第三章 失われた記憶
サジェが立つ番をしている時、ミリヤとアロアは拭き取りの練習をした。アロアの手とサジェの手を借りて、何度も何度も練習した。そして、十日ほど過ぎて、二人が「そろそろいいでしょう」と言ってくれた。
同時に、二人に厳しく言い含められた事があった。
「指輪は、同時に二つ以上外してはいけません。必ず一つずつ、外したらすぐに空の指輪を嵌めるように」
繰り返し聞かされるほどに、必ず守らなければならない決まりらしい。ミリヤは、頑張って記憶した。
ある夜、作業が終わった後、パルマがミリヤを呼び止めた。
「ミリヤ、少し話があります」
二人きりになると、パルマは静かに言った。
「私は、昔のあなたを知っています」
ミリヤは、驚いた。
それは、神殿の子どもたちが誰も知らないと言っていたことでもあった。
「......いつ、ですか?」
ミリヤは、息を呑んだ。誰も知らないはずの、自分の過去。
「あなたと一緒に学んだのは、私が七歳の時でした。」
パルマは、遠い目をした。
神殿の奥の院では、十六歳になるまでの子どもたちが学んでいる。しかし、十六になったばかりのミリヤと三十を過ぎたパルマが一緒に学ぶなどあり得ない。
「あの頃の私は、神殿に来たばかりで。誰も知らない場所で、寂しくて、毎晩泣いていたの」
パルマは静かに語り続けた。
「あなたはいつも一人でいたわ。でも、私が泣いていると来てくれたの。『ひとりぼっちなんかじゃないよ』と慰めてくれた」
パルマの目に、涙が浮かんだ。
「一年後、あなたは神官になって、どこかへ行った。でも――五年ほどして、あなたは戻ってきた。少しも変わらぬ姿で。何事もなかったかのように」
ミリヤは、言葉を失った。
「そしてまた、いなくなって。その間、どうしていたのかは知りません。――でも、私はもう30を過ぎたのよ。――姉さん」
その言葉を聞いて、ミリヤは思わずパルマの顔を見つめた。脳裏に一瞬白い少女の泣き顔がよぎる。
混乱するミリヤをよそに、涙を流しパルマは語る。
「私は知っています。あなたが、普通の子どもではないことを。でも、子どもだった私は、あなたに救われたの。とても感謝しているわ」
ミリヤの胸が、熱くなった。涙が溢れそうになる。
「だから、今度は私が、あなたを守りたい。たとえ、あなたが覚えていなくても」
「パルマさん…ありがとう」
ミリヤは、初めて感謝の言葉を口にした。
パルマは優しく微笑んだ。そして、一度深呼吸すると、ミリヤの胸の辺りを指さした。そして、落ち着いた口調で告げた。
「その指輪――それが、あなたを縛っているのでしょう。でも、決して外してはいけません。あなた自身のためにも。」
ミリヤには、何も心当たりがない。パルマの言葉が、わからない。
「それはどういうことですか?」
「私に言えるのは、その指輪を肌身離さず持っていなさい、ということだけです、ミリヤ。」
何故か、パルマは痛々しそうにミリヤを見ていた。




