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第12話 盗賊退治。夫婦の絆と晴れた闇。

遅くなりました。

 わたし達の家の近くに奇妙な光源と人影を見つけて、わたしは一気に駆け出す。この世界に来てから、いろいろと変化したわたしの身体。そして、その変化は今も実感している。

 この世界では、夜になったら現代日本のように明るくは無い。夜は月明かりと星、あとは人家からこぼれる僅かな灯火くらいしか光源が無いのだ。しかも、夜間に照らす為の照明も燃料となる油代がかかってくる。よほどでない限り一晩中灯りを燈すことなどありえない。

 そして、今は盗賊対策で村の人たちは皆、一箇所に集まっていて、広場に焚かれた篝火以外に人家の灯りも無い。

 ひとたび広場から離れればそこは完全な闇に包まれることになる。しかし、そんな闇の中でもわたしの目は不審な影を捉え続けている。それどころか舗装の無い足元も、あぜ道と畑の境目もはっきりと見える。さすがに昼のように、ということは無いが、それでも暗い中に浮かぶ地面が、遠くにある建物の影が、わたしには見えているんだ。

 わたし達の家の様子を窺っていた連中は、僅かな灯火をそのままに入り口の扉を開いて中に入っていく。それを見てわたしは地を蹴って一気に家まで駆け寄る。この世界に来てから得たものは視力だけじゃない。脚力も、バランス感覚も、日本に居た頃とは比べ物にならないほど高まっていた。その強化された身体能力で、わたしはあっという間に、わたし達の家へとたどり着いたのだった。


「誰!? そこにいるのは!?」


「!?」


 一気にドアを開け放して、中にいる何者かに声を掛ける。中に居た何者かは一斉に振り向いて驚愕の表情を浮かべている。


「どういうことだ!?」


「村の連中は皆避難してるんじゃなかったのか!?」


「何でもいい! とにかくブツを運び出してずらかるぞ!」


「クソ! 何度も邪魔しやがって!」


 一瞬たじろぎながらも、賊は即座に動き出す。ダイニングに置いてあった木箱を木窓へ投げつけ、そのまま外に放り出すと、自分達も同じく窓から外へと逃げ出す。アレの中身は……異世界(日本)から持ってきた食材!


「待ちなさい!」


 食材とはいっても、僅かばかりのわたし達の財産でもある渡すわけには行かない! わたしは背後にある入り口から外に出て、すぐに賊の後を追おうと駆け出した。建物を回りこんで、窓のある庭のほうへと向う。浸入した賊は全部で四人。いずれもフードつきのマントを羽織っているため顔は良く見えない。


「ええい、薄汚い獣人風情が!」


 そのうち一人が持っていた剣を抜き放ち、他の三人を逃がす為に立ちふさがる。


「貴様にはいい加減我慢ならん! この場で切り捨ててやる!」


 剣を構えた賊は自ら殿を勤めるべく、わたしと対峙すると、そのまま切りかかってきた。



◇◆◇



 あれから見張りに出る村人達を何度か見送り、俺は若干の敵意が混じった視線を浴びながらも、夜はますます更けてきた。

 あのデレクとか言う猟師の言うように、やはり俺に対して妙な疑惑が持ち上がっているようで、あれ以降俺に話しかけるものは誰もいない。一応村長のブルーノの手前、あからさまに突っかかってくる奴はいないようだが、それでも居心地が悪いったらない。

 また、時間が経つにつれて最初の緊張感も薄れてきたのか、集会所の中の空気にも気だるさが混じり始めた頃、辺りが俄かに慌しくなってきた。


「おい! 怪しい奴がいたぞ!」


「盗賊か!」


「どこにいるんだ!」


 どうやら危惧していた盗賊は本当に現れたらしい。周りの男達が口々に叫びながら、集会所から飛び出していく。俺も少し遅れつつ、集団の後ろに付いて集会所から外に出る。


「どうだ、どこに出たんだ?」


 外の広場では篝火が焚かれ、男達は周囲を見渡しながら賊を探す。しかし、広場以外は闇に包まれ、辺りは何も見えないままだ。俺も目を凝らしてみるが、賊は見つけられない。


「誰か光の魔法を使える奴、辺りを照らしてくれ!」


 あ、そういうのもあるのか。


「無理だ! そんなに広範囲を照らそうと思ったら、魔力が足りない!」


 しかしMPが足りなかった! みたいな? でも照明魔法ってどんなだ? なんかイメージし難い……俺が出来るのは火の魔法だけだし、役には立てないか。

 と思っていたら、何人かの村人が手に光を燈して辺りを照らし始めた。手の上に光る球を浮かべて辺りを照らす魔法らしい。なるほど。近距離なら良いけど、遠距離じゃちょっと弱いのか。懐中電灯のようなものなのね。反射板とかつけたら遠距離もいけるのかもしれないけど、今すぐには無理か。

