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二日おき六時に更新
全身を擦り傷にまみれさせずぶ濡れになって帰還した甥に、叔父夫婦は困惑もあらわに飛び付いてきた。
ぼくはそれに曖昧に笑って答えるしかない。男にはそういうこともあるんだろうと、叔父は妙な理解の仕方を示し、叔母は何があったのとしきりに眉をひそめた。
暗くなった夜道をぼけっと歩いていると目の前を大きな野犬が飛び出してきて、思わず身をよじるなり足をもつれさせて頭から転倒、全身に打ち身を作りながらアスファルトの上を転がって擦り傷を負う。そこをすかさず追ってきた野犬から逃れようと、水路の中に飛び込んだ……などという世にも情けない作り話をユーモラスな口調で語って見せて、どうにか叔母の苦笑と納得を引き出したところで。風呂場を借りに行く途中で律子さんに声をかけられた。
「どうしたのよ?」
「それが野犬に襲われて……」
「未明くんが自分の失敗をしゃべる時は、だいたい嘘かでたらめなのよ」
見透かされている。ぼくは肩をすくめてみせる。
「本当に大丈夫なの? 大事には至っていないようだけど、最近は少し物騒だし……」
「物騒?」
ぼくが首をかしげると、律子さんは眉を若干ひそめて
「白い死神っていうんだけどね……。都市伝説みたいな話なんだけど、実際このあたりではずいぶんと人が殺されてるし」
ぼくはおおいに興味をひかれて律子さんの顔をのぞき込む。律子さんはそこでほんの少しだけ顔をしかめて、頭からずぶ濡れになったぼくに言った。
「先にお風呂に入ってきなさい。風邪ひくわよ?」
いえいえそんなことよりお話を。言おうとしたが、こちらをのぞき込む律子さんの表情が少し怖かったので、従順にそれに従った。実際のところ、飛び込んだ水路の中は思った以上に冷たくて、その後夜風にも当たっていたため、凍えてしまいそうに寒かったのだ。
カミシロミコトのひんやりとした表情が思い出される。
真っ白で巨大な怪物を、従えるでもなくそっけない表情で見守っていたカミシロミコト。あの怪物がどれだけ暴れて狂おうが、斧を使ってぼくを殺してしまおうが、さほど興味もなさそうだった。
闇夜にぼんやりと浮かび上がった真っ白な表情が思い出させる。酷く超然とした振る舞いで、水路に横たわるぼくにそっけない視線を向けた彼女。
『この子のことは内緒にしてあげて』
それは無茶な要求のはずだった。殺されかけた人間にそれを黙っていろなどと、本来とんでもない非常識だと突っぱねてしかるべきことである。
だがしかし、淡々と口にしたミコトのその言葉には、不思議と従わずにはいられない、強い引力のようなものも感じられた。今にも吸い込まれそうな人形のように整った白貌。くっきりとした存在感。
二度と忘れられそうにない。
転校生というのを経験するのは始めてのことではなかったが、それでも小学生以来のことだったし、ぼくは高揚と緊張の入れ混じったような心地で廊下に立っていた。
叔父夫婦の家に預けられたときと同じように、適当に無難な受け答えをしていれば良いのだろうと楽観しようとしてみるが、しかしそれで通用するのは相手がこちらに好意的だった場合に限る。
もっとも大松島の人々はどこかおだやかな印象があるが……と、まだ話をした人間も数えるほどしかいない中でそんな風に思ったりもして……できれば前の学校でしたみたいなことはしたくない……。廊下で一人緊張しがちに待っていると、教室の中から担任教師の声がした。
眼鏡をかけたやせぎすの、どこかすすけた印象のある男の先生の前を通過し、ぼくは三年一組の教室を漠然と見渡す。
今のところは誰が誰かもわからないので、有象無象がひしめいている印象しか持たないが。自分たちの教室への侵入因子であるぼくを、どのように処理するべきか手をこまねいているといったところだろうか。
ただ一つ気になったのは……教室の窓際最後尾に位置した空席の机に、何やらマーカーらしき黒い落書きが迸っていたことだった。この距離からでは内容までは読み取れないが、少なくとも机の主が自分で書き込んだという感じではない。ぼくは腹の底から得体の知れない不安のようなものを感じつつ、先生に促されるままに黒板に字を書いて見せた。
「西条未明。未明は夜明け前の未明」
そこで、教室の後ろのほうで制服をちゃらい感じに着崩した集団が、ぼくを迎え入れるニュアンスで口笛を鳴らしつつ、測るような視線を向けて来ていた。
これを威嚇と取ってしまうようでは、円滑な中学校生活は送れそうにない。ぼくがにっこりと微笑み返すと、彼らは少々いぶかしむような表情でこちらを見詰め、すぐに曖昧な笑みを浮かべた。
「こんな緑の多いところに来るのは初めてで。とても感動しています。大松島の皆さんはとても親切で。特にここ大松島中学の生徒の方には、一昨日の祝日に町の案内までしていただきました。すごく良いところに引っ越してきたなぁと嬉しく思う限りです。今年一年、どうかよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げたが、まばらな拍手が起こる訳でも応答があるということもなく、ただ奇妙な沈黙が教室を支配するだけだった。担任教師が少々困ったような表情で微笑むと、それからぼくを教室の開いた席へと招待してくれる。
生徒たちの視線がぼくに集中した。
そのいぶかしむような視線の中に、さてこいつをどうしてやろうか……などという攻撃的なニュアンスのものがないことを確認し、とりあえずの安堵を浮かべる。ただなんというか、どこか警戒したような、唐突に教室に飛び込んできた異物をいぶかしむようなそんな視線だ。
ぼくはそれらの視線になるだけ笑顔で答えるようにしつつ、しばし教室の中を見渡す。律儀な担任教師がぼくがどこから来たのかどういう生徒かを説明してくれていて、それに気をとられている一人一人の生徒の顔を、順番に頭に刷り込ませていく。
そうしていると、廊下側の席に座った一人の生徒に、ぼくはある種の既視感のようなものを感じ取った。
その視線はどことなく素朴な顔立ちした背の低い女子生徒のもので……。その子は教師の話にぼんやりと耳を傾けながら、しばしばこちらに視線を寄越し、目が合うなり、照れたようにしてそっぽを向いた。
どうしてその女の子に強い関心を抱いたのか……少し考えてすぐに思い至った。見たことがあるのだ、アレに良く似た少女の姿を。それも飛びっきり強烈な印象を伴って、それは記憶に焼きついている。斧を持った白い異形、それを上回る怪物染みた存在感と、極めて高い濃度の無関心を秘めた、どこかそっけない視線。
「……カミシロミコト?」
だがしかし。共通しているのは端正な目鼻立ちや、人形めいた肌の色といった外見的特徴だけで、ミコトにあったような底の知れない吸引力は備わっていなかった。カミシロミコトとは髪の長さも雰囲気も違えば、何より存在の濃度が違う。
それでも大きく興味を引かれたことは事実であって……朝のホームルームの時間が終わると、ぼくは誰に話しかけられるよりも先に席を立ち、廊下側に座るその少女の元を訪れてこう尋ねた。
「はじめまして。お姉さんか妹さんはいない?」
そういうと少女は面食らったようにこちらを向いた。教室内が若干のざわめきに満たされて、そこら中の視線がぼくに向かって集中した。かまうものかと、ぼくは思った。
「唐突で申し訳ないんだけれど……この前、それらしき人にあったんだよ。うん、すごく魅力的だった。それが君と良く似ているからさ、なんていうのか、気になったんだけれど……」
「その人」
