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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第176話 通信塔が温度警告を鳴らす

 E-03の補助電源は、朝からいつもより静かだった。


 静かなのは、落ち着いているからではない。余計な負荷を入れないよう、ノアが待機側の循環を細くしている。レンは点検口の前にしゃがみ、冷却板の縁に残った昨日の結露跡を見た。乾いている。乾いているのに、金属の奥だけが先に温まっている。


『E-03補助出力、地上網供給へ回せます』


『右輪、黄色。床、昨日より少し固いです』


「固い?」


『踏むと返します』


「床がやる気を出してるみたいに言うな」


『嫌なやる気です』


 レンは点検口を閉じ、中央卓へ戻った。通信塔、保守棟、E-03、基地生活系。四つの表示は白と黄白の間で並んでいる。昨日の試験で第一ロックは一段動いた。軌道アンカーの姿勢も変わった。問題は、その姿勢を保とうとした瞬間に、予定より多く電力を食ったことだった。


 今日は不足分を地上網で補う。


 言い方は簡単だ。実際には、給水も温食も休息区画も削らず、通信塔を焼かず、E-03を落とさず、第一ロックの姿勢保持へ余力だけを渡す作業になる。


「生活系を先に固定」


『給水、白。温食、白。医療・休息、白。出発待機線、白。削減不可として固定します』


「削らない。余った分だけ」


『余剰供給を第一ロック保持へ接続します』


『余っている、という言葉が嫌です』


「俺も嫌だ。たぶん余ってない」


 承認キーを押す前に、レンは通信塔基部の温度表示を大きくした。黄色の線が、まだ細い。E-03の補助出力も、上限より下にいる。やれるように見える。昨日と同じだ。やれるように見えるところから、実際の限界が顔を出す。


『地上網補助供給、一段目』


 低い音が床を通った。第一ロックの白い円が昨日の規定角度へ戻り、軌道アンカーの輪郭がわずかに傾く。そこまでは早かった。E-03の表示が黄白へ寄り、通信塔の白線が太くなる。温食棚の湯気は落ちない。給水棚の水音も続く。


「一段目、通った」


『保持電力不足、縮小。ただし不足は残存』


『床、返しが強いです』


「二段目、短く」


『推奨範囲内。ただし通信塔基部温度の上昇を伴います』


 レンは承認を入れた。通信塔の基部で、白線の縁が少し黄色を帯びる。床下の音が太くなり、中央卓の姿勢窓に映る軌道アンカーの輪郭が、今度は長く止まった。成功に見える。第一ロックは閉じたまま一段動き、姿勢を保っている。数値だけなら、足りそうに見える。


 E-03の温度線が、上限帯へ触れた。


『E-03、安全上限に接近』


「まだ落とすな。生活系」


『給水、白。温食、白。医療・休息、白。出発待機線、白』


『右輪黄色維持。床、熱い方の嫌です』


 レンは靴底へ意識を落とした。たしかに、床から返る振動に熱が混じっている。焼ける熱ではない。だが、長く乗せるものではない。E-03は余った力を出しているのではなく、冷却と補助を同時に削りながら、第一ロックへ食われている。


「三段目は?」


『E-03安全上限に達します。通信塔基部温度警告の可能性があります』


「可能性じゃなく、何が先に鳴る」


『通信塔基部です』


『嫌です』


 ガタの声が短く重なった。レンはキーから指を離さず、姿勢窓を見る。第一ロックの円は、昨日より長く歪んだまま保たれている。軌道アンカーの影も止まっている。あと少し足せば、と言いたくなる絵だ。目に見えて進んでいる時ほど、止めにくい。


 だから、先に決めた停止条件が要る。


「三段目は入れない。二段目のまま不足を確認する」


『不足、確認中』


 数値が細かく並びかけ、ノアが途中で表示を畳んだ。代わりに、中央卓には三つの太い帯だけが残る。保持に必要な帯。現在届いている帯。安全上限の帯。現在届いている帯は、必要な帯へわずかに足りない。安全上限の帯は、そのすぐ下にある。


「隙間がない」


『はい。追加供給のみでは保持不能です』


『隙間がないのに、床は押してきます』


 通信塔基部で、ぴ、と細い警告音が鳴った。


 レンは即座に視線を上げる。赤ではない。だが黄色の上端に触れている。通信塔の外装温度が、試験時間に対して早すぎる。E-03を増やしても、足りない分を通信塔が熱で受けてしまう。


「通常へ戻す。姿勢は記録だけ残せ」


『地上網補助供給を通常へ戻します。第一ロック姿勢保持を解除』


 白い円が閉じ、軌道アンカーの輪郭が戻る。通信塔の白線が細くなり、床の返りが少し遅れて消えた。E-03の温度線はすぐには下がらない。冷却板が仕事を取り戻すまで、黄色の太さが残る。


 レンは点検口へ走らなかった。走りたい気持ちはあった。だが中央卓から目を離す方が危ない。給水。白。温食。白。休息区画。白。出発待機線。白。通信塔基部、黄上端。E-03、安全上限接触後、復帰中。


『生活系、維持』


『右輪、黄色維持。床、嫌が残っています』


「残ってるだけならいい。増えたら言え」


『言います』


[GROUND NET SUPPLY LIMIT]

――――――――――

状態:第一ロック姿勢保持へ地上網補助供給を接続

結果:不足は縮小、保持必要量には未達

上限:E-03安全上限へ接触

警告:通信塔基部温度、黄上端

維持:給水/温食/医療・休息/出発待機線を継続

判定:追加出力のみでは保持不能

次作業:第一ロック、通信塔、補助給電を安全停止手順へ切替

――――――――――


 ログの最後を見て、レンは舌打ちを飲み込んだ。足りない。だが、何が足りないかは昨日よりはっきりした。電力を雑に足せばいいのではない。E-03を押せば、通信塔が熱を持つ。通信塔を押せば、床が返す。生活系を削れば、地上港ではなくなる。


 失敗ではある。


 でも、壊す前に限界の形を見た。


『通信塔基部温度、警告継続』


「次は止める手順だ。止めるのを作業にする」


『推奨します』


『嫌です。でも、止めるなら嫌が少ないです』


 レンは中央卓の姿勢窓を閉じなかった。閉じたままの第一ロック、戻った軌道アンカーの影、その横に残る黄色の温度線。どれも、次に進むための線だ。


 通信塔の警告音が、もう一度だけ短く鳴った。

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