9話目 魔道出版の提供でお送りします
〜一年前・保健室前、アリシア視点〜
あの後直にオリバーの所に向かったが、見つける事は出来なかった。
決闘委員会のステラ曰く、
『あの二人、男の友情の塊みたいな関係ですからねぇ〜
保健室にエドガーさんの様子見に行ったんじゃないですか
・・・これから発展して一線超えちゃえばいいのに・・・
・・・あっ! 今のは聞かなかった事で!
オリバーさんは性格悪いけど、二人とも、そこそこカッコイイですからねぇ〜
ステラさん的には、オリバーさんが受けで・・・』
どうでもいい話が続きそうだったので、走って逃げて来た
だからだろうか、若干、息を切らしている
それにしても、あの女は何者だ?
目を輝かせて変な話を喜々として私に話すのだ・・・
同性愛とかを否定するつもりは無いし、そういう話が好きな女性も友人が居るから何とも思わない
しかし、ステラのアレは病気だ・・・
現在、狙撃手学科に所属する友人と会わせたらトンデモ無い事になりそうだ
少しばかりの悪寒を感じながら保健室の前に立つ
恥ずかしながら入学以来一度も訪れた事の無い施設である
他の生徒達はクエストを終えた後や、授業の後に利用する事も多いと聞く
学園では怪我人が多く保健室には高度な医療設備があると聞く
中には、この保健室での治療を目的に持病を抱えながら入学して来る生徒も居るとか・・・
どちらにしても、アリシアには無縁だった
以前所属していた学院の保健室も一度も利用した事が無い
自身の健康管理ぐらい普通に出来るし、クエストなどで怪我をしたとしても大抵は大した怪我ではない、たまに戦闘に支障を来す深手を負う事があったとしても、回復魔法でどうにでもなる範疇だ
生まれて初めて入る・・・
とは、言い過ぎの様な気がするが、ある程度は緊張する
意を決して、扉に手を掛けた瞬間・・・
「エドガー・・・
俺は手を抜かれるのが心底嫌いなのだが・・・
アレはどういう冗談だ?」
「あはは・・・、だってオリバー、俺が本気で『スキル』使ったら死んじゃうじゃん」
「ほほう?
自身の信念を掛けた決闘で良い御身分だな。
俺はギャンブルで勝ちに来ない奴が大嫌いなんだ・・・
知ってるか?
世の中には負けてはならないギャンブルだってあるんだぜ?」
保健室から聞こえて来たのはオリバーの声と、先ほど目を回して気絶した筈のエドガーの声だった
〜一年前・保健室、エドガー視点〜
エドガーにはちょっとした悩みがあった
入学当初から『神速の魔槍』という渾名が付いた事により、生徒達に良くも悪くも絡まれる事が多くなったのだ
廊下を歩けば、パーティーへの勧誘が寄り付き
自主練してれば、弟子入りを志願して来る生徒が群がり
教室で大人しくしていれば、決闘を申し込まれる・・・
一年間、そんな生活を続け、ほとほとウンザリしていた
誰か他に押し付けれる人材は居ないものか・・・
そこで思いついたのは、
決闘でわざと負け、相手に全て押し付けるという方法だった
そうすれば、俺より強い方に皆行くだろう・・・
しかし、この作戦における大きな問題にエドガーは直面した
俺が負けても不審がられない程度に強くて、決闘を受けてくれそうな奴って誰だ?
別に自慢じゃないが、俺はかなり強い・・・
そこら辺の生徒に負ける要因が一つもないし、負けたら不自然だ
決闘を申し込んで来る奴らも、そこそこ強いが、俺が負ける程ではない
と、なってくると同じ『渾名持ちの生徒』ぐらいしか居ない
しかし、そう言う奴らは決闘申し込んで来ないし、逆に決闘に興味を示さない奴も多い
それにオリバー以外の『渾名持ち』とは、深く関わった事が無いため、いきなり「決闘しようぜ!」なんて言えない・・・
いや、一人・・・、一人だけ常時、決闘ウエルカムな渾名持ちが居るが、ソイツと戦うとなると手を抜くことが出来ない(抜いた瞬間に殺されそう)
そんな時、飛び込んで来たのはオリバーの決闘の話・・・
しかも相手のハルカさんが試合放棄することになるとは・・・
利用しない手はないねwww
俺はこうして、まんまと決闘に負け、全てオリバーに押し付ける事に成功した
しかし、スキル系の技を一つも使わなかったのは、露骨に手を抜きすぎたか?
