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第1章 2話

 水菜は、短く息を吐いて、

「まあ、いいわ。別に私には関係ないし」

 刻哉はほっと胸を撫で下ろす。

「但し! あんたの能力を教えてもらうわよ」

 ぽかんとした表情で水菜を見る。

 と、

「次のお客様?」

 呼ばれたので慌てて金を払って、スーパーを出て行く。

「で、俺の能力も知らねえのに魔法学校に転校させようとしてたんかお前」

 それに対して怒ったように言う水菜。

「そうよ! 何か悪い!?」

 アルテミスは、二酸化炭素を酸素に変える機械――刻哉は名前を忘れたが――プランター (捻りもなにもない名前だ) に興味をそそられるらしくキラキラした瞳で近づいていく。

 空気清浄機が二酸化炭素を酸素に変える力を持っただけと考えればいい。

 酸素の排出量は植物には適わないらしい。

「わあ~。これから空気が出てるよ? 空気清浄機? 何でこんな所に置いてあるの?」

 どうやら少女は、好奇心旺盛らしかった。

「これはあれだ。二酸化炭素を酸素に変える機械だよ」

「ふぇ~。機械大国ねここは」

 感心と驚きを混じり合わした声を出す。

 水菜は刻哉の頬を思いっ切り抓り上げると、

「ちょっと? 私の質問には答えないであの子の質問には答える訳? 外人趣味で貧乳趣味でもあった訳?」

「いだだだだだだ! 貧乳趣味ならお前に適用されますが!? すみません何でもないです!」

 なんか物凄い心外な事を言われたが、今はこの痛みをなんとかする事が先決だ。

「早く答えなさい?」

 ビリィ! 頬に何か物凄い刺激が走った。

「イッでぇ!? 絶対貧乳って言ったの怒ってんだろ!?」

 静電気だ。

 魔法遣い予備軍のくせに一般人に魔法を使うとは……!

