6
キーンコーンカーン
地獄の一日が終わった。
鉛のような身体をなんとかなだめて、家に帰る準備をする。
「かず君」
顔をあげるとそこには立花がいた。
今度は俺がわけもなく、逃げ出したくなった。
なんだろう、トドメとか勘弁してください。
立花はらしくない、ちょっと俯いている。
「……あのね、今日……一緒に帰ろう?」
「えっ」
やっぱりトドメですか?いや、でも。ちょっと期待してもいいのかな?
どきどきしながら返事をする。
「うん、一緒に帰ろう」
立花は何も言わない。
俺は何か上手い言葉はないかと必死に考えるけど、何も浮かばない。
結局出てきたのはこの言葉だった。
「あの、今日はごめん。俺のせいで……へんなことになっちゃって」
「……ううん、別に」
で、また無言。
……
………
…………
苦しい!何か言いたいけど何も言えない状況で、息が苦しい。
告白が本気だってことや、結局昨日は何を言おうとしたのかとか言いたいけど、それを言ったら立花は嫌だろうし。
誘ってくれたってことは何か言いたいことがあるんだろうけど、催促するのはよくないし。
やっぱり俺をふるためだろうか?
言いにくいから時間がかかってるのか?
だったら自分からわかってる、って言ったほうがいいのだろうか?
「かず君てさ」
「え、お、おう!」
急に立花が話し始めた。
「実は走るの苦手だったでしょ」
びっくりした。実際俺は遅くはないけど昔は走るのがあまり好きじゃなかった。苦手だったけど立花が楽しそうに走ってるのを見
てなんでそんなに楽しそうに走れるのか興味を持ったのがきっかけで陸上部に入ったんだ。
でもそんなこと誰にも言ったことなかったのに。
「苦手そうなのに、なんで走ってるのかなって思ってたの。それでずっと見てた。一生懸命頑張ってるところとか、後輩で輪に入
れてない子がいたらさりげなく輪に入れるように声かけたりとか」
「うん…」
「あと、ゆーちゃんや青木君となんだかんだいいながら楽しそうにしてるところ見てて、すごく羨ましかった……私も仲間に入り
たいって思ったの。それでゆーちゃんと仲良くなって、かず君とも話せるようになって嬉しかった。でも、かず君最近女の子に告
白されたりしてるの見て、苦しくって……だから、ちゃんと言おうと思ったの」
思わずにやつく口元を手で押さえる。
これって、つまり立花も俺のこと……!
「でも、告白したのにかず君には聞こえなかったって言われるし、もう一回言ってって何回も言われるし!す、好きって言うし!
かず君はひどいよ!!」
!!
立花は立ち止まって俺をにらんでる。でも目がうるんでて全然怖くない。
あとちょっとで泣きそうだ。
俺はというと立花が泣きそうでどうしようと思うけど、どきどきするし、あの時のあれは告白だったんだとわかって嬉しいしで意
味がわからない。
慰めなきゃと思うけど、立花がかわいくて、触れたくて、どうしたらいいのか。
「ご、ごめ…」
「とりあえずで謝らないで!…ぅーっ」
とうとう泣き出してしまった。
真っ赤になりながらぽろぽろと涙をこぼす立花。
拒否られるかな、とどきどきしながら立花の頭をなでてみた。
それは拒否されることなく受け入れられた。
しばらくしてぽつっと立花が言った。手で顔を隠してるから表情はわからないけど、どこかこわごわとしている。
「宮野さんみたくかわいくないでしょあたし…嫌いになった?」
何か顔が見えないのが嫌だな。
今立花がどんな顔をしてるのかすごく見たい。
手首をつかんで手をどけた。立花は「いや…」と言ったけどちょっと強引に顔から手をのけた。
こっちを見ないようにそらされた目は赤い。そして自信なさげに揺れている。
「立花はかわいいよ。……今もかわいい」
恥ずかしくて下を向いてしまいそうだけど、自分の全力の気持ちを伝えるのに、下を向いてたら伝わらない。
手が震えてかっこ悪いけどちゃんと言うから。
「俺のこと見ててくれてありがとう。勇気出して告白してくれたのに台無しにしてごめんな。俺も立花のこと大好きです。付き合
ってください」
どうか伝わりますように。
立花は俺から目をそらして我慢したように息をつめていたけど、またぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「……うーっ…よろっ…しくおっ…ねがいします」
かわいい彼女ができました。
*********
教室でも立花と話すことが増えた。
「かず君は何色がいちばん好き?」
「色?そーだーなー……青かな。青でも群青色みたいな感じの」
「ふーん青かあ…」
「何で?」
「え、べ、別に。ただ聞きたくなっただけ」
立花の顔が少し赤くなった。
???
