12 聖魔法の目覚め/LV4
ブランシュたちは、平原の街のすぐそばにあるダンジョンに潜った。
国で管理しているダンジョンだが、申請すれば誰でも入れる。
経験値を上げたい人々は、ブランシュ以外にもいるため、ダンジョン内には、そこそこ人の姿が見られる。
先日の北の村のダンジョンと違い、ここの魔物たちは強い。
一撃で倒すことはできず……。
ザシュッ!
「ユーグ! お前がやると一撃になっちゃって、ブランシュのレベル上げになんないから、ちょっとおとなしくして!」
「……」
ユーグが精悍な顔をしゅんとさせる。
「いいか、基本の確認だ。俺が弱らせて、ブランシュがとどめを刺す。ユーグは、危なそうだったら、斧を出さずに、基本盾になる!」
「すまん……」
ユーグは、サシャの前だと、時々、こんな風に話す。
(Max二語文だけど)
いつかブランシュも会話ができたらいい、と思っていると、なんだかいつの間にか二人が言い争いを始めてしまっていた。
「できないならさっ、俺がお前の斧預かるから! ユーグ、それ貸せよ」
「……いやだ」
「じゃあどうやったら、言った通りにできんの⁉ いいから貸せってば」
そして、ユーグの斧を強引に奪おうとして、サシャの伸ばした手がユーグの斧に触れた。
「つっ」
サシャの腕が、斧の刃ですっぱり切れてしまったのだ。
ぼたぼたと血が地面に倒れるほどだ。
「すまん……」
二人とも我に返ったらしく、争いはそれで中断した。
「サシャ、座わって!」
ブランシュがそういうと、サシャは言われるままに腰を下ろした。
体の小さいサシャが出血したら、少しの量でも、立ち眩みなどが起こるかもしれない。
サシャの鞄の中には、よく効く傷薬があるのを知っているが、まずは血を止めなければならない。
ブランシュは、清潔な布を取り出すと、血を流すサシャの腕を、圧迫止血の要領でぎゅっと押さえた。
(止まって……って、え?)
ブランシュの手の下でサシャの腕が、光る。
不思議な輝きだった。
そして、ブランシュは、その輝きを知っていた。
幾度も、幾度も、画面越しに見たその光を忘れるわけがない。
<おい、ブランシュ、それ>
恐る恐るサシャの腕を覆っていた布を持ち上げると、サシャの腕の傷は、きれいに消えていた。
熱いものが胸の奥にせりあがってきて、ぶわっと涙が出てくる。
「ギィいい。私……私、やっと聖魔法が使えるようになったよおぉぉ」
その後は、ダンジョンでのレベル上げにも熱が入った。
サシャやユーグがかすり傷でも負おうものならば、ブランシュはすぐに治癒の魔法を使う。
ステータスの上昇を実感しながら、ダンジョン最下層まで潜り、その日はそのまま帰路についた。
聖女の使う治癒の魔法は、第二階位聖魔法のセイクリッド・キュアだ。
この魔法は、文字度通り、けがの治癒を行う魔法だ。
通常だと第一階位の聖属性付与魔法セイクリッド・ギフトが先に使えるようになる。
しかし、ブランシュの場合は、先に第二階位の魔法が使えるようになったらしい。
「この調子なら、ボスダンジョンまでに、第五階位魔法まで行けちゃいそうね!」
<おう。ばっちりだな>
名前:ブランシュ
ジョブ:聖女見習い
レベル:3→4
体力:180 → 210
魔力:120 → 140
魔法攻撃力:70 → 80
所持魔法:第三階位水魔法、第二階位風魔法
スキル:なし
ステータス画面では、まだ聖魔法の表示が出てこないが、表示がうまくいっていないだけだろう。
実際魔法が使えているのだから、あまり気にしないことにする。
ハイテンションで地上へと戻るブランシュとギィを見ながら、サシャが、そう言えば、と問いを投げかけてきた。
「なあなあ、魔王のいるボスダンジョンって、俺らの住むディアボリ公国にあるんだろ? どの辺なの?」
アルフォンスと同様、サシャやユーグにも、ブランシュが転生者だと伝えてある。
「公国の西の森よ。森の奥にあるダンジョンなんだけど、湧き出た魔物が人里まで降りてくることで、人々はダンジョンの存在に気づくの」
「ああ……なるほどね。確かに、最近、魔物の目撃情報が多いって主が言ってた。……そこに魔王がいるんだ」
「ええ。私たちの最終目的は、魔王討伐よ」
「一番強いやつをやっつけちゃえば、それでいいもんな」
「うーん、一番強いやつっていうか、悪いやつね。一番強いやつっていうと、実は、魔王じゃないのよね」
「どゆこと?」
ブランシュは、そう言えば、誰にも、裏ボスの話をしていなかったことに思い至る。
「ええっと、魔王は人間界を滅ぼそうとしてるから、討伐が必要なの。でも、一番強いのは、魔王討伐後に現れる、隠しダンジョンの裏ボスなのよ。私もそこまで行きついたことなくて、対戦したことないんだけどね。この裏ボスは、別に人間を滅ぼそうとかしてないから、無理に戦う必要ないと思うのよねえ」
「隠しダンジョンって……。ブランシュはそれがどこにあるか知ってるの?」
「ええ。ボスダンジョンのそばよ。ボスダンジョンがクリアされると、その奥の扉が入り口になるの」
「え? ちが……」
「サシャ」
その時、いつもと違う強い調子で、ユーグがサシャの言葉を遮った。
地上への最後の階段を上りきる、少し手前だった。
地上から、飛び交う怒号が聞こえる。
<何だか焦げ臭え>
サシャとユーグが、ブランシュを追い抜き地上へと駆け上がる。
ブランシュも、駆け上がる二人の後を追いかけた。
遅れて地上へ出たブランシュの目に映ったのは、激しい炎に包まれた森や建物の姿だった。
「ひどい、なんでこんな」
「やつだ」
サシャが指さした先、炎の奥から、悠然と姿を現したのは──。
「キマイラ」
ライオンの体に蛇の尾を持つ、ライオンとヤギの双頭の怪物だった。
象と同じくらいの巨体を持つその怪物は、最低クリアレベル18の、中ボスだった。




