13話目 投資は未来への布石です
〜サミュエルの工房からの帰り道、レイチェルの屋台・レイチェル視点〜
変な人が入って来た
赤い瞳に漆黒の髪・・・
感じられる闘気は武人のソレだが、武人らしさはを1欠片も感じさせない風貌
吸血族にしても龍人族にしても小柄すぎる自分が言うのも何だが、
華奢な体型だ。美男子に分類されるルックスだが、その鋭すぎる眼光が近付きにくい雰囲気を醸し出す。
それに、
武人にしては纏っている雰囲気が異様だ、
狡猾であり、神経質であり、強欲であり、慈悲深く、正義感に溢れ、それでいて冷酷・・・
彼女の一族は『闘気』を見る才能に恵まれた一族だ
半分しか血が通っていない彼女にもある程度は観える
これらは全て、彼が纏う闘気によって観えた情報・・・
(歪すぎる・・・)
率直な感想である、
闘気を観る眼を持つ彼女は、他人の才能も垣間みることも出来る
彼の持つ才能は多彩すぎる・・・
これではまるで・・・
そこまで考えた所で、彼と目が合った
恥ずかしさのあまりカウンターの下に身を隠す
・・・失敗した・・・
レイチャルはコミュニケーションスキルに欠ける性格であった
それが最近、さらに悪化した・・・
理由は、唯一自身のあった弓でスランプに陥ったことが大きい
スキルを発動しているのに勝手に起爆する矢・・・
私の責任でダメージを負う仲間・・・
そして唯一の特技を否定された瞬間・・・
それらがトラウマになり、彼女はアーチャーを辞めた
トラウマの影響か、他の狙撃系のジョブにチェンジしても、放たれた物体は何故か爆発する
それを何度か繰り返し、『誤爆の名手』という酷いレッテルを貼られた・・・
いや、彼等は悪く無い
仲間を巻き込んで矢を放つアーチャーなど、居ても無意味だ・・・
そして、
元々、料理を作るのが大好きだった私は転科し、ジョブを料理人にチェンジした
しかし、
先生方から絶賛される故郷の料理も、不評によりまったく客が来ない
レイチェルの店で出される料理は爆発する・・・
そんな台詞を、アーチャー時代の仲間が言っているのを見た夜
自室で毛布に包まり泣いた
学園内で唯一、まともに喋れる姉は
私に嫌気が差したのか最近一言も口を聞いてくれない
レイチェルの精神はズタズタだった・・・
そして待ちに待った、初めてのお客様は、この得体の知れない男・・・
何回もシュミュレートした単語を間違え、カウンターの下に隠れてしまった
必死に謝罪の言葉を出そうとして出たのが、
「・・・あ・の・・・かっ、かお、・・・じっと見ないで・・・ください・・・/////」
だ、・・・これだから私は駄目人間なんだ・・・
まだだ、まだ、挽回出来る
「おっ、お客さま・・・ごっ、・・・ご注文は!!?」
「・・・メニューがないぞ・・・」
一瞬、頭が真っ白になる
メニュー?・・・メニュー・・・メニュー、メニュー、メニュー・・・メニュー!!!
あわわわ、なっ、なんて失敗を!
このままではこの得体の知れない不気味な男は、怒りに狂い暴れだし、私の店を全壊させる・・・
最悪のイメージが脳裏を掠める
それほど、レイチェルにとってオリバーは恐怖の対象だった
「あ!? あわわわわわ・・・どっ、どうしよう!?
はわわわわ、初めてのお客さんに、とっ、とんだしっ、失礼を・・・ど、・・・どうしよう!?」
必死に辺りを見回しメニューを探す・・・
無い・・・無い、無い、無い・・・
探している最中にお客様が何か質問して来て、私はソレに答えた記憶があるが・・・
それどころでは無い、何を聞かれたか覚えていない・・・
やっとの思いで見つけたメニューは、なんと、私の後ろに立て掛けられていた・・・
「あ・・・あの、メニュー・・・です、どうぞ」
レイアウトには自信のあるメニューだ、写真も使って料理を美味しそうに載せている・・・
出来れば怒って帰らず、一口でもいいから食べてほしい
レイチェルの切実な願いだった・・・
メニューを開き、お客様は思案を始める
普通ここまで接客が悪ければ、怒って帰るだろう
内心、驚いたが二度同じ失敗はしない
(見かけによらず、いい人なのかな?)