少女はいぶかしげにこちららを向いて、恐る恐るといった調子で声を振り絞った。
「なんて人?」
「いや。言えない」
このことは誰にも言うなと、他ならぬカミシロミコトにそう言われていたからだ。と言っても、それはあの白い怪物についてのことであって、はたして彼女の名前にまで口止めが適応されているのかどうかは分からなかったが。
「言えない?」
「うん。ごめんね、ちょっと事情があるんだ……。それで、どう? 君、お姉さんか妹さんは?」
「いる」
少女はほんの少しだけうつろな表情を浮かべると、周囲の視線を気にするように首を振り動かしてからそう言った。
「そうなんだ。ところでそれはお姉さん? それとも妹さん?」
「……お姉ちゃんだよ。双子の」
「名前はなんていうのかな?」
「ミコト」
少女は言った。
ぼくは思わず興奮して身を乗り出す。
「……命って字を描くの。その……」
「それで。その人は今どうしているの? 学校は?」
そういうと、少女は困ったようにぼくから視線を逸らしてみせる。少々露骨な拒絶の態度だったが、困らせているという程度のことは、ぼくでも察することができた。
しかし。ぼくはその時なんとなく予感していた。この少女が命の名前を口にしたとき、教室中の生徒の視線のいくつかが、あるポイントに向けて収束したからだ。
それは窓際後方の無人席だった。あちこちに落書きの施されたそれは、教室の外側から隠し隔てられるように、或いは追いやられるようにしてその位置までずるずると移動してきた風体であって……強い排除の意思のようなものを感じられた。
「ありがとう」
ぼくは質問攻めをした失点を少しでも埋めよう、こやかな笑みを浮かべて見せて、それからすぐさま教室最奥の机に向けて足を運ぶ。ぼくをいぶかしく取り囲んでいた生徒たちの間を掻き分けた先に、その落書きの施された褪せた机を覗き込んだ。
机に落書きと言えば思い付くのは『イジメ』という奴だが……しかしそこに施された落書きは、そういった高圧的なニュアンスとは異なるものだった。マーカーなどで記入されたそれらの落書きは、机の主に対する切実な思いをつづったものでもあるようで……。
それらの落書きは全体的に無秩序で、その混沌さ加減こそが、それぞれの記入が個人によって行われたものだということを象徴していた。少々強烈な記述も多い。『人殺し』『化け物』『許さない』『ケーサツ行け』『榊田殺し』『萩原殺し』『人殺し』『人殺し』『人殺し』……。記入の量自体はそこまで多くはなく、それぞれ筆跡だって異なっている。中でももっとも際立ったのは、いくつも刻まれたそれらの記述のその全てに、消されたあるいは消そうとした後が存在しないことだった。まるでこの机の持ち主が、陰湿なそれらの訴えをなんら気にしていないというような……。
「おい西条……だったな」
ぼくがその机の観察に熱中していると、背後からやや引き攣れたような軽薄な声が耳朶を打った。
「転校初日からはしゃぎすぎだろ。ちょっとまずいんじゃね、そういうの?」
警告するように吐き出されたその文句に、反応するべきかどうか一瞬、迷ったが、ぼくはその場で振り向いて見せた。
それは偉く背の低い男子生徒で、少女のようにあどけない整った顔立ちをしていたが、つりあがった唇と眉で軽薄な人柄を自ら表現していた。
「やばいんだよ、それ」
そう言って少年は机を指差す。
「おめぇがちゃらちゃら気にすることじゃない」
面と向かってそういわれたことで、ぼくはなんとなく納得した。教室全体を覆っていたいぶかしげな態度はそういうことだったのか。確かに今日始めて登校して来た転校生に、いきなり教室の暗部を引っ掻き回されてはあまり愉快にはならないだろう。
「ごめん」
ぼくは肩をすくめて見せる。
「少しでしゃばってしまったね……悪く思わないでくれ。ちょっと気になっただけなんだ。だから……」
そう言ってぼくはその男子生徒に微笑んでみせる。
「良かったらで良いんだけど。あの机のこととか、後で聞かせてくれないか? えぇと……君、名前は?」
「キリサキ」
少年は愉快そうににやにやと笑って見せて
「霧崎次郎。まぁ良いだろうさ、気になるんなら教えてやんよ」
「それはありがとう」
そう言い合ってそれぞれ自分の席に戻った。
さて。これからどうしよう。
幻めいた存在に思えた神代命の、妹であるという少女に出会えたことで、ぼくは少々冷静さを欠いてしまっていた。霧崎という男子の言うとおり、はしゃいでいたと言っても良い。もともと気になることがあったら周りの見えなくなる性質だということもあって……登校初日から醜態を晒した失点は大きい。
それでも幸いにというか。初めて向こうから声をかけてきてくれた霧崎の奴は、話してみればなかなか仲良くしてくれて……家で心配する叔父夫婦には、初日から親切な友人ができたと紹介してしまっても良さそうな雲行きだった。
「しかしおめーもよ。妙な自己紹介してたもんだよな」
その日の給食の時刻。配膳された昼食をむさぼりながら、霧崎はくちゃくちゃと行儀の悪い音を立てながらそう話しかけてきた。
「何かおかしかったかな?」
「おかしいも何も」
霧崎は食パンを折りたたんでハルサメサラダを挟み込むという、良く分からない食べ方をしながら
「ありゃぁそもそも自己紹介になってないんだよ。大松島の人が親切だとか……そんな話から、どうやっておまえ自身の情報が引き出せる訳?」
「ぼくが君たち大松島の人間に強い好意を感じているって、そのことさえ伝わったらそれで良いんだよ」
「偉く浅ましい奴だな」
そう言って霧崎はぎゃはははっ、と下品に笑う。この手の周囲を憚らない感情表現は、初対面で分かるこいつの悪癖のようなものだった。
「おまえ変な奴だよ、マジで」
「君だって結構変わってるさ。まぁ変わってる同士でも何でも良い。これから仲良くしようじゃないか」
そう言ってにこやかに手を差し出すと、霧崎は一瞬怖気を奮ったように眼を丸くしてみせて
「冗談じゃない。誰がおまえみてぇなすかした野郎と仲良くするもんか」
と、酷く辛らつなことを言ってきた。これでは叔父たちに良い報告はできそうにない。
「そういうなって。っていうかさ、そのすかした野郎ってのはなんなんだ?」
「朝の時間からいきなり女子に話しかけていくとかさ」
「別に。殊更彼女に気があった訳じゃない。魅力的な女の子だとは思うけれどね」
そういうと、ぼくはどこかからの視線を感じた。
「はん。そういう問題じゃねぇんだよ。おまえみたいな見てくれの整ったすかした野郎が、涼しい顔で流暢なスピーチ垂れ流したかと思ったらいきなり女子に向かっていくだ。目立つに決まってんだろ。ホラー映画じゃ最初に殺されるポジションだぜ、自分?」
「その例えは良く分からないな」
ぼくは肩をすくめて見せる。霧崎はぼくのその動作を受けて、不愉快そうに眉を顰めた。
「おまえ。その肩をすくめるのやめたほうが良いぞ?」
「どうして?」
「ムカつくから」
言ってもさもさとハルサメサラダの挟まったパンを口に含む。
ぼくは首をかしげて、それからふと神代命の机に視線をやって、改めてあの不思議な少女に思いを馳せた。
ふとさきほどの少女の方を見る。
机をくっつけあう女子たちの中心にいて、どこかくっきりとした輪郭を持って浮かび上がっているその少女。端正で明るい顔立ちと魅力的な笑みを兼ね備えた笑み。しっかりとした存在感を持って振舞う彼女は、人気者であるようにも見えた。
「どうした?」
霧崎がいぶかしげにこちらを向いた。
「何でもないよ」
「なんでもないことないだろ」
霧崎はそこで軽薄に笑う。
「どうしたどうした? おまえ、いきなり神代に惚れちゃった訳?」
