。


 レンは手袋をはめ直し、地下外側点の採取板を見た。


 下端に、灰色の粉が濃く残っている。


「下から巻いてるの、やっぱり気になるな」

『地下外側点では微弱な上昇流が確認されています。熱、空気圧、地下配管、いずれかの影響が考えられます』

「地下配管なら、何か生きてるかもしれない」

『可能性があります』

「行くか」

『嫌ですが、朝二です』


 足元のガタが、壁の簡略表示を見ていた。


 ○ 朝二

 △ 夕方前

 × 昼


「表を根拠にするようになったな」

『丸です。嫌が比較的少ない時間です』

「便利な言い方だ」

『外作業時間表の実用化を確認しました』

「そういうログは早い」


 レンは工具袋に、細い温度プローブと簡易反響ピンを入れた。どちらも旧文明設備の正規部品ではない。壊れたセンサー棒と配線を組み合わせた仮道具だ。


 ノアが端末に表示を出す。


[FIELD CHECK]

――――――――――

TARGET:UNDERLINE OUTER POINT

OBJECTIVE:UPDRAFT SOURCE

TOOL:TEMP PROBE / ECHO PIN

WINDOW:MORNING-2

――――――――――


「今日は下を見る」

『保守口内部への進入は不要です。外側点での表面測定に限定してください』

「分かってる。入らない」

『入らないなら、少しだけ嫌です』

「お前の判定もだいぶ細かくなったな」


 エアロックを抜けると、粉塵は薄かった。


 朝二の表示は当たっている。視界は悪くない。接近点一の反射マーカーがすぐ見えた。レンは一度立ち止まり、採取板の表面を見た。昨日より粉の付き方は浅い。


「朝は本当に薄いな」

『現在の粉塵量は昨日昼帯推定値の四割以下です』

「体感もそんな感じだ」

『嫌も四割くらいです』

「それ便利だな。ガタ式粉塵計」

『参考値として記録します』

「記録するのか」

『嫌が仕事になりました』


 接近点二を抜け、中間点へ進む。


 三番マーカーは、相変わらず斜めに光っていた。レンはその前で一度足を止めた。曲がった金属片が、妙に頼もしく見える。


「三番、今日も見える」

『嫌な形は、強いです』

「それはもう認める」


 地下外側点に近づくと、足元の音が変わった。


 こつ、と踏む。遅れて、下から軽く返る。


 昨日と同じ反響だ。だが、朝の粉が薄いせいか、音が少し聞き取りやすい。


 レンは割れた支柱のそばにしゃがんだ。地下保守口の外側。直接開けることはしない。隙間から温度プローブを差し込み、端末へ接続した。


[UNDERLINE CHECK]

――――――――――

TEMP PROBE:INSERTED

SURFACE TEMP:LOW

AIRFLOW:UPWARD / WEAK

――――――――――


「低いな」

『表面温度は低温域です』

「熱配管じゃないか」

『表面では判断できません。プローブ先端を三十センチ下げてください』

「了解」


 レンはプローブを少しずつ下げた。


 十センチ。

 二十センチ。

 三十センチ。


 端末の数字が、一瞬だけ跳ねた。


[TEMP TRACE]

――――――――――

DEPTH:0.30m

TEMP SHIFT:+1.8

FLOW:PULSE

――――――――――


「上がった」

『一時的な温度上昇を確認』

「もう一回」


 レンはプローブの角度を変えた。


 今度は右側。数字は動かない。左側へ寄せる。端末の波形が、小さく揺れた。


[TEMP TRACE]

