第1話異世界初日……いきなりネタバレされた
騒がしいな……。
そんなことを思いながら目を開けると、そこは豪華な部屋だった。
見慣れない光景に、ただただ戸惑う。
「未来、起きたか?」
突然、クラスメイトの功補に名前を呼ばれた。未来は驚きながらも、彼に問いかける。
「功補?【こうすけ】 この状況は一体……?」
「クラスメイト全員で異世界にやってきたらしい」
あまりにも突拍子もない話に、現実を受け止めきれない。
未来は、ただこう返すことしかできなかった。
「何言ってんだ、おめぇ……」
「まあ、最初はそうなるよな……。あっちでみんな集まってるから、来てくれればわかる」
功補に案内され、未来は部屋を後にした。
たどり着いたのは、豪華な大広間だった。
そこにはクラスメイト全員が集まっていた。
やがて、全員の視線が騎士のような服装をした男に集まる。
「ヤメロヤ王国騎士団長のラードだ。これより、君たちの処遇について説明する」
周囲を見渡すと、怪訝そうな顔をしている者もいれば、期待に胸を膨らませている者もいる。
突然の異世界転移に対する反応は、さまざまだった。
「君たちは我が国の勇者候補だ。今後は我が国の勇者候補として、魔王討伐に臨んでもらう」
その言葉に、あたりがざわめいた。
元の世界には帰れるのか。
自分たちの身は安全なのか。
次々と質問が飛び交う中、ラードは一つずつ答えていった。
「元の世界へは、魔王を倒せば返すと約束しよう」
ひとまず、元の世界に帰る方法はあるらしい。
未来は少しだけ安心した。
しかし、まだ気になることがある。
安全面についてだ。
「あと、安全面に関しては、この世界の一般的な住民よりも保証されている」
ラードは自信たっぷりに告げた。
「なぜなら、初心者ダンジョンの一番大きな木から左に564歩、前に96歩歩いたところに、勇者の剣が眠っているからだ」
……は?
あまりにも情報が細かすぎる。
未来はドン引きしていた。
すると、クラスメイトの一人が声を上げた。
「そんな情報だけで信じられるか!」
……それは、そうだよなぁ。
未来も内心で同意する。
だが、別のクラスメイトは違う反応を見せた。
「いい情報をありがとうございます! お礼に私からもネタバレです」
……ん?
今、何て言った?
まるで世間話でもするかのように、そいつはラードにネタバレを返していた。
いや、ネタバレを返すって何だよ。
そんな俺の疑問をよそに、ラードはまるで気にした様子もなく、さらに説明を続けた。
「そこの信じていない勇者候補! そこまで言うなら、自分で確かめてくるがいい。確かめられるよう、追加で情報をやろう」
いや、追加情報ってなんだよ。
「森に出現する魔物は、主にスライムだ。そして、稀に出現するオークは、青色の葉をつけた木から半径三百メートル以内にしか現れない」
……なんでそんなことまで知っているんだ。
いや、そうじゃない。
なぜ、そんな情報を追加すれば納得してもらえると思ったんだ?
気がつけば、なし崩し的に勇者の剣を探しに行く流れになっていた。
クラスメイトたちは抗議の声を上げていたものの、ラードが腰に下げた剣に目を向けると、次第に口を閉ざしていった。
……いろいろと、現実味のないことが起きすぎている。
異世界転移に、魔王討伐。
おまけに、勇者の剣の場所を正確に知っている騎士団長。
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
そして――
俺は寝た。
考えるのをやめたのだ。
◇王城大広間
翌日。
未来たちは、再び大広間に集められていた。
どうやら、これから才能鑑定を行うらしい。
ラードの説明によると、勇者の剣を手にした者には、元々の職業に加えて「勇者」の職業が付与されるという。
そのため、まずは元々の才能に優れた者を見つけ、勇者の剣を取りに行かせたいらしい。
……まあ、理屈はわかる。
もっとも、未来には昨日の騎士団長の言動が引っかかっていたが。
そんなことを考えているうちに、クラスメイトたちの鑑定が進んでいく。
「聖女だと!?」
「こっちは剣聖か!」
「賢者までいるのか……!」
次々と判明する優秀な職業に、周囲は大いに盛り上がっていた。
どうやら、このクラスにはとんでもない才能の持ち主が何人もいるらしい。
そして、ついに未来の番がやってきた。
鑑定結果を確認した担当者が、首をかしげる。
「先見未来【せんけんみらい】の職業は……『過去見眼』」
「過去見眼? なんだ、その職業は?」
宰相が怪訝そうな顔でつぶやいた。
周囲の者たちも、表示された職業名とスキルの説明を見比べながら、そろって首をかしげている。
どうやら、誰も聞いたことがない職業らしい。
複数人が難しい顔で説明文を読み込んでいたが、やがて未来の評価が告げられた。
「ランクF」
……え?
いや、待て。
聖女だの剣聖だの賢者だの、周りはやたらと凄そうな職業ばかりだったじゃないか。
それなのに、俺はF?
咄嗟に周囲を見渡すと、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
視線をどこに向ければいいのか分からず、俺は幼馴染の朱音【あかね】に目を向けた。
しかし、朱音は気まずそうに目をそらした。
……あんなにずっと一緒に過ごした仲だったじゃないか。
「未来君、大丈夫?」
声をかけてきたのは、聖女に選ばれていた心音【ここね】さんだった。
どうやら、俺のことを心配してくれているらしい。
「大丈夫だよ」
そう答えたものの、現実を受け入れることはできなかった。
頭の中が真っ白になり、俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。