「あ、それからねチョコ……」
立花が何か言いかけたとき
「かずくーん」
あ、宮野さん。
「かず君チョコレート好き?」
チョコレート?
「うん好きだけど」
でも何でチョコレートなんだ?
「よかった!あのね、あたしお貸しとか作ったりするの得意なんだ。だからバレンタインは期待しててねっ」
は?バレンタイン?
そういえばもうすぐ2月だ。や、でも俺には立花が。
宮野さんは立花の方をちらっと見てから
「んじゃねー!」
と元気よく自分の教室に戻っていった。
ああ断れなかった……。
「立花、ごめん、ちゃんと断るからな。そんでさっき何か言いかけてただろ?」
「あ、ううん。別に何でもないよ」
「そんならいいけど」
「かず君きっと今年はいっぱいもらえちゃうねチョコレート」
立花がちょっと嫌味っぽく言った。やきもちかな?
「なんならそのもらったチョコレート、全部立花にやろうか?」
俺は立花をからかってみた。本当にそーしてもいいし。
けどまだたくさんもらえるとは決まってない。
「あたしはいらないよぉーっ」
立花は……もちろん……くれるはず。
*********
最近ゆーじが変だ。
家にいてもなんか考えごとしてるみたいだし。
立花にそれを話すと
「あ、もしかして!ゆーちゃん好きな子でもいるんじゃない?」
「えーゆーじに?」
うーん。どうかな?でもそうだと面白いな。もうすぐバレンタインデーだし。
「ゆーちゃんでも悩むことってあるんだー」
それはさすがにひどくありませんか立花さん。
つか思うんだけど、ゆーじだけじゃなくて、もしかしてほかの皆も悩んでる?
悩んでるかどうかはわからんけど、なんか教室に異様な空気が張り詰めてるんだよな。
「みんなもうすぐ受験だから必死だね」
立花がポツリと言ったその言葉に俺は目が覚めるような感覚を覚えた。
そ、そういえば俺って受験生!
忘れてたわけじゃないけど、最近忙しくってそんなこと考えてる暇なかった。
もしかしてやばい?
1、2学期の成績は結構良かったから内申は心配ないんだけど……。
うあー!俺は一体今まで何を考えてたんだ!!
皆がこんなに必死になって勉強しているとゆーのに。
はっ
俺はあることに気がついた。まさかゆーじも勉強のことで…。
はっ
俺はもうひとつあることに気がついた。立花はもしかして俺にあわせてのんびりしてくれてる……?
「立花…」
「ん?」
「立花って皆と違ってのんびりしてるね」
そういうと立花は目をぱっちり開いて
「やだ……今頃気がついたの?」
「……うん……」
「かず君てやっぱりにぶいよね」
ぐさっと、しかし納得のできる一言だった。
************
いつもの昼下がり、おれはバンドの練習にスタジオに来ていた。
ああ受験生なのになぁとおもいつつもここにはつい来てしまう。
「かず、なんかあった?」
そんな俺を見て涼がおれに声をかけてくれた。
「うん、もうすぐ受験だからねー」
俺はそういいつつキーボードを触る。
「あー、もうすぐだったよなー」
そう言いつつ何か考えこむ。
「じゃあさ、受験終わるまで」
え、休みにしてくれんの?
