一章 6話 彼女なりの贖罪と同乗者達
――最後に乗り込んで来た見慣れぬ少女に、聖騎士である少年少女達の視線が集中する。
燃えるような赤い髪をした少年は興味深そうな視線で、
美しい紫色の髪をした少女は驚いた様な視線で、
荒々しい緑髪の少年は怪訝そうな視線で、
柔らかそうな藍色の髪の少女は怯えるような視線で、それぞれ新参者の少女を見る。
(うわっ、やっぱり注目されるよね、世知辛いなぁ……)
◆◆◆◆◆
――馬車に近づくほど、足が重くなる。
(嫌だな……)
途中ならまだいい。もう全員揃っている状態の馬車に入るのは中々勇気がいる。
御者だろうか? 中年ぐらいでなんだか見覚えのある男に、トマスが声を掛ける。
「おーい、パトリクさ~ん!」
そう呼び寄せる様に手を振りながら、声を上げるトマス。
……ってパトリクって本来私が探してた先生だ! やっぱりサポート役だったのか!
パトリクがトマスに気づいて駆け寄ってくる。
「あ~先生? 私ってパトリク先生に見つかっても大丈夫なんでしょうか?」
ここに来てやっぱり無理なんて事になったら……。
「…そういえば君のことを知ってるのかも知れないのか、あー不味いかも、パトリクさんは頭が固いしねぇ。一応これで服と顔を隠してくれないかい?」
そう言いながら私に上着を渡し、パトリクの視線から私を守る様に前に出る。
そういえば、私ってまだ学校の制服だったな……。
(あれ、そう思うと本当に何にも用意してないけど、大丈夫なの……?)
……っと危ない危ないパトリクがもう近くまで来ていた。
――私の学校の先生のパトリク・ミューズベリ
40代相当の少々厳つい、中年寄りのおじさんだ。
「あぁ、どうしたんだトマス? 何かあったのか? ん、誰だ……? そいつは」
ジロリと私の方を胡散臭そうな目で見てくるパトリク。
失礼な奴め、怪しさ満点で悪かったな!
「パトリクさん、この子は新しい聖騎士です。急いで連れてきましたよ。なんとか間に合ったみたいで いやぁ~良かった、良かった」
そんなトマスの言葉を聞いた途端、パトリクの表情が一気に変わる。
例えるなら何考えてんだテンメェ! って感じの表情でなんだかヤバそうだ。
「……連れてきた? 間に合って“よかった”? トマス、お前、本気で言ってんのか? それに一体どっからの流れ者だ? 今回の聖騎士はあいつら4人だけって話だろ」
話し合うつもりはあるようだが、怒りを押さえられないと言った様子のパトリク
かなり怒っているようだけど、だがその怒りは正当性があるように感じる。
……参加できないなんていまさら御免だよ? 頑張れトマス!