「確かに魅力的な女の子だと思うよ」
ぼくは曖昧に答えた。
「そんな遠まわしな言い方すんなよ? えぇ? 恋しちゃったんですか? キミ、青春だね?」
冷やかすにしてももっと言い方があるだろうというような、下賎で軽薄な声をあげる霧崎。彼の薄っぺらい人間性が見て取れた。転校生であるぼくに声をかけてきてくれたのも、単に他に話し相手がいないんじゃないか。
「そうかもね。……実際こっちに越して来る時は漠然と思ったものさ。今度こそぼくは、きちんと恋とかできるのかな……ってさ」
そう言って照れ笑いを浮かべてみせる。霧崎は興味深そうに眼を丸くした。
「なんでぇ。アホくせぇこと言いやがって。んなもんどこでだってできるだろうが」
「そうなんだけどね」
ぼくが肩をすくめると、霧崎はほんの少しだけ眉を顰めて
「なんかあったのか? その、前の学校で」
「うん。ちょっと」
流石に苦笑せざるを得なかった。ぼくがこっちに引っ越してくることになった理由。両親の無用な心配と、ある種の島流しの刑を頂戴することになった原因。あれはなんというべきなのだろうか。ちょっとしたいさかいというか、忌むべき戦争というべきか……。
「いじめにでもあった?」
妙に心配げに話しかけてきてくれるかと思ったら、媚びるような声色の裏側には興味津々の表情がくっきりと浮かんでいた。そのあまりの露骨さに、ぼくは苦笑を浮かべて答えた。
「まぁね」
「情けねぇ奴だな。それで逃げてきたと?」
「ちょっと違うかな?」
「……?」
「確かにあの学校にはもういたくなかったんだけどね……。なんていうんだろう、最終的にはぼくがみんなのことをいじめるような形になったし」
そう。あれは戦争だった。ぼくは何度目になるのかもわからない回想をする。
眼に見える範囲での始点は本当に些細なことだ。もっともイジメなんてくだらないものの種は、そこら中にいくらでも転がっているし、あの競争地獄は種を育てるのに絶好の環境だったと言えなくもない。一年生の一学期の中間考査……たまたま数学で学年三番という中途半端な成績を収めたぼくの前に、あのずんぐりむっくりの岡部が仲間を連れてやって来て……。
「男子校でさぁ。暴力的であることとか、下品であることとか。そういうのが是とされる風潮が妙に蔓延していたんだよね。ぼくはそういうの、ちょっと苦手で……だからこそ標的になったんじゃないかなと思ってるんだけど」
いじめなんていうのはあまり的確な言葉でないとぼくは思う。彼らの行ったことは酷い侮辱であり、暴行であり傷害であり、時に殺人未遂に近いところにまで発展してきた。ガムテープで教壇に括りつけてズボンを脱がせて陰毛をライターで焼き尽くすという行為をさして、イジメだなんて子供染みた言葉を用いるのには酷い違和感を覚えたものだ。
「それでまぁ。二年の三学期ごろまでずっとそれが続いたろ? 一年半だぜ? あの学校は陰湿な悪意と警戒感でぐちょぐちょだったけど、その中心にいたのは常にこのぼくだった。……怪物を培養しているようなものだったよ、あんなのは」
そう。だからあれだけのことをする羽目になったのは、仕方がないことだ。
それは分かり切ったことだし……ぼくは本当に、『ああ』する以外になかったのだ。
「……それでまぁ。三年に上がるまえにどうにか立場を逆転してさ。そこからはぼく一人で学校中をいじめてるみたいなもんだったよ。……誰もがぼくに警戒してさ。ぼくだってそれまでずっといじめられてて、みんなに対して恐怖感を植え付けられてるんだ。そりゃ精一杯周囲をけん制したよ。情勢が変わったことを指し示すためには、権力者然とした横暴な振る舞いは半ば必須だったし、はねっ返りは一人ずつつぶさなきゃだったし……。したくもないのにさ。本当、あれは忌むべき戦争だった」
「それでおまえ。んなひねくれた性格になっちまったって訳だ」
霧崎がそこで、どこか渋い表情をしてそう言ってきた。
「ひねくれた?」
「ああ。育ちが良いのか表面だけつくろっちゃいるが、おまえのその人格は誰にも好かれないレベルだ。誰もが感じてると思うぜ、『なんだアイツ』ってさ。だいたい」
そう言って霧崎は下品に笑う。
「いじめられた奴ってのは、ふつう初対面の奴に何気なくそれを話したりしないだろ」
「克服してる証拠だろ?」
ぼくは両手を晒した。
「警察沙汰になって親と学校がようやく動いた結果として、こんなところに島流しの目にあうっていうのは、流石に予想外だったけど。今度こそ上手くやっていこうって意思はあるんだ、ここの人は皆おだやかだしね」
ふんと、霧崎はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「何もしらねぇで」
それから昼休みが訪れると霧崎は一人でどこかに行ってしまい、ぼくは途端に話し相手を失った。
あんな品性下劣な男でもいなくなってしまうと寂しいもので。ぼくはせめてまともな友達を作っていこうと、積極的に動いてみることにした。
正直言って。こうしてまともな学校に越してきたからには、人並に友達や恋人を作って青春の時間を取り戻したいという思いは強い。そんな思いが、ぼくに行動を焦らせているというのがあった。そもそも友人の作り方なんてぼくは知らないし、できることと言ったら適当に気のよさそうな奴の肩を叩いて
「やぁ君。友達になってくれないかな?」
などと声をかけ、困った顔で警戒されるくらいのことだった。
そんな不毛なやり取りの連続にもいい加減に疲れてしまい、というかこのまま動いていても霧崎の言うとおりになってしまいそうだったので、おとなしく教室を出ることにした。誰か適当な奴に校舎内の案内でも頼もうか……と思いながら気の向くままに歩き回っていると。
湿っぽい古い校舎の人気のない廊下で、何やら書類のようなものを抱えた少女が、困ったような怯えたような顔をして何人かの女生徒に取り囲まれていた。
彼女らはまず最初、ぼくのほうを警戒するような表情で振り向き、それがさきほどの転校生だと認識すると、さっさと行っちまえというような視線を投げかけてから少女の方に向き直った。中心にいる困った顔の女の子は、今朝ぼくと話をした神代命の妹で、名前は確か実といったか? ミコトとマコト。ほそっこくて華奢で色白で、折りたたんで椅子に座らせたらしなやかな人形のようにしか見えないだろうと、ぼくは想像した。
「いい加減にしてっ」
実は怯えと憤慨の入り混じった声でそう怒鳴った。
「お姉ちゃんのことは知らないって言ってるでしょ? なんでいつも付きまとうの?」
その身を切るような声色に興味をおぼえ、特にどうでも良く立ち去ろうとしていたぼくは、もう一度その集団を振り返ることになる。集団は嗜虐と痛快の合わさった表情で実を睨み、その細い胴を軽く突いてからこう言った。
「ミコトのこともあるけど」
集団の一人が口にする。大きくつりあがった頬はなんとも下品であり、霧崎とはまた違った意味での軽薄さを強く感じさせた。
「じゃあおまえ自身のことをどう思ってるっていったら、ふつうに気に入らないの。あたしたち、変に真面目ぶったとことか、媚びたところとかね。ねぇみんな」
そういうと迎合したようにうなづきあう少女たち。思わぬ悪意に晒されて、ショックを受けたように蒼白になる実。その反応に気を浴したのか、少女の一人は実の髪の毛を掴んで自分の方に引き寄せる。
「この落とし前、どうつけんの?」
ありゃりゃ。ぼくはそのやり取りを見て肩をすくめた。落とし前だって? ぼくは呆れた気持ちになる。そりゃ言葉の使い方が全然なっていないんじゃないかい? 暴力を振るうことを肯定する呪文なんてないんだぜ?
