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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
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一章 7話 神器

――私が自分を記憶喪失だと偽ったのは、自分が何も知らない事を知っているからだ。


 きっと怪しまれるだろうし、期待外れと失望されるかも知れないけれど、それでいいからだ。


(だって実際に私は正規の手段で入った者ではない怪しい者だし。実力もなく何も知らない小娘だし、質問されても何も説明できないし、期待なんてされたら困る!)


 もう今更遅いし、考える意味はないけれど、私は他の案について考えてみる。


(適当に誤魔化す?)


 駄目だ、私は何も知らないきっとボロが出る、聞きたい事だって下手に聞けなくなってしまう。


(じゃあ正直に話す?)


 論外だ。まだ記憶喪失の方が信憑性があるかもしれない、それに勝手にトマスの名前を出すのも何だか躊躇してしまう。


――馬車内は、まるで意味がわからないそんな少女の存在で、時が凍りついてしまった様に静かだった。

 が、流石に優秀な者達なのだろう、全員が混乱から立ち直って思い思いに考えをまとめている様だ。

 そして意を決したのであろうカイルが動き出す。


「流石に僕も予想外だったかな……。ははっ」


 彼にしては珍しく少しだけ疲れた様に、しかし楽しそうに笑うカイル。


 そんなカイルの様子に一気に場の雰囲気が和やかになる。

 意図したのかせずか、空気を喋りやすい空気に戻したみたいだ。


「カイル、こんな事誰にだって予想できないわよ……。そうね、私は様々な疑問、聞きたいことでいっぱいだわ。それにルインが言ってた様に武器とか色々どうしましょう?」


 武器もない、記憶もない、持っているのは分不相応な物。

 こんなふざけたかの様な奴が命懸けの迷宮でのお供に急に参加したんだ。

 ……ごめん、そりゃ困るよね。


「ふん、期待させやがって……。まっ どうせそんな事だろうと思ったよ、本物が聖騎士に来るわけねーよな」


 仕方ねーよと言った様子で納得しているルイン。


 うーん、意外と良い人かもしれない。


「だ、ダメダメすぎて、愛らしいですぅ……」


 ボソボソと失礼な事を言っているであろうクリル……。脅かしてやろうか?


 そう4人は思い思いに素直な感想を告げた後に、また作戦会議をするかのように集まる。

 私はそんな彼らを見ながらどっしりと馬車の椅子に体重を預ける。


(迷宮まだかな……)


 そんな事を考えていたら、意見が纏まったのか4人が一斉にこちらを見てくる。


(ふぅーん? さて……。どう出るかな?)


 どうせ何も答えれないと思うと、自然と余裕が湧き出てくる……。

 どうやら最初とは違い紫髪さんじゃなく、カイルが率先して質問を投げかけてくるみたいだ。


「まず前提として僕らは命を預け合う仲間だと言うのを理解してほしいんだ。まずこれから君に様々な事を聞くけど答えてくれるかな?」


 真面目な顔でこちらに問いかけるカイル。


 彼らは記憶喪失でお荷物の私を捨てると言う選択肢があると思う、けれど彼らはどうやら私を捨てないみたいだ。

 それは神器を持っているからか、戦力を期待してか、それとも他に理由があるのかな、何にせよできるだけ報いたい。


「分かった……。分からないなりにきちんと答える」


 普段とは喋り方を変える。

 彼らは年上だし、本来は敬語を貫きたいんだけど、記憶喪失って言ったらタメ口だよね。


「ありがとう……。じゃあまず最初に君の神器が本物かどうか試させて欲しい、左腕を出してくれないか」


 私も気になっていたので素直に左腕を前に出す。

 そうだ、よくよく考えたら本物の訳ないよね?

 だって、そんなもの私に渡すなんておかしいし、腕にフィットしたのは気の所為かも。

 ……けどもし偽物だったらどうなるんだろう、まぁ流石にここで下ろすなんて事ないよね?


――いそいそと私の左腕の周りに4人が集まる、そしてゴクリとルインが意を決したように神器を引っ張る。


「おぉ、取れねぇ! 種も仕掛けもないぜ、カイル、これ、やっぱ本物だ!」


 うわっ……驚いた、力押しなんだ。それぐらいしか判別方法がないのかな?

 それよりも私を驚かせた張本人のルインの言葉に更に驚かされた。えぇ、ほ、本物なの!?


