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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第三章 伸上り
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伸上り<12>

 三人が姿を消した。あんなに酔っ払っているのに、どうして筋の通った理屈と知恵が出るのか、琥珀は感心するやら呆れるやら、とにかく太陰(たいおん)に驚いたのだ。そんな琥珀を見て、晴茂が言った。

「ははは、琥珀、太陰に驚いたか」

「はい、晴茂様」


「元々、人間だった六天将は、自分の好きな年齢の姿で現れてくる。太陰は、清廉、清純、清潔な少女の時代が最も活躍した年代なのだが、自分ではやや歳を重ね世の中の汚れを知ったあの年齢が好きなのだろう」

「ええ?太陰様が、清廉、清純?」


「はははは、そうだよ。しかし、歳を重ねて知恵者になっていったのだから、あの姿がぴったりだ。お酒が入ると、知恵も冴えるしな。清廉、潔白な少女じゃ知恵者は似合わない」

「はい、まさにぴったりな姿です」



「うん、天后(てんこう)はな、…あれでも天帝の后だったのだ。后としての時代が長く、みんなから慕われ、慈母(じぼ)と言われていた。優美な女性の象徴なんだ。それでも本人は后になる前の姿、荒海を縦横無尽に航海した若いお転婆(てんば)娘の姿が好きなのだろう」

「へえー、そうなのですか。天后様は優美な慈母なのですか」



「ついでに言うとな、六合(りくごう)はあんな風に温和な老将の姿だが、若い頃は敵うもののない猛将だったんだ。冷酷で残忍な戦いをたくさん経験した後に、争い事を嫌う老将になった。六合があの姿を好きなのは、何となく分かる気がする」

「はい、六合様は、あの姿が一番似合っていると思います」



「そうだな。で、大裳(たいも)だが、彼は天帝に仕えた文官だ。善人で律儀で、徳のある仕事をした。その活躍した年代そのままの姿だ。信頼感を与える風貌(ふうぼう)だよな」

「はい。大裳様には何でも相談できそうな、そんな雰囲気です」



貴人(きじん)天空(てんくう)は、僕にも素性がよく分からない。現れる姿も、彼ららしいと思えば、そう思える」

「貴人様は、何か得体の知れないって感じが出てる姿ですよね。この人には、敵わないっていう感じです。天空様は、あの顔、あの姿にしては粗暴すぎると思います。顔と姿が美し過ぎます」


「はははは、天空はそうだな。やっていることがあんなに乱暴で陰険なのに、善人風で美男子の姿をしている。その落差を本人は気に入っているのかもな」


「琥珀は、自分の今の姿が好きか?」

そう晴茂に聞かれて、琥珀は答えに困った。


 自分がどんな人間なのかまだ分からないのに、今の姿が好きか嫌いか、判断できないし、考えたこともない。でも…、嫌いではないと思う。


「はい、嫌いではありません。晴茂様が造ってくれた姿ですから、好きです」


「ははは、僕は無意識に理想女性の姿や顔でおまえを造ったのだから、僕にはぴったりなんだけどな」

「はい、晴茂様!」


琥珀は、自分の姿が晴茂の理想だと聞いて嬉しかった。また、胸が高鳴り出した。


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