「やめてよ」
震えた声で実。少女たちはおかしそうに笑う。
「何が『やめてよ』よ。あんたの姉貴がどれだけのことやらかしてんのか分かってんの?」
「だから知らないって……」
「それで済むと思ってんだ。決めた、あんたリンチだわ。けってーけってーっ」
そう言って両手を打ち鳴らす少女の集団に、実は眉を顰めさせ、肩を震わせるだけだった。ぼくは彼女のことを少しだけ哀れに感じる。だけれどそれ以上に、ぼくは少女たちの言っていたことに強い興味と感心を持った。
……ここはちょっと、動いておいた方が良いな。
ふと極めて利己的にそう考えている自分に気付いて、ぼくは自分自身の軽薄さ加減に呆れながら、少女たちの中に歩いていく。
目的のためには手段を選ばないことは決めていた。
「あんだよ?」
唐突に近付いてきたへらへら笑いの転校生に、少女たちは怪訝そうな目を向ける。どこか不気味がるような、それでいて邪魔するならどんな手段を使ってでも排除するという意思を感じさせる瞳で。流石にちょっと怖いというか……それでいてぞくぞくするような。そんな奇妙な心地になった。
「ちょっとあなた……西条くん?」
実はどこかとがめるような、おどおどとした声を投げかける。
「これはあたしたちの個人的なお話で……本当にありがとうなんだけど、西条くんはこんな」
どうやら勘違いされているらしい。さもありなんと、ぼくは思った。
「いやいや。そういうんじゃないんだ」
ぼくが言うと、その場にいた全員がどこかしらけた表情を浮かべた。
そう、そういうんじゃない。
「ただちょっと、こいつに用があってね」
ぼくはいって、少女たちの真ん中に設置された、火災報知器のボタンに手をかけた。
「それがどうし……」
「ポチっとな」
警報音が鳴り響いた。
それは自分で思っていたよりも何倍も甲高くうるさい音色で、ぼくは思わず顔を顰めた。少女たちは「おいおいなんのつもりだよ」と言いたげに口をぱくぱく動かしているが、何も聞こえない。ぴーともがーとも形容しがたい、とにかく耳を貫くような嫌な種類の大音量。
「火事だぁっ!」
ぼくは叫んで、傍に置いてあった消火器を振りかざす。
「早く火を消さないとみんな消し炭だぞっ! 塵一つだって残らないぞっ」
言って消火器を両手に持って少女たちにぶつけそうにしながら振り回し、さてどうやったら安全装置ははずせるのかなと指先で弄り回していたところで、少女の一人が蒼白な表情でこちらに指を近付けた。
「おまえ」
かろうじて聞き取れた。
「アタマおかしいよ」
そう言って、報知器の大音量とぼくのパフォーマンス、何よりこれから大人がやってくるということに気圧されたのか、少女たちは怯えたような表情で足をもつれさせながら逃げ出していった。
「やっべ。……後先考えてなかった。……これどうしよう」
いいながら足元に消火器を転がしてやると、その場で腰を抜かしている実のほうを向き直る。この程度のことでしりもちなんかつくなよと、どこかほほえましい気持ちになったりもして。ぼくはできる限り優しげに見えるであろう笑みを浮かべ、実に向かって手を差し出した。
「大丈夫?」
実はおろおろしながらぼくの手を取る。
「災難だったね……さぁ。もうすぐ先生が来るよ。ぼくが悪戯でやったって言っておくからさ。君はさっさとここを離れたほうが面倒がなくて良い」
「でも……」
実は今にも泣きそうに眉を顰める。
「良いから」
ぼくはあくまでも微笑みを絶やさない。
「このことで君に何かしてもらおうとか、訊きたいことがあるとか、そういう気持ちはまったく全然これっぽっちもないんだ。ただちょっと、困っている女の子は見過ごせないっていう主義でね」
どんな風に言えばこの子の心を掴んでおくことができるだろうか、少し考えて、結局何も思い付かず肩をすくめる羽目になる。
「さぁ行っておくれ」
ぼくがそういうと、実は切実な表情でぼくの手を取った。
「え……ちょっと……」
どこか体温を感じさせる、暖かく柔らかい手のひらだった。神代実はそのままぼくの手を引いて走り出す。この後始末は誰がするんだろうと思いながら、ぼくは漠然とそれに従った。
警報音の鳴り響く中、神代実に連れて行かれたのは、なんというかごちゃごちゃとした空間だった。
生物実験室と銘されたそこは、なんというか理科の実験をするにはあまり向いていない感じで散らかっていて……サイコ映画のセットに使われていてもおかしくはないような趣を感じさせた。
あちこちに設置されたのは何を飼っていたのかも分からないどす黒い水槽、そこら中を転がって足蹴にされた実験装置、破壊されたそれらから散らばったガラス片、爬虫類の剥製……。最低限度に片付いているので足の踏み場もないというほどでもないが、まともな性格をした大人や几帳面な人間がこの部屋を使っているようには絶対に見えない。増してここが学校の教室であるなどと。
「えと……君、西条くん?」
胸に抱え込んでいた何枚かの書類を机に置いて、実はおずおずとそう切り出した。
「そうだけど」
「あれ……あたしのこと助けてくれたんだよね?」
実がもじもじと、低い視点からそう言ってくる。ぼくはたわいもないものを見るような心地で微笑みかける。
「そうだよ。困っている女の子を見ると捨ててはおけない主義でね。黙って通り過ぎるだなんて絶対にできないんだよ」
ぼくがへらへらとそう口にしてみせると、実は一瞬だけ目を丸くして、それから首をかしげて苦笑した。
「西条くんって……ちょっと変だよね」
「そうかな?」
「うん。朝みんなに挨拶したときから、そんな感じ」
ぼくが肩をすくめて見せると、実は何か勘違いしてしまったのか。
「ううん。悪口じゃないの。西条くん……とっても素敵な人だと思うし。あたしのこと、助けてくれたでしょ? ありがとう」
「当然のことをしたまでだよ」
こういうときにありきたりな言葉を吐くのは本当に楽だ。応答に一秒もいらない上に、考える手間すら要しない。最初から、この子本人には特に興味もなかった訳だし……。
「ところで。ここは奇妙な教室だね」
と、ぼくは足元に転がったヒビの入ったヘビの剥製を指差していった。
「あちこちこんなのが転がってるし。壊れてたりヒビがいってたり、誰か管理はしてないの?」
「ここはあたしたちの部室だからね」
実は言った。
「物理や化学の実験は理科室の方でいつもやってるし、ここは数年前からあたしたち生物部しか使っていないの。ここがちょっとだけ汚いのは……たまたま今日は掃除が遅れてたってだけで」
