95,『邪神のヨグちゃん強すぎ問題』。
地下の隠し通路を進む。
ここまで降りてくると、実に静かなものだ。
こちらのメンバーは、ユリシア、リスダン、サラマンダー、そしてヨグ。
ヨグちゃんは、気づいたらいた。混沌ハオスとの激しいバトル直後ながら、それを感じさせない様子。となると、これはもう正直、卑怯すぎるほど最強すぎて、なんだか申し訳なく思えてくるメンバーである。
申し訳ないなぁ。
申し訳ない気持ちいっぱいで隠しルートを進むと、リスダンとサラマンダーが立ち止まる。リスダンは剣を抜き放ち、サラマンダーも両手に火炎をまとわせる。(ちなみにサラマンダー、美女モードの状態でも火炎魔導を使えるが、その火力は火竜モードのときの2割程度)。
臨戦態勢の二人に対し、ヨグは歩き続けようとして立ち止まり、きょとんとした顔で振り返った。
「なに?」
リスダンは意外そうに言う。
「ヨグ殿は気づかれないのか? この先に、恐ろしい殺気を放っている『何か』がいることに」
「…………なにも」
そのとき私は、地味な落とし穴に気付いた。
すなわち『邪神のヨグさん強すぎ問題』である。強すぎるため、一般的には脅威といえる敵が、ヨグからしたら『気にとめる必要のない雑魚』。よってわざわざ事前に感知することもないのである。
私は、ここはリーダーらしく言ったものである。
「とにかく、一本通行なんだから、進むしかないよ!」
とりあえずリスダンとサラマンダーの後ろに隠れつつ進む。ここらへん、私は慎重肌なのである。この慎重な進行のなか、ヨグだけが先行している。
そのなか、隠し通路の先に、男があらわれる。なんというか、芸のない登場だなぁ。とはいえ、この隠しルートは一本道なわけだし、堂々と待っているか、潜んでいるかの二択しかないわけだけども。しかし芸がないぞ。
その男は、20代の半ば、なぜか分からないけど、偉そうだ。
で、下品に笑いだす。
「はっはっはっ! まてまて! 貴様らは、罠にかかったのだ! ここにいるのは〈天路歴程〉は、ナンバーⅣ、怒涛のアロン様とは、オレのことよ!!」
勢いはいいね。出オチ感はあるけど、だけど私は、嫌いじゃないよ。
ヨグは歩く速度を止めず、とくに見やることもなく、邪神ハ堂流参式《弾く手》で、アロンの肉体を欠片もなく吹き飛ばしてしまった。そして何事もなかったかのように、歩いていく。
「ヨグちゃん、さすがだなぁ~」
しかしユリシアは、別の評価のようだ。
「いえ、いまのは不用意すぎますわ。ヨグは、あまりに強すぎるため、下等な者たちを軽んじすぎです。しかしながら、蟻のひとかみというものがあります」
「あ、それはさっき、私も思ったよ。『ヨグ強すぎ問題』ね」
「小さな虫が、致死性の毒を隠しもっていることもあります。それに、先ほどの男、名乗りに偽りがなければ、〈天路歴程〉の四番手、ただの雑魚とは思えません」
というユリシアの危惧に答えるようにして、どこからともなく、先ほどの男──〈天路歴程〉のナンバーⅣのアロンの声が響き渡った。
「はっはっはっはっ! かかったなぁぁ!!! このおれの、特殊技は、特別仕様よ! 〈教主〉さまさえも一目おいてくださったその能力とは──『オレを殺した者は強制的に死ぬ』だ! オレを殺したことで、お前はもう詰んでいるんだよ、邪神ヨグぅぅぅぅぅぅう!」
私はユリシアと顔をみあわせた。
「え、ヨグちゃん、詰まれた?」
「かもしれませんわ」
それは困る!
刹那。
〔四つの災厄〕あらため〔三大災厄〕がひとつ不可侵の兎が現れる。
巨大な懐中時計の針が戻り──時が巻き戻される。
ヨグがアロンを殺す直前まで──つまりヨグが邪神ハ堂流参式《弾く手》を使い、アロンを粉みじんにする直前まで。
そして私は言った。
「ヨグちゃん、気をつけて。そいつ殺すと、特殊技によって、逆に『死んだ』ことにされるよ」
ヨグは私を見てから、アロンを見た。
「では、殺さずに異界に飛ばす」
アロンは「えっ!」という顔をする。
「邪神ハ堂流零式《異界転移》」
刹那、アロンを見えない巨大な手がつかみ、どこへと消してしまった。すなわち、異界へと飛ばしてしまったようだ。
ヨグが何事もなかったかのように歩き出す。
私はユリシアに、何が起きたのか説明した。時が巻き戻ったため、アロンの特殊技のことは、知らないわけだからね。
説明を聞き終えたユリシアは、溜息まじりに言った。
「お姉さまと邪神ヨグが組まれますと、敵がかわいそうになってきますわね」
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