96,玉座に座る時。
「ところで──アロンが〈天路歴程〉ということは、このクーデターには〈古き者たち〉がかかわっている、ということなんだよね?」
「そうですわね。もちろん、われわれに『〈古き者たち〉が関与している』と思わせるため、〈天路歴程〉という身分を偽った可能性もありますが──どうも、アロンという男の頭の悪そうなのは、演技とは思えませんでしたし。『殺した者を殺す』特殊技にも偽りはなさそうでした。とすれば、〈天路歴程〉ナンバーⅣの実力としては、申し分ありません」
しかし──果たして、『殺した者を殺す』特殊技ごときで、うちのヨグちゃんが詰まれたのだろうか? 時を巻き戻したので、そこの真偽はいまや、不明。または分岐した未来の話とか?
ただ邪神が、そんな安っぽい手で殺されるとは思えないなぁ。まぁ、邪神だって弱みはあるだろうし、うっかり殺されちゃった、ということもあるかもだけど。そういえば、私の遠い親戚に、ピーナッツを鼻から食べて死んだ人もいるし。ふむ。
ユリシアはまだ分析を続けていた。
「またアロンが、ただ〈天路歴程〉と名乗っただけではなく、ナンバーまで名乗りに入れたことも、信憑性にプラスしていますわ。〈天路歴程〉は全部で7人と推定されますが、そのうちすでに、わたくしたちが遭遇しているのは、三人。〈古き者たち〉の部外者からしてみれば、わたくしたちがどの〈天路歴程〉と遭遇していたかなど分かるはずもありません。よって偽りだとしたら、わざわざリスクをおかして、ナンバーまでは名乗らせないでしょう」
「すると、これで〈天路歴程〉のうち4体を撃破したわけだよね。ナンバーだと、Ⅶ、Ⅵ、Ⅳ、Ⅲ。おや、いい感じ」
するとリスダンが訂正してきた。どことなく苦々しそうに、
「いえ、わが君。ナンバーⅦのガウスは、私が取り逃がしてしまっています」
そういえば、そうだった。リスダンは終始圧倒していたけど、結局、討ち取る前に逃げられてしまったんだっけ。
などと話していたら、ようやく隠しルートの終わりがきた。
ヨグがあくびしながら、王宮区内への入口を開ける。その出入り口があるのは、王宮区内にある小さな庭の噴水だった。隠し入口を開ける前に排水されるシステムらしい。そこから出ると、遠くのほうでの合戦の音が轟いてくる。
王宮区というのは、ひとつの小都市のようなものだ。つまり王都の中に、もうひとつ独立した都があるという規模。よって何十万単位の合戦も、ここからだとまだ『少し遠く』のこと。
この位置からだと、王宮区の中心たる王城もすぐそこ。すでにヨグは、わが道を往くのペースで、向かっている。私たちもその後を追った。
「ここから、どこまで順調に事が進むかは、分からないよ。きっと難題の連続に違いない。みんな、気を引き締めていこー!」
と、私はそれっぽいことを言ってみた。
その5分後、これという難題もなく、簡単に地下牢からクラウス殿下を救出。
「やぁ、殿下。助けにきましたよー」
「おお、オブリビオン大尉! 来てくれると信じていたよ!」
本当かどうか知らんが、どうも本気で信じていたようでもある。このクラウス殿下の、妙に素直というか、純朴なところは嫌いじゃないなぁ。王様としてやっていけるかは、話は別だけども。だけども、国王というのは、これくらい希望に対して能天気なほうがいいのかもしれない。
「ところで殿下、お父様が死んじゃって、残念です」
当然知っているものと思ったのに、クラウス殿下は驚愕している。
「なんだって! 父上が──殺されたのか、オブリビオン大尉?」
「そうですね。このタイミングで、階段から足をすべらせての不幸な事故、とかではないでしょうし。はい、そうです。がっつり殺されてしまいました。さぁ、殿下」
私は殿下の肩をつかみ、
「玉座に座るときです!」
クラウス殿下、唖然とする。
「私に、国王に即位しろというのか? だが、いきなりそのようなことを──父上の死さえも、いまはじめて知ったというのに。何より、いまこの王宮区は、敵によって制圧されている。そんなときに、私は王になることができるというのか?」
私はユリシアを見やった。ユリシアが困ったものだといわんばかりに肩をすくめる。私は閃きを覚えて、クラウス殿下の頭をはたいた。
「王太子が即位しないで、誰が即位するんですか。しっかりしてくださいよ、国王陛下。あんたが、やらないで誰がやるの」
「う、うむ、そうだな。よくぞ、私に活を入れてくれた。礼をいうぞ、オブリビオン殿。是非とも、私が即位した暁には、〈王の右手〉になり私を支えてくれたまえ」
「あ、それは勘弁してください」
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