ちょっとだけ汚い、という言葉にはとうてい当てはまりそうもない気がしたが。ぼくは曖昧に微笑んでおく。すると実は何か妙案を思い付いたような表情で、ぽんと手を打ち鳴らしてこういった。
「そうだっ。西条くん、生物部に入ってみない?」
それは唐突な提案だといえた。
「何をいっているんだい?」
「いやね。西条くん特に興味あることとかなさそうだし。ここは人数少なくて存続も危ないから、西条くんに入ってもらえると助かるの」
人間を一目見ただけで『興味あることとかなさそう』とまで言ってしまえるこの子は、やはりちょっとだけ変わり者ではあるのだろう。しかし実際のところ、ぼくは興味のある部活動なんて一つとしてなかったし、何か特別な理由でもない限りそんなものに属するつもりなんてなかった訳だが。
まぁここは。
「そうだね。それじゃ、入ってみようか」
「本当っ!」
実は嬉しそうに手を打ち鳴らした。
「良かった。でも本当、西条くんって良く分からない人ね。ふつうに断られるのかと思ったもん」
確かにふつうは断っている。
「どうかな? ところでその代わりと言っちゃなんだけど、一つ訊きたいことがあるんだ」
ぼくがそういうと、実は無邪気な表情のまま眼を丸くする。
「なぁに?」
「君のお姉さんのことなんだけど」
途端、実の表情が真っ白に凍りついた。
あらゆる感情が取り払われたような冷たいその顔を見て、ぼくはこれまでになく強く神代命の面影をそこに感じ取った。あらゆる体温や、人間らしさをとっぱらった独自のその表情。たたされた人形のようなそれに、ぼくは静かに詰め寄って
「一緒のクラスにいるんでしょ? 今日は来てないみたいだけど。机も汚かったし、もしかしていじめられていたりとか」
「やめてよ」
実は蒼白に自分の頭を掴んで
「その話はやめてよ……。ねぇ、ちょっと。何も聞いていない訳?」
震えた声で実がそういうので、ぼくは肩をすくめて見せながら
「君に訊くつもりだったからね」
とそっけなくそう言った。
「お姉さん……神代命さんっていうんだってね。綺麗な名前だね……同じ中学で、しかも同じクラスだなんて」
「あいつは」
実はそこで語気を強める。
「もう二度と……学校には来ないよ。あたしがそんなの許さないから……あいつがいるから全部おかしくなったんだ……あいつが」
「酷い言い方ね」
と、その時。
がらくたの散らばった生物実験室の扉が、ぞんざいに開かれる音がした。その隙間から、幽鬼か何かのようにひっそりとした、しかし確かな存在感を持って一人の少女が出現する。
それは桁違いの存在だった……ようにぼくには思えた。少女は足元を散らばるガラクタの類を何一つ気にしないかのごとく、あちこち踏み壊すようにしてぼくらの前まで向かってきて、人形そのもののような無表情でこう口にした。
「ひさしぶりね、実」
「お姉ちゃん……」
と、実は恐れるようにして命から後退る。
一見するとほとんど変わらない顔つきをした二人だったが、しかしその存在感の質はまったくといって良いほど異なっていた。神代命を取り巻く空気が異様過ぎるのだ。実は自分と同じ顔をした少女を前に恐れおののき、臆病に歯を鳴らしながら一歩一歩後退していき、途中足をとられてその場でひっくり返った。
命はそれをくすくすと愉快そうに笑って、それから実に向かって静かに右手を差し出す。
「ほら……どんくさいんだから。捕まって」
しなやかに伸ばされたその右手を、実は信じられないものを見るような目で見詰める。命はたわいもないものを見るように微笑んで、それから足をたたんで右手を取った。
「ひっ」
「大丈夫……今日はいないから。……ね」
命が言うと、実はすぐに眉を顰めて手を振り払った。それから息を荒くして自分の右手をじっと見詰める。実は這うようにしてどうにかその場を立ち上がり、どたどたと逃げるようにして生物実験室から去っていく。
命はその後姿を、どこかつまらないものを見るような目で見送っていた。
「神代……命さん。だよね」
ぼくはなるだけ平常心を装って、平易な声で彼女に声をかけた。
「ほら……覚えてる? あの夜に、君と会った」
「覚えてるよ」
命はぞんざいにそう言って、足元に落ちているヘビの剥製を足で弄ぶ。
「あの子に襲われて、間抜けに転げまわって水路におっこちた男の子でしょう? 覚えてるよ」
「ぼくは西条未明」
ぼくは震える声でそう言った。
「未明は夜明け前で未明……えっと。今日はどうして学校を……」
「遅刻したのは行きたくなかったから。今ここにいるのは、用があるから」
命はそっけなくそう答えて
「未明……綺麗な名前だね。ちょっと、気に入った……かもしれない。うん、覚えとくよ。これからも、忘れるまでね」
そう言ってから、命は足元に力を入れてヘビの剥製を粉々に砕く。ガシャリとあっけない音がして、中の液体とヘビの細長い体がその場にぶちまけられた。
「未明くん。気に入られちゃった、みたい」
「え?」
ぼくが首をかしげると、命はそれを意に介した風もなく
「わたしの妹に」
言って、壁際の棚にいくつも並んだ水槽の一つに無造作に手を突っ込んで、袖がぐっしょりと濡れるのも気にかけない風に、中から一匹の魚を引っ張り出した。
小さな白い手の上で、その黄色い熱帯魚はぐってりと死んでしまったかのように動かない。命はそのぬめりとした体に、彼女にしてはどこか体温のある視線を向けて……それから興味をなくしたようにもう一度そこに放り込んだ。ポチャンという音。
それからさっさと生物実験室を去ってしまおうとする神代命に、ぼくは咄嗟に近付いてその手を取った。濡れてないほうの左手はなんだかひんやりと冷たくて、骨ばった感触が伝わってきて……本当に生きた人間の手なのかどうか、それすらも危うい手触りだった。
「待ってよ。神代さん」
ぼくは彼女に詰め寄る。
「その用って言うのは何? もうすんだの? それよりあの時つれてた真っ白い怪物は? どうして君はあんなところを歩いて……」
「気をつけた方が良い」
と、振り返った命は眉を顰めて、どこかとがめるような表情で口にした。
「何を……」
「わたしの手に触れるのは、これっきりにした方が良い。今日はたまたま大丈夫だけれど、今度触ったらきっと殺されちゃう。もうこれからは絶対に、わたしに触ったり、近付いたりはしないこと。良い?」
そう言って命はぼくの手を解く。
「わたしには毒があるから……。それじゃあね。未明くん」
そっけない口調でそう言って、静かにその場を立ち去っていく神代命。
