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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
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一章 8話 魔法、そして自己紹介

「……っ敬語も頭を下げる必要もないさ、イレギュラー君、僕達も教えれる事はあまりないんだよ、半人前だからね。だから頭を上げてくれないかい、そんな事しなくたっていくらでも答えるからさ」


 そう言って頭を下げる私を止めるカイルの表情は曇っていた。


 踏破経験者である私に、頭を下げられたのがショックだったのかな? 取り敢えず私は頭を上げる。


「ふん、少しはマトモな表情が出来るじゃねえか……。記憶が無いとはいえ、踏破経験者は伊達じゃないってか」


 少し嬉しげなルインは何だか新鮮だけど期待が重いよ。


 ……まぁ気にしてもしかたない、それよりも聞くことは。


「取り敢えず聞きたいことがある、目的地に着くまでどれぐらい掛かる?」


 たしか馬車ってそこまで早く無かったと思う。

 馬は疲れるし休憩も居る、道も恐らく舗装されていないだろう。


「うーん、多分真夜中になる前ぐらいに着くんじゃないかな」


 え、そんなに早く?

 馬車ってそんな早い物なのかな? それとも迷宮が近すぎるのか、流石にそれはない筈、いやそれよりも馬車に乗ったのは初めてだけど、こんなに揺れないものなのか?


 ……いけない、一人でいくら考えても無駄だ。私も紫髪さんの様な推測癖があるのかもしれないな。

 今は彼らに甘えて素直に聞いたほうがいいよね。


「なんでそんなに早いの? あの御者がなにかしてるの?」


 聞いてみたけれど、実は理由なんて何となくもう分かっている。

 十中八九 ファンタジー的な何かだろう、いや魔法に違いない!


「ははは……そこからか、困ったね、会話は通じるし、一般常識しか覚えてないってところか」


 このカイルの反応じゃ、まず踏破者の中じゃ疑問にすらならない事なんだろう。


 パトリクがわざわざ御者をしているのにはやっぱり理由があったんだ。


「じゃあ自分の技能とかも分からないのね……。そういえば記憶喪失になったら消えちゃうのかしら?」


(技能っ!?)


 危なかった、即座に聞き返す所だった、今の私は記憶喪失なんだ。我慢我慢。


 ……技能、レベル的なシステムなのか、それともスキル的な物なのかな?

 間違えなく私は技能と言うものが低いか無に近い物だろうから、記憶喪失で消えた事にしておこう。


「はっ どのみち中で確認しなきゃ、俺らも自分がどんな技能があるかハッキリとわかんねーけどな」


 紫髪さんの言葉に水を差すルイン。


 迷宮の中でしか確認できないって事なのかな?


「おほんっ話を戻すよ、イレギュラー君、そうだな……。分かりやすく言うと御者のパトリクが魔法で馬を強化しているんだ、魔法はわかるかな? 物語でよくあるアレさ」


 やっぱり魔法あるんだ!

 技能やステータスぽいのもある感じだし、すっごくファンタジーだ、期待が止まらない……。


「魔法、本当にあるんだ、すごい……」


 テンションが上がっていたからか、思わず口からそんな言葉が漏れてしまう。

 すると……


「はいはーい! 私、魔法使いなんですよ、凄いでしょ!」


 いつの間にか近くに来ていたに居たクリルが珍しくどもらずにハッキリと自信満々にそう言った。


 確かに凄い! 魔法使いなんて本当に居るんだ!


「すごい……尊敬したクリルさん」


 ついうっかり、まだ名前を聞いてないのに名前を呼んでしまった。


「そ、尊敬!? そ、それより、いつの間に名前をぉ! わ、私感動しました! 年上だからってさん付けじゃなくて、呼び捨てで良いですよぉ! イレギュラーちゃん!」


 感激したと言わんばかりのクリル。


 私の呼び名はイレギュラーで決定なのかな。


「わかった、呼び捨てにする、よろしくクリル。……ところでお願いがある、魔法を見せて欲しい、この馬車の中でも使えるぐらいので」


 魔法って言っても私の知識(と言っても創作物だけど)の中じゃ色々ある。

 きっと馬に掛けられているのは支援魔法だろう!

