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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第二章 人間へ(猫又)
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人間へ<4>

 大裳と晴茂は、又しても怖い顔を突き合わせて深刻になってしまった。大裳は、太陰に助けを求めるような目で言った。

「太陰、何か智恵はないのか」


呼ばれた太陰は、居眠りをしているではないか。

「あらっ、まだ何かご用?」

「太陰、おまえ寝てたのか?」

「だって、お話は解決しましたわ、ほろ酔いだから眠くって、…」

「何も解決していないぞ。どのように琥珀を普通の人間にするかだ。人間には覚えることが山とある。一々教えていたのでは時間がかかり過ぎる。だから知恵者のおまえに聞いたんだ。何かいい知恵はあるか」


 どこまで行ってもくそ真面目な大裳だ。そして楽天家の太陰は、再び軽く答えた。

「ありますわよ、いい方法が」

「なに?あるか」

晴茂と大裳は、目を見開いた。


「だから何時も言ってますわ、大裳。わたくしを知恵者とか悪知恵が働くとか、色々おっしゃいますけれどね、もっと素直に物事を考えればよろしいのですわ。琥珀を普通の人間になさりたいのでしょう。それなら、うぃい…、誰か普通の人間の心をそのまま琥珀に与えればいいじゃございませんか」

「ああ、あ、そうか、??」


 晴茂と大裳は、感心して頷いた。既に大人として出来上がっている心を、常識や知識諸共、琥珀に与えれば、普通の人間になる。お金や物の買い方なんか教える必要はない。世間話もすぐにできる。なるほど、そうだな、と二人は納得しきりなのだ。


 しかし、太陰はそんな二人を見ながら続けた。

「でも、容姿は違いますけど、おんなじ人間が出来上がってしまいますわね。ほほほほ、…。それに、心を他の人に模写された元の人が大変お困りになるかもしれませんわね、ほほほ…」

「あ、そうか。それはそれで問題だな」

晴茂と大裳は顔を見合わせた。そして太陰を見た。


「あら、ご免なさい。笑ってしまいました。何とか二人とか三人の心を混ぜ合わせて琥珀に与えるとか、よくよく考えれば解決しますわよ」

「なる程、そうだな太陰。しかし、おまえは次から次へと上手い考えが浮かぶなぁ、感心する。で、…晴茂様、そんな呪術はありますか」


「えっ?あ、そんな呪術…」

晴茂は、戸惑った。そんな呪術は知らない。誰かの心を琥珀に移す、それが呪術でできるのだろうか。心を移されてしまった人は、いったいどうなるのだろう。晴茂と大裳が、又しても困って難しい顔で見合わせた。


 太陰はそんな二人を見つつ、さりげなく言った。

「ひとりいますわ。できる人が」

それを聞いて、晴茂もはたと気が付いた。

貴人(きじん)か」

「はい、晴茂様。貴人ですわ。貴人を呼んで、聞いてみてください。それから、…」

太陰は、酔っ払っているにしては、しっかりした口調で続けた。


「晴茂様は、六獣神の術は会得して使いこなせるようですけれど、あの者たちの得意技は、もっぱら戦用のものですわ。わたくし達、六神の(わざ)は、もちろん戦いにも使えますけれど、それ以外への使い道が大いにありますのよ。この大裳の術で、そこの琥珀石の素性が分かりましたわよね。その呪力は晴茂様、あなた様にも備わっておりますわ。もちろん、わたくしの智恵も同じです。わたくし共、十二天将を式神として使い切るには、晴茂様の更なるご修行をお待ちしております」


 そこまで言って、太陰は後ろへずり下がると、恐縮して頭を深く下げた。

「申し訳ありません、晴茂様。お説教がましいことを言いました。お許しください」

晴茂は、胸に刺さる言葉だと、自分の未熟さを改めて自覚した。

「分かった、太陰。ありがとう」

「はい、晴茂様。では、わたくしはこれで戻りますわ。もう一杯ひっかけてから少し眠ります、ほほほ…」

「これっ、太陰!」

大裳が(たしな)めると同時に太陰の姿が消えた。


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