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第3話 五歳になったので、家族の食卓に座ることになった[挿絵有]

初日投稿分は以上です、4話は明日投稿予定です

第3話 五歳になったので、家族の食卓に座ることになった


五歳になった。


この世界では、五歳から子どもは家族の一員と正式にみなされる。


理由は単純で、それ以前に死ぬ子どもが多いからだ。


実際どのくらいなのかは、統計のないこの世界では測定不能だ。


だが、前世の歴史で見れば、乳幼児死亡率がとんでもないことになっている時代や地域は珍しくなかったはずだ。


五歳までに半分近く死ぬ。


嫌な数字だ。


だが、嫌な数字だからといって、現実から消えてくれるわけではない。


五歳まで生きる。


それだけで、この世界では一つ扱いが変わるらしい。


嫌な基準だが、まあ、医療がこの有様では仕方ない。


基本的には、すぐに何かが大きく変わるということはない。


急に部屋が広くなるわけでもないし、服が豪華になるわけでもない。


朝起きたら枕元に「祝・正式な家族入り」と書かれた札が置いてあるわけでもない。


あったら怖い。


ただ、一つだけ大きな変化があった。


家族と一緒に食事をとるようになるということである。


それまでは、母であるミラと一緒に別宅で食事をとっていた。


別宅、といえば聞こえはいい。


本館から少し離れた、小さな建物だ。


古くはあるが、汚くはない。


食事も出る。


使用人もいる。


ただ、本館ではない。


それだけで、だいたい分かる。


五歳になった俺は、初めて本館の食卓に座ることになった。


食卓に座るのは、俺以外に四人。


まずは兄が二人。


長男、アルノルト・トルガ。


次男、バルド・トルガ。


三男なので当然ではあるが、俺には二人の兄がいる。


残念ながら、両方男だ。


前世では、金髪縦ロールのお嬢様キャラが割と癖だったので、初めは少しだけ姉を期待した。


現実は兄二人。


しかも腹違い。


アルノルトは十歳。


背筋が伸びていて、食事中も余計なことを言わない。


十歳の子どもというより、すでに長男として振る舞うことを覚えている感じがした。


この家では、そういうものなのだろう。


バルドは八歳。


こちらは分かりやすい。


よく食べる。


食器の音が少しうるさい。


俺のことをちらちら見る。


興味はあるらしい。


ただ、その興味が「弟が増えた」なのか「変な生き物が来た」なのかは分からない。


たぶん後者も混じっている。


兄たちは、俺より生まれた順番が早い。


それだけではない。


あちらは正妻の子だ。


貴族社会的な序列は、俺よりだいぶ上になる。


そして。


父、レオンハルト・トルガ。


正妻、ヒルデガルド・トルガ。


挿絵(By みてみん)


