最終話!どちらの手を──
あれからシオンは辺境の教会で暮らしていた。質素ながらも不便のない生活に時間の流れも緩やかに感じた。
「ねぇシオン?ここにきてしばらく経つけど、心の準備は整ったの?」
フィーネの問い掛けにシオンは絵を描いていた手を止めた。
「フィーネ、私ね。前世で家族に守られて生きてきたの。子供の頃から、家にいる時─家族といる時はなんでも無かったけど、学校にいる時は不幸が続いて、怪我も多かったの。次第に私の周囲から友達が居なくなったわ。だって、私といると必ず不幸に見舞われて怪我をするんだもの。でも、家族だけは私を見捨てなかった。家族の励ましがあったから、必死に絵の勉強をして、独り立ちできるように頑張れたの。まぁ、美大に通っている最中に交通事故で死んだんだけど………」
ガバッとフィーネは土下座した。
「申し訳ありませんでした!!!!」
フィーネはダバダバと涙を流しながら、お詫びした。
『私はなんて事をしたのよ!!!?』
「別にフィーネのせいじゃないでしょう?邪神の呪いのせいなんだから」
「し、シオンが聖女様のように見えるよ~」
シオンは無言でフィーネを握り締めた。
「ギブギブッ!!!」
シオンは、はぁ~とため息を付いて続けた。
「ここに転生してからも誰かに守られている事を実感したの。前世で苦労していた分、好きに生きてこられたと思っていたけど、やっぱり私は誰かに守られて生きてきたの」
「それは普通のことよ。子供は親や兄達に守られて生きているんだもの」
シオンはそうだねと小さく呟いた。
「でも、いつまでも好き勝手に生きてはいられないと気付いたのよ。ライトは弟であるクロウを失ったわ。それでも私を責めなかった。ジークは幼い頃から親元を離れて私の側にいる事を選んでくれた。自国の王族なのに私なんかの為に側にいてくれる事を選んだわ。だから私も二人の気持ちに真剣に向き合わないといけないって、ようやく気付いたの」
フィーネはシオンの真剣な瞳に釘付になった。
「………それで決めたの?どちらにするのか」
「それが全然ダメなの。二人の事を真剣に考えると顔が熱くなって考えが纏まらないの………」
シオンは空を仰いだ。
本当にどうしよう。
「シオン、考え過ぎは良くないわ。自分の気持ちを、落ち着いて見詰め直してみなさい。どちらを選んでも、誰も文句は言わないから」
アクアがお姉さんのように慈愛に満ちた声で言ってきた。
「ありがとう!」
シオンはまた絵を描きながら自分の気持ちを考えるのだった。
そして、あっと言う間に一ヶ月が過ぎた。
ガタゴト
ガタゴト
「ライト、わかっているな?」
「ああ、ジークこそ覚悟しておけよ。俺も覚悟を決めているからな」
二人は口ではああ言っているが、よく眠れていないのか、目の下にクマができていた。
そして、シオンのいる辺境の教会へ着くとフィーネに誘導され、教会の女神像の元へ連れてこられた。
「………シオンなのか?」
一ヶ月会わなかっただけなのに、一段と大人の女性になったような美しさがあった。
「うん。今まで待たせてごめんね?」
「いいや、シオンが謝ることじゃないよ。それより答えはでたのかい?」
シオンは小さく頷いた。
ゴクリッと喉を鳴らす王子達にシオンの出した答えは───
教会の礼拝堂にて女神像だけがシオン達の3人を優しく見守っていた。
【完】
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最後までお読み頂きありがとうございました。
シオンが最後、どちらを選んだかは読んで頂いた読者様の心の中で決めてもらう事にしました。
個人的には、幼い頃に色々あった頼りない幼馴染でほっとけない感じのライトとくっつくか、冷静沈着で、目立つミスの無かった腹黒王子のジークと一緒になるのか悩みました。
気付ば久しぶりの100話以上の長編になっていて驚きましたw
現在、8月からアルファポリスで開催されるファンタジー小説大賞に向けて次回作を書いております。
『キャラ・イラスト』を多数入れる予定ですので、そちらも読んで頂けると嬉しいです。
コンテスト参加の為にしばらくはアルファポリスさんのみ投稿となります。
【次回作タイトル】




