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第13話 一件落着。芋とリンゴで農業再開?

 慌しい一夜が明け、日が高くなり始める頃には村はある程度の落ち着きを見せ始めた。捕らえられた盗賊たちは全員縄で捕縛し、更にお互いを繋げるように縛られた状態で、村の広場に座らされている。


「しかし驚いたものだ。まさか盗賊の正体が彼らだったとは……」


 昨夜の騒ぎを起こした盗賊たちは、羽織っていた外套を剥がされ、皆素顔を晒されている。そして、俺はその顔の一つに見覚えがあった。

 先ほどから俺の顔を睨みつける男。昨日の昼にブルーノと会話をしていた一団に居た人物だった。


「さて、それでは話してもらうぞ、ホレス村の使者殿。何故このような騒ぎを起こしたのかを。」


 俺達が最初に訪れた、近隣の開拓村であるホレス村。そこで盗賊騒ぎが起きたと報せを持ってきた使者たち。それが何故、自身が盗賊に身をやつして俺たちの荷物を漁ったのか。……まぁ、大体想像はつくが。

 盗賊撃退を経験したことのある村人に聞けば、規模もやり口も素人過ぎる。しかし、村人を一箇所に集まっている隙に空いた家に入り込んで荷物を持ち出すなど、計画的ではある。ということらしい。また、開拓村で盗賊が現れた場合の対策も知っていることから、そういった村出身の人間である可能性も高いとも。


「……」


 問いかけられても沈黙を貫く盗賊改め使者達。


「……当ててやる。ホレス村村長の指示で俺たちの荷物を漁りに来たんだろう? 俺達が持つモノの価値を知った途端、いきなり執着し始めたからな。あの村長。」


 俺の発言に一瞬驚いた顔を見せる使者の男。しかし、その表情はやがて憎しみに満ちた表情へと変わっていく。

 茜はこのクレト村に向う道中、何度も奇妙な一団を見ていた。距離を保ちつつ、同じ方向へと向う一団。そして俺達が到着した半日後に現れた使者達。俺達がホレス村を去った直後に盗賊騒ぎかあったのなら、俺達のペースに合わせないでさっさと先を急ぐべきだ。なのに、俺達が拠点を構えて村に定住した後に、それを待っていたと言わんばかりに使者達は村に現れた。しかもわざわざ俺に悪態を吐いてだ。

 その後姿は見えなかったから、ブルーノが行かせた早馬に合わせて冒険者を呼びに行ったかと思ったが、連中は村に留まり続けていたようだし、今となっては怪しい事だらけだ。


「貴様が最初から村長に素直に従っていればよかったんだ! そうしていれば、俺達も盗賊の真似事なんかしなくても良かったのに!」


 それだけ俺に怒鳴った後、男は観念したのか事の次第を語り始める。

 男が言うには、俺達が持っていた調味料や小麦粉に油など、それらの価値を行商人のロイドの説明で知った村長の命令で、俺達の後を付け、荷物を強奪するつもりだったのだという。しかし、迂闊に道中で襲い掛かっても、確実に仕留めて奪わないと今度は自分達が罪人になる、なので、隙を見て荷物だけ奪って逃げようとした。そのために盗賊騒ぎをでっち上げ、村の集会所に村人が集まり、辺りが暗くなるのを待っていたのだという。

 しかし、満を持して行なった工作も、たまたま外に出ていた茜の視力であっさりと見つかり、計画は御破産になったわけだ。というか茜でなくても、獣人族の村人とか狩人に見つかったらどうするつもりだったのだろう? 下手をしたら問答無用で弓で射抜かれたりとか、剣で斬られたりしてたんじゃないか?

 まぁ、俺達の荷物がいつまでも残っているかという保証もなかっただろうし、とにかく素早く仕事をこなして、さっさと逃げたかったんだろうとは思うけどな。

 しかし、なんであんな村長にそこまで義理立てするかね?


