053 異端審問
王都の教会から、名指しで呼び出しを食らった。
すがる思いで、シュウ、テツ、リン、そしてアザミに「一緒に来てくれ」と頼んでみたところ、見事に全員から断られてしまった。
「いやー、教会はちょっと……」と、目を逸らしながら後ずさりしていくあいつらの顔は一生忘れない。薄情な奴らめ!
仕方なく俺は、オーダーメイドのスーツに身を包み、ヴァルテン伯爵からもらった『庇護の指輪』を右手にはめて、単身で教会へと出頭――もとい、訪問した。
案内された厳かな応接室で出迎えてくれたのは、身につけている服装からして明らかに高位だろう、笑顔が優しい初老の神父だった。
「本日、ゲン男爵殿にお越しいただいたのは、他でもありません。少々、尋問……ゲフンゲフン。少々、お話がしたくてお呼び立ていたしました」
今、はっきりと『尋問』って言ったぞ、このジジイ!
背筋に冷たい汗が流れたが、俺はわざとらしく右手を顎に当て、伯爵の指輪が相手からよく見えるようにチラつかせながら、努めて冷静な声を声を出した。
「単刀直入にお聞きしますが、お話とは、なんでしょうか?」
「ええ。実は最近、奇妙な噂話を耳にしましてな。何でも近いうちに、男爵殿が『あの世から亡者の魂を召喚する』と。王国の食料危機を救い、王から男爵位を授与された御方が、街なかで大規模な死霊術を行うなどという大それた真似をするはずがないと、私は信じているのですが……」
笑顔を絶やさない神父だが、目つきだけは鋭く、俺を値踏みするように見つめてくる。
死霊術だと? 冗談じゃない。
「亡者の魂を召喚? そんなことはしませんが? 何かの勘違いでは?」
「おお、やはりそうでしたか!」
俺の即答に、神父はパッと顔をほころばせた。
「いやはや、安心しましたぞ。なんでも『ボンオドリ』なる儀式で、死霊を大量に召喚する計画があると下の者が報告してきましてな。フォッフォッフォッ」
「え……盆踊り!?」
「ん?」
応接室に、凍りつくような沈黙が流れた。
神父の顔からスッと笑みが消え、異端審問官のような鋭い眼光が俺を射抜く。
「……やはり、噂は真実で?」
「違います! 違います!!」
俺は椅子から身を乗り出し、必死に両手を振って弁明した。ここで異端認定されたら、火あぶりになりかねない。
「あのですね、『お盆』というのは決して死霊を操るような邪悪な魔術ではありません! 年に一度、亡くなったご先祖様の霊を家族の元へお迎えして、感謝を捧げて供養するという、私の故郷の極めて平和的で神聖な伝統行事なんです! その『盆踊り』というのも、帰ってきたご先祖様の霊を慰め、もてなすためのただの歓迎の踊りでして、アンデッドを街に放つとかそういう物騒な意図は一切ありません!!」
息継ぎも忘れて一気にまくしたてると、神父は目を丸くしてパチパチと瞬きをした。
「つ、つまり……死霊を召喚して使役するわけではないと?」
「そうです! ただのお祭りです!」
心からの叫びを聞いて、神父は大きく息を吐き出し、再び柔和な笑顔に戻った。
「フォッフォッフォッ。いやはや、安心しましたぞ。異国の文化というのは面白いものですな。死霊を街なかで召喚するとか、ましてや『モンスターに変装して人々から食べ物を奪い取る計画がある』などという噂も、やはりデタラメでしたか」
「…………」
俺は顔を引きつらせ、無言で固まった。
……秋に控えている『ハロウィンパーティー』。すでにお祭り実行委員会で承認されて、王都の子供たちを招待する計画があることを、果たしてこの神父にどうやって説明すればいいのか頭を悩ませるであった。
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ストック尽きました。次話未定。