 で、あの魔法は光らせている間に魔力を消費して球を維持しているのか? 大きくするにはそれなりに大変なのだろうか。想像の部分が多すぎて判断が出来ん。

 ……でも、あれってなんかどっかで見たような気がするんだよな。空に浮かぶ光の球か。あ、アレだ。戦争映画とかミリタリーテイストのある作品に出てくるアレ。照明弾だ。アレは確か金属を燃やした反応で照らしているんだっけか。……試してみるか。


 まず、明るく光る金属って言うとやっぱりマグネシウムか? 燃焼温度はそれほど高くはないが、ゆっくり燃えるように。燃料を燃やしていくイメージで……


 俺は身体の魔力を流して体外で集まるイメージをする。そして手の上に集まった魔力を上に掲げて射出するイメージを頭の中で固めていく。よし、いけるか?


 形状、炎、マグネシウム発光、射出後に遅延発火、後はゆっくり降下……


 一連の流れが固まったところで俺は掌の魔力の塊を上空へと打ち上げた。


「な、なんだ!? 急に空が明るくなって……!?」


「誰だ!? これは魔法か!?」


 打ち上げた魔力は一瞬のラグを置いてから一気に光を放った。村の男達は突然強い光に照らされて驚きの声を上げていたが、うまく魔力が照明弾になってくれたようで俺は安堵する。……しかし結構な疲労感が体に現れるな。すぐにどうこうなるレベルじゃないが、これはあんまり連発は出来ないかも知れない。また後日検証がいるな。

 強烈な光の中で俺は改めて辺りを見回し賊を探す。広場を中心にぐるりと村の中を探る。そして俺の視線はある一点で動きを止めた。


「茜!?」


 俺の目線の先には俺と茜の新居、そしてその傍らに剣を向けられた茜の姿があった。


「クソ! なんだってあんなところにいるんだよ!」


 状況を把握した俺はすぐさま駆け出して、茜の元へと向う。しかし距離がありすぎて、すぐにはたどり着けそうもない。事態は一刻を争うというのに……!

 ……これは手段を選んでいる場合じゃなさそうだな。俺は距離を近づけつつ、茜と賊の影が重ならない位置へと回り込むと、手ごろな石を拾い上げて握り具合を確認する。……縫い目はないが、くぼみの感触は悪くない。……何年もまともに投げてないから少し不安だが、頼むからうまく行ってくれよ。

 俺は拾った石を握りこんで投球のフォームを取った。足元を軽く均すと、軸足となる左足で踏み込み、地面にしっかりと食い込ませる。そして体重の移動にあわせて右足で地面を蹴り、石を握った右手は勢いをつけた体幹から右肩、腕を伝って指先まで流れるように力を伝える。最後に勢いの全てを、ぎりぎりまで指先に蓄えて……一気に放つ!

 放たれた石は一直線に賊の方へと向って飛んでいった。



◇◆◇



「クソ! なんなんだこの明りは!」


 突如として空が光り、対峙した盗賊が驚愕しながら毒づく。目の前の賊は暗い中から突然光りが溢れた為に目が眩んだのか、目元をこすったり瞬きをしたりしながら何とか目を慣らそうとしている。いきなり空に現れたアレも魔法なんだろうか? 一瞬の戸惑いを見せ、動きを止めた盗賊の足元に今度は何かが飛来し、音と僅かな砂煙を立てる。


「!? なんだ!? どこから……!」


 わたしの目には凄い勢いで石が飛んできたのが見えていたが、未だ目がなれないらしい賊の男はあたふたとあたりに向って見えない敵に声を張り上げる。そんな盗賊の肩に向って次の投石が飛来した。


「!? がぁっ!? 畜生! 何なんだよ、さっきから!」


 石を投げつけられた賊は、かなりの勢いで飛んできた投石の痛みに武器を取り落とし、その場に転がり込んでしまった。

 唯の石と侮るなかれ。人類の歴史が始まって以来、もっとも人を殺してきたのは核でもAKでも、ましてやスコップでもない。誰でも簡単に出来てそこらじゅうに落ちている、ちょっとした道具でいくらでも威力と距離を伸ばせる凶器。それが投石なんだから。

 わたしは賊が晒したその隙を逃さず、その賊へと飛び掛かり、腕を背中で固定してそのまま地面に組み伏せる。正式な方法とか知らないけど、ドラマとかでやってるのってこんな感じだよね?