母、ミラの席はない。


俺の母と父は正式に結婚しているわけではなく、母はあくまで妾という立場にある。


ミラに家名はない。


トルガでもない。


ただ、ミラ。


知っていた。


知っていたが、食卓に席がないという形で出されると、なかなか分かりやすい。


分かりやすすぎて、少し嫌になる。


とはいえ、母が悪く扱われている様子はなかった。


父の方針なのだと思う。


少なくとも、使用人が母を雑に扱うことはなかったし、俺と兄たちの扱いにも大きな差はなかった。


父は、そうしようとしていたのだと思う。


ただ、そうしようとすることと、実際に同じになることは別だ。


食卓に母の椅子はない。


それが答えだった。


父レオンハルトは、少しくたびれた印象のある人物だった。


年齢は五十六。


長男のアルノルトが十歳であることを考えると、貴族が子どもを作る年齢としては少し遅めだ。


若いころは、かなり見栄えのする男だったのだと思う。


今でも背筋は伸びているし、声も低い。


ただ、楽しそうには見えない。


父は仕事をこなしていた。


こなしていた、という言い方が一番近い。


領地を回すための仕事。


近隣貴族との付き合い。


王都への書状。


家中の調整。


それらを淡々と片づけて、空いた時間は書斎で一人過ごしていることが多い。


五歳児の感想としては、かなり嫌なところを見ている気がする。


食事を一緒にとるようになって、父と話すことが増えた。


子どもの疑問という体で、領地の特産品や領地の状況について聞くと、父はわりと話してくれる。


「父上、トルガ領では何がよく採れるのですか」


「ラウ麦とベルナ麦だな。北の方ではグラウ羊も多い」


「グラウ羊ですか」


「毛が取れる。肉にもなる。皮も使える」


「便利ですね」


「そうだな」


そういう会話だ。


五歳児の質問としては、まあ許される範囲だと思う。


本当はもっと聞きたい。


税はどう取っているのか。


倉庫はどこにあるのか。


村ごとの人口はどれくらいか。


川はどこで氾濫するのか。


港はあるのか。


鉱山はあるのか。


聞きたいことはいくらでもあった。


だが、あまり聞きすぎると、ヒルデガルドが嫌な顔をする。


怒るわけではない。


眉を吊り上げるわけでもない。


ただ、少し黙る。


ナイフを置く音が硬くなる。


笑顔が薄くなる。


それだけで食卓の空気は冷える。


貴族の食卓、面倒くさい。


まあ、ヒルデガルドの気持ちも分からなくはない。


妾腹の子どもが、領地のことを知りたがる。


長男を産んだ正妻としては、面白くないだろう。


彼女からすると、俺はふてぶてしくて、できれば頭の悪い子どもである方が都合がいいのだと思う。


何も考えず、何も望まず、食べて寝て育つだけの子ども。


都合がいい。


非常に都合がいい。


だが、こちらとしても困る。


頭を悪く見せすぎると、この世界では普通に詰む。


俺はまだ五歳だが、そこは分かる。


兄二人とは、まだあまり話せていない。


お互いに距離感を測っているところがある。


アルノルトは俺に対して、特に乱暴ではない。


ただ、近づいてもこない。


弟が増えた、という顔ではなかった。


面倒な話が一つ増えた、くらいの顔だった。


十歳でそれはどうなんだ。


いや、十歳だからこそ素直に顔に出るのかもしれない。


バルドはたまに話しかけたそうにするが、ヒルデガルドの視線が飛ぶと黙る。


俺と話すな、と言われている可能性もある。


言われていないとしても、子どもは親の顔色を見る。


貴族の子どもなら、なおさらだ。


そんなわけで、俺の五歳は、本館の食卓と一緒に始まった。


家族の一員にはなった。


ただし、母の席はない。


俺はトルガ家の子どもになった。


同時に、ミラの子どもでもあった。


どうやら、この二つは同じ意味ではないらしい。


気候が熱くなり始めたころ、母が病を患った。


はじめは、ただの疲れだと言われた。


母もそう言って笑った。


「少し休めば大丈夫です」


そう言って、俺の髪を撫でた。


その手が、いつもより熱かった。


俺は嫌な予感がした。


前世の記憶がある分、普通の親子関係とは少し違うのだと思う。


俺は母を、無条件に世界の中心だと思う赤ん坊ではなかった。


中身は成人済みの男だ。


その自覚はある。


それでも、ミラは母だった。


