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ひぇーきんちょーする!
今日はいよいよライブの当日。
ライブハウスまでは来たものの、心臓のどっきんどっきんの音が鳴り止まない。
「かず、緊張してるだろ」
涼が俺の顔を覗き込んだ。
「うん。すっごくどきどきする」
ぽんっと頭を叩かれた。
「大丈夫だよ」
「…うん」
大丈夫だよ。
そう言われるとなんとなく落ち着く。
心なしか、心臓のどきどきも収まったような……。
よし!がんばるぞー!
(立花もきてることだし)
ひゃーすごい人だー。
こんなにたくさんの人に見られるのかー。
涼の声、ドラムやベース、俺のキーボードちゃんと音あってる?
もう不安なんてちっともない。
自分の好きなように、自分が思ったとおりに音を作るのが一番大切なこと。
きっとちゃんとできてる。
やっぱキーボードやってよかった。
俺今めちゃくちゃ楽しいんだ。
もりあがったライブ。
いいバンドに参加させてもらったな。いまだに俺が参加してるってのが信じられないくらいだ。
「かず、がんばったな」
「へへ……」
来てくれた友達やバンドのメンバーいろんな人に声をかけてもらった。
とりあえずライブは大成功。
忘れられない一日になった。
*****
正月が終わってライブも無事終わり。
あっという間に冬休みは過ぎ去った。
休んだつもりがないのにもう始業式だ。
退屈な校長先生の話を聞きながらうつらうつらしながら色々考える。
もうすぐ受験があるけど、これでゆーじと青木とおさらばできる…。
立花とは同じ高校行きたいなぁ。
どこの高校行くんだろう。
立花は結構頭良かったはず…。うーん。
「かず君?」
「うわっ」
「? どうしたの?」
びっくりした。立花が突然そこにいるもんだから。
ふー。
よし、気をとりなおして。
「なに?立花?」
「3組の子がHR終わったら屋上来てだって」
それだけ言うと立花はツンと行ってしまった。
俺なんかしたっけ?
*******
HRの後、ゆーじと青木には先に帰ってもらい、俺は一人屋上に向かった。
寒い。
屋上には3組の……確か宮野さんて子がいた。
結構かわいい。
心なしか、彼女の顔が赤い。屋上って寒いからな。
「顔赤いよ。移動する?」
「あ、あのそれはその……」
「はい?」
「あたし!かず君のことが好きなの!」
………え。
俺は思わず彼女の顔をじっと見つめてしまった。
我に返ると彼女の言った言葉の意味がだんだんと脳に入ってきて言葉の意味を理解したときおれの顔は一瞬にして真っ赤になった
。
「本当は言わないつもりだったの。受験のこともあるし」
何を言えばいいのかわからない。
「でもやっぱり気になっちゃって……かず君好きな子はいる?」
「え」
どうしよう。
い、いるけどそんなこと行っちゃっていいのかな……立花の顔がちらつく。
でもこんなことは正直に言わないと。
「ごめん。いる」
「そっか……」
宮野さんはちょっとシュンとしてそれからぱっと顔を上げた。
「でも私はあきらめないからね」
そういってばたばたと走っていってしまった。
ひゅーと風が通り過ぎていった。
************
ぼー
「かっずくーん」
「え、なに?」
「いや別に。たださっきからじーとごはんみつめてるから」
ああそういえば晩御飯食べてる途中だっけ。
屋上でのことが気になる。
ゆーじに相談してみようか。
いや、ゆーじに言ったら青木に知られたも同じ。噂が広まるのは時間の問題だ。
でも告白されるなんて始めてだ。俺もちゃんと男として見られてたんだな。
***********
「かずくん、おはよう」
次の日教室に入るなり青木が現れた。
かずくんだぁ?なんかニヤニヤしている。
嫌な予感がしつつ挨拶をした。
「ったくうらやましいヤツだ」
青木はそう言いながら俺の背中をバンバン叩いた。
くそ、馬鹿力め。
「青木、何のことだよ?」
後ろにいたゆーじがそう聞いた。
「あれ、ゆーじ知らねーの?」
ま、まさか。もしかして!
「かずのやつ昨日宮野に」
やっぱり!
「宮野?あああのかわいい子ね」
けどなんで青木が知ってるんだ?