「薄汚い獣人とその取り巻きなんかが持つより、俺達のほうが有効こう活用できるんだ! さぁ、今すぐこの縄を解け!」


 あ、あの村長の思想に染まりきっているのね。しかし、ロイドは村長の獣人嫌いは私怨からって言ってたけど、なんでコイツ等までその思想に染まっているんだ? なんか根が深そうだな……

 それと、この村は結構獣人族の方がいるわけですが、縄で縛られて取り囲まれている状態でよくそんな発言が出来るもんだね。猟師のデレクなんかめちゃくちゃおっかない顔になっているし、他の連中も青筋立てて怒りを露にしているし。命がいらんのか? コイツ等は。

 だけど、これで2度目だ。今の発言は茜のことだけじゃないだろうが、もうさすがに許せんな。誰の嫁が汚らわしいだと?


「あ、おい! 貴様、何をする! その手を放せ!」


 俺は縛られたままの使者の男の胸倉を掴んで立たせると、手を放してから蹴りを放った。


「ぐふ!?」


 力ずくで立たせた直後にいきなり手を放したことでバランスを崩した男は、そこに追い討ちをかける俺の蹴りをまともに喰らって、そのまま後ろ側へ倒れる。縄でつながれたほかの使者達も、男が倒れる勢いに引きずられて座ったまま地面に倒れていった。


「あ……ぐぅ……」


 呻く事しかできなくなった男の傍らに座り込み、俺は男の髪をつかんで無理やり顔を上げさせる。


「……いい加減、人の嫁のことを汚らわしいと言うの、やめろ。いい加減我慢の限界なんだよ。」


 それだけ言って男の手を放す。そして次に、今度は昨晩茜と対峙していた使者の男の元へと行く。


「……お前も、よくも人の嫁に剣なんか向けてくれたな……」


 蹴られた男に釣られて地面に倒れこんでいた別の使者の男を、上体を起こして座らせると俺は言葉を欠ける。


「……くっ、あんな獣人の何がいいってんだ……! あんな……あだだだああだっ!?」


 言葉で威圧する俺に尚も憎まれ愚痴を吐こうとする使者の男。お前もか。俺は昨晩投げつけた石の当たったであろう肩の部分に力を込めて痛みを与えてやった。結構酷い怪我になったのか、男は身じろぎしながら悲鳴を上げている。


「正直俺はお前らを殺してやりたいし、村の人たちだって要らぬ騒動を起こされて気が立っているんだ。あんまりな舐めた事を言っていると、本当に殺されるぞ。」


「あだだだっ! やめ……離し……わか、分かりましたぁっ!」


 痛みに耐えかねたのか、哀願してようやく口を閉ざす使者一同。こっちは理由を話せとは言ったが、暴言を吐けなんて言ってないんだよ。


「まぁ、それくらいにして。コイツ等はしばらく捕縛した後に依頼した冒険者に引き取ってもらおう。さ、皆は申し訳ないが、後片付けのほうへ戻ってくれ。」


 村長であるブルーノが使者達の今後の処遇に付いて簡単に指示し、他の村人たちにも各々の仕事を始めるように言う。そういえば、冒険者云々の話もしてたっけ。


「賊が既に捕まっているのに、冒険者は来てくれるのか? 完全に無駄足な様な気もするんだが……」


 一応、向こうも仕事ってことになるわけで、道中の経費とか請求されたりするのか? 気になってブルーノに聞いてみる。


「緊急の依頼は既に出してしまったからな。受領した冒険者がいれば時期にこの村に訪れてくれるだろう。緊急依頼の場合、依頼を受けた時点で依頼料の半分が前金としてギルドが立て替える形で支払われるし、依頼を受けて訪れてくれた冒険者も。事態が就職した後の事後処理の有無などで追加の報酬が請求できる制度があるし、無駄足ということはないさ。さらに、今回のような事態だと冒険者が到着した時には村は既に全滅だった何てこともあるが、そういう場合でも依頼料の取りっぱぐれが無いようにするためだな。移動の経費も唯じゃないし、全滅していても残党とカチ会う事もあるからな。まぁ、冒険者を守る為の相互補助みたいなものだな。」


 前金制度に依頼料の立替と残務処理の追加報酬ね。なるほど。そのためのギルドか。そういえば、ギルドって組合みたいな意味じゃなかったか? そう考えたら納得だな。業界を守る為の組織ってワケだ。


「ちなみに、ギルドの立替分や残務処理の追加報酬を断ると……?」


「そういう不義理を繰り返す村には冒険者が来なくなる。商人とのつながりもそうだが、目先の利益に釣られて欲をかいてばかりいると信用をなくして、結局は自分がそんをすることになる。必要な労力には相応の報酬を用意しておくべきなのだよ。」


