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第15話 再会(ベルク視点)[挿絵有]

初等学院の準備は揉めた。


家庭教師の組合が反発したのだ。


マルク先生まで「組合での立場がなくなる」 と言ってきた時は、さすがに少し笑った。


あの人が政治的な理由で物を言うのは珍しい。結局、学院での優先雇用を餌にしたら組合が内部分裂して、勝手に弱くなった。こちらとしてはありがたい。


次に入学希望者の問題だ。


ハンクフェンの人口はトルガ領で最大の四万。そのうち学齢期の子供は五千から六千といったところか。


家庭教師を雇えるのは貴族や大商人だけだ。だが、家庭教師の十分の一の学費なら手が届く家庭はぐっと増える。


商人、職人、下級役人。子供に読み書きを覚えさせれば、もう少しいい仕事にありつけるかもしれない。そう考える親は、思ったより多かった。


定員は六十名とした。教師の数と建物の広さから逆算した数字だ。


内訳は、学費を納める一般枠が五十五名。試験選抜による学費免除の枠が五名。


無料枠は、才能のある人間を貧困層から拾うためのものだ。ミルフェンでも、帳簿をつけられる人間が足りない。金がないというだけで才能が埋もれているなら、もったいない。


一般枠の志望者は六十八名。定員とほぼ同じで、ほぼ全入だ。学費を取る以上、よほどのことがなければ落とす理由はない。


一方、無料枠は九十三名が受験した。五名に対して九十三名。


「学費が要らない」の一言は、想像以上に強かった。


試験の結果が出た。


一般枠は五十五名、問題ない。


無料枠、五名。結果の一覧に目を通していて、一つ引っかかるものがあった。


一般選抜の首席が救護院の子供だったのだ。


三人受けて、受かったのは一人。


それも首席。


教科書を送ったのは半年ほど前だ。誰かが受ければいいとは思っていたが正直無料枠での受験者数を見て望みは薄いと思っていた。


面白いやつがいるものだ。


そんなことを考えているうちに、入学の日が来た。


初等学院の門の前に、六十人の子供が並んでいる。


親に連れられている子が多い。商人の子、職人の子、役人の子。身なりはそれなりだ。


生徒には全員、同じ白い上着を支給してある。服装で家の懐具合が丸わかりになるのは面倒事の種にしかならない。そういう配慮だ。


俺は校舎の入り口脇に立って、並ぶ子供たちを眺めていた。


六十人。この中から、帳簿をつけられる人間が何人か出てくれれば、元は取れる。


視線が、一人の子供で止まった。


銀色の髪。


白い上着の列の中で、その髪だけが不自然に目を引いた。


見覚えのある色だ。


子供がこちらを向いた。


翡翠色の目。


まだ、うっすらとわかるぐらいには残っている手の傷痕が疼いた気がした。


記憶が一気に甦る。


裏路地。骨と皮だけの体。馬車に石を投げた子供。濡れた布にしゃぶりつき、俺の手に噛みついた子供。


あの子か。


俺は子供たちの列に向かって歩いた。


開校の挨拶はあとでいい。


銀髪の子供の前で、足を止めた。


「ん。お前、あの時の猫みたいなやつか」


子供は俺を見上げている。翡翠色の目が、大きく見開かれていた。


あの時とは、ずいぶん印象は変わっている。


頬に肉がついている。肌に血の色がある。髪は手入れされて、朝の光を受けて淡く光っていた。


「綺麗になったな」


自然に出た言葉だった。


子供の唇が震えた。


何か言おうとしている。けれど、声にならない。


翡翠色の目に、みるみる涙が溜まっていった。


挿絵(By みてみん)

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