「俺が受験対策教えてやるよ」
「いらん。教えてくれなくていいから俺だけ休みにしてくれ」
「そんなこと言うなよ。俺これでもそんなん得意よ」
いや、本気でいりませんから。
**********
2月14日。
バレンタイン。
今年はゆーじをうらやまなくても良さそうだ。
まあゆーじは今年誰からも貰わないことを決めているそうだけど。
あの来るもの拒まず男が謎の行動。
やっぱり立花の言ったとおり好きな子でも出来たのだろうか。
「かず君おはよ」
「あ、立花おはよ」
「今日一緒にかえろーね」
とにっこりされた。
俺の彼女かわいいな。
教室に入るとバレンタインのせいか、いつもよりさわがしかった。
いくら受験が目の前に控えてるとはいえ、やっぱり気になるらしい。
「かっずくーん」
俺を呼ぶ声が大きく響いた。この声は宮野さんだ。
立花を見るとじーっと俺の方を見てる。
案ずるな。俺は立花一筋だ。
俺はとりあえず宮野さんところまで足を運ぶ。
「なに?」
「あのね、今日一緒に帰ってもいい?」
「ごめん、一緒に帰る約束がほかにあるから」
「……そっか。立花さんと帰るの?」
「うん。ごめんね」
「両思いかぁいいな」
少し寂しそうな顔をする宮野さんを見て俺はちょっと罪悪感を覚えた。
「あ、でもチョコレートだけはもらってほしいな」
「あーそれは…」
「それぐらいは許してほしいなぁ」
「…わかった」
「よかった」
宮野さんがにっこり笑ったので少しほっとした。
「でも!あたししつこいからね」
げげ!
「じゃー帰り渡すからちょっと待っててねー」
大声でそういいながら宮野さんは廊下を走っていった。
教室に戻って俺は立花に謝った。
立花はぽつっと言った。
「宮野さんって素直だね」
*********
HRが終わったあと、立花がやってきた。
「かずくん帰ろ」
かばんをつかんで教室を出ようとするといきなり頭を殴られた。
振り返ると宮野さんがいた。
「もう!待っててって言ったでしょ!はい、チョコレート」
「あ、うん。ありがとう」
立花が今どんな気持ちなんだろうとハラハラしつつ受けとった。
宮野さんはにっこりしてそのままじゃあねー、と行ってしまった。
立花のほうを振り返ろうとしたら、なんとほかにも複数の女子からチョコレートを受け取ってほしいと言われてしまった。
今までなかった事態に焦ってしまう。
立花のほうを見るとふいっと目をそらされてしまった。
どうしよう。チョコくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり立花の前だと受け取れない。
「かず君付き合ってる子いるの?」
「うん。立花……あ」
俺はぱっと口をふさいだ。思わず口が。
立花も聞いていたらしく顔が真っ赤だった。
「あーあの教室告白がうまくいったんだねー。やっぱり付き合ってたのか」
「でもチョコは受け取ってくれるでしょ?……宮野さんの受け取ったんだし」
「かず君しあさってが受験日でしょ?私立の。がんばってねー」
耳は2つあっても理解する頭は一つ。そんないっぺんに言われてもこたえられない。
結局全部もらってしまった。
「かず君もういい?」
立花がやっとこっちを向いてくれた。
「うん、帰ろ」
「いっぱいだね。チョコレート」
「……ほしい?」
「いらないもん!」
立花がぷーとふくれた。
「かず君、これ……もらってくれる?」
念願の立花からのチョコレート!
「ありがと」
立花は俺に小さな箱と大きな袋を差し出した。この袋なんだろ?箱のほうはたぶんチョコレートだと思うけど。
俺が不思議すにその袋をながめていると
「あのね、それマフラーなんだ」
え、マフラー?そんなのまでもらっちゃっていいのかな?
