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その6

「……しかし、まだ信じられないよ。あんたがあたしの提案した道を選ぶなんてね」


 ルフト王国の国境近くで、踊り子の衣装に身を包んだラフが肩をすくめました。


「あなたは、わたしに、いいえ、わたしたちに、ともに生きる道を示してくださった。それと比べれば、歌姫の立場なんて少しも惜しくありません」


 同じく踊り子の衣装に身を包んでいたのは、ティアでした。二人は名を変え、旅の踊り子としてルフト王国を抜け出していたのです。


「それだけじゃない。あんたはもうルフト王国には戻れないだろう。あれほど多くの人間たちに涙を流させたんだからね。悲しい歌を歌ったわけじゃなくても、それはルフト王国の人間たちにとっては大罪だろう。国を出てからも同じだと思うよ。あんたは刺客に、永遠に狙われ続ける。涙を流させる歌姫などがいるなら、それはあの国の人間たちにとって危険極まりないことだからね」


 ラフが皮肉っぽい口調でいいました。驚いたことに、ティアはくすくすと笑ったのです。


「それはあなたも同じなんじゃないですか? あなたは他の退魔師たちを裏切ったんでしょう? あなたこそ、追っ手に追われ続けるんじゃないですか?」

「そんなのはささいなことだよ。まぁ、あたしはもともとはぐれ者のようなやつだったから、別段気に派ならないね。……それに、あんたのおかげで、スノウもずいぶんたくさん温かい涙を集めることができたみたいだからね」


 ラフはにやりと笑って、自分のとなりに視線を移しました。


「うそつき。自分のパートナーを消し去ったなんていって、本当はあなた、ずっといっしょにすごしていたんでしょう? 退魔師なのに、その子を守って」


 ティアがいたずらっぽい目で、ラフのとなりに、そしてラフへと目をやりました。


「まあね。あたしはこう見えて義理堅いんだよ。……まぁ、そんなやつは退魔師失格なんだろうけど、スノウをルゥフェイから人間に変えることができるんなら、退魔師なんてくそくらえさ。……まぁ、その術の知識は、ありがたく使わせてもらうがね」


 最後の言葉を聞いて、ティアは思わず笑ってしまいました。


 


 ティアにお札をはって動きを封じたあのとき、ラフはある提案をしていたのです。特殊な霊薬を十日間飲むことで、歌の響きを人々の琴線に触れるものに変えることができるから、それを飲んで建国記念日の式典に臨むこと。そうすればレインを退治しないと……。


「だが、例え勇ましい歌を歌ったとしても、涙を流させるような歌姫は、きっと処刑されるだろう。特にあんたは、すでにルゥフェイにとりつかれていたってことが知られているんだから、王族や貴族の連中は、ちゅうちょなくあんたを殺すだろうね。まぁ、この歌を聴いたやつらは、しばらくはぼうぜんとしてるだろうから、うまくやれば逃げられるかもしれない。でも、危険には変わりないけど、やるかい?」


 ラフにそうたずねられ、ティアはすぐに「やる」と答えました。そこで初めて、ラフは自分にとりついているルゥフェイ、『スノウ』を見せたのです。


「こいつのことは、いつもは特殊な札で見えなくしている。もちろん他の退魔師仲間にもね。見られたらあたしもろとも殺されちまう。……その札を使って、あんたのレインも、建国記念日が終わるまでは、いいや、あんたが歌うまでは封じさせてもらうよ。歌を歌って、他のやつらが感情の波でおぼれている間に、札を破ればいい。そうすればレインも温かな涙を集めることができるだろうし、あたしのスノウも温かな涙を集められる。あんたにとってもあたしにとっても得な話だろ?」


 あっけらかんと笑うラフを、ティアはなんとも複雑そうな顔で見ていましたが、やがて一言、「ありがとう」とつぶやくのでした。




「さて、それじゃあここからが本番だよ。なんとかうまく国を脱出できたけど、当然追っ手も放たれているだろうからね。幸いなことにあんたは歌が上手だ。あたしら退魔師は、流れの踊り子として各地を旅して、ルゥフェイや他の魔物の情報を集めていたから、踊り子としてもやってはいける。ま、うまくあたしらが組めば、金をかせぎながら遠くへ逃げることもわけないさ」


 明るい口調で笑うラフに、ティアも力強くうなずきました。二人のまわりに、きらきらと温かなしずくが飛び交いましたが、それはすぐに消えてなくなりました。


最後までお読みくださいましてありがとうございます。こちらで完結となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの共犯エンドだったとは! しんどい思いを乗り越えたからこその喜びや感動ってありますものね。 けれど、感情の振れ幅を小さくしてくれるというのは、実生活においては大変有利な特性だと思うので…
[一言] ルゥフェイは「流飛」なのかなあ、それとも何かもっと別の意味があるのかなあと想像しながら拝読しました。 悲しみを我慢すること、涙を流さないようにすること。どちらもよくよく考えれば不健全な行為…
[良い点] 執筆お疲れ様です。 これからも頑張ってください。点数入れておきました
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