 村だけで世界が成り立っているわけではないってことか。信用を失うようなことをしたら、ひいては村の存亡にも関わってくると。今回はマッチポンプみたいな盗賊騒ぎだったからまだ良いが、本職(?)のならず者が大挙して襲ってきた時に、助けは来ないなんてことになったとしたらぞっとする。


「そういう有事の時のために、この村では麦の備蓄と冒険者への依頼料の積み立てなんかをやっているのだよ。村を治める立場にある以上、村人達を守る義務があるのでな。父から受け継いだ知恵だが、お陰でこの村は何度かこういった危機を乗り越えてきたのだ。」


 そう自慢げに語るブルーノ。村を治める手腕があることは確かなのだろう。というか、やはりブルーノは代継ぎの村長だったのか。年配の村人達もブルーノの言葉に耳を傾けている辺り、先代の村長も相当有能だったのだろうな。

 一通り聞きたいことも聞けたので、俺も広場を後にし、家路に着く。一足先に茜は家へ戻って荷物の整理しているはずなので、俺も早く戻らないとな。しかし、連中に持っていかれそうになった荷物ってなんだったんだ? 貴重な物品は一緒に避難所にいたはずだが……


「おい、新入り! ちょっと待て!」


 等と考え事をしていると、後ろから声が掛かる。振り向くとそこには獣耳の大男、猟師のデレクが居た。傍らには小柄な女性も伴っている。……一体なんなんだ?


「その、アレだ。昨日はスマンかったな……」


 なんとも罰の悪そうな顔で、辛うじて聞き取れる程度にもごもごと何事かを喋るデレク。どうやら、俺が盗賊とグルなんじゃないかと疑ったことを詫びにきたようだが……


「ほら! そんなんじゃ聞こえないじゃないか! 謝りに来たんだったらはっきり言いな!」


 大柄なデレクと比較すると、一際小柄に見える女性が、なにやら居心地悪そうにしているデレクに対してがなり立てる。背は茜よりも低いが、ふっくらとした肉付きの若い女性だ。デレクの奥さんだろうか?


「うぅ……悪かったな。本当にスマン。根拠も無いのに疑ったりして……村の連中には噂は間違いだったって伝えておくから、これで勘弁してくれないか。」


 横の女性に言われて、改めて詫びるデレク。まぁ、あの盗賊モドキたちの登場は俺達が原因とも言えるから、噂の件は兎も角、あんまり畏まってくれなくていいと俺は思う。


「ホントにもう、ウチのが早とちりして申し訳ないよ。この通り、反省しているから、どうか許しておくれ。」


「そう気にしなくても良いさ。村を守る為なら慎重になり過ぎて困るということも無いだろうからな。」


 デレクに続いて、横の女性――やはり奥さんだったか。も申し訳なさそうに頭を下げて来る。しかし、特に実害があったわけでもないし、広めてしまった噂も取り消してくれるらしいので、これ以上何か要求するのはちょっと気が引ける。なので、俺は二人に気にしなくていいと告げた。

 ああいうならず者が現れるかもしれないって時に、内部に入ってきた人間を無条件で信用するのは明らかに危険だろう。そう考えれば、あの時村を守る立場にあったデレクの対応は間違っちゃいないはずだ。


「でも、いろいろ迷惑じゃなかったかい?」


「たった一晩のことだし、俺も茜も迷惑に感じたことは何も無いからな。だから気にしないでくれていいさ」


「でも……」


 尚も食い下がる奥さん。言葉遣いは荒いが、相当気遣いの出来る人なんだろうな。始終申し訳なさそうな顔をして頭を下げっぱなしだ。


「本人ももういいって言ってるんだし、そんなもんでいいだろう。」


 そんな奥さんに対して、最大級の核弾頭を投下するデレク。気持ちはわからんでもないが、それは俺のセリフで、アンタが言って良いセリフじゃないぞ。


「あんたって人はーー!!!」


 その言葉に案の定、奥さんの怒りは一瞬で頂点に達する。奥さんは凄い勢いでデレクを叱り付け、それに反論するデレク。目の前でいきなり夫婦喧嘩が勃発してしまった。


「と、とりあえず、侘びなら受け取ったから! それと、どうしてもって言うなら、村での生活でまだ慣れない事とかもあるし、うちの茜とも話し相手になってくれたらありがたいな~なんて……」