「でも編み物なんてはじめてだから、あんまり上手くできなかったけど……」
じーん
俺のために今までしたことのない編み物までするなんて……。
俺は袋からマフラーを取り出した。
きれいな青。
「へー上手くできてるよ」
「そうかな」
俺は嬉しくて今しているマフラーをとり、もらったマフラーを巻いてみた。
あったかい。あーしあわせー。
「もうすぐだね。私立の受験」
「うん。一ヵ月後には公立の受験あるしね」
高校は別々なんだな。
「かず君、本命はゆーちゃんと同じとこでしょ?」
「まーね。母親がうるさいんだ」
っとに母さんどうかしてるんじゃないか?息子の大事な大事な高校受験を二人の息子が別々のとこに行くと面倒、で片付けるか普
通。
立花とも離れちゃうしさ。
あー暗くなるわ。
「がんばろーね」
立花の言葉に心がじーんとくる。
「うん、がんばろー」
**********
どーか受かっていますよーに。
大丈夫だよな。うん。
今日は私立の入試があった。立花ももうおわってるだろーな。
さて、家に帰るか。
……そういえばティナやとおるって高校どうすんのかな。
多分どっか行くんだろうな。モデルやりつつ。
そんなの今はどうだっていい。
今は
ただ
ひたすら寝たい……。
ばしっ
!?!
「かず、俺をおいていくなよな」
「ゆーじ」
そうだ。こいつの存在忘れてた。私立まで同じとこだよ。
「あ、そうだ。一応涼にも無事終わったことを言っとくわ」
でんわ、でんわっと。
「かず、これから家に帰ってから勉強な」
「ええ!」
「ええ、じゃないだろ。まだ公立残ってんだぞ」
そうじゃなくて。ゆーじがそんなこと言うなんて。
「俺はやれば結構できるらしいから。勉強もがんばるぜ。受験までは」
おいおい。
「公立の入試が終わったら、皆で打ち上げしよう!あ、とおるらも呼ぼうぜ」
気の早いやつ。
でもまあそれもいいか。
**********
合格発表の日。
えーと俺の番号はっと。
あ、あった。
俺はもう一度手元の番号と見比べる。
間違いなし。ゆーじはどうだろう。
「ゆーじ、どうだった?」
「かず……」
なんだ。なんか暗いぞ……もしや……。
「ゆーじ、お前……」
「………」
嘘だろ?!いつもみたいにからかってんだよな?!
ゆーじは黙って受験票を差し出してきた。
それを元に番号を探す。
えーと、アレ?ちゃんとある。
「…ゆーじー」
「な、あっただろ?俺うれしくってさー」
「……」
こいつ…!
「なーに怖い顔してんだよ。俺はまだ一言も落ちたとか言ってないし」
っとにこーゆーことが好きなんだから。
「まあとりあえず二人とも合格」
「いぇーい。」
二人でハイタッチした。
帰ろうとすると、門のところに立花がいて俺らを見つけると駆け寄ってくる。
「どーだった?」
「ばっちり!」
俺とゆーじががピースして笑う。
「そっちは?」
「わたしも!」
********
公立入試まであと10日。
俺のレベルだとよっぽどのことがない限り心配はいらないらしい。
でも油断は禁物だよな。
なんか宮野さんも同じトコ受けるみたい。
立花とは離れるのか……。
立花の受けるとこは共学。野郎もいっぱいいるんだよな。不安。
「卒業式まであと8日」
隣でゆーじが同じ事を繰り返してる。
なんかあんのか卒業式に。
ゆーじを見てると目ががった。そして睨まれた。
な、なんで?
向こうから目をそらされたけど。
あー怖かった。なんだったんだ一体。
*********
青木が最近いきいきしている。
いろんなところで告白イベントが起きてるそうだ。
人の話がそんなに面白いか?