「別に怒ってないわよォ? 早く言いなさい」

 バチッ! かなり強烈な電気が頬から爪先まで流れ、痺れる。

「いッ!? ……俺の能力は気を操る事です! ハイ!」

 手を離して訝しげに言う。

「気を操る?」

 頬の痛みが取れた、と同時にじんじんとした痛みがわいてきた。

 赤くなった頬を押さえ、ちょっと睨みつけながら言う。

「そうだけど。魔法とか超能力を無効化させるのだってこれを応用してるし、肉体強化だってこれを応用してんだよ」

「どんな応用すれば出来んのよ?」

「応用って程でもねえけど、気を活性化させりゃあ、肉体強化出来るし、無効化は気をぶつけたら掻き消せるしな」

 水菜は驚きが一周回ったのかぽかんとしている。

 気を活発化させて身体中に流すと肉体強化を強化出来る (魔法でも出来る) 。

 無効化は、説明しようとすると魔法の出し方も説明する必要がある。

 酸素と水素を結合させて水が作れるように気と酸素を結合させる事で別の物を作れたり、気と気を結合させて別の物を作れたりする。

 気を結合させるシステムがMSと言う訳だ。

 別の気と別の気をぶつけ合う事で両方とも結合が解けるのだ。

 唯一刻哉だけが知っている情報だ。

 まあ、知らなくても無理はない。

 別のエネルギーに変換されないと気は体外に出れば一瞬で消滅するのだから。

 消滅した気は何になるのかは不明。

 今までぽかんとしていた水菜が言う。

「あんたの気、絶対おかしいわよ」

 刻哉だって分かっている。

 気は体外に出れば一瞬で消滅する筈なのに刻哉の気はしない。

 気を相手の魔法にぶつける――少なくともそんな時間までは世界に留めていられるのだから。

 というかその気になれば一日中気を体外に出している事も出来る。

 気の質、量は十人十色だが、刻哉の気はそんな次元をとっくに超えているのだ。

 存在自体がイレギュラー。

 存在自体が今の科学を否定している。

「刻哉~。お腹減ったよぉ~」

 アルテミスがTシャツの裾を引っ張って言う。

 水菜と刻哉がその言葉に驚愕する。

「お前は俺んちで晩ご飯食うんか!?」

「あんたらどんな関係なのよッ!」

 何故か怒ったような表情で刻哉とアルテミスに詰め寄る。

「だから従姉だって」

「どこまでも従姉設定で私を騙す気ね!?」

 キリリと眉が吊り上がる。

「だって俺にも分からないんだもん! 分からないのに説明出来ないもん!」

「ナンパでもした訳? このド変態!」

 言葉と同時に飛んできたの拳を刻哉は間一髪で避け、アルテミスと一緒に逃げ出した。

――――――――

 キッチンでトンカツの用意をする。

 実はトンカツを二人分買っていた訳だが、気恥ずかしいのでアルテミスには黙っておく。

 トンカツを油の中へ投入する。

 あんな妄想を真剣な表情で言う奴なのに嫌いじゃないのは何故だろう?

 というか親は心配しないのだろうか?

 そんな考えが湧いてきた。

「なあ、お前どこに住んでんだよ」

「イギリス~」

 間延びした声が聞こえてきた。

「イギリスッ!?」

 キッチンから部屋を見ると畳が気に入ったらしく、畳の匂いを嗅ぎながら転げ回っていた。

 今日中に帰れねえじゃん。

「はあ~……お前、親は? 一緒にここ来たんだろ?」

「ううん」

 アルテミスはかぶりを振って、

「私を道具として使おうってテロリスト達が無理やり……」

「またテロリストかよ。ウンザリだよチクショウ」

 げんなりして言う。

「む。もしかして、信じてない?」

「当たり前だろうが」

 確かにビルとビルの間を跳ぼうとしたり、訳の分からない能力を持ってるのは半分認めるけど。

 けど、テロリストだ。

 別に存在はするが、自分とは一生関わり合いのない組織だ。

 平和な毎日を過ごし、たまにニュースで別世界のように語られる事件。

 それがテロだ。

「大体テロって、お前どうやって逃げ出した訳? 何でお前を連れてこなくちゃいけないんだよ? んな風穴だらけの話ありえねえだろ」

 言った瞬間、アルテミスは初めて怒鳴った。

「信じるって言ったのに!」

 責め立てるような言葉。

 まるで信じてた人に裏切られたような悲しみの表情。

 刻哉は一瞬面食らってしまった。

 確かに刻哉は信じるとは言ったし今日半日をコイツと過ごしたが悲しそうな表情は初めてだった。

 アルテミスは今にも泣きそうな顔で刻哉を睨む。

 物凄い居心地の悪さが一気に罪悪感となってやって来た。

「悪かったよ。信じるから話てくんねえかな?」

「ウガァ!!」

 猛獣の如き、叫び声と瞬発力で一気に刻哉の元までやってきてそのままタックルし押し倒し、馬乗りになった。

「いてぇッ!」

 倒れた拍子に、冷蔵庫の角に頭がぶつかり、ガツンとヤバめの音がした。

 更に顔面にチョップが飛んできた。

 メシャ! 鼻が潰れるかと思った。

「今更そんな覆された意見を信じると思ってる!?」

「ごめん! けどいきなり言われたら信じらんねえだろ!? 何か証拠があるならともかくさ!」

「分からず屋!」

 鳩尾にグーパンチ。

「ゲファ!? 何でだよ! 絶対間違ってねえだろ俺!? そんなもん一々信じてたら詐欺にあって金巻き上げられちまうわ!!」

「もういい! 私出てく! 分からず屋のバカ刻哉!」

 怒り浸透と言った感じで立ち上がって何故かチラッと後ろを見ながら玄関へ向かう。

 止めて欲しいのが丸分かりである。

 刻哉は頭と鳩尾を押さえながら立ち上がって言う。

「信じるから話してくんねえかな?」

 ムスリ、とやっぱり怒りながら言う。

「そこまで話して欲しいならね。うん。仕方ないから話すけどね」

「はいはい。分かりましたよ」

「なッ! 何その馬鹿に仕切った言い方は!?」

「いや別に……ってああああああああああああああ!!! トンカツがああああああああああああああ!!!」

 真っ黒に焦げたトンカツが油の中で発見された。

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