何もできずに立ちすくんでいて、気がついた頃には、彼女の姿はまるで幽霊のように消えうせて、そこにはぼくがただ一人だけ残された。
その日の午後の授業は本当にぼんやりと、あるいはそわそわとしたもので、授業の内容なんかちっとも聞いちゃいなかった。神代命の机の方ばかり見ていたのだ。
あれから命の姿は見ていない……すぐに家に帰ってしまったからだろう。勉強の方は大丈夫なのだろうか。前の中学で習う全ての学習を終えているぼくのように、何らかの貯金があってのことではないだろうに。
結局その日の授業中、ぼくの視線は命の空白の机と実の思いつめた姿を行き来するだけで終わってしまった……。教師の名前すら碌に覚えきれていない。意気込んで挑んだ新生活が、こんな風に始まってしまってはたして良いのだろうか。
そんな思いを引きずりながら、放課後はトランプ遊びをやっている連中に混ざってみたりもして見せて。ポーカーで二千円ほど勝ってから特に感慨もなく手を振って分かれ、ぼくはふと思い付いて寄り道をすることに決めた。
この前あちこち探索して発見したあの『神代寺』というところ……あそこに行ってみようかと思い立ったのだ。ジンダイジ、あるいはカミシロデラ。
正直、これ以上神代命を連想させるような場所に向かうのは、危険というか無謀というか……良くない虫の知らせが鳴り響かないでもなかったのだけれど。それに勝ったのはある種の好奇心だった。怖いものみたさ、と言い換えても良いかもしれない。なんにせよ一つだけ言えることは、この時点で既に、ぼくはあの不思議な女の子に真剣に心惹かれていたということだ。
大松島中学校のさびた校門をくぐり、てきぱき歩いて田浦村までたどり着いて……例の住宅地跡の前を通過したあたりで、ぱらぱらと何かがはじけるような音が耳朶を打った。
かたかたと粗末なおもちゃが動作するような音が鳴り響き、同時に、壁をはじくような独自の音色が発生している。それらに混ざって聞こえる、悲痛を極めた小さな猫なで声……。
ふと音のするほうを見てみると、見覚えのある中性的な影が片手にエアーガンを装備して、興奮したように捻じ曲げた表情で住宅跡に放った猫を狙撃しているのが写った。連射式エアーガンの銃撃はBB弾とは言えそこそこ威力があるようで、目に口に何発もそれをくらった子猫は顔からおびただしく血を流して倒れ付し、今にも死にそうな表情でびくびくと弱っていた。
「何してるんだよ」
ぼくが尋ねると、霧崎はこちらに気付いて振り返り、そして世にも嫌そうな表情を浮かべた。
「げ」
舌を突き出し、自らの不愉快を目一杯表現してみせる。
「おまえかよ西条……こりゃまたせっかく良い時に、すかした野郎に会いやがったぜ」
「別に。とがめたりするつもりはないよ」
ぼくは苦笑して、死に絶えかけている子猫とその周囲に散らばったBB弾に視線を向ける。
「随分と手馴れているようだね……いくらそのおもちゃが高性能だって、ただのエアガンでここまで上手くいじめられない」
ぼくがそう言っておだててやると、霧崎は存外素直にふんと鼻を鳴らして喜んでみせ
「逃がさないようにすりゃ簡単だよ、こんなの。それにいじめてるんじゃない、殺してるんだ」
「いじめ殺してるんだろう? それを虐殺ともいう」
「違いない」
行って、霧崎はエアーガンの引き金を引く。引きっぱなしにすることによって、奇妙な形状をしたその銃器の先端から無尽蔵のごとく何発もの弾が沸いて出た。
「すごい銃だね、それ」
「だろう?」
霧崎は心底嬉しそうに破顔する。
「イングラムっつーんだ、これ……。サブマシンガン。『バトルロワイアル』で桐山が使ってたのと同じ。カッコ良いだろ」
言いながらそれを猫の顔面に向かって何発も何発も発砲する。それを繰り返しているうちに、子猫の顔の皮膚がぐりぐりとえぐられて真っ赤になって、どこに目があったのかも分からない無残な姿に成り果てた。もはやうめき声すら聞こえてこない、ただただ哀れに真っ赤な全身を痙攣させてもだえるだけ。
霧崎は得意そうにこちらに目を向ける。
ぼくは肩をすくめて言った。
「楽しそうだね」
「まーな。弱い奴をいたぶるのはたまんねぇ……なぁ?」
「それは同意を求めているのかな?」
「そのとおりだが?」
「そりゃ楽しいんじゃないかな? ……君はどうしたってその子猫に復讐される心配はないし、罰を受ける心配だってないだろう。色んな意味で安全な状況で、遠くから一方的で残酷な暴力を行使する……きっと最高だ」
「流石。分かってるね、西条」
霧崎は奸悪にぎゃははと哄笑する。
「おれっていうのはこれだけが楽しいんだよな。人気のない場所見付けて猫連れてきてぶっ殺してよ……」
「人を殺したいと思ったことは?」
ぼくが尋ねると、霧崎は目を丸くして首を振る。
「バカ野郎。そんなことしたら、犯罪じゃないか。捕まっちまうよ」
まったくだ。ぼくは思った。
「その点猫ちゃんなら殺したって誰の迷惑にもならないしな。あいつらゴミを漁るから全身ものすごい汚いし、引っかいたり噛み付いたりする分、虫とかカラスより有害だよ。ゴキブリのほうがよっぽどマシだってもんさ。それがただ見た目が可愛いってだけで優遇されてんだから、良くわかんねぇよな、世の中」
「ネズミを殺すと人間性が手に入るというらしいね、確か」
ぼくはふと思い付いてそういった。
「何それ、どういう意味?」
「知らない」
肩をすくめた。
「それじゃ。ぼくは行くよ、ちょっとこの先に用があるんだ」
「用って?」
霧崎がいぶかしげにこちらを見やる。
「酷く個人的なことだよ」
「やめといた方が良いんじゃねぇの?」
エアーガンを片付け、散らばったBB弾を律儀に拾い集めながら、霧崎はぼくに向かってそう口にした。
「どうして?」
「いや。最近この辺は物騒だし」
何度も聞いたことだな、と思いながら、ぼくは改めて霧崎のほうに詰め寄った。
「なんだい、それは?」
「白い死神……っつー都市伝説なんだが」
霧崎は歯切れも悪そうに
「眉唾なんだがよ。真っ白い二メートルくらいある大男が、でっかい斧を振り回して人間を殺して回ってるんだとよ。その被害者がだいたいこの田浦村の人間っていう……」
「へぇ」
「まぁその死神が云々っていうのはただの噂にしても」
霧崎は子猫の死体を片手でつまみ上げ、道端の水路の中にぞんざいに放り込む。
「人がばんばん消えているのは事実だよ……ニュースで見たろ?」
「あいにくとここに越してきたばっかりだからね……新聞の見出しにそれらしい記事は載ってたけど」
「そういうこった」