「もちろん。でも一番面白かったのはやっぱりかず先生の教室告白かな」
その話はもう忘れてください。
教室でうだうだ話してると
「かずー呼んでるぞー」
廊下で誰かが呼んだ。
ドアのところまで行くと、あまり見ない女の子がいた。
「かずくん?」
「あ、うん」
「あの……ひとつ頼みたいことがあるんだけど」
「何?」
その子は真っ赤になって
「あのね……ゆーじ君今いないから、HRが終わったら体育館裏に来てほしいって伝えてほしいの……」
あーはいはい。
いつものやつね。
「うん、いいよ。えっと」
「早川かなです」
「ああ、早川さんね。伝えとくよ」
「ありがとう」
「いえいえ」
************
「ゆーじー、早川さんて子がHR終わったら体育館裏に来てほしいって言ってた」
俺はその日の休み時間、ゆーじにこそっとそれを伝えた。
もちろん青木おいないところで。
ゆーじ特に驚いたふうでもなく
「あ、うん」
と言っただけだった。
これって告白じゃないのかな。
それなのに「あ、うん」だけなんてやっぱりイケメンは違うな。爆発しろ。
**********
かずから伝言を聞いてからどきどきが止まらない。
HRが終わったら体育館裏だよな。これってやっぱ告白ってやつ?
しかし、この俺がこんなに緊張するとは……
まあ顔はいつもと大して変わらないけど。
でももし、好きとか言われたら……もしかして両思い?
緊張しつつそこに向かうと、早川さんはもうそこで待っていた。
「……ども」
うー照れる。
「あ、あのね」
どきどきどきどき
落ち着け心臓。
どきどきどきどき
「実は……」
どきどきどきどき
「あたし、ゆーじ君に自転車渡さなきゃいけないの!」
どき……は?
じ て ん しゃ?
「ごめんなさい。本当はもっと早く言うつもりだったんだけど」
「え、そんな」
だから体育館裏だったのか。
確かに何日か前に学校で自転車どっかいったたけど。
でも早川さんがなんで?
「前学校まで歩いてきたのについ、いつも自転車で帰ってるもんだかからそのこと忘れてて。同じのだったし」
「そっか。俺鍵かけねーからな」
「それで、家に帰ったら2個もあるから慌てちゃって」
「まあとりあえず見つかって良かったわ。(ほんとはすっかり忘れてたけど)」
「自転車置き場においてあるの」
「じゃ、取りに行こっか」
!!
二人きり。
今このチャンスを逃してももいいのか?
いっそ……告白してしまおうか。
「早川さん」
「え?」
「あの、えーと…今日一緒に帰ろう。自転車俺に乗ってきたんでしょ?歩いて帰るなら一緒に」
「うん、それじゃ自転車置き場で待ってて」
早川さんはにっこり笑ってくれた。
早川さんは本当にかわいい。
派手さはないけど小さくて控えめでそこがいい。
俺の話を楽しそうにニコニコしながら聞いてくれる。
「ゆーじ君とかず君て仲良しなんだねー」
やっぱり俺は早川さんが好きだ。
早川さんと一緒にいるだけで幸せな気持ちになれる。
一緒にいることで暖かい気持ちになってると、あっという間に彼女の家についてしまった。
いっそ今告白してしまうか。
「早川さん」
「なに?」
「……ううん、なんでもない。バイバイ」
本当に好きな人には簡単に言えないもんだな。自分が情けない。
勢いでもさくっと告白したかずはすごいわ。
********
今日はいよいよ卒業式だ。
俺は靴をはいて玄関を出た。するとゆーじが自転車を出そうとしていた。
こないだの早川さん呼び出しで返ってきたやつだ。
結局告白じゃなかったんだな。
「ゆーじ後ろ乗っけてよ」
いつもなら「誰がのせるか」とか言うのに今日は
「うん」
その一言だけだった。
この前までは結構機嫌よさそうだったのにそりゃあさってに受験控えたらカリカリするだろうけど。
でもそーゆー感じではないような気がする。
へんなの。
学校に着くまでゆーじは何も喋らなかった。
「かず君、ゆーちゃんおはよー」
「……おはよ」
ゆーじはぼそっと言っただけだ。いつもならもっと明るいのに。
また悩み事でもできたかな?
