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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
3章

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68 観光地へのお誘い

 視察も六日目に差し掛かった。今日は視察の中盤に設けた休日だ。

 勿論これは予備日でもあるため、この時点で遅れがあれば、その分の休みは削れる。だが、予定通りここまで進むことができていた。


 少し大回りで王城を目指しながら、明日は残りの街の視察を一つ行い、その翌日に最後の街の視察を完了すれば全日程が終了する。そこから、休憩を挟みながら残り二日かけて王城を目指す予定だ。


 これまで、シャンテルには夕方に自由時間ができた時も宿の部屋に籠って、視察のメモを元に報告書を纏めていた。

 城に帰れば書類が貯まっていることは目に見えている。そのため、少しでも仕事を片付けておきたかった。だけど、今日は珍しく予定があった。


 まだ日も登らないうちから、サリーが視察中の変装用に用意してくれていた村娘風のワンピースに着替える。そして、軽く化粧を施し、髪はハーフアップにして整えた。

 そうやって準備を終えた頃、来客を告げるノックの音が響く。


「入らしたわね」


 サリーがドアを開けて訪問者を確認する。


「ジョセフ様がお迎えにいらっしゃいました」


 それを聞いて開いた扉の前に向かうと、シャンテルの視界いっぱいに鮮やかな赤やオレンジが広がった。


「わっ」


 シャンテルが驚きの声を上げると、鮮やかな色合いのそれが視界から離れて、代わりにジョセフが顔を覗かせた。


「シャンテル様、おはようございます。驚きましたか?」

「えぇ、とても」


 シャンテルは頷くと、改まって挨拶する。


「ジョセフ様、おはようございます。可愛らしいお花ですね」


 視界いっぱいに広がっていた鮮やかな色の正体は花だった。赤やピンクにオレンジと色とりどりの花は見ているだけで、明るい気分にさせてくる。


「以前、庭園を巡った時に話していた新種の花です」

「まぁ、これが?」


 確かに、シャンテルが初めて目にする花だった。一つひとつはとても小さい可憐な花が、花束として一つに纏められている。


「素敵ですね」


 自然と口をついた言葉に、ジョセフが「はい」と頷く。


「こちら、シャンテル様へのプレゼントです」

「こんな貴重なもの、戴いていいのですか?」

「勿論です。シャンテル様のために公国に手紙を出して準備させましたから。それに、公国にはたくさん咲いている場所があるんですよ」


 そう言ったジョセフは、シャンテルに花束を手渡した。初めて貰う花束に、シャンテルは自然と笑顔が溢れる。


「ありがとうございます」


 異性からの初めてのプレゼント。それも花束のプレゼントだ。自分だけに向けられた言葉と笑顔にシャンテルは胸がときめくのを感じた。


「実はまだ準備しているプレゼントがあるのですが、それは王城に戻ってからお渡ししますね」


 ジョセフがそう言って微笑む。


「ですが、私が貰ってばかりでは申し訳ないです」

「何言っているんですか。今日は私がシャンテル様のお時間を貰っているんです、お礼のプレゼントくらいさせてください」

「……そう言うことでしたら、楽しみにしています」


 シャンテルは改めてお礼を告げると、貰ったばかりの花を花瓶に飾るようサリーに指示した。


「では、行きましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 シャンテルは差し伸べられたジョセフの手を取る。


 視察前、シャンテルは朝食の席で『よろしければ気分転換に私と庭園巡りはいかがですか?』とジョセフから誘いを受けて、検討する旨を伝えていた。だが、数日前に彼から手紙が送られ、庭園巡りの代わりに花畑に行かないか? と改めて誘い直された。


 そこは観光地として知られている広い花畑だ。

 見慣れた王城の庭園ではなく、初めて行く観光地へのお誘いに、行ってみたい気持ちが勝った。

 普段、王城の外に出る機会があまりなく、せっかくここまで来たのだから。とすぐに了承した。


 見渡す限り、どこまでも花が広がる景色を見ながら遊歩道を歩けると有名な場所なのよね。


 わくわくとはやる気持ちを感じてハッとする。


 こ、これはあくまでも婚約者候補のジョセフ様との交流よ! エスコートされるだけじゃなくて、しっかりご案内しなくちゃ! それに、観光地を見るなら、これも視察の一貫だわ!


 浮かれた心を鎮めるようにシャンテルは自身に活を入れた。


 そして、部屋の警護をダレンに任せると、サリーとカールを連れて宿を出た。



 ◆◆◆◆◆



 シャンテルとジョセフが花畑へ向かった数十分後。

 何も知らないエドマンドが、シャンテルの部屋の前にやってくる。夜中から早朝までドアの前を護衛していた騎士のダレンは現れた待ち人の姿に、ほっと息を吐いた。


「エドマンド皇子、シャンテル様は先ほどお出掛けになりました。今日の護衛は全てカール様が担当します。本日はエドマンド皇子も羽を伸ばして自由にお過ごしください」


 その言葉に、エドマンドは瞬きする。


「……事前に何も聞いていないが?」

「急遽決められましまたから」


 数日前に決まっていた外出ではあるが、ダレンも直前まで知らされていなかった。

 ジョセフが訪ねてくる少し前にカールがやって来て、聞かされたのだ。だから嘘ではない。


 エドマンドの怪しむ視線が床に向けられる。そこには小さなオレンジの何かが落ちていた。

 そっとしゃがんで拾えば、花びらだということが分かる。


「……。今朝、ここに誰が尋ねてきた?」

「え?」

「答えろ」


 エドマンドはダレンに一歩近付く。その瞳は確信するように真っ直ぐダレンに向けられていた。


「こ、困ります。たとえエドマンド皇子でも、護衛騎士として見聞きしたことは話せません」


 そんなダレンの回答にエドマンドはハッとさせられた。焦る気持ちが先走ってしまったようだ。


「すみません。今のは忘れてください」


 エドマンドは作った笑顔を見せると、花びらを持って宿の自室へ戻った。

いつもお読みくださりありがとうございます!

現在執筆しているお話で、もう少し考えたい箇所があり、時間が掛かってしまっています。

ストックが少ないため、次の更新は4/3(金)、その次は4/10(金)とさせていただきます。

お待たせしてしまいますが、これからも応援よろしくお願いいたします!

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