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5

「太一は何か食べた?」

「食べた! フランクフルトとチョコバナナと焼きそば」

「まだお祭り始まったばっかなのにすごい食べるね」

「けんど、年に一回しかないき」


 言いながら、飯田が清の後ろに気が付いた。


「その子が親戚の子?」

「ああ、うん。そう」


 見つかったことを理解したサチがもっと隠れるが、やがてひょこりと顔だけ出した。


「誰!? どこの子なが?」


 珍しく飯田が食い下がってきた。中学一年生の食指が動いてしまったらしい。


「こんばんは」


 サチがぽそぽそと挨拶する。


「違う町の子だから。ちょっと恥ずかしがり屋なんだ」

「えぇ~、そうかぁ。また今度会うたら紹介してねや」

「うん」


 手を振りながら、会った時と同じように元気よく去っていった。飯田はいつでも元気だ。周りを明るくさせてくれる。


「はぁ、びっくりした。大丈夫だったかな」

「大丈夫。不思議がってなかったから。太一は僕の同じクラスなんだ」

「へぇ、いいね」


 清以外の人間に認識されて、サチは少しだけ自信を持てた。

 その時、神社から軽快な音が響いてきた。


「お囃子が始まったんだ。行こ」


 並んで神社の階段を駆け上がる。そこでは大勢の人がお囃子の様子を見学していて、清たちもその中に紛れて聴いた。


「素敵。皆上手だね」

「踊りたくなっちゃうね」


 実際、櫓の下ではお囃子に合わせて踊る人が何人もいる。陽も暮れて、いよいよ祭りらしくなってきた。清がサチに目配せする。


「ちょっと来て」


 人混みから抜け、大木に二人でもたれかかった。サンジン様の神木に比べたら小さいが、それでも樹齢数百年は経っていそうな立派な木だ。


「なに?」

「写真撮ろう」

「いいよ」


 スマートフォンを持っていないサチも写真に慣れてきた。特に、カメラ機能はお手のものだ。


 狐の面を被ったサチと一枚撮る。自撮りなので上半身までしか写らないが、なかなか満足のいく写真になった。


「あと一枚。お面外してくれる? ここなら誰も見てないし、見られても暗くて分からないから」

「うん」


 これは清とサチだけの思い出に。二人で歯を見せて笑って撮る。やっとサチの笑顔が見られた。お面を付けていれば人間の振りはできるけれども、やはり、素顔の彼女がいい。


「楽しいね、お祭り」


 お面を被り直したサチが言う。今、彼女はどんな顔をして言ったのだろう。お面を外してしまいたくなるのを、清はぐっと堪えた。


 まだ祭りが終わらないうちに喧騒から離れる。手と手が触れ合いそうな距離で歩いていたが、清が心配そうにサチを見遣った。


「山に帰るんだよね?」

「うん。夜はいつも祠にいるから」

「でも、サンジン様がまだいたら」


 先ほどのサチの動揺を思い出して、清は山まで送ることを躊躇っていた。サチが緩く首を振る。


「サンジン様が一日中山を歩いたことはないから平気だと思う」

「そっか。もし、何かあったら、僕のところへ来て。呼んでくれたら、走っていくから」

「ふふ、分かった」


 ぽつぽつ、明かりが減り、山の麓まで来るともう真っ暗だった。清はサチの手を掴もうとしたができずに手を振った。


「またね」


 サチが一人、山に入る。


 暗いのは怖くない。毎日のことだ。山に何か出ることもない。怖いのは、優しいサンジン様だけだ。サンジン様はどうしてしまったのだろう。思わず逃げたが、今思えば理由を聞いておけばよかった。もしかしたら、具合が悪いのかもしれない。次会うのはいつだろう。一か月後か半年後か。


「サンジン様、どうしちゃったのかな……」


 祠の横にある洞穴の中で丸くなる。夜が明けることを祈ってサチは目を閉じた。

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