↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

さようなら(おやすみなさい)、おはよう(ただいま)

 尾島真(しん)は急いでいた。デートに遅刻してしまいそうなのである。最も、今から走ったところで待ち合わせ場所には間に合うことはない。しかし「遅刻はしてしまったが、君のためにこれだけ走って来たのだ」という誠意を少しでも見せるために走っている。そもそも、デートの待ち合わせに数十分遅れただけで彼女に嫌われてしまうということはないだろう。尾島真にはその自信があった。なぜなら真はいわゆる学校の王子様なのである。学校では、真の一挙手一投足が注目を浴びる。彼はすべての分野で上の下くらいの成績であるのだが、周囲の称賛を受けるのは一番の成績の人ではなく彼だった。廊下を歩けば、女子たちからの熱い視線を感じるほどである。しかしながら、男子からも憎まれることはなかった。それくらい真は性格もよく完璧な人間だった。その人気から生徒会長となることは必然的だった。また、街を歩こうものならあらゆる芸能事務所のスカウトが三十分ごとに声をかけてくる。そんな彼をやっとの思いで射止めた彼女が遅刻くらいで嫌うはずはない。しかし、王子様だからとはいえ遅刻しているのに歩いて登場されれば気分が悪くなるだろう。というわけで、走っていたのである。

 前方の信号が点滅している。もちろん急いでいるので、突っ込む。真は確認を怠っていた。後方から来た右折車もまた急いでいた。運転手は真に気づくのが一瞬遅くなり、そのまま真を轢いてしまった。

「これは夢、だよな……」

 真の華麗なる王子様生活はこうして幕を閉じた。


 ※


 高岡新(しん)は高校生である。友達が少なくて、物静かで目立たない普通の高校生である。今日も周りから相手にされることはなく、おとなしく本を読んでいるだけで一日を終えることができた。

 一見、つまらなさそうな高校生活だと思われてしまいそうだが、この生活は将来のためであった。もちろん多くの同級生は友人と馬鹿なことをやって騒いでいたり、彼女を作ってイチャイチャしたりしている。それは決して間違った行動というわけではないが、この世界でそのような行為を行うのには危険を伴っているのだ。

 自由には責任が伴うという有名な言葉である。新が生きるこの世界では、この言葉が大きな意味を持っていた。

 将来の"自由度"は成人するまでのその人の行動によって決められる。それがこの世界だった。最初は誰にでも自由な権利がある。しかし、成人するまでに罪を犯してしまったり、反社会的行動をとってしまったりした場合、それらの重大さに応じ、罰として自由が奪われる。例えば、知り合いにお金を借りてそのまま返さないでいた人は、将来所持できる財産に制限が設けられる。学校の委員会活動などへの出席が極端に少ないかったり、そもそも委員会に属さなかったりした人には就ける職業に制限があったり、昇進することができなかったりといった自由や権利が奪われる。十分な将来設計をせずに子供を作ってしまい、育てることができなかったカップルからは子供を作る自由が奪われる。という具合に、成人するまでの生活が成人後の生活の質を決める世界がここ、日本なのである。だから、もし友人と遊び歩いてたりしたら、自分でも気づかない内に軽い罪を犯してしまっていることがあるかもしれないと新は考えていた。それは避けなくてはいけない。信じられるものは自分だけだ。

 というわけで、豊かな将来を得るために、誰かと触れ合わず成人を迎えようと考えていた。もちろん、人との接触が少ないことが社会的によろしくないことで、それにより自由の制限が起きてしまうかもしれないと一時期は考えていたが、今のところそれによる通達はない。それに人と話せないわけではない。共同作業に関しては何とかやっていけているし、何か用事があれば人とだって話す。ただ親しい友人を作って世間話をしたり、遊んだりということはしないだけだ。何はともあれ、このままの生活をあと三年も続ければ、社会ヒエラルキートップの人生が待っている。

「今日も変わりなし」

 新は日課である日記をつけた。

「今日はこの本を読もうか」

 眠りに落ちるまで読む本を本棚から取り出し、ベッドに向かった。


 ※


「んっ……」

 真はまだ重い瞼をゆっくりと持ち上げていった。目に髪の毛が刺さった。

「俺って、こんなに髪長かったっけ?」

 朦朧としていた意識がはっきりしてくると他にも違和感を感じることがたくさんあった。見慣れない天井、まるで自分のものではないかのような手足。そこでようやく真は自分に起こった事を思い出した。

「そういえば、あの時車にはねられて、それで、うっ……」

 吐き気がした。あれは夢ではなかった。それならば、今自分が置かれている状況も理解できる。伸びた髪はそれだけ自分が昏睡状態にあったということだ。見慣れない天井だって、ここは病院なのだから当たり前である。手足の感覚がおかしいのだって、事故にあったのだから障害くらいできていても不思議ではない。とりあえず今は奇跡と医者に感謝しようと思った。

「シンー、早く起きないと学校に遅刻するわよ。遅刻したら将来の自由が奪われますよ!」

 誰かの声がした。聞き覚えはないが、自分の名前を呼んでいるということは確かだ。

「なぜ学校に行かなくてはいけないのだ。それに僕は今永い眠りから目を覚ましたばかりなのだぞ。奇跡の生還だ。本当ならば自分を慕う家族や学校の人たちが枕元にいて泣いて喜ぶところだぞ」と、思ったところで初めて真は天井以外、上ではなく横を向いた。

「ここはどこだ?」

 病院にしては生活感がありすぎる。そもそもここは病院なんかではない。そう、ごく普通な高校生の部屋だったのだ。


 ※


「遅刻だっ!」

 新は飛び起きた。実際には飛び起きることはできなかった。体が悲鳴を上げたのだ。

 遅刻は重い罪ではないが一年の内に五回以上してしまうと、将来の職業に影響が出てしまう。それでは四回までなら許されるかといえばそうもいかない。犯した遅刻の数は厳密にカウントされ、記録には残される。将来、同じくらいの成績を収めてきた者同士で争いになり、他の罰としてあるもので優劣を判定できない時などには遅刻など細かな違反が運命を分けることになる。新は今まで遅刻はしたことがないので一回くらいどうということはないが、完璧な将来を目指す彼にとっては許せない行為である。というわけで急いで着替えて家を出ようと思っていたのだが、それはできなかった。それに、そこまで考えが及ぶ前に彼の思考は止められていたのだ。

「シンが起きたぞ!」

「よかった、無事だったんだな」

「それにしても、起きて最初の言葉が『遅刻だっ』だなんてどれだけ学校のことが好きなのよ」

「もう、心配したんだから。でもシンなら絶対に戻ってきてくれるって信じてた」

 ベッドの周りには何人もの人がいて、各々が涙を流して喜んでいたり、歓声の声を上げていた。

「俺、ちょっと医者を呼んでくる」

 一人が部屋を出て行った。

「ここは、どこですか? 皆さんは誰なんですか? 確かに私は新ですが、どうしてあなたたちは私の名前を知っているのですか?」

 新は、痛む体を少し起こして言うのであった。

大まかなプロットしか作っていない、完璧な見切り発車ですが、見守ってやってください。

よろしくお願いします。

気分がいいときに更新するため、不定期です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。