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 サチは仲尾町に住む農民の家に生まれた。貧しいが、慎ましく静かに暮らしていた。五歳下に幼い弟がいて、洗濯物を干すときは庭までついてこられた。


『ねえね、あそぼ』

『ねえねは仕事しゆうき、あこに行っちょって』

『やだぁ』


 まだ六つになったばかりで、家族が忙しく働いていても、周りでちょろちょろ駆け回るだけだ。サチはそれがたまに羨ましくて、鬱陶しく思っていた。今も掃除をしているというのに、足に纏わりついてくる。土間から母が顔を出して言った。


『そこはもうえいき、弥一と遊んであげて』

『分かった』


 サチは箒を立てかけ、弥一を呼んだ。


『おいで。ねえねと遊ぼ』

『ねえね!』


 こうして抱き着かれると、重くて重くて、先ほどの鬱陶しさが頭の隅から消えてしまう。ずるい弟。とても愛らしくて、やはり自分は弥一の姉なのだと実感する。


『今日はどこ行くが?』

『そうねやぁ、川に行きたい』

『川は河童が足引っ張る。けんど、あこの川ならえいよ。足元しか浸からん』


 そう言って、サチが家から見える小川を差した。魚も獲れないこじんまりとした川で、まるで雨で出来た水溜まりのようだった。


『行く。カエルおる?』

『おるかもなぁ』


 弥一は手を挙げて喜んだ。


 川はサンジン様の山から続いていて、いつも枯れそうなのに枯れないでいる。弥一が顔を近づけて覗き込んだ。


『わぁっ太いおたまじゃくしがおる』

『ねえねにも見せて』


 弥一の横から顔を出す。弟の言うとおり、もう足が出そうな、大きなおたまじゃくしがすいすい泳いでいた。


『獲りたい』


 濡れるのも構わず弥一が両手を川に入れる。しかし、おたまじゃくしは幼い手からするりと逃げていった。


『ああ~、やいちのおたまじゃくしが』

『残念。きっと次は獲れるちや』


 弟を宥め、二人で川の傍を散歩する。危ないところには絶対に連れていかない。冒険もしない。これが姉の勤めだ。


 弟が飽きるまで歩き、食べられる草を摘んで家に戻った。もうすぐ陽も暮れる。今度は腹が減ったと騒ぐだろう。そうしたらまた、姉の出番だ。


『ねえね』

『なぁに?』


 貧しいけれど、皆精いっぱい生きていた。

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