冷たく怒るオリバーさんがとても恐いですwww
〜一年前・保健室、オリバー視点〜
オリバーは教科書の内容を思い出していた
『スキル・・・
細かい分類はあるが、大きく分けて、
『専用スキル』、『ジョブスキル』、『ユニークスキル』に分類出来る技能の総称
ここでは『ジョブスキル』について特筆する
『ジョブスキル』とは、初代八聖勇者が作り出した『ジョブ・システム』の恩恵により扱う事の出来る特殊技能であり、歴代にその役割を担った先人達の『記憶』であり『技術』である。
『ジョブスキル』には大きく2つに、『攻撃系スキル』と『補助系スキル』に分けられ、攻撃系スキルを使用する際には、スキルに見合った魔力が消費される。
『ジョブスキル』を取得するためには、その『ジョブ』を極めて『スキルポイント』を獲得し、最寄りの教会で『魂の器』に注がなければならない。この際、新しいスキルを取得する事も、既存のスキルを強化する事も感覚的に調整する事が出来る。
『ジョブスキル』は、そのジョブ特有のスキルであるためジョブチェンジ後は使用出来ない
(勇者養成学園・入学の手引き、より抜粋)』
そして、そのスキルを極めているのがこの男、エドガーなのだ
魔力量が多いのに、必要最低限の魔法しか覚えたがらないコイツは、有り余る魔力を有効活用するためにスキルを極める事にしたらしい。
元々、魔力制御が得意な奴なのだ
筆記さえ出来れば一角の魔術師になれたかもしれない、それほどの才能を秘めている男
『攻撃系スキル』も魔力制御は重要な項目である
おなじスキルでも魔力制御の制度で優劣が生まれる程だ・・・
よって、高精度の魔力制御が行えるコイツは、スキルを覚えた事で無双を始めた・・・
それほどの人物が、スキルを一度も使わず負けると観客はどう思うか?
「守銭奴が、決闘相手に毒を盛った」、「守銭奴による八百長疑惑?」、「あの決闘に隠された、守銭奴の思惑とは・・・」とか、ただでさえ良いイメージを持たれていない俺は一躍、大悪人に格上げされる。
俺に暴言を吐いた観客も、明らかにエドガーの様子がおかしい事に察しが付いたのだろう(観客内で気付いていたのは極一部みたいだったが)、それ故の暴言だった訳だ・・・
別になんと言われようと興味は無いが
それによって店の売り上げに影響が出るのは笑えない・・・
実は俺も静かに怒っている
俺は、ギャンブルに対し真剣勝負の心理戦を望む質だ
手を抜いた事に対して憤りを感じる。
よって、今回、手を抜いたコイツには相応のお仕置きが必要だ
「さて、決闘の後の徴収をさせてもらおうか?」
「まっ、まて、オリバー
それは、店の利権だった筈だぞ、俺には関係ない!」
一陣の白い風が吹き、突然、白い着物の女性が現れる
それは、アルコールを抜かれ腑抜け状態となったハルカであった
「・・・そうは問屋が卸しません・・・」
ぼそり、と呟く様に言った彼女は
アルコールが入った状態とは対照的に清楚な印象を受ける
酔いが急に醒めて頭痛がするらしく、眉間に皺を寄せ顳顬を押さえている
「ベッドで休んで聞いていれば、勝手を言ってくれますね・・・
泥酔状態だったといえ、わたしと交わした約定はオリバーに勝つ事だったと記憶しています
負けた・・・、しかもワザと負けた貴方との約定を、わたしが律儀に守る必要は無い気もしますが?」
酒飲むと、性格変わる奴が居るが
コイツはソレの典型例だろうな
一人称から変わってやがる・・・
「俺は、普通に戦ったぜ! 全力で!」
ハルカは、ホトホト呆れ果てたと言わんばかりに頭を振る、そして・・・
「なら、わたしと本気で戦ってみますか?
嫌でもスキルを使う羽目にになると思いますが?」
「ぐぅ・・・」
「それに、わたしとオリバーは貴方の戦闘力は熟知しています
それを騙そうなどと・・・
無駄な足掻きも良い所ですね」
「で、でもあのな、今日はちょっと調子が悪くてスキルが本調子じゃなく・・・ひぃ!」
ハルカが無言で、愛刀『村雨』を抜く
空気に『村雨』独特の嫌な湿気が含まれる・・・
「苦しいですよ
ジョブスキルは使っていなかったようですが、あれだけユニークスキルの恩恵で出せる超スピードを披露したのです。本調子じゃ無いとか言わせませんよ?」
「はっ、ハルカさん!? 俺とオリバーの試合見てたんですか!?」
「ええ、養護教諭先生が水晶を貸して下さったので途中から、
いつもより速かったですよね?」
とうとうエドガーは黙り込んだ、いい気味だ
俺がほくそ笑んでいると・・・
「オリバー貴方にも言いたい事がありますよ」
「・・・えっ!」
俺は酔いが醒めた後のハルカが苦手だ、流石に現4年生最強の一人は違うな(酔いが醒めたとき限定だけどな)・・・
俺、何か怒らせることしたか?
「・・・そこで、聞いている貴女も入って来なさい」
ハルカは、保健室の入り口に優しく言った放った