 けれど私は攻撃魔法を見たい、具体的に言えば炎を出したりできるかを知りたいのだ!


「ひぃいいい、ごめんなさいいい、まだ魔法使えないんですぅ。……そんな目でみないでぇえ!」


 魔法を使えないのに魔法使いだと? ぬか喜びさせやがって……。

 そんなクリルに私は少し冷たい視線を浴びせる。


「ふふっ イレギュラーさん、気持ちはわからなくもないけれどクリルを許してあげてほしいわ。クリル、貴方もちゃんと説明してあげなさい……。簡潔に言うと迷宮に入らないと魔法は使えないのよ」


 呆れた風に説明する紫髪さん。


 なるほど、そんなシステムなのか、迷宮の中には魔力があるとかそんな感じなのかな?

 しかし、あれだけ誇らしげにしておいて、私をぬか喜びさせた罪は少しだけ重いよ。


「一応クリルの為にフォローしておくと、魔法を使えるって結構凄い事なのよ? まず才能がなければ使えないし、努力も必要、クリル以外私達は魔法を使えないしね」


 紫髪さんがそうフォローするとクリルの満更でもない顔が視界に入った。


 ……ってそれよりも、魔法には努力は兎も角、才能がいるの!?

 ここで魔法を使えるのはクリルだけ、つまり希望的観測を持っても、私に魔法を使える才能がある可能性は4分の1だ。

 

(そう考えると凄く使えなさそうな気がする……)


 いや! 今御者をしているパトリクを入れると5分の2の筈だ!


(……ってあれ、パトリクが魔法で馬を強化しているみたいだけどおかしくない? 迷宮に入らないと魔法を使えない筈なのに?)


「そ、そういうことです! 迷宮に入ったら、それはもうすっごい魔法見せてあげますからぁ!」


 ふふん、と云った様子のクリル。


 やっぱり迷宮に入らないと魔法が使えないみたいだ。

 けどさっきパトリクが魔法で馬を強化しているって云ってた筈だよね?

 ……もしかしたら。


「クリル、試しに魔法を使ってみてほしい……。発動しなくてもいいから、どんな風になるのか見してほしい」

 

 もしかしたら魔法が発動するのではと思いそんな事を頼んで見る。

 ……つい魔法が見たくて頼んじゃったけどちょっと失礼だったかもしれない。試してないわけ無いだろうし。


(でも別に頼んでみただけだし、大丈夫だよね? 減るもんじゃないし……多分)


 けれど帰ってきた答えは少し予想外の物だった。


「え? 何でですか? 迷宮に入らないと使えないんですよぉ?」


 本当に不思議そうに私に聞き返すクリル。


 まさかだけどこの様子だと一回も魔法を試した事がないんじゃ?

 ……これはもしかしたら、魔法が見れるかもしれない。

 すかさず私はパトリクの事を説明する。


「パトリクって御者は魔法で馬を強化しているんでしょ? 今、迷宮以外で、つまりね、試してみたら魔法が使えるんじゃないのかなって……」


 もしかしたらだけど、と私は継ぎ足す。


 まぁそんな期待させる事じゃないしね……私はめちゃくちゃ期待してるけれど。


「……? だから魔法は迷宮に入らないと使えないんですよぉ?」

 