五年間、一生懸命に俺を育ててくれた人だった。


俺が煮沸していない水を嫌がれば、理由も分からないまま湯冷ましを用意してくれた。


俺が変なことを言っても、怒らずに聞いてくれた。


俺が夜中に目を覚ますと、眠そうな顔で背中をさすってくれた。


母だった。


それ以外の言い方がない。


だから、できることはした。


熱がある時は、体を冷やしすぎないようにした。


水は必ず一度沸かしてもらった。


部屋の空気が悪くならないよう、窓を少し開けさせた。


汚れた布はすぐ替えてもらった。


食べられないなら、せめて薄い粥を少しずつ。


五歳児が口を出すには、どれも変だったと思う。


使用人は困った顔をした。


医者の中には、不快そうにする者もいた。


そりゃそうだ。


五歳児に看病のやり方を言われたら、俺でも嫌だ。


だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


父も手を尽くしてくれた。


何人も医者を呼んだ。


薬草師も呼んだ。


神官まで来た。


神官は祈った。


祈った。


かなり祈った。


祈ること自体は悪くない。


だが、祈りで熱が下がるなら、人類はもう少し楽だったと思う。


半年ほど過ぎた。


寒い季節になっていた。


母は亡くなった。


俺は泣いた。


かなり泣いた。


五歳児として泣いたのか、前世持ちの大人として泣いたのかは分からない。


たぶん、どちらでもあった。


そんな分類はどうでもよかった。


母が死んだ。


それだけだった。


父も泣いていた。


あの父が、声を殺して泣いていた。


他の家族がどうしていたかは知らない。


ヒルデガルドがどんな顔をしていたのか。


アルノルトが何を思ったのか。


バルドが泣いたのか。


何も覚えていない。


覚えているのは、冷たくなった母の手と、父の肩が少し震えていたことだけだ。


母さんが亡くなった、三日後の夜。


俺は父に呼ばれた。


「ベルクです。お呼びでしょうか、父上」


扉の前でそう告げると、中から声がした。


「入れ」


部屋に入ると、窓から月光が差し込んでいた。


満月だった。


床が白く照らされている。


部屋には、薄く酒の匂いがした。


机の上には杯が一つ。


父の顔色からしても、飲んでいたのだろう。


酒に逃げたのか。


そう思って、すぐにやめた。


逃げたくなる日くらいある。


母は俺の母だった。


父にとっても、ただの妾ではなかったはずだ。


「こちらへ来なさい」


父に言われ、俺は机の近くまで歩いた。


父はしばらく俺を見ていた。


いつもより、少し老けて見えた。


月明かりのせいかもしれない。


酒のせいかもしれない。


母が死んだからかもしれない。


たぶん、全部だ。


「お前は聡明な子だ」


父は言った。


「だから、私の話をしようと思う」


「父上の、ですか」


「そうだ。息子なのだから、父親のことくらい知っておくべきだろう」


たしかにそうだ。


だが、俺は父がどういう人生を歩んできた人物なのか、ほとんど知らなかった。


何度か聞いたことはある。


だが、いつもはぐらかされた。


なので、これは聞かない方がいい話なのだと判断していた。


世の中には、聞くと面倒な話がある。


前世でも、この世界でも、たぶんそこは同じだ。


「まあ、あまりよい話ではないんだがね」


父は杯を指先で回した。


「端的に言えば、私は負けたんだ」


「負けた?」


「そうだ。二十三年前。私が三十三の時だ」


父は、ゆっくり話し始めた。


「前の宰相閣下が亡くなられてな。次の宰相候補は二人いた。現宰相のバルナス侯爵と、ストルム公爵だ」


バルナス。


その名前は、食卓でも何度か聞いたことがある。


王都の中枢にいる人物。


今のヴァルマ王国で、王の次に書類を動かせる人間。


俺の理解では、そのくらいの相手だ。


「序列で言えば、ストルム公が上だった。我が家とも多少の親交があった。だから私は、ストルム公の陣営についた」


父は杯を持ち上げた。


だが、飲まずに置いた。


「はじめはストルム公陣営が優勢だった。だが、バルナス侯の陣営が追い上げた。どちらが宰相に選ばれるか分からなくなった」


父の声は淡々としていた。


淡々としているのが、逆に嫌だった。


たぶん、何度も心の中で繰り返した話なのだ。