「失礼ですね、パトリクさん。……僕は本気ですよ、彼はこの国の人間で何の知識もないし、つい先日まで学生だった、唯の子供ですよ。この件に関しては凄まじい才能……いや資格を持っていると思いませんか?」
ニコニコと、どう考えてもトマスは説得には向かない真反対の言葉を告げている筈なのに、その言葉にパトリクは露骨に狼狽え、そして鬼のような形相になる。
「この国の人間? 凄まじい才能に資格? ふざけるなっ! あり得るわけがない! もしあり得たとしてもそれが何だっ! わざわざ死にに行かせるような物だぞっ! お前の話が本当だとしてもなぁっ! そんなもんに意味なんて無いってっ、お前がッよく分かっている筈だろッ!」
トマスの言葉に納得が行かないのか、パトリクは自分の思いを吐き出すかの様に言葉を出す。
……どう考えても今から出発する。聖騎士の馬車の前で話す内容ではないよね、縁起が悪すぎる。
そんな二人の会話の内容に考えを巡らしていたけれど、思わず中断されてしまう。
「今更ッ……? それはこっちのセリフですよ! 貴方こそ何を今更、善人ぶってるんだ! これまでさんざんやって来たことでしょう! それに失礼を承知で言わせてもらうが、どうせ今回の犠牲者が4人から5人になるだけだ! それが、貴方達の……僕達のやり方の筈だろっ!」
怒り……何かがトマスの怒りの琴線に触れたのか、これまで飄々としていたトマスが思わず激しい感情を見せながら噛み付く。
そんなトマスにパトリクどころか、私まで面食らってしまう。
「……取り乱して失礼しましたパトリクさん、けれどこの子が参加すること自体には何の問題も無いはずだ? 貴方の気持ちも理解できますが、これ以上は口を出さないで頂きたい」
静かな怒りだけを残し、落ち着きを取り戻すトマス。
「……ちぃッ! 分かった。お前が理由無しにこんな事をするとは思わん……だが俺は認めんからな」
そう言ってトボトボと馬車の方に去るパトリク、凄く申し訳無さを感じる。
トマスとパトリク、話の内容の限り明らかにトマスが悪でパトリクの方が正しく感じられ、私を案じて居てくれているのが伝わってくるけれど。
(……ごめんなさい、これは私自身がトマスに頼んだ事なんだ)
「……おっと、取り乱してごめんね、見苦しい所を見せちゃったかな、これが君の記憶に残る最後の僕の姿だと思うと恥ずかしいなぁ。あっ何か遺言とか有るなら、今のうちに聞いとくよ? 時間もまだ有るみたいだしね」
さっきまでの怒りが嘘のようにへらへらと私に棘のある冗談を飛ばすトマス。
パトリクとの会話と云い、先生結構酷いこと言ってないかな、遺言とかさ……あっ!
「あー、親に上手く伝えといてもらえませんか?」
もういつもならば私は家にいる時間だ、きっともう学校に連絡が言ってるだろう。
「えっ? 君親御さん居るの? 嘘でしょ? 娘さんを死地に送るのに一体なんて言えばいいんだ……」
本当に嫌そうな顔をするトマス。
「門限あるっていいましたよね、まぁ親には特別に聖騎士に選ばれたとか言っておけば大丈夫ですよ、安心してください」
脳裏に母様の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「そんな事で安心できるわけないじゃないか。……君の顔を見る限り冗談じゃないみたいだね。わかった、任してくれ。それと……君の家庭環境を察するよ」
うるさいやい。
「あっ、それともう一つ、最後に質問があるんですけどいいですか?」
「クライナちゃん、今日の質問は5個までって言っただろう?」
「えっと、そういうのはいいんで……。ごほん、さっき影武者が代わりに行ってると言いましたが、もし聖騎士が全滅して私だけが生き残っても、ちゃんと修行とやら成功した事になりますか?」
「へぇ……? もうそんな先の事を心配してるのかい、随分余裕じゃないか。けど意外だね、君にも地位や財産が欲しいという感情があるのかい?」
