34,卒業。
卒業してしまった。
士官学校の卒業式は、粛々と進んだ。不可解なことに、このようなめでたい式に、校長こと〈王の右手〉の姿はない。卒業証書を副校長より授与される。シュタン少将は、私の眷属ということなので、いまさら卒業試験が失敗だのと言って、退学処分にすることもなかった。ユリシアいわく、すでにシュタン少将の命もまた、われわれと一蓮托生なのだとか。
卒業式後。
これという感慨もなく、私は、アンバー、ユリシア、ドラゴとともに、〈探索迷宮〉に降りた。ドラゴは護衛役として士官学校に戻ってきており、一方のリスダンはまだサラ・シュタンを捕らえにいって戻っていない。
シュタン少将によると、『君たちが追跡をはじめたころ、妻が家に帰らなくなった。おそらく、こちらの動きが分かったのだろう。外聞のため捜索願いを出してはいるが、まず一般の捜査機関では見つかるまい』とのこと。
そしてリスダンからの連絡も途絶えているが、これは深いところへ潜っているからであり、リスダンの身に何かあったわけではないとか。ユリシアが言うには、私の眷属に何かあれば、私自身が一番に分かるのだという。
とにかく、久しぶりに作戦会議。
しかし出席者は少なめ。前述したとおり、リスダンはサラ・シュタンの追跡中だし、リスダンが選んだガリーナとローレライも、同行している模様(ただしドラゴだけは、私の護衛のために戻らされたというわけ)。ほかの出席者は、ダク、ビリーロスト、チキータ。
「えー、皆さん。各自、〈古き者たち〉を追跡していたと思うので、ここで宿題発表といこうか。まず、誰から行くの? しょっぱなから、直撃弾的な凄いのがきてくれてもいいんだよ?」
まず挙手したのが、ビリーロスト。ピエロメイクが地味に変わることを、最近わたしは気づいたのだ。
「まずオイラは、新しいピエロとして、ピエロ連合に加入したんです。っというのも、まぁ正体を明かすと、何かと不都合があるものでして。絞首刑された身ですし。
とにかく、ピエロ連合の情報網によると、確かに古くから暗躍している組織というものは確認できるんですがね。というのも、ピエロを暗殺者に仕立てようという者は、少なくないわけです。ピエロは子供の誕生会とかに呼ばれますのでね。
話を戻すと、暗殺者のスカウトは、まずピエロ連合に接触してくる。そういった連中の中でさえ、得体の知れない連中がいると。そして王政府内の者かもしれないとも」
ピエロって、誕生会とかに呼ぶっけ? そもそもピエロが不気味枠になったのって、いつからだろう?
とにかくビリーロストの情報により、〈古き者たち〉らしき存在は、王政府内にも食い込んでいると分かったね。まぁ想像はついたけども。
「もっと決め手になるのはないの? 〈古き者たち〉のアジトを見つけたとか。そーいうのは?」
ここで高らかに挙手したのが、われらがスパイ網の長であるチキータ。
「冥王陛下。このチキータが高らかに発表します! ずばり〈古き者たち〉のアジトは、ホーソン住宅街のどこか、または全体にある模様です!」
「そうそう、こういうのを求めていたんだよ。ところでホーソン住宅街って、どこにあるの?」
「王都の住宅区内にあります。このホーソン住宅街は、一見、どこにでもある住宅群なのですが、ひとつ決定的な違いとして、我らがドブネズミたちが一匹たりとも帰ってくることができない。帰還不能地域なのです。これは、何かホーソン住宅街全域に、防御魔導的なものが発動しているとしか考えられません」
ユリシアが冷ややかに言う。
「単純に、害獣駆除がばっちりなだけなのではありませんこと」
「われらを侮辱するか! どうか冥王陛下、このチキータに、その小娘との決闘をする許可を!」
「仲間うちで争わないでねー」
ダクが遠慮深そうに片手をあげていた。
「実は、あっしも小耳にはさんだことがあるんです、親分。〈暗黒地帯〉の者の中にも、王都内には絶対に近づいてはいけない場所があるとか。それがホーソン住宅街というところかは不明なんですが、そこのところハッキリさせてきましょうか?」
するとビリーロストも、
「これは偶然かもしれませんが、ホーソン住宅街に仕事で出向いたきり、戻ってこなかったピエロがいたようですね。ピエロというのは、余計なところに鼻を突っ込むところがあるので──」
と、自身のデカ鼻をつまむビリーロスト。なんだろう、ピエロギャグなのかな?
「見てはいけないものを、見たのかもしれませんぜ」
私はユリシアを見やった。
「リスダンとガリーナという、最強どころ不在で、ホーソン住宅街というところ行って大丈夫かな?」
「お姉さまの身に危険が生じれば、骸骨魔導士や死竜が召喚されますので、問題はないかと」
骸骨魔導士はともかく、死竜は出てこなくていいんだけども。王都が亡びそうだ。
「ま、とにかく行ってみようか。その、ホーソン住宅街というところに。アンバーは」
「あたしは、ここでライラの留守を守っているわよ!」
「じゃ、よろしくー」