◇◆◇



 打ち上げた光りのお陰で、賊の位置がはっきりと見えた。投球をするのが久しぶりすぎて当たるかどうか心配だったけど何とかなってよかった。最初はずした時は焦ったが、お陰で賊が一瞬動きを止めてくれたから結果オーライだ。

 うん、やってて良かった少年野球。コントロールに定評があって、入団当初からいきなり主力に抜擢されただけのことはあったか。まぁ、学年が上がるにつれて、周りの投手も球威を上げたり変化球を投げたりと成長し、他のチームメイトも走りや守りに特化していったりする中、俺は投球の正確さ以外に取り得がなかったってことで活躍の場が与えられず、最後はベンチウォーマーのまま退団になったのは苦い思い出だな……

 それはさておき、お陰で最初こそ外れたが、2球目でうまいこと無力化できた。いくら石とはいっても、頭に当たったら唯じゃすまないだろうから、結構緊張はしたが。

 とりあえず無力化された賊の一人は確保されたし、残りの賊はどうなるか……


「一人は無力化した! 残りの賊を頼みたい!」


 俺は振り向きざまに村の男達に声を掛ける。光りの魔法と投石でいきなり一人黙らせたこと俺を呆然と眺めていた男達は、俺の声に呼応して即座に動き出す。


「良くやった! 残りの盗賊どもを探したいから、出来そうならもう少し明かりを放ってくれ!」


 残りの残党を探しに行く際、体格のいい男から照明弾の追加を頼まれ、俺は少し離れた方向に二つほど光球を放っておいた。お陰で大分疲労が溜まったのか全身を気だるさが襲ってきたが、俺の家と茜の危機は何とか救えたのでとりあえず一休みさせてもらおう。

 茜の取り押さえた賊も、後から来た男達に突き出されて縛り上げられていたので、茜も手が空いたようだ。俺お茜の元へと歩き出す。すると、


「……やるじゃねぇか。……だが、オレはまだ信じたわけじゃないからな。」


 後ろから猟師のデレクが声を掛けてきた。俺も一言返してやろうと思ったが、その前に言うだけ行って去っていってしまう。どうやらまだ信用には足らないらしい。

 俺は小さくため息をつくと茜のいる方へと向って行く。


「茜! 大丈夫か!」


「あ、秋也さん~。見てた~? わたしも盗賊捕まえたよ~」


 気だるい体を引きずって、茜の元に駆け寄ると、茜は自慢げに自分の成果を報告してきた。元気そうに茜も駆け寄ってくる。傍によってきた茜の身体を、あちこちと確認して彼女が無事かどうかを調べる。


「どうしたの? くすぐったいよ~。」


「なんて無茶なことを……怪我とかは無いか!?」


 肩とか腕とかをまさぐって、彼女に怪我が無いことを確認できると、俺は疲労感もあってその場にへたり込んでしまう。


「わたしは大丈夫だよ。それより秋也さんどうしたの? なんか疲れているみたいだけど……」


 離れたところで、賊に武器を突きつけられている茜の姿を見て、全身の血の気が引いていた。長いこと付き合ってきて、彼女の父親からも許可を貰って、それでやっと結婚したのに、わけのわからない異世界で理不尽に彼女のことを喪う事になったら……そう考えたら体が自然に動いていたんだ。何年も投げていなかった投球をその辺の石ころでやって、それで茜に何かされる前に無力化できたけど……

 もし、あの照明弾を思いつかなかったら? 投球ができなかったら? 狙いが外れていたら……考えたらキリが無い。とにかく、あの瞬間に俺の心を支配したのは、怒りでも戦意でもなく、恐怖だった。あの賊の武器は俺に向けられたわけでもないのに。茜がいなくなる……そんなのは嫌だったから。


「あ、秋也さん、手から血が出てるよ? どうしたのそれ?」


 茜に言われて俺は右手の指先を改めてみる。すると、右手の人差し指と中指から出血していた。中指は爪の先端が割れて、人差し指にいたっては完全に爪が剥がれている。……どうやらその辺の石ころを野球ボールのつもりで投げたのが拙かったのか。縫い目ではなく、石肌に無理やり爪を引っ掛けて制球したからな。爪だって何年も普通の手入れしかしてないわけだし、準備も無く投げたらこうもなるか……