まだ誰にも言ってないのに。
「そうそうその宮野に」
青木はもったいぶってなかなかその先を言おうとしない。
「かず君と宮野さんがどーしたの?」
立花が話しかけてきた!
どうしよう?!かずは混乱している!
「なんでもない何でも!」
必死の嘘。青木言わないでくれ!
俺は青木にタックルすると、振りかえって立花に
「ごめん、青木に用があったんだ。またね」
と伝えるとそのまま教室から青木ごと脱出した。
「しょうちゃん心配しなくても大丈夫だと思うよ」
「……ん。ありがとう」
*******
青木に散々拝み倒し、なんとか口を閉じてもらった。
まあさすがに宮野さんにも失礼だし、青木も本当に言いふらすつもりはなかったのだろう……多分。
女の子に告白されるなんて、もう二度とないだろうな。結局断ってしまったけど。
と思っていたら。
彼女の告白がきっかけかはわからないからそれからなぜか女子から手紙をもらったり話しかけられることが多くなった。
ゆーじと一緒にいるからかな?あいつ目立つし。
うーん。
「かず君」
「立花。なに?」
「これさっき預かったの」
手渡されたどうも女子からの手紙のようだ。
「あーあー。ありがと…」
立花どう思ってんのかなこれ。
好きな子に違う子からの手紙渡されるとか勘弁してほしい。
立花は少しためらったように笑った。
「かず君人気者だね。最近背も伸びたし目立つもん」
「そうかな」
「そうだよー。かず君、彼女作らないの?」
「い、いや。うん」
この質問てやっぱ俺に興味ないってことかな。
「二人で何話してんの?」
ゆーじが割り込んできた。
なんとなくほっとする。
どんな顔していいかわからんからちょうど良かった。
「かずのにぶちん」
「は??」
**********
「かず君」
HRが終わって帰ろうとしたとき立花に呼び止められた。
「なに?」
「あのね、かず君数学得意でしょ?ちょっと教えてもらえたらなって思って」
「え、俺が?」
立花はコクンと頷いた。
「じゃあしょうちゃん今日うちに来なよ」
一緒に帰るつもりのゆーじが現れてそう言った。
「な、かずいいよな?」
「うん」
まあいっか。
「ありがとう!」
*********
家に帰ると早速お勉強。
「どこがわからんの?」
「えっと。ここなんだけど……」
「これは公式つかうより普通に計算したほうが速いよ」
「……普通に計算するって」
「だからこれをこっちに入れて普通に計算してそれで出てきた数字が元になる」
立花は顔をしかめてしばらく考えてた。
俺は教えるの下手だからなー。
「うーわかんないよー」
けどもう3年の3学期だってのにわからんとこがあるなんて立花も結構のんびり屋さんだな。
「かず、わけわからんこと言わんでくれ。頭いたい」
……立花に教えるんならついでに俺も、と割り込んできたゆーじも一緒に勉強している。
こいつさえいなけりゃ二人きりなのに。ちっ。
まあ青木がいないだけましだけど。
「のど渇いたなー。なんか飲む?」
ゆーじが珍しく気の利いたことを言った。
というか、勉強から逃げたいだけ?
「じゃあコーヒー」
「しょうちゃんは?」
「あたしも一緒で」
「じゃ、ちょっと休憩しよう」
そう言ってゆーじは部屋を出て行った。
「かず君……」
「ん?」
「あの……あの……えと、私ね、……その、ずっと」
?????
立花は調子が悪いのか少し震えてるみたいだ。
うつむいて顔が見えない。
大丈夫か?もしかして腹が痛い?
「え……と……かず君が……(かず君のバカー!なんでここまで言ってわかってくれないのよー!)」
立花がぱっと顔をあげて
「かず君、あたしね、かず君のことすき」バタン!!
「うぉーい。持ってきたぞー」
両手を盆で塞いだゆーじがドアを蹴飛ばし戻ってきた。
そういえばさっき立花何か言いかけてたけどドアの音で聞き取れなかったな。何て言ってた?