「はぁっ、いちいち嫌味ったらしいですね、違いますよ。……あの、代表スピーチって知ってますよね?」
「君こそ嫌味かい? 僕を何だと思ってるんだい。知ってるよ、それがどうしたのかな?」
色々とあって忘れてたけど、そういえばこの人ってクルア学院の先生だったっけ。
「……私の一方的な知り合いが今回の代表に選ばれたんですよ、それだけでもとっても名誉な事ですよね。けどですね……さらに今回、聖騎士が帰還したらもっともっと名誉な事になると思いません?」
これこそが私のアイデア、ふふふ、きっと償いになる筈だ。
「なるほどね……そういう事か。そのヤケにムカつく自信満々の顔といい、発想といい全く君は……。くくく、安心してくれ、その時は成功になるよ」
失礼な事を言いながら、もっと失礼な事に私の顔を見ながら……嬉しそうに声を殺しながら笑うトマス。
けれど悪い気はしなかった、きっと、これまで見え隠れしていた同情心も罪悪感もなかったから。
「はぁ……。そのままずっと笑っていたらどうですか? 私が帰って来たら次は驚いた先生の顔を見ながら笑ってやりますから」
私の言葉を聞くな否や、ほんの少しだけ悲しそうな顔をする。
「帰ってくる、か。……クライナちゃん。他の踏破者の影に隠れてもいい、無理に頑張ろうとしなくてもいい、僕は君と言う大穴に賭けたんだ。生き残こるだけでいいんだ。それだけで僕達の勝ちさ」
珍しく真剣な表情で私を忠告をするトマス。
……だけど。
「賭ける? 先生って言うほど私に何か賭けてます? そりゃ感謝してますけど、結局私は生き残るための知識どころか、殆ど何も知らないじゃないですか」
まぁ聞くつもりはサラサラ無いけれど、だけどこんな一般人同然の私を参加させる位なら、迷宮の存在を秘匿しなくても良さそうなのに、まぁきっと理由があるんだろうけど。
「そんなこと言って、聞かなかったのは君じゃないか…。きっと君は後で更に僕に感謝する羽目になるよ。……残念だけどもうお別れの時間がきたね、そろそろ覚悟を決めて馬車に乗るんだ」
そう意味深な言葉を残しながら追及を避ける様に、シッシッと私に馬車へ行くように促す。
心配しなくても追及なんかしないのに、それよりもう馬車に乗るのか。これもダンジョンの為に辿り着く為だ! 覚悟を決めよう!
そう思いながら私は馬車の方へ近づく、やっぱデカイな、キャラバンって奴だろうか? 大人が6人ぐらいは乗れそうだ。
……馬車に乗る直前にトマスの方を見る。
(お別れか……)
これまで、できるだけ考えないようにしていたけれど、きっと私は死ぬんだろうなと思う。
私は死んでも悔いはないし、むしろ私が望んだ事なんだ、けれどきっとトマスは罪悪感を感じるだろうとそんな事を思ってしまった。
……だから
「先生ー! ありがとうございましたー! 先生を脅したお蔭で夢が叶いますー!」
皮肉でも何でも無く、感謝の気持ちと嬉しさを込めて、トマスに感謝する。
これはトマスのせいでも何でも無く、私自身の夢だって。
少しだけ遠くにいるだけなのに、もう会うこともないかもしれないトマスに手を振る。
「……もし僕が、君の夢を叶えたと言ってくれるのならば、どうか次は君が僕の夢を……」
トマスは苦笑交じりの笑みを浮かべ、ボソボソと何かを言いながら手を振り返しながら去っていく。
私はそれを見届けてから、やっと馬車へ乗る覚悟を決める。
私の言葉を聞いたからか御者のパトリクがギョッとしているが気にしなかった。
――そうして私は覚悟を決めてキャラバンの中に入った。
◆◆◆◆◆
――もうすっかり夜だ、馬車の窓から月の光が差し込む。
こんな夜に出かけた事なんて、しかも馬車に乗ったことなんて今世でも初めてだ。楽しいけど……周りの視線をひしひしと感じる。
彼ら4人はずっと何かを相談して居たようだが、覚悟を決めた様に全員こちらにハッキリと顔を向けてきた。胃が痛い。
緊張した顔で紫の髪の少女が語りかけて来る。彼女がリーダーなのかな……?
