73,「おーけい」。
魔神討伐、終了ー。
討伐過程。
なんか邪神ちゃんが、右手を握っただけだよ。
「……………………いま、なにしたのヨグちゃん?」
「邪神ハ堂流捌式《握る手》。三次元空間において手で握ったものを破壊するが、それに距離は関係しない。邪神ハ堂流では、中程度の能力」
「……………………あそう」
おかしい。
なぜにこんな規格外が、私の眷属になっているんだろう。それはヨグが、クッキー職人という新たな道を歩み出したからだけども。
あれ、まって。ということは、私はどうなのだ? 私は、たとえば靴磨き職人になりたいと思っても、冥王という責務があるので、そんなジョブチェンジは認められないわけだよね。私の寿命が尽きるまで、冥王でありつづけねばならないのだ。
なんてこったいっ!
……まぁ、いっかー。別に、ほかにやりたいこともないしねー。
「さて、魔神討伐は完了したので、ここからは事後処理だ。いまとなっては、これのほうが大変。まずドラゴ。君は、チキータたちと協力して、ユリシアとガリーナの捜索をして。きっと生きているよ。なんたって〔不死者〕と真祖だからね。リスダンは一緒に来て。王都に行って、クラウス殿下にいろいろと報告しとかないと。それとシュタン少将にも会わないとだよね。あ、そうだ。ドラゴ。ケルゴの民の件もあるから、クローイとも話したい」
「姐さん。聞いてなかったんですか? クローイって女は、保護されていませんぜ」
「え、そうだったの?」
てっきり〈探索迷宮〉に避難したケルゴの民を率いていたものとばかり。だけど、そうか。あのとき──クローイはラン要塞へと駆け出し、その直後に最初の衝撃波が発生した。それに巻き込まれていたとしたら、生身の人間はバラバラに──
「クローイも捜索して。彼女がいないと、ケルゴの民の問題も解決しやしないよ。やれやれ、忙しい。ところでヨグちゃんはどうする? 帰る? 王都に一緒に行く?」
ヨグは無表情のまま答える。
「王都に行く。ライラちゃんが死んでは、私のクッキー職人への道も断たれる。それに王都には、〈ベルリン〉がいる」
「〈ベルリン〉かぁ。王都を中心に暗躍する最古の盗賊団だよねぇ。というか、やっぱりヨグは〈ベルリン〉のことを知っていたんだね」
「〈ベルリン〉は、かつて邪神を崇拝していた。しかし私は、求めることはあっても、与えることはしない。気づいたら〈ベルリン〉は離反していたが、いつかはよく覚えていない」
「…………………自分の組織図のことは、ちゃんと把握していようよー」
ヨグが私の肩を叩き、フッと笑った。
「私はもう、ライラちゃんの組織図に組み込まれた」
「……………」
え、なにこの、『責任を押し付けてやったぜ』という、素敵な笑顔は。
その後、私はリスダンと邪神ヨグとともに、〈探索迷宮〉を経由して王都へ。
ただこのときに、ひと悶着があった。
ヨーナスが、
「陛下、自分も護衛のため同行いたします!」
と言ってきて、それを聞きつけたドラゴが、
「てめぇみたいなザコはお呼びじゃねぇんだよ。それにお前は、その嗅覚でユリシアたちを探すんだろうが」
とどつき、ヨーナスもやり返し、どつきあいに発展した。それを眺めていたヨグが、ドラゴとヨーナスを指さし、私に無表情のまま、
「殺す?」
と恐ろしいことをおっしゃる。
ヨグの手にかかれば、いくら人狼ヨーナスと格闘技王ドラゴでも、瞬きする速さで瞬殺されそうなので、私はあわてて言ったものだ。
「ほかのみんなと仲良くできないようじゃ、クッキー職人としても道は遠いよ、ヨグちゃん。私の眷属になった以上は、不用意な殺傷を禁ずるからね。世界を救うのは、破壊ではなく愛だよ。君のクッキーのように甘い愛だよ」
「おーけい」
とにかくドラゴが言うように、ヨーナスはユリシアたちの捜索に不可欠な人材。その点を言い聞かせて、私はリスダンとヨグと王都に来たわけだ。
今回は、さくさくと王太子と謁見することができた。ただ問題は、肝心のクラウス殿下がまさしく『苦渋』という表情をしていることだ。どうでもいいけど、この方は顔にでやすいのだなぁ。腹芸とは縁がなさそうだけど、だから私としては、ぜひとも玉座についていただきたいものだ。
「殿下、どうされました?」
「〈王の右手〉だ。王都に戻ってきた。そしてさっそく、ラン要塞での件で、君を軍法会議にかけるつもりだという。ここで私と会っていることも、〈王の右手〉には通じていることだろう。すぐにでも、憲兵が駆けつけてくるはずだ。逃げてくれたまえ、オブリビオン」
「いえ、私はどこにも逃げも隠れもしません!」
あ、なんかカッコいいこと言っちゃった。
クラウス殿下の読みどおり、憲兵隊がやってくる。
ヨグがそんな憲兵隊を指さして、
「殺す?」
あれ、デジャヴかな??
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