 先ほどと変わらず、全く同じ様に、本当に不思議そうに私に聞き返すクリル……。


 失礼だけどクリルの物分りの悪さに少しイラッと来て、私は直ぐに言い返す様に声を出してしまう。


「だから、もしかしたら魔法が使えるかも知れないからとりあえず試し、て……」


 私は思わず言葉を止めてしまう……。


 何故ならクリルだけで無く、カイル、紫髪さん、ルインまで……みんな一緒の表情で、本当に不思議そうに私を見ていたからだ。


「あぁ……ごめんなさい。迷宮じゃ魔法が使えないんだよね、勘違いしてた」


 流石に場の空気を読んで素直に謝る……。


 思えば彼らは私なんかよりそっちの世界に詳しいんだ、使えないなんてまず常識なんだろう、使えたら使ってるはずだしね。

 きっとパトリクの事も彼らの中じゃ当たり前の何かで、気にするに値する事ではないのだろう。


 ……なんだか釈然としないけれど。

 私の謝罪によってか寄らずか、馬車内の空気は何事も無かったかの様に元に戻る。


「うーん、流石にイレギュラー君は知らない事が多すぎるね……。質問に答えていく形だと時間が足りなさそうだし、順序がめちゃくちゃになっちゃうだろうし。よしっ! 僕が教えないといけない情報を教えるよ、それでいいかな?」


 ……脱線した話を戻すかの様にカイルが提案した。

 

 そうだった、全然思考放棄できていない、考察しまくりだ。

 私の優先すべき事は生き残る為の情報を得ること。


「私もそれでいい、カイルに任せた」


 説明好きそうなカイルに任せよう。


「あはっ 僕は呼び捨てなのかい? そのつもりだったし嬉しいな。そうだ、名前……名前か! よし! まず最初にここに居る全員で自己紹介をしようか! なんたってこの5人は運命を共に仲間だ、一番重要な情報だと思わないかい?」


 何気なくカイルの事を呼び捨てにしてしまっていた。まっ本人もいいって言ってるし良いよね……?

 ……自己紹介か、確かに重要な事だよね。

 記憶喪失だから私はしなくていい……なんて事はないんだろうなぁ。


「けっ 今更お前らの前で自己紹介かよ。……なんかちょっと嫌だな、けどまぁしゃーねーか」


「私は構わないけど、何を言ったらいいのかしら? 取り敢えず一番手はカイルね」


「も、もう私の魔法使いって唯一のアピールポイントを使っちゃたんですけどぉ……」


 約一名を除いて皆、やってくれる気はあるらしい。


「わかったよ、元々僕が一番のつもりだったしね。じゃあ僕の次はルイン、その次はルミナ、4番目にクリル、最後にイレギュラー君でいいね?」


 私もやるのかっ! 偽名を考えるべき?


「じゃあ行くよ? 僕の名前【カイル・ペンドラゴ】! 武器は剣を使う、夢は英雄になる事さ!」


 一寸の迷いも無く言い切るカイル。


 カイルの夢は英雄になる事か、何というかそのままだ。


「ふぅ、こんな物かな、次はルインだね。言っておくけど全員、名前と武器と夢は最低限言ってね?」


 そう言ってニヤリと笑うカイル。


 絶対なのか……。夢はもう決まっているけど、武器かぁ。

 私みたいな初心者は何を使ったらいいんだろう?

 そもそもどうやって入手しようか……。迷宮に落ちてたりするのかな。


「おいっ! 急にそんな事言うんじゃねえよ! ちっ少し考えるから待っとけ」


 ニヤリと笑ったカイルに突っかかるルイン。


 ルインの言う通りだ、やっぱルインって苦労人? 素直だし。

 少しするとルインは喋る内容が決まったのか、腰を上げる。


「あー、俺は【ルイン・オレルアン】俺は槍を使う、んあー……夢ってか目標は生き残って恩賞を受ける事だ。……これでいいんだろ?」


 言い切るとルインは少しだけ恥ずかしそうに腰を下ろす。


 恩賞か、カイルは名声、ルインは富、二人はそのために迷宮を目指したのかな?

 自分から行ったのか、強制的なのか、私は後者と思ってたけど。


「よしっ、じゃあ次は私ね? 私の名は【ルミナ・ウォッチ】、武器は剣と体術よ! カイルとは違う剣だけれど。うーん、そうね……! 夢は迷宮で活躍する事よ! そして聖騎士を舐めている奴らに思い知らせてやるわ!」


 拳を握りしめ、熱い宣言をする紫髪さん。


 私の中の勝手なイメージがどんどん崩れていく。


「も、もう、私の番ですかぁ!? えっと、私の名前は【クリル・フィノン】ですぅ! 武器って言うか魔法が使えますぅ! 夢は魔法を使うことです!」


 夢見る少女の様な顔でそう語るクリル。


 ……まさかと思うがこのビビリの少女は魔法を使いたいが為に迷宮へ行くのか?

