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91,褒め褒め。

 


 空白。

 人生というものは、この空白があるよね。空白なくして、人生は歩めない。


 にしても──なんていい天気なのでしょう。こんなに晴天なのにクーデターを起こすとは。いやしかし、天気だからこそクーデターが起きてくれてよかったのかもね。雨の日に起こされたら、それこそはた迷惑な話だった。私はいま、土砂降りの中、ここに立っていのだろうからね。


「お姉さま、何を考えていますの?」


「空白と天気のこと。いや天気のことはどうでもいいんだよ。空白のことを考えていたわけ」


「その空白とは、どこにありますの?」


「世界に満ちているし、人生の根幹だし、私の中にもあるんだよね。結局のところ、誰が死のうが生きようが、世界が亡びようが、私が死のうが、本質的にはどうでもいいんだよね? そこがまた、なんとも安心させてくれる考えなんだよ。私の精神衛生は、そこで保たれているんだから」


 ユリシアは、喜ばしそうに言う。


「お姉さまの本質、それは絶対的な虚無なのですわ。それこそがネクロマンサーであり冥王の証ですわ」


「うーん。それ、褒めてるの?」


「褒めております」


「本当かなぁ」


「褒め褒めですのよ」


「本当かなぁ」


 情報というのは、集まりだすと一気に集まるものだ。

 チキータ、ガリーナ、ヨーナスが同時に戻ってきて、同時に話し出す。

 私が有能なる指揮官ならば、三人くらい、同時に情報を聞き取ったことだろうね。しかし、ここで重要なお知らせだ。私は、そんなことはできません。


「一人ずつ話しなさい。まずは──」


 ここでガリーナが余計なことを言った。


「ふふん。ここで、冥王ちゃんが誰からの情報を聞くかによって、この三人のうち、誰をもっとも重宝しているかが分かるわけねぇ~」


 チキータとヨーナスが、ハッとする。

 私が唖然としていると、ヨグが歩いてきて、のんびりと言った。


「ライラちゃん。報告することがある」


「えっ!? ………………………………じゃまずヨグちゃんから」


 ヨーナスがあからさまにガッカリし、チキータが「このチキータ、いまだ冥王陛下の最大の信頼を得られてはいなかったのですかぁぁあ!!」と嘆く。ガリーナだけは、それを面白そうに眺めていたけども。


「……で、ヨグちゃん。どうしたの?」


「混沌が来る」


「……え、それは概念? それとも名前? 名前だとしたら、それは変な名前だね」


「私の混沌の眷属だった者が──ハオスが」


 それは、以前に王都にいたとき、接近遭遇した者のことのようだ。火の雨を降らしたものだから、消火活動が大変だった。そういえば邪神の眷属だったっけ。


「ヨグちゃんの眷属ならば、やってきても問題ないよね?」


 しかしヨグは無表情のまま淡々と言う。


「とはいかない。私は、ライラちゃんの眷属になるにあたって、すべての邪神眷属に解放を告げた。いま、混沌ハオスは、私の元の眷属。よってこの王都にやって来る目的も不明」


「えー。迷惑」


 話を聞いていたユリシアが言った。


「ヨグさん。あなたならば、ハオスを蹴散らすことは可能ですのね? すなわち向こうが敵対行為をとってきた場合ですが」


「可能。しかし、骨は折れる」


「いつ、王都に到着しますの?」


「320分後」


「分かりましたわ。では、その前に、こちらも状況を打開したほうが良いでしょう。お姉さま、まずチキータから情報を取得してください。癪ではありますが、ドブネズミ・ネットワークの力はバカになりませんことよ」


 ユリシアのこの発言を、チキータは一種の『ユリシアの敗北宣言』と受け取ったようで、実に誇らしそうだ。ほら、この二人、仲が悪かったから。

 私は、よりいっそうガッカリしているヨーナスを眺めてから、チキータに尋ねた。


「で?」


「王宮区を制圧しているのは、予備軍ではありません。予備軍に偽装はされていますが、あれは間違いなく〈王の右手〉専属の王国親衛隊ロイヤルガードでしょう。その中には、現剣星サリバンの姿もありました」


「あーー。確か、うちのリスダンにボコられた人だよねぇ。なつかしき士官学校の日々──しかし王国親衛隊ロイヤルガードが出ているということは、やはり〈王の右手〉が首謀者のようだね。で、チキータ。〈王の右手〉は?」


「残念ながら、見つけられませんでした。王宮区内にはいないのかもしれませんが、申し訳ありません、断言はできません」


「使えませんわね」


 と煽るユリシア。

 そんなユリシアをにらんでから、チキータは言った。


「ですがクラウス殿下の居所はつかめました。なんたることか。王城の地下牢獄に囚われております」


「ふーむ。捕らえられているんだねぇ」


 正直、クラウス殿下の命はもうないかも、と覚悟していたけども。だがそのかわりに、別の人が殺されていた。


「国王陛下は、すでに亡き者にされておりました」


 いやぁー、国王陛下、弑逆されてしまったかぁ。死ぬときは、どんな重要人物でも、あっさりと退場するものだ。そういう意味では、陛下はご立派でした。


 ふとガリーナと目があう。


「ガリーナは、何か情報ををつかんできたの?」


「冥王ちゃんのお友達、アンバーといったかしらん? あの子の、純潔が危ないわよ」


「………………………アンバーの純潔の危険が危ない!!!!」



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