「そんな時だ。焦ったストルム公陣営の誰かが、何を思ったのか、バルナス侯の暗殺を企てた」


「暗殺、ですか」


「失敗した。しかも、バルナス侯ではなく、息子を死なせてしまった」


部屋が少し静かになった気がした。


もちろん、部屋が何かをしたわけではない。


俺が勝手にそう感じただけだ。


バルナス侯の息子。


どんな人間だったのかは知らない。


だが、その死が王国の形を変えたことだけは分かった。


「バルナス侯は、もともと国をよくしようという思いのある優秀な男だった」


父は言った。


「少なくとも、暗殺などとは遠い男に見えた。だが、息子を殺されたのが相当だったのだろう」


父は目を伏せた。


「そこからは、血で血を洗う暗殺合戦だ」


五歳児に聞かせる話ではない。


本当に。


だが、ここまで聞いて、今さら耳を塞ぐわけにもいかない。


この世界の貴族、思っていたより殺伐としている。


いや、歴史を考えれば別に珍しくもないのだが、珍しくないからといって安心できるわけではない。


「最終的には、アルブレヒト王が激怒して暗殺合戦は終わった」


父は続けた。


「以後、貴族の投票で宰相を選出することになった。だが、あんな事態を招く引き金を引いたストルム公を支持する家は少なかった」


「それで、バルナス侯爵が宰相に」


「そうだ」


父は少しだけ笑った。


「私も、バルナス侯に入れた」


「父上は、ストルム公の陣営だったのでは」


「だった。だが、あの時点でストルム公を支持する理由はなくなっていた」


父は、杯の中を見た。


「負ける時は、せめて家が残る負け方をしなければならない」


嫌な言葉だった。


だが、分かる。


分かってしまう。


負けた側が意地を張ると、家ごと焼かれる。


歴史で何度も見た。


見たくもないほど見た。


「まあ、あんな悲惨なことがあったおかげで、今のヴァルマでは暗殺はご法度になった。やれば即、家が取り潰しだ。その心配をしなくてよくなったのはいい」


父はそこで、少しだけ息を吐いた。


「だが、そのあとはひたすら冷遇さ」


冷遇。


父の口から出ると、妙に生々しかった。


「婚姻だって、自由にはならなかった」


これ、暗にヒルデガルドさんとは政略結婚だと言っているな。


まあ、そうだろうとは思っていた。


食卓の空気を見れば、だいたい分かる。


「国の重要な役職は、バルナス宰相閣下の元からの支持者で固められている」


父は言った。


「貧乏くじは、何かと理由をつけて、旧ストルム公の支持者が引かされる」


「父上も」


「そうだ」


父はあっさり頷いた。


「私も、その一人だ」


それで、父は勝つことをやめたのか。


いや、違う。


勝とうとして負けたから、その後ずっと負け方を選ばされてきたのだ。


「ミラとの子を、この家に入れる」


父は静かに言った。


「この二十年で、私が唯一、勝ち取ったものだったのだが……」


父の声が、そこで少し止まった。


俺は、口を開いた。


たぶん、五歳児としては余計なことだった。


だが、言わずにはいられなかった。


「愛しておられたのですね」


父の指が止まった。


杯を持つ手が、ほんの少しだけ強ばる。


父は俺を見た。


目を見開いていた。


はっきりと驚いていた。


その顔を見て、俺は自分が五歳児だったことを思い出した。


しまった。


今のは五歳児が言う言葉ではない。


いや、五歳児でも言うかもしれない。


かなり大人びた五歳児なら。


だが、かなり大人びた五歳児という存在が、そもそも不審である。


父はしばらく黙っていた。


それから、小さく笑った。


今度の笑みは、さっきより少しだけ柔らかかった。


「……そうだな」


父は言った。


「愛していたのだと思う」


過去形だった。


そのことが、やけに胸に残った。


「話しておいてなんだが、五歳児に理解できるとは思っていなかった」


父は苦笑した。


「お前は、どこか他の子とは違うな」


やめてほしい。


その指摘はだいたい当たっている。


当たっているから困る。


俺は黙った。


父は、それ以上追及しなかった。


助かった。


前世があります、とは言えない。


言ったら医者か神官を呼ばれる。


どちらも嫌だ。


「この家は、アルノルトが継ぐ」


父は言った。


「はい」


それは分かっている。


長男。


正妻の子。


年齢も上。