そんなことを考えている最中、注文が決まったらしくメニューを閉じ、顔を上げた
「肉じゃが、焼き豆腐、唐揚げ、それと・・・ご飯大盛りで」
それは、私の得意とする料理であった
〜レイチェルの屋台の中・オリバー視点〜
出て来た料理を見て、内心、歓喜した
昔、食べた『和食』と、容器さえ違えど、変わらぬ外見、変わらぬ匂い・・・
・・・まだだ、味が伴わなければ意味が無い・・・
一口、口に放り込んだ
肉じゃがだ・・・、出された料理の中で一番、料理人の腕が試される料理・・・結果は、
「凄く旨い」
おもわず口に出た
店主に失礼かと思い顔を上げると、小柄な少女は何故か涙目だ、そして・・・
「うぇえええええええええええん、よがったよぉおおおおお」
涙腺が崩壊したらしい。
〜20分後〜
一気に飯を搔き込み
泣いているレイチェルの面倒を見る
もっと味わって食いたかったが
飯の感想を一言で言うなら、旨かった・・・
俺の今まで食って来た『和食』の中では随一(比べられる程、食っていないが・・・)
誰に食わしても、誰も文句を言えない味だ
しかし、あの料理を『誤爆の名手』がねぇ・・・
背中をさすっている少女は、まだ泣き止まない
何がそんなに悲しいのか?
客に旨いと言ってもらえて泣くとは・・・理解に苦しむな・・・
彼女は嗚咽を繰り返しながら、声を出す
「すっ、すみません・・・ぐす・・・
私、お客様に、・・・ぐす・・・美味しいって言われるの始めてで・・・」
「?」
これほどの腕だ、不味いという奴は居ないだろう
それこそサミュエルがデートプランの一つに組み込みそうだ
隠れた名店としてな・・・
しかし、ここで思い至ったことがある
『風評』か・・・
彼女の渾名は悪名高い、
俺は既に学園に居ない者だと思っていた・・・
なぜなら、この悪名の影響でパーティーを探しても、誰一人、組んでくれないからだ
その辛さは、オリバーが・・・いや、『呪われた168期生』の生き残り8人全員が経験したことだろう
それを彼女は、弓の道を捨て、料理人として学校に残っている
それは、かつてのオリバーが歩んだ道とは違えど、酷似していた
安っぽい正義感が働く・・・
馬鹿か、俺は?
この娘に何をしてやれる?
最後まで面倒が見れないのなら、最初から手を貸す訳には・・・
脳裏に浮かんだのはアリシアの顔だった
最近、廊下ですれ違っても口すら聞かない彼女・・・
俺は1年前、あの馬鹿の根性を叩き直すと決めたのだ、それで購買部に引きずり込んだ・・・
屋台を見回す、
食材こそ高価だが、屋台は至る所にひび割れや亀裂が生じていた・・・
こんな店では、風評以前に客が寄り付かないだろう・・・
第一、接客がなっていない
『和食』に寛大な俺だからこそ許せたものの、普通の客では怒って出て行くだろう
この接客態度は商人の先輩として叩き直したい・・・
せめて、新しい店を出す金を集めるまでは・・・
俺も甘いな・・・
彼女の顔を覗き込み、提案を口にする、
「なぁレイチェル、俺の店で働かないか?
うちの店、丁度人員不足でな・・・
それにお前の店も、こんなボロい屋台では客もより付かんだろう
そうだ?
新しい店を出す為にも、俺の店で元手を溜めてみないか?」
彼女はキョトンとした顔をしている、
いきなりこんなこと言われても理解出来ないか・・・
「・・・貴男はいったい、誰なのですか?」
「・・・俺は、購買部運営委員会会長・オリバーだ、巷では『守銭奴』と呼ばれている』
一度、彼女は驚きの表情を浮かべ、
そして直ぐ、情けない表情はそのままだが職人の顔になった
「・・・ぜっ、是非、『商神』様の元で働かせて下さい!!!」
『商神』・・・
この渾名は、商人・職人学科の間で俺への畏怖を込めて使われる渾名・・・
俺の所有する、アレに由来して付けられたのだが
学園全域にはまだ浸透していないらしいな
たまにこの渾名で呼ばれて、誰の事か解らなくなるのだから・・・