「あれ、しょうちゃん顔真っ赤だよ」
立花が顔をばっと手で押さえた。
ゆーじが俺の方を見てにやにやしている。
けどさっき本当になんて言ったんだろう。
***********
時計の針が五時半をさした。
「あたしもう帰るね」
「しょうちゃんバイバイ」
「ん、バイバイ」
「ほらかず送ってやれよ」
ゆーじが俺をどんっと押した。
「え、俺が?」
「ったりめーだろ。外暗い。お前男。しょうちゃん女子。はいいってらー」
それくらいわかってるけど。
ゆーじがにやにやしながら俺達を見送った。
外さむっ!
思わず首をすくめる。
立花は大丈夫かな。ちらりと見ると話しかけられた。
「あの、さっきの答え、聞かせてほしいの」
さっきの答え、ってなに?
どの問題?解説してないほりっぱのやつあったっけ?
ぐるぐる考えてると
「なんで何も言ってくれないの?」
立花が真っ赤に怒った顔でそう言った。
これはやばい。
何とかしなければと思うけど本当にどの問題のことかわからん!
ええいここは正直に!
「ごめん、どのことだかわからん!」
「え……だって……さっきゆーちゃんがお茶用意してる時、あたし…」
あ、あの時?
「あーあの時よく聞こえなくてさ。なんて言ってた?」
「…………」
すんっと鼻をすする音。
う、うわ。立花泣いてるし!俺のせいか!
ちょ、どうしよう!!
「あの、ごめん。なんで…いや、俺聞いてなくて、今ちゃんと聞くから!……立花?」
立花は涙をぐいっと袖で拭うと
「もういいよ。……ここでいいから」
とそのまま走って一人で行ってしまった。
追いかけようとしたけど
「ついてこないで!!」
と強い拒絶。
えーと。僕はドウシタライイデスカ。
「ただいま……」
とぼとぼ家に帰るとゆーじがにやにやと寄ってきた。
「どうだったー?」
「どうだった、って……」
怒られて泣かれた。
意味がわからん。
こうなったら明日学校で謝ろう。
ゆーじを無視して部屋に引きこもった。
*********
次の日、早めに学校に行って立花を教室で待った。
ドアがひらくたびに緊張する。
いつもならもう来ているはずなのに、立花はなかなか来なかった。
もうすぐチャイムがなる、という時にやっと教室に入ってきた。
声をかけようと顔を見るとなんだか目が赤い。
まさか、ずっと泣いてたんじゃ……。
申し訳なさに声が出ない。
立花もこっちに気がついたけど気まずげに目をそらされてしまった。
結局何も言えないままHRが始まってしまった。
********
ぐじぐじとしてる間に時間は進行していく。
もう昼休みだ。
このままじゃ何も言えないまま一日が終わってしまう。
だめだ!あんなよくわかんないまま立花泣かせてうやむやにしたくない!
立花に思い切って話しかけた。
「立花、あのさ」
「……なに?」
「昨日のことなんだけど」
「ごめんね。もういいから。何でもないから気にしないで」
「気にしないでって……俺がちゃんと聞いてなかったのが悪かったのに。ごめん。謝るし、ちゃんと聞くからもう一回言って」
「だからもういいって」
「泣くぐらい怒ってたのに?」
「……違うよ。でもいいってば」
「違うって何が?」
「説明したくない。もうほっといて。かず君には関係ないから」
!!
「関係ないかもだけどさ。俺立花のこと好きだから気になる。ほっときたくない」
一瞬周りがしーんとなった。
立花の顔が真っ赤になった。
「かず君……今なんて……」
と、次の瞬間俺は我にかえった。体中の血液が上昇していく。
「ひゅーひゅー」
「かず!マジか?!」
「あきらっあんたらできてたの?」
俺と立花が真っ赤になって硬直してるのをよそに、周りが勝手になんか言ってる。
立花のほうを見ると耳まで真っ赤になって下を向いている。
ばちっ
目があった。すると立花はだっと走っていってしまった。
立花……待ってくれー!
「かず君ふられてやんの~」
「でもよく恥ずかしげもなくあんなこと言えるなー」
恥ずかしい。むちゃくちゃ恥ずかしい。
そして今は穴があったら入りたいくらい後悔している……。
くそー見世物じゃねーぞ。けど俺は一人その場を動けないでいた。
********
「しっかし知らなかったなー。かずが立花のこと好きだったとは」
「俺は実は知ってた。かずわかりやすいし」
やっと動けるようになって机で死んでたら青木とゆーじがやって来てそう言った。
情報が早すぎる。
「でもしょうちゃん逃げちゃったんだよなー!」
「わはは!逃げられてやんの!」
こ……こいつらは……!