 目の前でがなり合うデレクたちに、一応の落としどころとして提案を持ちかける。まだ村に来て3日目だが、出来ることなら親しく出来る人間がいた方が今後の生活の不安も減るだろうと思っての提案だった。


「そういうことなら任せておくれよ。あたしはエマ。猟師の嫁をやっているから、解体や加工ならお手のもんさね。こっちのデレクはもう知っているんだろう? こんなんでも腕は確かだから、外の森に行く時には声をかけてやっておくれ。」


 俺の提案を聞いて、即座に笑顔でこちらに向き直ると、こちらの提案に乗ってくれた。


「まぁ、そういうことだ。あの森はいろいろと取れる物があるが、獣も多いからな。オレに出来ることといったら狩りぐらいだし、村から出るときには護衛をしてやる。」


「ありがとう。森にはいずれ行って見ようと思っていたんだ。その時は頼むよ。」 


 これをきっかけに仲良くしていけたら良いもんだな。というか、ガタイの割にしっかりと尻に敷かれてるのな、デレク……

 先ほどの喧嘩はどこへやら、仲良く歩いていく二人を見て、仲が良いのは良いことかと納得しながら、俺は再び家路へとついた。



◇◆◇



「ただいまっと。」


 勝手知ったる掘っ建て小屋、開拓村の新居である我が家へと帰宅し、扉を開けながら中にいる茜に声を掛ける。


「あ、お帰り~。荷物の整理終わってるよ~」


 部屋の中に賊が押し入ったと聞いたが、これといって荒らされた訳では無かったのか、避難前に見たのと同じ光景の室内に俺はホッとしつつ、手伝いが出来なくて申し訳なく感じた。


「悪いな、手伝えなくて。」


「大丈夫だよ~。そんなに大変なことでもなかったから。」


 集会所に持ち出した、日本からの荷物と小麦粉やらの入った箱は寝室に戻されたのか、ダイニングの片隅にあるのは盗まれかけたらしい食料箱だけが見える。


「そういえば、その食料庫には何が入っているんだ? 盗まれるようなものには思えないんだが……」


「この中? ん~、この中はねぇ……」


 気になったので聞いてみたところ、茜は箱から中身を出して説明してくれた。


「干し肉の包みと、ジャガイモとサツマイモ、それからにピクルス。あとリンゴだけだよ。」


 中身はこの村で買った肉と漬物、後は日本から持ってきた芋とリンゴか。わざわざリスクを犯してまで盗むほどのものには見えないのだが……


「多分、あの盗賊たちはこの中にあの値がつきそうな商品が置いてあると思い込んだんじゃないかな? 寝室までは入り込んでなかったし、連中が入り込んですぐにわたしも駆けつけてたから……」


 あぁ、つまり勘違いの早とちりで持ち出したわけね。夜間で証明もない中じゃ、判断はつかないか。


「……ん? ちょっと待て。ならなんで茜はそんな箱を身を挺してまで守ろうとしたんだ? たいしたものでないなら放っておけば良かったと思うんだが……」


 芋とリンゴは惜しい気もするが、それくらいならこの世界にもあるだろう。ある程度の現金もあるわけだし、持って行かせてからがっかりさせてやっても良かったんじゃないか?


「いや~、お肉とピクルスはまだ良いんだけど、他がねぇ。この世界で農業やろうと思ったら必需品だもの。持っていかれたらどうしようかと必死だったからね。」


 ! そうか。現代日本で作られた植物ってことは、長年の品種改良だかが施された独自の種類ってことになるのか? この世界で作られるものよりも遥かに味の良いものが出来るってことになるんじゃないか?


「ホントは畑を耕し終わってから肥料を入れて、それで少しずつ増やして以降と思っていたんだけど、予定が狂っちゃったからね。」


「もしかして、このリンゴか?」


 芋はそれなりにあるが、リンゴは一部消費したので残り僅かだ。増やすということはやっぱりこれだろう。多分。


「え? 違うよ。」


 そんな予想はあっさりと覆される。ってことは芋か……? 