どうやら、自分一人の遊びの空間にぼくが入って来たことで、興が冷めてしまったらしい。霧崎はエアーガンを片付けて、鞄の中に入れてしまった。こんな言い方をするのもなんだけれど、偉くあっけなく殺してしまうと思ったら、そこまで嫌われてしまっているとは少々ショッキングではあった。
「もう帰るのかい?」
「ああ。今日はもうやめだ」
「最後に一つ、聞きたいことがあるんだけど」
ぼくが言うと、霧崎は怪訝そうにこちらを向いた。
「なんだ?」
「神代命さんのことなんだけど」
霧崎の表情が一瞬、曖昧に歪んだような、そんな気がした。
「彼女の机……やけに教室の隅っこにあるよね? 落書きまでされてるし、みんなから恐れられてるみたいだ。いじめられてるのともちょっと違う……あれは何? 彼女、いったい学校で何があったの?」
「……転校初日にしちゃ、面倒なところに踏み込んでくるもんじゃねぇか」
霧崎は溜息でも吐きそうに
「別におれはかまわねぇんだけどな。ただ一つ言えることは、てめぇの身が可愛けりゃあの女には関わるなっつーことだ」
「というと?」
「殺される」
霧崎は表情を変えずに
「あいつの手に触れた人間は死ぬ。とんでもねぇ毒物でも飲み込んだみたいに、魚みてぇに床を這いまわってゲロはいて小便垂れ流して無様に苦しんで死ぬ」
「……まさか」
「作り話だと思うか? おれも思ったね。こんなのはただのたわいない噂、しかといじめの方便だって、最初は誰だって思うさ。実際、おれも去年はあいつと別のクラスだったし、実際にそうした場面を見た訳じゃない。ただ、そういった警告を広めてる連中が、本当にただの善
意で神代命を排除しているんだってことは、嫌でも伝わってくるんだよ。神代命本人がそうして排除されるのを望んでることもな」
と。その時。
ぼくのポケットの中で携帯電話が振動し始める。確かマナーモードにしていたことを思い出しながら、ぼくは叔母の番号が表示されたそれを開く。
「未明くん?」
「はいおばさん。なんですか?」
瓦礫の一片に腰かけてそう尋ねると、叔母は心配そうな声色でこう尋ねてきた。
「今どこにいるんだい?」
「ちょっと寄り道してて」
「早く帰ってきなさい」
と、どこか懇願するような声で叔母は言う。
「最近はぶっそうだからねぇ……。前みたいに犬に襲われるかもしれないし、用がないなら早く帰っておいで」
「了解です」
そう言ってぼくは電話を切った。やれやれ、以前の失態で随分と心配されてしまったようだ。これでもうしばらく自由な行動はできそうにないなと思いながら、叔母がここまで過保護になるのも分かる気がした。
ぼくが以前の学校で起こした事件を意識するなら、それは当然。
なるだけぼくの行動を把握し、逸脱しないようコントロールしたがる気持ちは、酷く良く理解できた。
「なんだ? もう門限か? 過保護だね」
「愛されてるのさ」
ぼくがそういうと、霧崎が嫌悪したように首を振るった。
「今の話。また詳しく聞かせてくれよ」
「あぁ分かったよ。その時までおまえが生きてたらな」
「君こそ死ぬなよ。殺した猫のたたりにあわないようにな」
偉くすべらかに皮肉を口にできた自分に驚きながら、ぼくらはそれ以上の挨拶もなく手を振り合って分かれる。
すっかり背後の軽薄な男に心を許した自分を感じながら、ぼくはぼんやりと帰路についた。
「ただいま」
鍵を開けて叔父夫婦の家に帰還するなり、ぼくはおだやかを装った声でそう言った。聞きつけるなり、にこやかな笑顔を浮かべた叔母がかいがいしく玄関に現れてぼくを出迎える。
「おかえり。どこに寄り道していたんだい?」
「友達と、CDショップに」
「もう友達ができたのかい?」
思っていたとおりの言葉が引き出せて、ぼくは満足してはにかんだ。その笑みをどんな風に受け取ったのかは知らないが、叔母は素朴な喜びを称えた表情でうんうんとうなずく。
「少し緊張して望んだのですが……ここの人たちはみんな親切で。すぐに打ち解けることができました」
「そうかい。良かったねぇ」
「おだやかな教室で……変わったところもなく良いクラスでしたよ。本当、ふつう過ぎる
が奇妙なくらいで」
ぺらぺらといいながら、ぼくは今日見てきたことを頭の中でリピートしていた。
思わぬ形で神代命に会ったのは驚きだった。あの暗闇の中で霧のように浮かんでいた不思議な少女の輪郭を、学校の教室などという極めて生活的な空間で掴むことができるなんて、とうてい予想がつかなかった。
生物実験室でであった神代命の存在感は、揺らぐことなくぼくの心の中でむしろ補強された。学校なんてところで出くわせばまだしも実態がつかめるかと思ったのだが、神代命という存在は雲を掴むように曖昧で、それでいながら異様なまでに強烈だった。
「それじゃあ叔母さん。また夕食の時間に呼んでください」
「はいはい。ゆっくり休んでね……」
おだやかな笑みをちょうだいし、ぼくはとっとと二階へと退散した。……あの叔母はどうにも人が良すぎて苦手だった。目一杯態度を引き締めて挑まなければ、自分の言葉の切っ先が柔和な笑みを切り裂いてしまいそうで、恐ろしいのだ。
「おかえり。未明くん」
階段を上ると、部屋着をまとった律子さんがこちらに向かって声を投げてきた。
「ただいま、律子さん」
「今日は遅かったね? どうしたの?」
「友達とCDショップに……」
ぼくが言いかけると、律子さんはこちらに手を差し出してそれを制した。
「君、CDなんて聞かないでしょ?」
「いいえ。聞きますよ。趣味は読書と音楽鑑賞です」
「嘘おっしゃい。未明くん、CDプレイヤーなんて持ってないじゃないの」
律子さんがにやにやとしてそういうので、ぼくは溜息を吐いて肩を竦めた。
「お母さんを安心させたかった訳? それで嘘をついたと? ということは、学校じゃ上手く行ってないんだ」
「ええまぁ……正直打ち解けたとは言いがたいです。皆さん悪い人じゃないんですけど」
「どこに寄り道したの?」
「ちょっと田浦村のあたりに」
「田浦村かぁ」
律子さんはふと考え込むように眉を顰める。
「そこ、気をつけたほうが良いんでない?」
心配した様子でそう口にする律子さんに、ぼくは霧崎から聞いたことを話す。
「良くない噂があるんですってね。白い死神……っていう」
律子さんは少しだけ険しい表情でこちらを覗き込んだ。
「誰に聞いたの、それ?」
「クラスメイトの霧崎という男に」
律子さんはそこで目を丸くした。
「霧崎って……もしかして、あの霧崎次郎?」
「知ってるんですか?」
ぼくが尋ねると、律子さんはこくこくとうなずいて