――――――――――

DIRECTION:LEFT LOWER

TEMP SHIFT:+2.4

PATTERN:INTERMITTENT

――――――――――


『左下方向に断続的な熱源反応があります』

「配管か」

『形状推定は未確定です。反響確認を推奨』

「ピン入れる」


 レンは簡易反響ピンを取り出し、保守口外側の金属縁に軽く当てた。


 こん、と乾いた音が響く。


 端末に波形が出る。細い線が走り、途中でわずかに乱れた。


『中空構造内に細い円筒反応。配管である可能性が高いです』

「生きてる?」

『完全停止ではありません。周期的に熱が流れています』

「周期的ってことは、どこかでまだ循環してる」

『はい。灰色の庭側地下系統から、拠点方向へ低出力で戻っている可能性があります』


 ガタが後ろで、小さく音を立てた。


『温かい嫌ですか』

「温かいなら、嫌じゃないかもしれない」

『粉が混ざるなら嫌です』

「それはそう」


 レンはプローブをさらに深く入れようとして、手を止めた。


 ノアが先に言った。


『それ以上の挿入は推奨しません。先端が引っかかる可能性があります』

「分かってる」


 レンは一度、息を吐いた。


 行きたい気持ちはある。もう少し下げれば、配管の位置がはっきりするかもしれない。温水系統なら、拠点の洗浄区画が動くかもしれない。


 だが、今日の目的は生存反応の確認だ。


 ここで道具を折ったら、何も進まない。


「ここまで」

『適切です』


 プローブを抜くと、先端にうっすら湿った灰色の粉がついていた。


 乾いた粉ではない。少しだけ、ぬるい。


 レンは手袋越しに先端を見た。


「湿ってる」

『温度変化と上昇流の原因候補が増えました。地下熱配管内に低量の温水または温排水が残存している可能性があります』

「温排水か」

『衛生系統、洗浄系統、栽培槽加温系統のいずれかに接続されていた可能性があります』

「全部ほしいやつだな」


 ガタが一歩近づいた。


『温かい水が出ると、嫌が減りますか』

「粉は落とせるかもな」

『それは減ります』

「関節も少しマシになるかも」

『かなり減ります』


 レンは笑った。


 地下外側点の空気は冷たい。保守口の下から上がってくる風も、気持ちのいいものではない。それでも、その奥に温かいものが残っている。


 拠点に戻ってから、ノアが中央端末へ測定結果を重ねた。


 外周巡回路。

 地下外側点。

 灰色の庭側地下。

 拠点洗浄区画。


 細い推定線が、地下を通って拠点の入口付近へ伸びる。


[THERMAL TRACE]

――――――――――

SOURCE:GREY GARDEN UNDERLINE

FLOW:LOW / INTERMITTENT

TARGET CANDIDATE:HYGIENE LINE

RECOVERY:PARTIAL POSSIBLE

――――――――――


「衛生ライン」

『拠点入口の除塵区画、洗浄ノズル、簡易温水系統が候補です』

「次は入口か」

『はい。地下外側点から直接掘るより、拠点側の衛生ラインを開ける方が安全です』

「行ける形にしてくるな」

『危険を分解して、進める順に並べています』


 レンは端末の推定線を見た。


 灰色の庭から、地下を通って、拠点へ。


 前は不気味なだけだった地下外側点が、今は拠点の設備へつながる線に見える。


「温水が戻るなら、かなり違う」

『外作業後の粉塵除去、工具洗浄、外装洗浄、低温時の身体維持に効果があります』

「身体維持って言い方が硬い」

『温まれます』

「最初からそれでいい」


 ガタが端末の下で、前面表示を光らせた。


『温まれるなら、良い嫌です』

「良い嫌って何だ」

『嫌だけど良いです』

「もう何でもありだな」


 ノアが淡々と表示を更新する。


[BASE OPERATIONS]

――――――――――

THERMAL LINE:DETECTED

HYGIENE LINE:CHECK REQUIRED

NEXT TASK:DE-DUST / WASH SECTION INSPECTION

――――――――――


 レンは壁の外作業時間表を見た。


 朝二、良。

 昼、避ける。

 夕方前、短時間。


 その横に、新しい札を仮で貼る。


 温水系統候補。


 手書きの文字は少し曲がった。粉のついた手袋のまま書いたせいで、端が汚れている。


『文字の下端が不鮮明です』

「読める」

『読めます』

「じゃあいい」

『汚れています』

「だから温水がいるんだよ」


 レンはマーカーで、文字の下に線を引いた。


 温水系統候補。


 それはまだ設備ではない。湯が出たわけでもない。洗えるようになったわけでもない。


 だが、拠点の壁に貼れるだけの手がかりになった。


 地下外側点は、ただの危ない穴ではなくなった。


 そこには、拠点を少し温めるかもしれない配管が眠っている。


 レンは端末の推定線をもう一度見た。


 次は、拠点入口の除塵区画だ。


 外から戻って、粉を落とす場所。

 そこに温水が通れば、外作業はずっと楽になる。


 閉じこもる拠点から、外へ作業を出す基地へ。


 今日は、そのための熱い線を一本、地下から拾った。

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