「で、でもリンゴも増やせれば……」


「それは難しいと思うよ。というか多分無理。」


 やっぱり芋だった……しかしなんで芋? 割とどこにでもありそうな気はするんだが。


「いま日本で売られている野菜や果物は、殆どがF1種、つまり一世代交配種で、その特徴を次代に残せないように調整されているから、植えても実がなるかは判らないの。」


 茜は何故リンゴは植えないのかを教えてくれる。品種改良を重ね、ブランド品種となった作物は、無尽蔵に増やされてはその品種の種や苗を作っている業者が潰れてしまう。なので、次代にその特徴が引き継がれないように調整された状態で種や苗が出荷されているのだという。

 少なくとも現代日本で流通している野菜や果物の殆どがこのF1種で、農家の人たちは自家採取した種ではなく、企業や開発者が生産した種や苗木を育て、収穫することによって収入を得ることになっているのだという。

 品種によっては、企業が完全極秘の環境で交配や育成を行い、一部の社員しか知らないような秘密農場で、ブランド品種の親となる品種を育成、交配させているという。


「更に言うと、果樹の場合は交配種同士をさらに接木して新たな要素を掛け合わせていることがあるから、この世界でこのリンゴと同じものを量産するってのは不可能に近いと思うの。」


 何てことだ……たかがリンゴと侮っておいたらとんでもない。このリンゴ一つ作るのに、様々な研究や実験が行なわれきたって事か。


「ついでに言うと、運よく種を植えて芽が出たとしてもその木が実を付けるかわかんないし、実が取れるようになるまで数年は掛かるから、そのリンゴを植えるのはあんまり効率的じゃないよ。」


 あぁ、もう撃沈。果樹農家って凄いんだな。交配を繰り返し、別の木と繋ぎ合わされた苗木を植えて、それを長い間育てることによってようやく収入が得られるのね。よくブランド品種の果物を作っている農家さんが年収はウン千万なんていっているが、そうなるまでに長い時間と経費をかけてきたんだろうな。

 あれ? でもF1種ってことは、芋は? 芋も育たないんじゃないか? 


「ところがね。お芋はこの一世代交配の楔が打ち込めないんだ。だから、土さえしっかりしてくれれば、この世界でもこのお芋さんたちは育ってくれるの。」


 そういうことか。しかし、芋って……なんか普通だな。


「なんか反応が良くないけど……芋は優秀なんだよ? 土壌管理には気を使うけど、あっという間に増えるし、いろんな加工が出来るし。それに、これはいろんな改良を受けてきた独自の品種だからね。この世界にあるどんな野生種の芋よりも食用に適しているはず。病気にも強いし、これさえあれば異世界無双だって夢じゃないはず!」


 なんか、凄い盛り上がっちゃってる……まぁ、何とかできそうなら、任せよう。俺には農業知識はないし文字通り畑違いだ。そっちは茜に頑張ってもらうしかないかな。

 芋をそれぞれ握り締めた茜を見守りつつ、俺はそんな茜を支えていこうと新たに決意した。……決して自分の無力さを嘆いているわけじゃない。

農業品種と交配の説明でした。

補足すると、一世代交配というのは当代のみで品種特性が失われる品種のことです。

たとえば、Aという品種とBという品種を掛け合わせ、ABというブランド品種を作ったとして、そのAB同士を掛け合わせても、ABは出来ないということです。

また、果樹の接木の話も出ましたが、果樹の場合はAとBを掛け合わせて造ったAB苗を、別のCという品種につなげてそれぞれの特性を引き継がせた苗木、という形で売られていることがよくあります。

こういった木は挿し木という方法で株分けは出来ますが、種から新たに育成、というのは難しいです。

育たないということは無いのですが、どのような特性を引き継いでいるのかが分からないので、やってみないとわからない、というところが正直なところですが、原種まで先祖帰りしてしまうこともあるそうです。

品種によってはパテントが存在することもあるので、新たな品種を作成する場合も注意が必要です。

品種のパテント問題には、近年では遺伝子操作された品種も加わっているので、新たなブランド作成というのは中々ややこしくなっているようです。

その一方で品種だけでなく、育成方法や地域特性なんかで、ありきたりな品種がブランドに化けることもあるので、ブランド品種だけがあれば良いってものでもなかったりします。

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