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婚約者が番だった件(フリティラリア)

 グワリと揺らいだ頭に思わず額に手を当てる。

 偏った女性趣味はないとか妙な性癖を持ち合わせていないと言った我に、それであれば未来の己に惚れないのはおかしいと言い出したブルーローズ嬢が取り出したのは、外見年齢を操作することが出来るという妙薬だった。

 霊薬ほどの稀少価値はないものの、それでも作成も困難であれば入手も困難であるものを、ポケットにたまたま入っていた飴玉みたいな感覚で口にしないで欲しい。

 いや、問題はそこではない。


「如何でして?」


 コテリと首を傾げる目の前の娘に対して絶句という態度しかとることが出来ない己が何とも情けないが、こればかりは仕方がないと思いたい。

 我に番はいない、居たとしても出会える確率など数千年生きる魔人であったとしても砂漠で砂金を見つけるようなもの。

 実際に、目の前で首を傾げているブルーローズ嬢は我に対してなんの感情の起伏も抱いていないように見えるし、実際問題抱いていないのだろう。

 正しく成長したわけではないからなのか、ブルーローズ嬢自身はわかっていないようだが、これは、成長した姿のブルーローズ嬢から集中していなければ気づけない程度ではあるが香ってくるものは、彼女が我の番であると本能が理解するのに十分であった。


「今すぐ元の姿に戻ってくれ」

「まあ! この姿に劣情を覚えないなど、やはり女性の趣味が特殊なのでしょうか」

「そうじゃない」


 むしろ番が目の前に居るという事実に頭がクラクラとして、無意識に手を伸ばして触れたくなるのを理性を総動員して抑え込んでいる状況だ。


「では、この姿のわたくしはフリティラリア様のお気に召しますでしょうか。いえ、お気に召さないという事はないと思ってはいるのですが、先ほどからわたくしを凝視しているような目をそらしているような、それでいて苦々しいものを見るような、なんと言いますか獲物に襲い掛かる獣の気配を漂わせていると申しますか、とにかく尋常ではないご様子ですので気になってしまいますの」


 ものすごく的確に追い詰めてきたなっ。


「やはり悪役令嬢と呼ばれるわたくしではお気に召さないと? けれどもヒロインにはない気高さと妖艶さを持ち合わせ、尚且つ夫となる方には敬愛の心をもって接しようと思っているわたくしは良き妻になると思いますの」

「敬愛、か」

「いけませんか? だってフリティラリア様も別にわたくしに対して愛情を抱いているわけではございませんでしょう? お互いに相手を敬う事の出来る関係を築けることが出来れば重畳だと思っておりますのよ」


 いや、今まさに君に対して劣情を覚えた挙句に本能的に執着的な愛情を感じて混乱している所だ。


「それに、二次創作界隈ではわたくしの体はそれはもう極上の抱き心地と描かれることが多くございましたし、腹ボテの二次創作も多数ございましたので子供に関しても心配がないと思いますの」

「そういった物を生み出したのがこの世界の存在でなくてよかったと、今、心の底から思っている」


 目の前に居たら八つ裂きにしているな。いや、目の前じゃなくてもこの世界に存在する者だったらそこまで行って八つ裂きにしている。


「まあ、体の相性につきましては実際に試してみないと何とも言えませんけれども、流石に今試すというのはご遠慮していただきたいので待っていただくことになってしまいますわね」

「そうだな、そんなことを今したら大変だな」


 主に我の理性的な問題で。


「それで、元の姿に戻ってくれないのか?」

「効果は二十四時間継続しますの」


 目の前で(テーブルが間にあるが)優雅にお茶を飲んでいる姿に、今すぐにでもティーカップを奪い取りみずみずしい唇にかぶりつきたくなるのを必死でこらえる。

 ティーカップ、そこを代われ!

 くそっ、動揺がひどすぎて頭がまともに働かない。

 どうする、いったん魔国に帰って薬の効果が切れたころにこっちに来るか?

 いや、こんなに美しいブルーローズ嬢を彼女の領域とはいえ少ない使用人とだけ過ごさせるなど、不審者が侵入した時に対応が遅れて何かあったらそれこそ一生後悔する羽目になる。

 ブルーローズ嬢を危険な目に遭わせるかもしれない可能性を考えれば、我が理性的に振舞えばいいだけなのだしここにいるべきだろう。


「そういえば、婚約の契約では定期的に交流を持つとはしておりますが、具体的にどのぐらいの頻度に致しましょうか? お忙しいでしょうしわたくしとしては年に一度程度でも問題ございませんわ」

「無理だ」


 出来るのなら一日中傍に居たい。


「そうですの。やはり人族と魔人では時間の感覚が違いますのね。わたくしも無理を言うつもりはございません、何年おきぐらいでしたらお会いできますでしょうか? 流石に十年に一度などといわれると困ってしまうのですが」

「毎日だ」

「はい?」

「毎日こちらに通う」

「無理をしていただくつもりはないというわたくしの言葉を聞いていらっしゃいませんでしたのね。フリティラリア様は本当にわたくしの話を聞いて下さらなくて、今後の生活が少々心配になってしまいますわ」

「無理ではない」


 むしろ番の顔を見ることが出来ない日が続く方が無理だ。


「そうですか。ではご利用になる部屋を準備いたしますが内装についてご希望はございますか?」

「一緒の部屋で構わない」

「わたくしと?」

「君と」

「こちらにいらっしゃるのは昼なのでしょうか、夜なのでしょうか?」

「魔国での仕事を済ませてからになるから夜になると思うが」

「つまりは、こちらにお泊りになるということでよろしくて?」

「ああ」

「一緒の部屋という事は、同じベッドで寝るおつもりなのでしょうか?」

「そうなるな」


 番なのに別のベッドで寝る方がおかしいだろう。


「……幼女趣味はないとおっしゃっていましたが、ご自覚が無いだけでしたのね」

「断じて違う!」


 ブルーローズ嬢が我の番だと告げた方が早いが、肝心のブルーローズ嬢が自覚出来ないのであれば困らせてしまうだけだろうからな。

 それに元の姿に戻ればこの香りもなくなるからいくら番とはいえ理性の枷が外れることもないだろう。

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