 きっと違うよね……っと次は私の番か。


「私は【クライナ・アナベル】と呼ばれていた。武器はない、どうしたら良いと思う? 後……今の所、夢は迷宮に行くこと」


 偽名は使わなかった、信頼できる気がしたのだ。名前ぐらいは明かそうかなって程度には。

 ……目的も夢も勿論これだ。


「イレギュラー君の名前はクライナ君か、んー聞いた事はないね、やはり未知でイレギュラーの踏破者か、ふっふっふっふ。武器は僕とお揃いの剣はどうだい? サブウェポン(補助武器)の小さいダガーならあるよ、いや申し訳ないんだけど、それしかないと言ったほうが正しいね……」


 嬉しそうに笑うカイル、しかしその笑顔にはやはり別の感情も混ざっているように感じる。


 悪気はないんだろうが、私の経歴に感じる物があるのか、私に対する態度が少し気持ち悪い、もっと普通に接して欲しい。

 しかしカイルの申し出はありがい物だ、補助武器だって要るものだろうに……。


「武器の事は後回しにしましょう、大切だけど どうせ降りる時にしか武器は出せないから、それとよろしくねクライナちゃん」


 紫髪さんがそう言って手を差し出してきた。……握手だろうか?


 私も握手に応じる為に、そのしなやかそうな腕に手を伸ばす。

 よろしく!


「ク、ク、ククク、クライナちゃん! わ、私もよろしく!」


 満面の笑みで柔らかそうな手を差し出してくるクリル。


 微笑みながら凄まじいどもりをしているので、少し怖い。

 よろしく!


「お、おい! お前ら待てっ! 何の疑問もないのかよ! 武器が無いのも大概だが……。それよりおかしいのはこいつの夢だろ! 迷宮に行くことが夢ってなんだよ!」


 ルインは複雑な表情で、私と馴染んでいる3人に訴えかける。


 彼の言いたい事は分かる、本来迷宮に行くことは死を覚悟する事、いや聖騎士に至っては死に同義する事だ。

 彼らも自分が高い確率で死ぬと言う事を自覚していた。

 なのに迷宮に行く事自体が目的と言うのは、あり得ない事で、理由があって迷宮へ行く者達からしたら、きっと簡単には許容できる事ではないのだろう……。

 しかしルインの問いかけに対する3人の言葉は予想外の物だった。


「ルイン……。人の夢は馬鹿にしてはいけないよ?」


「あら、私も似たような物じゃないかしら?」


「わ、わたしだってクライナちゃんの事言えないような気がしますぅ」


 ルインの訴えに帰ってきたのは言葉の集中砲火だった。……常識人は疲れるね。


「ちっ もういいっ! 俺がおかしいんだろ! わかったっもう喋らないからな!」


 拗ねるように端っこへ行くルイン。君そんなキャラなの?


「ルインの拗ね癖は置いといて……。自己紹介も終わったし、時間も余り無いし、今度は一方的に説明させてもらうね」


 その言葉に納得したのか、話が脱線しないように、私も紫髪さんもクリルも黙る。


(ふふ、どんな情報が出るのかな……。そういえば現地で色々確かめるって思ってたけど、私にとってはもう迷宮踏破は始まってるし、この馬車も現地の様な物だし別にいいよね? だってトマスに聞くのは何か答えを直接聞くような感じがして嫌だったけど、カイル達はあまり情報を持ってなさそうだしぃ……情報収集みたいな物だしぃ……。生き残る為だしぃ……。)


――グチグチと心の中で後ろめたい様に何かに対して言い訳するクライナ、しかしその表情は心の中とはかけ離れた物だった。


(あぁ……早く知りたいな……)





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