「痛つつ……」


 怪我を意識した途端、指先に痛みが走る。とりあえず止血がてらに懐紙代わりの端切れ布で適当に縛って応急処置をし、その理由を茜に話した。


「全くもう、なんでそんな無茶するの。」


「……それはこっちのセリフだ。なんだって一人で飛び出したりしたんだ! 相手は武器を持っていたのに、それに立ち向かうなんて!」


 茜から怪我の理由を咎められたが、反対に俺も茜の無茶な行動に反論する。


「いくら身体能力が上がったからって、武器を持った相手をどうこうできる訳無いだろう! 」


「……だって、あいつらわたし達の家から荷物を持って行こうとしてたんだもん。あそこはわたし達の大事な家で、この世界ではわたし達とって大事な場所なんだよ。そんなところに土足で踏み入れられて、しかも荷物を盗っていくなんて許せなくて……」


「気持ちは分かる! だけど、そのせいで茜にもしものことがあったら、俺はどうしたらいいんだよ! こっちに来てから、俺は何をするにしても茜に助けられてばっかりで……だからせめて、何があっても茜を守って行こうって決めたのに……その直ぐ後で茜がいなくなった……俺は……」


 昂ぶって、声を荒げるうちに、俺は涙を流していた。折角一緒になれたのに、すぐに離れ離れなんてのは俺は御免だ。


「だから……頼むから、あんまり無茶はしないでくれ。」


 俺は抱きしめながら彼女に言う。茜も俺の背中に手を回して抱きしめ返してくれる。


「ごめんなさい……」


 そして、耳元で小さく謝った。


 その後も村の中で時折大きな声が響く中、俺達は人目も憚らずにお互いへたり込んだまま抱き合っていた。どれくらいそうしていたかは分からないのだが、何とか落ち着いたところで立ち上がって広場に戻ると、広場周辺を見張っていた村人から状況を伝えられた。

 逃げ回った賊共は山狩りならぬ野狩りで夜を徹して狩り出すつもりなので安心しろ、との事だ。俺と茜が一人制圧した直後にもう一人が捕らえられ、つい先ほども畝に足を取られた賊の一人が連行されてきたらしい。残りの一人も時間の問題だという。

 とりあえず、俺は傷の状況を改めてしっかりと確認する為に灯りの下で腰を下ろす。照明弾は既に消えていたので、傍に居た見張りの男に確認して、おまけでもう一発打ち上げておいた。お陰で広場周辺は昼間のように明るい。俺は指先の傷を洗うために茜には水を持ってきてもらった。


「お前達が一人目を捕まえたんだってな。やるじゃないか。」


 水を流しながら血と汚れを流していると、見張りの男が話しかけてきた。


「いやいや、無我夢中だったからな。むしろ自爆で手傷を負ってしまって、そっちのほうが情けないくらいだ。」


「はは、自分の嫁さんを守る為だったんだろう? それなら名誉の負傷じゃないか。もっと誇ってもいいと思うぞ。」


「そうか、そうだな。ありがとう。」


 名誉の負傷、か。そういわれると悪い気はしないな。まぁ、不測の事態でもあったし、この負傷は仕方の無いことでもあるが。


「しっかし、まだ盗賊が片付いてないのにアレだけいちゃつけるんだ。たいした大物じゃないか。妬けるねぇ~。」


 うっ……あれもしっかり見られていたのか……当たり前といえば当たり前なのかもしれないが……


「多分、しばらく話題は持ちきりだろうぜ。新入居の夫婦が愛の力で盗賊撃退! なんつってな。」


 笑いながら俺の背中を叩きつつ、俺たちの活躍を讃えているらしい、見張りの男。……というか、愛の力って……勘弁してくれよ……そんな俺の思いは届くことなく、楽しそうに笑う男に水を差すこともできないまま時間は過ぎていく。


 結局、明け方になり朝日も昇り始めた頃に、とある民家の納屋で隠れていた最後の一人もついに確保された。盗られたものは俺たちの家から持ち出された食料箱だけで、それも無事に戻ってきたと聞いて安堵する。こうしてクレト村の盗賊騒ぎは一夜にして幕を閉じたのだった。  


書いていて展開が速いかな?とも思うのですがどうなんでしょうね?

あと、秋也のテンションが無駄に高いような・・・

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