「まぁ分かってたことだけれど、神器を偽造するなんて、恐れ多くてできるはずないわよ」


「やっぱり、本物の踏破経験者みたいだね! 勿論僕はそんな事最初から分かっていたけども!」


「本物の踏破経験者!? ……こ、怖い! で、でも記憶喪失だしやっぱり怖くない?」


「ちっ 宝の持ち腐れだな、なんで記憶喪失なんだよ……。神器について聞きてーことあったのに」


 ガヤガヤと好き勝手喋る4人。

 うーん、少し気になる事がある、よしっ聞いてみよう。


「神器と言ったコレは外す方法は無いの? 例えば誰かに渡したりとか、誰かに殺されて奪われたりとかは? あと神器には何か使い道があったりするの? 」


 トマスに渡されたのだから譲渡は出来るのだろうけど、一応聞いてみる。

 本命は使い道の方だけど、だってこんな名前をしている上に入手難易度の高い代物だよ、何かあるかも知れない、ワクワクする。

 それと同時に狙われるかもしれない、私には分不相応すぎる、当然隠したほうがいいよね。


 少し物騒な私の質問にギョッとしている4人、いや3人か……。

 神器の真偽を確かめてから、なんだか機嫌のよさそうなルインが食い気味で私の質問に答える。


「恐らく外す方法はないな、一度付けたら一生そいつのもんらしい。奪われる可能性もない 持ち主が死んだりしたら消えるらしいからな。これらの事を踏まえると俺は渡すこともできないと思うぜ、ま、そんな罰当たりな事しようとも思わないけどな」


 私に話しかけていると言うより、まるで神器に話しかけていると言っても過言ではないぐらいに、神器をガン見しているルイン。


 ……もういい、トマスが何故私に渡したのかはもう考えても無駄だ。何を考えてるのかわからない。

 ルインはそのまま話を続ける。


「悪いが使い道があるかどうかはわからない……俺たちは神器に関してさっき言った事ぐらいしか知らない。元々神器持ちなんて貴重なんだ、会う機会も無いし、情報も規制もされていると思う」


 悔しさ混じりのため息をつくルイン。


 使い道があるかどうかわからないか、トマスも何も言ってなかったし、無いのかな?

 いやあいつはただ単に何も教えなかっただけだろう、そう思いたい……。

 結局分からないか。


「悔しいけど、聖騎士は舐められてるのよ! 一人前以下だからって! はっ! 何よっ殆どの踏破者がそもそも一人前以下じゃない! 私達含めて殆ど迷宮初心者でしょうがっ!」


 何やら紫髪さんが荒れている。聖騎士は軽視されていて情報規制されているのかな?


 ……けどトマスの言っていた、冒険者の存在を考えたらナイス判断だったと思っちゃうな。


「ルミナの事は置いといて、次の質問するよ、イレギュラー君、分かる所だけでいいから答えて欲しい、君は何時から何処まで記憶があるんだい? 何故……と言うより、どういう動向で今回の踏破に参加することになったんだい?」


 カイルは少しだけ不安さを滲ませながら私に問う。


 この質問は私を探っていると言うよりも、何処からの命令で私が参加する事になったか、どのような流れで私が参加したのかを聞きたいのかな?

 確かに彼ら視点で考えると、とてもじゃないが正気ではない、様子を見る限り4人はもう信じてくれているだろう、私が記憶喪失で何も知らないのだと。

 そしてそんな一般人と変わらない存在を迷宮に送り出すのだ、神器の情報すら与えずに……そんな命令を下したのが自分達のこの国の組織の人間か気になる、そんな所かな。


「私が憶えている事は今日だけ……。目覚めたらよくわからない男にここに連れてこられて、馬車に乗れと言われた、それだけ、何も知らない方が好都合、約立つみたいな口ぶりだった」


 嘘に真実を混ぜると信憑性が増すって聞いたが、私が言った事は真実に嘘を混ぜたって方が正しいかなって感じだ。

 なんせ嘘の部分が3割、真実7割ってとこだしね。


「何も知らない事が好都合だと……? はっ ますますわけわかんねーな、それに今日の記憶しかねぇのかよ、まるで誰かが今日の為に目覚めさせたみてぇだな」


 ……私の今の状況はルインが言った事とそう間違っては居ない、その事はいくら考えてもきっと無駄だろう。

 すると唐突に私の後ろから、分かったわ、と自信満々の声が聞こえる、何を……?


