社交界デビュー1
七歳を迎えてから半年経ちまして、やっと社交界デビューパーティーが開催されまして、沢山の方々にお祝いの言葉を頂く中、わたくしは大変満足していたのですが、招かざる客というのは何処にでもいらっしゃるものでございますわね。
多くの来賓に紛れ込んで周囲から冷めた対応を受けている遺伝子上の父親とその愛人を見つけてしまい、この誕生日パーティーの準備をした人族の中には随分気の利く者がいるのだと感心すら覚えてしまいますわ。
それにしても、遺伝子上の父親という事で招待されているにもかかわらず肝心の娘にお祝いを言いに来るわけでもなく、無駄に飾り立てた平民の愛人を自慢するように振舞って、尚且つ無様な行いをしているのは滑稽ですわね。
わたくしは近くに座っていらっしゃる国王であるお爺様にそっと耳打ちをいたしますと、お爺様がすぐに朗らかな笑みを浮かべて近くに居る侍従に指示を出しました。
「楽しそうだね、ブルーローズ嬢」
「そうですわね、クロトン様。半年ずれてしまったとはいえ折角の誕生日パーティーですもの、楽しまなくてはもったいないではありませんか。特に本日のパーティーには余興に相応しい道化も紛れ込んでいるようでございますし。けれども、わたくしの社交界デビューのパーティーで身勝手に道化がいつまでも居座るのもどうかと思いますの」
従兄弟であり伯父様の長男であり、本日わたくしのエスコート役をしてくださっているクロトン様がわたくしがチラリと視線を向けた遺伝子上の父親とその愛人を見て「ああ」と納得なさったように頷きました。
もちろん『花と星の乙女』ではクロトン様も攻略対象者でございますわ。
ゲーム開始時には二十一歳で第一王位継承権保有者でございますので当然ですわね。
ゲーム内で第一王位継承権保有者であるにもかかわらずクロトン様に婚約者がいなかったのは、わたくし、『ブルーローズの』婚約者候補であったからでございますの。
ファンタリア王国王族の子息並びに有力貴族の子息はもれなくわたくしの婚約者候補であるがため、特定の恋人も婚約者もいないというなんとも面白いというかご都合主義な設定でございますわ。
それでも、一方的に彼らに想いを寄せる女性キャラがお邪魔キャラとして登場したりもしますが、それはまた別のお話でしょう。
まあ、それはアンデルフ皇国の皇族子息と有力貴族の子息にも言えることですが、一部を除きヒロインが積極的にアンデルフ皇国に関わらなければそこまでわたくしの周囲に関わってくるキャラクターではございませんので今はいいでしょう。
今はお爺様が指示を出した侍従に何かを言われて慌てた様子でこちらに向かってくる遺伝子上の父親とその愛人の相手をする方が大切ですものね。
わたくしが座っている椅子の前まで二人がやってくると、早速という感じに遺伝子上の父親が口を開きます。
「ブルーローズ。本日は誕生日おめでとう。今後もエッシャル大公家の娘として恥じない行いをするように」
「ブルーローズさん、七歳のお誕生日おめでとう。あんなに小さかったのにもうこんなに大きくなったなんて。今度我が家にも遊びにいらしてね、スノーフレークも喜ぶわ」
あらまあ、予想以上のお馬鹿な発言と行動に思わず目を細めて馬鹿にしたような笑みが浮かんでしまいました。
遺伝子上の父親がわたくしに声をかけたのはまだギリギリ許される範囲ではございますね。
「驚きましたわ。わたくしの父親は実の娘の誕生日すら忘れてしまっているのでございますのね。本日がわたくしの誕生日であるのだとしたら、お父様はお母様の妊娠が不確かな時期に不貞を働いていたという事になりますわね。もっとも、妻が妊娠しているから婿が不貞を働いていいというわけではございませんけれども」
「なっ」
「それに、王宮に平民の愛人を連れてくるなんて随分マナーがなっていないご様子で、わたくしにエッシャル大公家の娘として恥じない行動をするように言う前に、ご自分がエッシャル大公家の婿でしかないというご自覚を持ったら如何でしょうか? 恥ずべき行動をなさっているのはどちらでして?」
「黙っていれば、父親に何という態度だっ」
「そうよ。旦那様はブルーローズさんの事を思って言っているのよ」
会場に招待されている人々の視線が集まっているのがわかっているのかわかっていないのか、どんどん墓穴を掘ってくださってありがたいですわね。
「平民に貴族のマナーをすべて理解していただくのは難しいとは思いますけれど、王宮に連れてくる以上最低限の常識ぐらいは学んでいただいてから連れてきていただきたいものですわ。平民であるお父様の愛人がまさかとは思いますけれども王族であるわたくしに、わたくしに許されてもいないのに話しかけるなんて耳を疑ってしまいます。お父様と同じようにわたくしの誕生日を理解なさっていないようですし、本日の主役はわたくしだというのにまるで自分が主役だとおっしゃりたいようなまでに着飾って、品位を疑ってしまいますわね」
「別にそんなつもりじゃっ」
「それに我が家? おかしいですわね、そちらの平民はエッシャル大公家の別邸に居候しているだけの身のはずですわ。ああ、でもお父様の事を旦那様と呼んでおりましたから使用人として働いているのでしょうか? 使用人如きにそのような過分な物を身につけさせるなど、お父様が住んでいる別邸は使用人にお金を湯水のようにつぎ込んでいらっしゃるのでしょうか」
「オダマキは使用人ではない!」
「ではやはり金食い虫の居候ですわね。身の程をわきまえていただきたいものですわ。言葉遣いも王族に対するものとは思えませんし、まるで母親気どりのようで不快でしかありませんわ」
わたくしの言葉に遺伝子上の父親は怒りで顔を赤くし、その愛人は一瞬だけわたくしを睨みつけた後悲壮な表情を浮かべてポロポロと涙を流し始めました。