「ゆーちゃんてばどうしたの?」
「さあ?」
「あ、早川さんだ」
「え」
立花の言葉にゆーじが反応した。
これは一体。
「かず君かず君」
「ん?」
「はら先行こ」
「う、うん」
ゆーじは硬直したまま動かなかった。
階段をのぼりながら立花は
「ゆーちゃん早川さんが好きなのかしらね。なんかそんな感じしちゃったなー」
そ、そうか。前は早川さんがゆーじのこと好きなんだと思ってたけどゆーじが早川さんをねぇ。
確かにそんな気もする。どんなときでも余裕のゆーじがあんなに動揺してるんだもんな。
********
「あーあ、卒業しちゃったな」
「うん」
卒業か…
「あれ、しょうちゃん、泣いた?」
「本当だ。立花目が赤いよ」
「え、あ、本当?」
「うん」
「だってあたしだけ学校別れちゃんだもん。かず君もゆーちゃんも青木君も一緒なのに」
「え!」
俺とゆーじは同時に叫んだ。俺とゆーじと……青木?!
あいつも一緒だったの?
「あれ、二人とも知らなかったの?」
「しらなかった…」
「俺も」
そうか。青木も一緒か。と、ゆーことはまた3年間面倒くさいな。
「ゆーちゃん」
「ん?」
「いいの?」
「何が?」
「早川さんのこと」
ゆーじが苦笑い顔をした。
「しょーちゃん何言ってるの」
「あたしは別にいーけどー……ゆーちゃんは私の背中押してくれたから後悔してほしくないなって」
「……」
ゆーじのやつ意地っ張りだな。
「おーい!ゆーじー、かずー」
「げ、青木」
青木がこっちに走ってくる。
「おい、知ってるか?5組の相原」
「ああ、あのイケメン君」
「そいつがさっき早川さん呼び…」
「どこっ?」
青木が言い終わらないうちにゆーじが聞いた。
青木はにやっとして
「校舎うらに行ったみたいだけど」
そう答えた。
ゆーじがだーっと行ってしまった。
「……どーなるんだろうね」
「さあ」
もし告白するなら派手にやれよ。どーせもう卒業なんだから。
*********
「早川さん」
「なに?」
「あのさ…」
「ちょっと待ったー!」
「ゆーじくん」
「藤浦?」
早川さんと相原がこっちを見ている。
ええいもうどーとでもなれ!
「早川さん好きだ!高校別れても付き合ってほしい!」
一瞬の沈黙。
それを破ったのは早川さんだった。
「はい。よろしくお願いします」
言っといてなんだけど、ま、まじで…?
やったー!!
ふと気がつくと相原はびっくりして固まってる。
「ごめん。お前の告白ぶんどった」
「いやいやいや。違うから!」
俺が話しかけてると慌てて首を横にふる。
「俺青木に頼まれたんだよ。卒業式終わったら早川さん呼んでここで待っててほしいって。まさかこんなことになるとは」
え。それはつまり。
(青木!!)
覚えてろよあいつ!!
**********
今日はいよいよ公立高校の入試。
うー緊張する。
ぽんっ
「かず、おまえ緊張してるだろ?」
「う、うん」ったくまだ試験場にも行ってねーのに緊張してどーする」
確かにそーだ。それにしてもゆーじめ余裕だな。
この俺でさえ緊張しているのに。
まあ早川さんとうまくいっちゃってうかれたい気持ちはわかる。
後から聞けば相原は彼女がいたそうだ。たしか一つ上の人だっけか。
こんなこと考えてる俺も結構余裕あるな。
ぴんぽーん
あれ、誰か来た。
朝っぱらから誰だ。
がちゃ
「ようかず、迎えにきてやったぞ。あれゆーじは?」
玄関に立ってたのは青木だった。
そーいや同じとこ受けるんだった。
「かずー誰かきたのかー?」
「あおきー」
「塩まいておいかえせー」
こないだから、ゆーじは青木にこんな感じだ。
まあでも最終的には感謝してるみたいだけど。
「かず、お前俺にお茶を入れたいと思ってるだろ?」
「は?」
な、なに言ってんのこいつ。
「仕方がない。お前の気持ちに応えて飲んでやるよ」
俺がほけっと突っ立てる間に青木は勝手知ったる我が家に入り込んだ。
「なぁお前高校はいったら何するの?」
前置きもまく青木は俺が入れてやったお茶をすすりつつ聞いてきた。
うーん。何ってとりあえずバンドは続けるだろう。
陸上はどうかな。時間がないけどせっかく今まで頑張ってきたしな。
「わからん」
「そっかそっか。どっちにしてもお前らと一緒だったら俺はなんでもいいな。多分楽しい」
青木はにこにこしてる。
お前、もう皆受かる気がしてんだな。すげーわ。
俺なんか心臓ばくばくで……あれ?