「えぇっと貴方は一体何なんなのかしら? 聖騎士しては幼いし、学校の年下にも貴方の様な体格の人は居なかったはず……。それじゃあもしかして別の所の踏破者? 今回の迷宮に参加するのはわかりましたけど、何故此処へ来たか教えてくれないかしら?」
凛とした雰囲気を纏いキリッとした目つきの紫髪の少女――ってのは長いし、彼ら全員を髪の色で名前を呼ぼう。
そう紫髪さんが質問の嵐を浴びせてきた、まぁこんな怪しい奴が居たら警戒するよね、まだトマスから貸してもらったブカブカの上着で姿を隠してるし。
……けどごめん、その質問に私は答えられない、だって分からないから。
「……」
何も喋らない、面倒くさいだとか、社交性が無いからとかでは断じて無い。
口は災いの元だ、何も知らない私が迂闊に喋らないほうがいいだろうとそう判断しただけだ。
「無視? まさか言葉分からないって訳じゃないわよね? なにか事情があるのかしら?……そのブカブカのマントくらい取って素顔を見せてくださらない?」
めげずにそう要求してくる紫髪さん。
いきなり無視をしたのにこちらを気遣う様子を見る限り、どうやら紫髪さんは心が広い人みたいだ。
だけどその要求は受け入れられない。申し訳ないけど無視して居たらいずれ引き下がるだろう。
「……」
馬車内に少し嫌な雰囲気が漂う。
「……もし事情が有るとしても、少しぐらい喋ったり歩み寄る努力をしたらどうですか?」
不機嫌そうに眉をへの字にする紫髪さん。
ごめんなさい……けど喋らない。
「君、少し失礼じゃないかな? おっと大丈夫、別に僕達は怒っているわけじゃないよ。唯、こんなギリギリに参加したイレギュラーくん、そう! 君に興味があるだけさ、ふふふ……」
険悪なムード……。そんな様子を見かねたのか、礼儀正しいそうな、まさに聖騎士って感じの雰囲気を纏った、赤髪が私達の間に入る。
けれど赤髪が私に向けてくる視線にはなんだか怪しげな感情が混ざっている。
……あっちの言い分は分かるけれど余計喋るつもりがなくなった。かなり整った容姿だが失礼だけど少し残念な人なのかな、と一言で察せられた。
「おいっカイル、ルミナに任せるんじゃなかったのかよ……? まぁいい、おいマント野郎……お前いい加減にしろよ? ここに送り込まれたって事は俺たちと協力しないと行けないって事だ、分かってんだろ? …それともまだ無視を決め込むか?」
刺々しい目付きをした緑髪が苛ついた声そう言った、怖い、こちらも整っているが不良って感じだ。
……協力しないと行けないの?
緑髪の様子を見る限り、嘘をついている様ではないみたいだ。…よし素直に謝ろう。
「ルイン、そんな乱暴な言葉遣いで喋るとおも「失礼な事して、ごめんなさい」
赤髪ことカイルの発言で、余計喋りづらそうになりそうなので先制して謝る。普段と少し口調は変えながら。
「体格からして思ったが、やっぱり女かよ」
私の声から察したのか、馬鹿にするような言葉を飛ばす、緑髪ことルイン。
「あらルイン 私とクリルも女よ、はぁ、こんな奴が居たら黙るのも無理ないわね。……私もさっきはいきなり問い詰めてごめんなさいね」
紫髪さん、なんて心が広いんだ。よかった~優しそうな人で。
「お、女でよかったですぅ……安心しましたぁ」
これまで一言喋らなかった藍色の髪のかなり可愛い小さな少女こと、クリルがそう言う。
彼女は恐らく臆病なのだろうか、すっごいビクビクしてるし、よく迷宮に行くつもりになったね。
「君は女性なのか、ふふふ、正にイレギュラーな存在だな。さぁマントを取ってその姿を僕に見せてくれないかい!?」
ワキワキと腕を動かしながら嬉しそうに笑うカイル。
いくらイケメンでもその手の動きは良くないと思うよ? 外したくないなぁ……。
「こらカイル抑えなさい! ご、ごめんなさいね、普段はこんなのじゃないんだけど、ちょっと夢見がちって言うか、英雄願望があるって言うのか……」
カイルを抑える紫髪さん。
英雄願望か……。誰かに憧れているのか、それとも表に出ない踏破者の物語や、御伽噺があるのだろうか?
