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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

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第113話 消えない外部施設

 E-03の表示は、夜を越えても消えなかった。


 基地の端末に、細い線が残っている。基地、通信塔、保守棟。その外側に、低出力で仮起動した外縁管理施設E-03。表示はまだ薄い。数値も揺れている。だが、前のように黒い空白へ戻ってはいない。


 レンは整備室の机に肘をつき、端末を見ていた。


[EXTERNAL FACILITY LINK]

――――――――――

外縁管理施設 E-03:低出力仮起動

接続状態:限定維持

入口区画:応答あり

外部受電点:補助接続中

送電調整室:待機応答

地形監視塔:待機

――――――――――


「残ってるな」

『はい。E-03の低出力状態は維持されています。受電点の補助接続も継続中です』

『外部施設表示、継続確認。帰還線も維持されています』

「なら、見えてるうちに安定させる」

『妥当です。現状のままでは、長時間運用に向きません』


 ガタは整備台の横で、車輪カバーを外されていた。昨日の砂がまだ隙間に残っている。レンが細いブラシでこすり落とすたび、黒い粒がぱらぱら落ちた。


『右前輪、砂噛みが残っています』

「分かってる」

『分かっているなら、もう少し優しくてもいいと思います』

「優しくやったら落ちない」

『整備方針に温情がありません』

「砂相手に温情はいらない」


 レンは最後の砂を落とした。車輪の軸に少しだけ引っかかりがある。大きな損傷ではないが、長く外を走らせるには不安が残る。


 E-03を使えるようにする理由が、また一つ増えた。


 外でガタを充電できる。外で整備できる。外で短時間でも待機できる。


 それができれば、基地から遠くへ行ける。


『外部仮拠点化に必要な最低条件を提示します。受電点保護、入口区画安全確認、短時間待機可能な空気循環、充電ステーション互換確認、送電調整室への限定進入です』

「優先順位は」

『受電点保護と入口区画安全確認が先です。電力と退避位置が安定しなければ、内部機能の確認効率が落ちます』

『充電ステーション互換確認は、三番目以降で許容します』

「だそうだ」

『聞こえています。三番目なら許容します』


 ガタは車輪を小さく回した。整備されたせいで音が少し軽い。返答は不満そうだが、動きは悪くない。


 レンは端末の表示を拡大した。E-03の外部受電点に、黄色い警告が出ている。仮設ケーブルの接続値が、一定間隔で揺れていた。


「受電点が不安定だな」

『風砂の影響です。仮設ケーブルと補助線の接点に微小な抵抗変動があります』

「今すぐ落ちる?」

『即時停止の可能性は低いです。ただ、このままでは次回以降の外部行動で不確定要素になります』

「先にカバーか」

『推奨します。受電点の仮保護と入口区画の安全確認を同日に行う案が現実的です。充電ステーションは誘導灯の有無まで確認できます』


 ノアの声は止めるものではなかった。危険を分けて、進める形にしている。


 レンは頷いた。


「受電点に仮カバー。入口区画の空気と床を確認。充電ステーションは誘導灯まで」

『了解』

『誘導灯の確認は、視認距離まで接近する必要があります』

「近づきすぎるな」

『距離は守ります。車輪が砂を嫌がっています』

「お前だろ」

『車輪です』

「責任を部品に投げるな」


 レンは外部装備を並べた。絶縁クランプ、導通計、簡易保護板、固定バンド、薄い外壁パネル片、予備セル、小型工具。前回より荷物は少し増えた。目的が安定化に移ったからだ。


 探索ではない。


 見つけた場所を、使える場所に変える。


 レンはその違いを、背中に載せる荷物の重さで感じた。


[FIELD TASK]

――――――――――

目的地:E-03外部受電点/入口区画

作業一:受電点仮保護

作業二:入口区画安全確認

作業三:空気循環応答確認

確認範囲:充電ステーション誘導灯

帰還条件:接続値不安定化/入口区画警告/通信低下

――――――――――


「帰還条件も入ってるな」

『はい。前進条件と帰還条件を同時に設定します』

「いい。分かりやすい」

『外部運用では、戻る条件を先に決めることで行動範囲が広がります』

『戻る条件があるなら、停止判断も早くできます』

「嫌がるかと思った」

『嫌ですが、止まらない方が困ります』

「そこは分かってるんだな」

『車輪が壊れるのはもっと嫌です』


 レンは小型セルをガタの後部ラックへ入れた。ガタがすぐに反応する。


『後部荷重、増加。走行には問題ありませんが、段差で少し跳ねます』

「無理なら言え」

『無理なら先に停止します。嫌ですが』

「嫌でも止まれ」

『そこは同意します』


 基地の外部扉へ向かう前に、レンは端末をもう一度見た。E-03の点は消えていない。基地から外へ伸びる細い帰還線も残っている。第五タグまでの線、その先の搬送口、受電点。


 昨日まで、外は危険な空白だった。


 今は違う。


 細いが、線がある。


『レン、E-03入口区画に短時間の空調補助反応を検出しました』

「今?」

『はい。低出力状態の周期調整に伴う反応です。持続時間は十六秒。内部空気の入れ替えは不十分ですが、入口区画の循環機構は生きています』

「空気が動いたのか」

『はい。短時間ですが、動きました』

『入口区画に待機可能性があります。空気が動く場所なら、砂の入り方も変わります』

「そこを見る」

『床面の砂溜まり、空気循環口、退避位置の三点を確認してください』


 レンは息を吐いた。


 入口区画の空気が動いた。


 それだけで、E-03は少し違う場所になった。入るだけの穴ではない。中で空気が動き、電力が回り、まだ使える機能が残っている施設だ。


 外に、待てる場所ができるかもしれない。


 その実感は、疲れの奥に残っていた重さを少しだけ軽くした。


 レンは装備を背負い、ガタの車輪を確認した。


「行くぞ。今日は、E-03を消さないための作業だ」

『了解。外部行動を開始します』

『車輪駆動、問題ありません。荷重は少し増えていますが、許容範囲です』

「もう一回砂を噛んだら戻す」

『噛むのは砂側です』

「どっちでも戻す」

『了解しました』


 外部扉が開いた。


 灰色の光が差し込む。風の音が低く入り、金属の床を冷やした。


 レンは端末でE-03の点を確認した。


 消えていない。


 なら、次はその灯りを守る番だった。

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