「知ってるも何も……中学のときは同じ部活だったよ。なんか陰気な奴でさ」
この明快な性格の律子さんに陰気とまで言わせるとは。霧崎も大した男である。
「あいつが部活? ……そんな感じには見えませんでしたけど」
と、ぼくは学校帰りに猫の虐殺行為にいそしんでいた霧崎を思い出しながらいう。部活動なんて建設的なことをしているのならば、あんな陰気な趣味に没頭する必要もないし、その時間もなさそうなものだけれど。
「そ。生物部」
律子さんのそのあまりにも意外な言葉に、ぼくは思わずたじろいだ。
「生物部? 生物部って……あの? 実験室の? 霧崎と……それに律子さんが?」
「そうそう、あの小汚い実験室のね。剥製とかむちゃくちゃ置いてあって、マッドサイエンスって感じがして気に入ったの。一応三年で部長だったんだよ?」
あまりにも予想外だったため、ぼくは目を大きくして頭に手をやった。その驚きように、律子さんはおかしそうにくすくすと笑う。
「未明くんでもそんな反応するんだ。って言うか何? 霧崎のこと『あいつ』って。もう友達になったみたいじゃない?」
「そんなことはありませんよ」
ぼくは肩を竦める。
「ただちょっと話をしただけです。……おもしろい男でしたね、軽薄そうでいて核心をついてくるところとか」
「そういう奴だよ、霧崎は」
律子さんはあまり愉快ではなさそうに首を振った。
「それで……なんだっけ? 白い死神のことでしょ? 本当にただの都市伝説なんだけどね……」
「いったいどういう話なんですか? それ」
ぼくは興味しんしんに尋ねる。律子さんは話すべきかどうか一瞬、迷うそぶりを見せてながらも、ぼくの熱心な表情に折れて話してくれた。
「本当にただの噂だし、色々と脚色もついていたりするんだけど……。だいたい共通してるのはね、田浦村を中心としたこのあたり一帯で、真っ白い大男が徘徊しているっていう」
それなら既に霧崎から訊いた。ぼくは続きを所望して律子さんに食い入る。
「それにね……関係あるかは判らないけど、ここ最近、二人ほど人が死んだりしてるんだな。それも斧による打撲と裂傷が全身に刻まれた状態で」
「大男の方の目撃証言は?」
「それが結構マジ」
律子さんは神妙な顔で
「あたしの友達にも何人か見たって言う人がいてね。あたしも眉唾だったんだけど、どうもね。写真とかはまだないんだけど、こうも目撃内容が一致しているとあながち噂じゃないなって。単に白い皮を被ったふつうの人かもしれないし」
「女の子を連れているっていう証言は?」
何気なく、しかし直球でぼくがそう尋ねると、律子さんは面食らったような顔をして
「そんなのは聞いたこと、ないけど。……何それ。霧崎が言ってたの」
「そうです」
ぼくがそっけなくほらを吹くと、律子さんが首を捻って
「あいつがそんな嘘吐くかなぁ……。どうなんだろ? 連行されてる被害者の子だったりしてね。まさか共犯者ってことはないでしょうし」
「どうでしょうね」
ぼくは肩を竦めた。
「ところでその生物実験部なんですが。ある生徒の勧めでぼくも入部することを決めましてね」
それを聞いて、律子さんが驚いたように口を覆った。
「えぇ? 未明くん、部活とかやるの?」
「最初はやらないつもりだったんですけどね。熱心に勧められたのと、個人的に用があったので」
「ふうん。それはまぁ、良いことだと思うよ。友達もできるだろうし」
律子さんはそう言ってふんふんうなずくと、次に心配げな表情になって
「だけれど未明くん。気をつけてね」
「何をですか?」
「今の生物部。ちょっと嫌な噂もあるらしいから」
律子さんが声を潜ませる。あれだけ不気味な教室を所有する生物部だ、悪い噂の一つや二つは当然のことだと思うのだが。律子さんの表情はこれまでになく真剣だった。
「こないだ後輩から聞いたんだけどね。なんでも部活に所属している子の何人か、行方不明になってるんだとか。神隠しっていうの?」
なんだそれは? ぼくは首をかしげる。
「言ってもまだ二人だけだから、生物部だからどうって訳じゃないんだろうけど。用心しておくのに越したことはないんじゃないかな? 最近物騒だしね」
「分かりました」
いったいどういう風に気をつけていれば、その噂とやらを回避できるのかはわからなかったが、ぼくはとりえあえずうなずいておいた。
大松島中学がその手の噂に溢れたところであることは、なんとなく承知しつつあった。
その夜。ぼくはなんとなく眠くなることができずに雑誌をめくっていた。
こっちに越して来る時、汽車の時刻を逃して暇つぶしに購入した雑誌だ。よく見ればいくらか古い号の雑誌だったが、そんなものがいまだ置かれているのも、なんというか『らしい』ことだと思った。
嘘っぱちだとはなから分かり切ったような都市伝説や、世の中の珍しい出来事を軽妙に書き綴った記事が書かれている。読み応えがあるとは言いがたかったが、その頭に残らないところが気に入っていた。
例の都市伝説……白い死神のことについてもちょっとだけ言及されていたが、律子さんから聞いた以上の情報は載っていなかった。被害者の名前や発見された場所、それから田浦村にまつわる真偽も確かでない噂話などが掲載されていて。なんというか、ぼくがこの地元に越してきていなければ、とてもじゃないが興味などもてそうにない内容だった。
全ての記事の中でもひときわ目を引いたのは、某国のマニアが購入した二メートル級のヒヒの話である。
世界中の研究者を注目させているらしいそのヒヒを、免許を所有した(その国の『免許』とやらがどういったものかは知らないが)好事家が購入したという話だった。ヒヒはなんと男の家の屋内で飼われているようで、天井まである檻が手狭に見える。男は嬉々としてその自慢のペットの写真を提供し、一日にどれだけの餌を食うのかなどを楽しそうに答えていた。
ヒヒなんてでかくても一メートルくらいだと知識としては知っていたし、『突然変異』なんて言葉がそもそも薄っぺらい。如何にも記事を成り立たせる為につけたした言葉だというのが見えているし、写真の方だって合成してできないこともなさそうだ。
だがしかし、そのバカバカしさ、虚構臭さこそがぼくが求めているものだった。もしかしたらぼくは、今の現実に飽いているのかもしれない。あの地獄のように激しい戦争を潜り抜け、かと言って安息を楽しむ気分にもなれず、漠然と何か心躍るものを捜し求めている。神代命に興味を魅かれたのも、それで白い死神を調べているのも、そういう心理によるものかもしれなかった。