「……茶番はいいからさっさとしろよ」
ため息混じりにルインが吐き捨てる。
「脱がないと、ダメ?」
果たして外さないとダメなのだろうか?
情報共有なら喋るだけで良い気がするけど、共有できる情報なんて殆ど無いけどもさ。
「ダメよ、会ったばかりとは言え、これから命を預け合う仲間なのよ? さ、マントを外してくれないかしら? 時間は有限よ、聞きたい事もたくさんあるし、情報のすり合わせもしないとね」
えぇっと どうしよ、もう勢いに任せよう!
「……わかった」
私は勢いに任せてトマスの上着を脱ぐ……。
――上着を脱いだ私を見た反応はそれぞれ違った。
――カイルは何かに気づいたように驚愕した顔になってから、そしてワクワクとした顔に。
――ルインはこんな奴で大丈夫なのかよ、と伝わってくる様な失礼極まりない顔を。
――名前は分かっているけれど、何となく呼び方はそのままの紫髪さんは、更にこちらを疑うような顔を。
――クリルは何故か安心しきった顔をした。……もしかして同類だと思われているのだろうか?
「えっと、あなた見た感じイルレオーネ王国の人間よね…? つまり王国には私達聖騎士以外にも踏破者がいたって事かしら? って! それってもしかしなくても聖クルア学院の制服よねっ!? 一体どういう事なのっ!?」
紫髪さんは詰め寄る様に私にそう尋ねる。
(王国には聖騎士以外には踏破者は居ない感じなのか、今そんな事知ったよ……)
そう言われても私には何も答えられない、どうしよう。
「ちっ 学生服だ? 舐めてんのかその格好……。ますます役に立たなさそうだ、それよりこんな奴が戦えんのか? って! お前武器は!? 俺たちは馬車に予め置いてるが、最終確認をした時にお前の荷物はなかったぞ!?」
ふてぶてしい態度を取り続けてきた、ルインが初めて驚いた様な顔をした。
そんな反応に少しだけ悦に浸っていた私だったが、それは驚いても無理はない事実だった。
むしろ武器を忘れていた事に私が一番ビックリする……。というかトマス、私に賭けたって言った割に色々と酷くない? この質問にも答えられない。
「え、えっとぉ、わたし、あなたとなら仲良「待ってくれッ!」ひッ!」
そんな大声を出したのは何故か静かにしていたカイルだった。
……やはり嵐の前の静けさだったのか、一体次はどんな事を聞かれるのだろう。
まぁ何にも知らないし、どうせ答えられないって考えたら気楽に行けるなぁ、あはは。
「君、そのマントを取ってよく見せてくれないか?」
何だこの変態、なんてつまらない冗談は止めておく。
恐らくこのマントの事だろう。このマントはトマスが渡した者だ。もしかしたら凄い物かもしれない。
いやそうに違いない……。これがとっておきのアイテムなんだろう、どの道私じゃわからないし見てもらおう。
「ありがとう、いや、やはり……」
やっぱりなにか凄い物なのだろうか? ルインも紫髪さんもクリルも興味深そうにマントを見ている。
「普通のマントにしか見えねえけど……これがどうした?」
あれ、トマスさん……?
「全身像もどこか抜けてそうで、ふふ、可愛いですぅ、友達になれそうですぅ」
ブツブツと何か言いながら、こちらを生暖かい目で見てくるクリル。
何故かとっても舐められてるようだ。私ってそんな舐められるような見た目だったかなぁ?