なんか落ち着いてるわ。???
*********
なんとなく落ち着いて試験に挑めたから、多分そんなに悪くないだろう。
「ゆーじどーだった?」
「……まあまあだな」
おいおい今朝のあの余裕はなんだったんだ。
「かずは楽勝だよな。俺のレベルにあわせたから」
「まあリラックスして受けれたからな。でもこればっかりはわからんわ。」
「かずー」
「あ、青木」
この人ごみの中でも青木は俺とゆーじをすぐに見つけた。
「おつかれー。どうだった?」
「やべー俺。これは受かったわ。確実」
「お、おう」
そりゃ余裕ですね。
「明日、みんな呼んで合格祝いでもしよーぜ」
おいおいまだ結果出てねーよ。
っとに騒ぐの好きだなー。
「んじゃ打ち上げってことで」
そだとおるとティナも誘ってみよう。
立花はどうだったかな。
ホント一緒のとこに行きたかった。
あ、そういえば宮野さんもどうなっただろう。
早川さんはどこの高校に行くのかな。
「かず、なにブツブツ言ってんの?」
「いえいえなんでもございません」
「?」
「あとは合格発表だけだなと思っただけ」
「そーだな!とりあえず家帰って寝たいわ」
みんな受かってるといいな。
********
132……132……あ!
「よし!!」
小さくガッツポーズを決める。
これで春からは高校生だ!
青木とゆーじはどうだっただろう。
「かずー」
青木とゆーじが手を振ってる。
「どうだった?」
二人の表情でなんとなくわかったけど、ここは聞いておこう。
二人は俺に向かってピースした。俺も負けずに親指をたてる。
また一緒に学校に行ける!
めっちゃ嬉しい!
立花に電話で報告すると立花も無事公立に受かった。
いいことづくめだ。
ただ制服着てみたかったな。中学は普通の学ランだったからいっぺんブレザー着てみたかった。一番はじめの第一志望校はブレザ
ーだったのに。母さんに無理やり変えさせられたからな。
なんだって私服のトコなんかに。まあでも背は伸びたから女の子にみられることはない!……はず。
立花んとこの野郎はブレザーなんだよな、確か。
母さんが言うには、「制服分のお金いらなくて安くつくじゃない」だって。まー今更言ってもしゃーないか。
*********
4月。
入学式の日。よし、用意できた。
「ゆーじー。先行くぞー」
俺はゆーじの部屋のドアを開けた。
げ。
何この部屋。
「おーかず。今服決まったとこだからちょい待て」
はぁ?
「先行くわ」
がしっ
襟首をつかまれた。
「離せ」
「まあ待てって」
俺はゆーじの手を払おうとしたががっちりつかまれて外せない。
「待ってくれるなら手をはなす」
「わかった!早くしろ!」
「はいはい」
ゆーじは相変わらず俺をおちょくって遊んでいる。
「ひゃーかず君かわいいねー」
「は?」
「その服男物だろ?でもお前がきると女物みてー」
!!!
苦労して選んだのに……。
ぴんぽーん。
誰だろう?
ガチャ
「かず君おはよ」
立花だ。うわー制服だー。ポニーテールしてる。かわいい。
「しょうちゃんおはよ!かずお待たせー」
ゆーじがやって来て、3人そろって家の門を出た。
すぐそこに青木が立ってる。
「よ!」
これからまた3年間。
きっとまた楽しい時間が待っている。