家を継ぐ条件としては、ほぼ満点だ。


「そうなれば、お前は家の雑務を任されるか、よくてどこかの家へ婿養子といったところだろう」


ひどい話だ。


だが、間違ってはいない。


この世界は、現代のように成人して、それなりの社会性があればどこででも生きていける世界ではない。


自由に生きる、と言えば聞こえはいい。


だが、家も土地も後ろ盾もない人間は、普通に野垂れ死ぬ。


残念ながら、この世界にはダンジョンも冒険者稼業もない。


酒場で依頼を受けてスライムを倒す、みたいな便利な就職先は存在しない。


現実は不親切である。


「だから」


父は言った。


「お前が十二になったら、リストレインを任せようと思う」


俺は顔を上げた。


「リストレイン、ですか」


「トルガ領の南の端にある。小さな町と、いくつかの村がある程度の土地だ。山があり、川があり、小さな港もある」


山。


川。


港。


その三つがある時点で、俺の中ではかなり評価が上がった。


農地が作れる。


水運が使える。


港があるなら交易もできる。


山があるなら、鉱物資源の可能性もある。


もちろん、五歳児がそんな顔をしてはいけない。


俺はできるだけ子どもらしく首をかしげた。


たぶん下手だった。


「何もない場所だと思われている」


父は言った。


「遠い。地味だ。すぐに金を生む土地ではない。だから周りから大きな文句は出ないだろう」


「そのような土地を、私に?」


「不満か」


「いいえ」


不満ではない。


かなり面白い。


だが、五歳児なので、面白いとは言わない。


「何もない場所だが、立地はいい」


父は続けた。


「私が、いつか開拓してやろうと思っていた場所だ」


その声には、さっきまでとは少し違う熱があった。


父の中にも、まだ捨てきれていないものがあるのだと思った。


勝つことをやめたと言いながら、どこかでまだ何かを始めたがっている。


人間は面倒だ。


諦めたものを、完全には捨てられない。


「ベルク」


「はい」


「お前が本当に、その年まで生き、今のまま育つなら」


父は少し息を吐いた。


「リストレインを、お前に任せる」


口約束だ。


しかも、酒の入った夜の話である。


明日になれば、父が覚えているかも分からない。


覚えていても、周りが許すかは別だ。


だが、俺はその言葉を忘れなかった。


忘れられるはずがない。


この世界で、俺が自分の足で立つための場所。


その可能性が、初めて見えた夜だった。


「ありがとうございます、父上」


俺が頭を下げると、父は少しだけ苦笑した。


「礼を言うのは早い。まだ七年も先の話だ」


「では、七年後にもう一度言います」


父は少し驚いた顔をした。


それから、声を出さずに笑った。


「やはり、お前は変わっているな」


知っている。


いや、この世界ではまだあまり言われていない。


たぶん、これから増える。


その夜、父は酒のせいもあってか、五歳児相手にずいぶん話した。


最後には、領地を任せるという約束までしてしまった。


普通に考えれば、危ない。


五歳児にする話ではない。


だが、父にとっても母の死は、それだけ大きかったのだろう。


ミラとの子どもに何かを残してやりたい。


それが後悔なのか、愛情なのか、酔いの勢いなのかは分からない。


たぶん、全部だ。


その後、俺は部屋を出た。


廊下は冷えていた。


足音がやけに大きく聞こえる。


母が死んだ。


父は負けたと言った。


そして俺には、七年後の土地が約束された。


五歳の夜に抱えるには、どれも重すぎる。


本当に重い。


もう少し、年齢に配慮してほしい。


だが、この世界はそういう配慮をしてくれない。


翌朝、父はその話を覚えていた。


覚えていないふりもしなかった。


そこは少し意外だった。


俺は、ほんの少しだけ父を信用することにした。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


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感想も大歓迎です。

今後の執筆の参考にさせていただきます。


引き続き、ベルクたちの物語を楽しんでいただければ嬉しいです。

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