第70話 突風注意
お待たせいたしました。
葉泉支部の訓練室で司と駿がボール当て訓練をしているところに
青屋風奈が乱入してきたところからです。
葉泉支部 第2訓練室
並び立つ石柱の間を突風が吹き抜けた。
(あぁ、めんどくせぇな、これ)
青屋風奈が起こした突風に司は眉をひそめた。
「先生こんな強風も起こせたのかよ」
「私は歴が長いですからね」
「ちょ、ちょっと青屋さん、手加減はしてくださいよ」
吹き飛ばされそうになる二人を見て、景山が慌てて言った。
「さ、いきましょうか」
そう言うと、青屋は駿の方へと静かに歩き始めた。
「受けて立つぜ!司、手ぇ出すなよ」
「出さねぇよ」
(だいたい、あれを纏われてたら出しようもねぇし)
ただ静かに、一歩一歩、距離を詰めてくる青屋に
駿は後ずさりをしながらも両手にボールを握った。
(な、なんだよ、宿題出さなかった時より怖えーな)
(駿のやつ、ビビってんな)
「あら?投げてこないんですか?」
「ち、近くの方が当てやすいからな、
そ、それに先生は、まだ手にボール持ってねぇし」
「そうですね、それでは、、、」
青屋が歩きながらボールに手を伸ばした時、駿は両手のボールを勢いよく投げた。
しかし、投げたボールは青屋の周りを渦巻きながら昇り、
天井にぶつかると青屋の両手に落ちた。
「なっ!?」
「松平くん、能力者相手にむやみに攻撃してはダメですよ」
そう言うと、青屋は右手に落ちてきたボールを駿に向かって投げた。
その瞬間、司も青屋に向かって投げたが、
青屋は振り向きざまに左手のボールを司が投げたボールにぶつけた。
「ちっ」
司は舌打ちをすると、石柱の陰に隠れた。
「手は出さないのでは?」
「駿がアウトになる時点で、2人の勝負はついてますよね?」
「それもそうですね」
「がぁー、ちくしょー、暇になる!
司、俺にタッチして復活させてくれ」
(氷鬼じゃねぇんだし、そんなルールねぇよ。
にしても、チャンスを無駄にしたな、
持ち球は風奈さんの方が1つ多いし、、、)
司が作戦を考えていると
「これより、ルールを追加する」
景山からアナウンスが入った。
「お?復活か?」
「ボールを持っているプレイヤーは30秒に1回はボールを投げること。
時間はこちらで管理する」
「なんだよ、俺は暇じゃんか!」
(妥当だな)
「計測はこれより行う」
(さて、どうす―――)
その時、司の両側をボールが横切った。
(とりあえず、1回投げとこうってことか?)
司がボールを見送ろうとしていると、
ボール側から司に向かって強風が吹き始めた。
風にあおられたボールは司に向かって飛んでくる。
「司、避けろ!」
駿が訓練室隅から叫んだ。
(言われなくても、、、、)
しかし、司は身動きが取れず、ボールに当たってしまう。
「何で避けなかったんだよ!」
「沖和くんは避けなかったんじゃなくて、避けれなかったんですよ」
「?」
駿は首を傾げた。
「う~ん、そうですね。
松平くん、そこの壁に背中をつけて立ってください」
駿は青屋先生の意図がわからず口を尖らせたまま壁に向かって歩き始めた。
「立ったけどよ、これが何だってんだ?」
「では、いきますよ」
青屋先生が右手を向けると、駿に向かって強風が吹き始める。
「んぐっ、、、がっ、、、」
駿は風圧を喰らいながらもがいている。
「さっき、沖和くんは今の松平くんのように柱に押さえつけられて動けなかったんです」
「あ゛、、ぐぅ、、だぃ、」
「先生、そろそろ解放してやってください」
「あ、ごめんなさい」
青屋が右手を下ろすと駿は力なく床に倒れた。
「はぁ、はぁ、、、で、、、、避け、るには?」
駿は司を見上げて訊ねた。
「何でこっち見んだよ」
「何か、ねぇ、のかよ」
「そんな都合のいいことはねぇよ」
「少しは考えたんだろうな?」
「お前の知ってる能力者で強いと思う人挙げてみろ」
「んー、先生だろ、景山さんやここの支部長とかか?
大人だし、波溜や海さんなんかより強いだろ」
「非能力者のいま、その2人の能力、特に海さんの水の攻撃を完璧に避けれそうか?」
「うーん、、、何発か喰らいそうだな」
「なおさら、先生の能力なんてまだだろ?」
「確かに!、、、って、それじゃあ、一生まともに戦えないのか!」
「別に非能力者が能力者と戦えないとまでは言ってないだろ。
あくまで、現時点の強弱を言っただけだ」
「なぁ先生、俺でも能力者と戦えんのかな?」
「う~ん。そうですね、難しい話になりますけど、、、苦手ですよね」
「俺でもわかるようにお願いします!」
駿は勢いよく頭を下げた。
「わかりました。では、簡単に教えますね」
駿は青屋先生の次の言葉に集中する。
「気合いです!」
「まさかの根性論!!」
「前に、訓練学校の入学には能力の有無が関係ないって話したの覚えてますか?」
「うん、勉強と人柄がよければって」
「機関の捜査官にも非能力者はいます」
「!?なんで?」
「彼女は強いので。かなり努力はされてたようですけど。
つまり、不可能ではないし、戦う術はあります。
さ、そろそろ訓練を再開しましょ?」
そして、青屋風奈の能力を攻略するため、試行錯誤を繰り返した2人は
その疲労から訓練室に横たわっていた。
「へぇ~、そんなことがあったんすね。
ま、訓練室が壊れていないならいいっすよ」
玲真はネクタイを緩めて運転席に座った。
「駿のやつは何か掴んだんすか?」
「どうだろうな。
青屋さんも言ってたけど、駿が本気で訓練生、機関を目指すなら、
能力を扱えないことは壁にはなるだろう」
「目指すのは辞めなさそうっすよね」
「そうだな。青屋さんが機関の捜査官に非能力者がいることを教えて、
余計に火が着いた感はあったしな」
「、、、、、」
玲真は無言で苦笑いを浮かべていた。
「お前、ぼろ負けだったもんな」
「そーっすね、つえぇっす。
まだ訓練生だったころとは言え、ねぇ?」
「今やっても、結果は変わんねぇだろ」
「なかなか痛いとこついてきますね。
ま、仕方ないっすわ、練度が違うんで。
じゃ、運転するんでこの辺で」
「おう、じゃあな」
玲真は電話を切ると、シートベルトを締め車を走らせた。
特殊能力のある世界 第70話 ご覧いただきありがとうございます。
元気になってきました!連載再開します!
次回からは、ついにあの酔っ払い捜査官が活躍!?
次回の投稿は12/31(火)です。