「……何も知らない方が好都合? なる程ね、分かったわ! 貴方は記憶喪失になる程のショックを受けた、それはその神器を手に入れた迷宮で起きた事、そうね辛うじて踏破するも悲惨な目にあった、もしくは仲間が全滅…したのかしら? ……きっとそうだわ、だから貴方と言う存在も迷宮踏破も隠蔽されていた、一人しか生き残らずに、迷宮踏破しても唯一の生き残りの貴方が記憶喪失になってしまったのだから。そして知識を与えないのは貴方に何らかの拍子で、迷宮で起こった事を思い出させない為ってとこかしら?」


 まさに閃いたわ!と云った表情で、同意を求めるように周りを見る紫髪さん。


 なんと……! 常識人と思っていたから衝撃が大きい。考察って言うか推測するのが好きみたいだ。

 それにしても私の記憶喪失が嘘だからいいけど、そんな事を本人の前で言うのは……。


(デリカシーがないってレベルじゃないよ!)


「……おいやめろバカ、冗談でも本人の前でそんな事、得意げにベラベラ言うんじゃねえよ。あとその理屈はおかしいぜ、それが事実ならなおさら迷宮に送ったら不味いだろうが」


 私をフォローしたことを誤魔化すかの様に、フンと吐き捨てる様にルインは即座に否定の声を上げた。


 やっぱりルインっていい人なのかもしれない、ギャップ効果かもしれないけど。

 ……少し様子が気になってに私はチラリと荒れる様な質問してきた張本人、カイルの方をチラリと見る。


「……」


 私のと言うよりはそんな英雄の悲しい過去のストーリーを想像して居るのか、悲しそうな顔で私を見ていた。

 ……くっ否定したいよ、このままじゃ凄いキャラ付けになっちゃう。


「っごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの、私の悪い癖だわ……」


 自覚しているし、ルインや周りの反応を見る限り、紫髪さんにはそういった癖があるのだろう。

 ……嘘に謝られて私の方が罪悪感が出てきたよ。


「大丈夫、私は気にしてな「けど私の推理は間違ってないわよ! ルイン!」


 ……罪悪感を抱いて凄く損した気分だ。


「だったら迷宮に送る時点で不味いって? そんなの上が気にすると思うわけ? 只の少女ならともかくこの国の踏破者かつ神器持ちなのよ? 毎回聖騎士は死んでいる、今更そんな事気にすると思えないわ」


 自分の推理が否定されたのが気に食わなかったのか紫髪さんは即座に反論する。


 彼女の言葉が決して広いとは言えない馬車内に広がる。


(流石にそれは駄目だよ……)


 よりによって今から迷宮に行く道中の此処で言っていいような発言じゃない……それは。


「くっ……。俺は死ぬ気はないからな、絶対に……」


 張り詰めた顔で言葉を吐き出すルイン。馬車内の空気が下がった気がする。


 ……迷宮まだか!? ていうかこんなパーティで大丈夫なの?


「ひ、ひぃいいいいいい怖いですぅ、迷宮って記憶が無くなるぐらいの事が起きる所なんですかぁ~!」


 何やら隅で喚いているクリル、癒やされる。

 そんな一抹どころじゃない不安を抱く私に

 

「はははっ、イレギュラー君、心配しなくても大丈夫だよ。ルミナの推理癖はいつもの事さ、僕達は5年前にこのチームで組む様に決められ、これまで冒険者学校で共に学び、共に行動してきた、君が思う程僕たちは脆くはないさ」


 いつの間にかこちらへ来たカイルがフォローする、まぁ今回は少し場合が良くなかったけれどと付け加える。


(チームを組んで5年か……)


 そんな現実的な数字を突き詰められて、ハッとさせられる。

 脳裏にトマスのこれまでの忠告や、さっきまでの自分の考えが過る……。


(前世の記憶と高揚感で自惚れてたのかな私は……)


 それが悪いとは言わない、だが少なくとも良くはない、今の心構えではダメだ!

 今から自分が行くのは生存率0%の地獄だ、命が惜しいわけではない、だが私は弱い、最初に死ぬ可能性が一番高いのは彼らではない、間違いなく私だ。


(それだけは嫌だ! ゴブリンやオークには殺されたくない! 死ぬとしてもせめて居るであろう迷宮の主を見たい!)


――そんな高いとは言えない志を胸に私は気持ちを切り替える。

 私にとってもう既に迷宮踏破は始まっていたんだ。

 迷宮に着くまでのこの旅路もきっと迷宮での生存率上げる為の準備期間になるうる筈だ、この間に出来る事は……。


「もう私に答えられる事は無い……です。次は私の番、情報のすり合わせ…じゃなくて、聞きたいことがたくさんあります、教えてください!」




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