記憶を探るもこれまでの私は無表情のせいで人を寄せ付けなかったせいで参考にならないなぁ……。
(まぁ……避けられるよりは嬉しいよね)
「違う……! 彼女の左腕を見てくれ、期待以上だ。イレギュラーだって? 彼女はまさに本物の踏破者さ!」
そんなどうでも良いことを考えていたら、カイルが緊張、興奮そして期待を混ぜた様な顔で、重要な事を告げる様に声を変えて説明する。
――その瞬間私の左腕に全員分の視線が集まる、勿論私もだ。
思い当たる物と言えばトマスから貰った証の腕輪しか無いが、そんなに凄い物なのだろうか?
確か聖騎士は一人前になれるかどうかと言っていた。
きっとこれは一人前の踏破者の証で、彼らは全員一人前以下だから珍しいのだろう。
トマスめハードルを上げてくれる……。
そんな考えを巡らせながら彼らの反応を伺う……。なんだろ? 少し驚きすぎじゃないかな
「おいっ! お前ソレ! 神器じゃねえか! 何処で手に入れた! 何処の迷宮を踏破しやがったんだ!」
「……っ貴方! 踏破経験者なのっ? なんで踏破経験者が聖騎士に!? それより踏破経験者が王国に居たって言うのっ!? いやっ! 長い間、迷宮踏破は達成できていないはず、貴方は一体なんなの!? 」
「ひっ! な、仲間なんて思って、すみませんでしたっ! 生意気でしたよねっごめんなさい! でも踏破経験者なんて知らなかったんです、許してくださいぃいぃ!」
「ふふふふふ、想像以上だ! 元から死ぬつもりはなかったけど、まさか踏破経験者と同じチームで行動できるとはねっ! これも運命って奴かな! あっはははははっ!」
――取り乱しながら口々に喋りだす4人、これは踏破者の証なんて生易しい物ではなかった。
これはきっと迷宮踏破の証だ。それだけでこんな取り乱す物なのか、否、取り乱すだろう。
聖騎士はもはや帰って来ないのが当たり前だ。この4人も心の何処かで、もしかしたら死ぬと思っていたのかもしれない。
もし今回の攻略が全滅せずなんとか成功したとしても犠牲者は必ず出る筈だ。そうしたらきっと一人前以下のこの4人は犠牲者側の人間だ。
そんな所へ踏破経験者とやらが来たのだ。先程のルインの言葉とカインのチームと言う言葉から察するに、どう動くかは知らないがある程度グループは決まっていると思う。
だからこそ、こんなに取り乱すしているのだろう。
……単純に迷宮踏破経験やこの神器とやらが凄いだけかもしれないけど。
(一番取り乱して居るのは、私だよ……私が一番驚いたよ! トマスめ! やってくれたな!)
――無駄にハードルを上げすぎである。
いくら周りに踏破経験者と思われようが実際の私はズブの素人、質問にすら答えられない、武器すら持ってきてない少女なのだ。
トマスもそんな小娘に何という物を押し付けているのだ!
前言撤回だ、賭けすぎじゃないかっ! 重すぎない?
(まずいよ、そろそろみんな落ち着いてきたみたいだ。……どうしよう、どうしよう、何にも答えられてない、元の基準さえ満たして無いのにほんとにハードル上がり過ぎじゃないか? どう考えても怪しすぎる……最悪殺されるかもしれない! やばい……もうみんな完全に立ち直った。どうする私? そうだっ!)
――クライナの強み、それは水準以上の家庭で生まれ、これまで才能に不自由したことなく、何でもこなせる才色兼備で容姿端麗だ。
けれど今はその強みは役に立たない、しかしクライナには今日手に入れた、新たな強みがある。
それは前世の記憶、それによってこの状況を打破する最善の一手をクライナは思いつく。
「ははっ、代表して改めて僕が質問させていただこうか。……君は一体何者なんだい? 何故聖騎士の此処へ? それとこれは個人的興味だが、君が前攻略した迷宮について聞かせてもらえないかな? こんな機会滅多にないし、きっとこれからの参考になる」
「ごめんなさい、分からない……。何も、覚えてなくて」
――即ち記憶喪失である。