あの後、立花はいつもみたいに俺達のところには来なかった。
なんで教室であんなこと言っちゃったんだろ。
立花にも悪いことしたな……。
これでしばらくは噂の種にされるだろう。
せっかく告白できたって言うのに。
俺が落ち込んでいると、とんとんと肩を叩かれた。
見るとそこには宮野さんがいた。
「あ」
「かず君のすきな子って立花さんだったんだね」
「……うん、まあ……」
「立花さんいいなぁ」
…………。
「あんなふーに人前で告白されるなんて……」
おいおい。
「あれじゃあ噂になって困るだろ…」
「えー噂になったら公認になったも同じでしょ?だからいいんじゃん」
なんかはっきりした子だな。
「でも宮野さんはかわいいから俺なんかよりもっとかっこいい男が」
「だめ!あたしはかず君がいいの!諦めないって言ったでしょ!」
「そ、そうだったね…」
「でもうれしー!かわいいって言ってくれて!」
宮野さんは言葉だけじゃなく本当に喜んでいる。
まさか立花がこのせりふを聞いていて、この後どうなるかなんて考えもしなかった。
*******
かず君に告白されちゃった。
告白したのは私のほうが先だったけど、かず君はそれを聞いてなくって、でもかず君は私のこと好きって言ってくれた。
でも逃げちゃった。
だって私のほうが先に告白したのに。
勇気出したのになかったことになるなんて。
しかもあんな人がたくさんいる所で。
恥ずかしいし、悔しいのか嬉しいのかわかんない。どうすればいいのかわかんない!!
自分の気持ちがわからなくて、音楽室に隠れて一人でキャパオーバーになってるとゆーちゃんと青木君が来てくれた。
「大丈夫?」
ボボボ!
顔が赤くなってのが自分でもわかる。
「かずのやつ、多分勢いで本音だしちゃったと思う。あんなだけどしょうちゃん、かずに気持ち言ってあげてよ」
…………。
私、言ったよ。
すごい勇気出してかず君に好きって。
それを聞いてなかったからもう一度なんて、ずるい。
でも。……でも。
「かず君今教室にいるよね?」
「うん。フラれたと思ってショックうけてるよ」
「私行くね」
「がんばれー」
「ありがと」
ゆーちゃんには本当にお世話になりっぱなしだな。最初の告白もこの人のお膳立てだし。まあ邪魔したのもゆーちゃんだけど。
「おい、今かずって宮野さんといっしょじゃないか?」
「あ。」
*********
かず君に最初に謝らなきゃ。
それから、もう一度、私の気持ちをちゃんと伝えないと。
そんなことを考えながら教室の扉をひくと、
「でもうれしー!かわいいって言ってくれて!」
そんな言葉が耳に飛び込んできた。
あれは宮野さん?それにかず君?
かわいいって、なに。
さっき私に告白しといて、そのあとにほかの女の子にかわいいとかなにそれ。
かず君、私には一度もかわいいなんて言ってくれたことがない。
そりゃ自分で自分がかわいいとは思わないけど。
そりゃ宮野さんはかわいいけど。あたしなんかよりずっとずっとかわいいけど!
でもそれはないんじゃない?!
*********
それにしても宮野さんて素直だな。自分の思ったことちゃんと言えるんだもんな。ちょっとは見習いたいもんだよ。
がらっ。
教室に戻ってきた立花と目があった。
ふいっと目をそらされる。
や……やっぱりまだ怒ってる……?
やっぱもうおしまいだー。完全にフラれた…!
机で再度、死んだ。もうこのまま消えてしまいたい。
死んだはずの俺の頭を誰かが叩く。
トイレと言って教室を出ていたゆーじがいつの間にか戻っている。
「かず、しょうちゃんと話せた?」
「いや、全然」
「……さっきまで宮野さんと話してた?」
「うん」
「あーあ。もーだめだなこれわ」
ゆーじがあきれたようにそう言った。
「何が?何のこと?」
ゆーじはじろっと俺を見て
ごつん
げんこつで頭を叩いた。
「にぶちん」