40 密かに応援する侍女たち
翌日もエドマンドは何食わぬ顔で、シャンテルの部屋の前で待っていた。
昨夜のシャンテルは頬に残る唇の感触が中々消えず、朝方まで寝付けなかった。にも拘らず、エドマンドは眠そうな顔一つしていない。
「シャンテル王女、顔が赤いようですがどうされました?」
胡散臭い笑みを浮かべながら、態とらしく丁寧な口調で尋ねてくるエドマンド。彼に振り回されている気がしたシャンテルは思わず睨み付ける。
「頬でその反応をされると、今後が楽しみだな?」
「っ!?」
何も言っていないのに指摘され、昨夜と同様にシャンテルの頬に熱が灯る。
「っ、……からかわないで下さい!!」
昨夜のシャンテルは文字通り走って自室に逃げた。
数日前のように、慌てて部屋に駆け込んできたシャンテルに、主の帰りを待っていたサリーは首を傾げた。だが今回はあの時と違い、シャンテルの頬は真っ赤に染まっていた。その姿に、サリーは何事かと驚いていたた。
風邪!? と慌てふためくサリーを「何でもない」と落ち着かせるのが大変だった。「何でも無いわけがありません!!」とサリーがシャンテルを問い詰めようとした。だが、ハッとした彼女が急にニマニマしだしてシャンテルは嫌な予感がしたが、その日サリーがそれ以上問い詰めてくることはなかった。根掘り葉掘り聞かれなくてよかったと、安心した一方、不気味でもある。
そんなサリーが部屋を開けるなりシャンテルを待っていたエドマンドとのやり取りを見て、昨夜と同じ笑みを見せている。
姫様にも遂に良い出会いが! でもそれがデリア帝国の皇子殿下とは! ……だけど、あの優しい眼差し……間違いないわ!!
ジィィィンと、サリーが感動に浸る。
シャンテルは幼い頃に母を亡くし、父である国王からは関心を向けられず、継母の側妃からは虐げられる日々を送ってきた。
それを誰よりも近くで見てきたサリーは、シャンテルが彼女を幸せにしてくれる殿方と結ばれることを祈っていた。
城内の噂で、夜会の日にエドマンドやアルツールたちから“求婚したい”とシャンテルが求められていたことは聞いていた。他にもセオ国やロマーフ公国の王族が、シャンテルと交流を深めたがっていることをサリーはシャンテルから聞かされていた。
昨日はエドマンドとアルツールが朝食の誘いに現れたが、今日はエドマンドだけのようだ。
シャンテルのイイ人が大国の第二皇子ということには驚くばかりだ。何しろ同盟国でもなく、今も尚領土を拡大している大国の皇子だ。そんな彼に目を付けられたことは心配だった。
だが、エドマンドの表情を見ればシャンテルを大切に思っていることがよく分かる。だから、サリーは二人を応援したくなったのだ。
「姫様、良かったですね!」
何故か感動したように呟くサリー。そして、彼女の隣に並んでいる他二人の侍女もキラキラと瞳を輝かせていた。
「サリー? それから皆も。……何か勘違いしているわ」
侍女たちの視線に気付いてシャンテルはそう返した。
朝の迎えはエドマンドが勝手にやっていることで、決してシャンテルの本意ではない。それを伝えようと振り返ったが、腰に回された腕に体を引かれた。
「ひゃ!?」
シャンテルが驚いて斜め上を見上げると、エドマンドが胡散臭さの抜けた笑みを浮かべていた。
体の向きを変えられ、近づいたエドマンドとの距離に一瞬、シャンテルは身を固くする。
「さぁ、行こう」
言葉と共に腰に回された腕はするりと解かれ、代わりに手を掬われると、エドマンドがエスコートするように歩き出す。
サリーたちがにこにこしながら、シャンテルを見送る。今までエドマンドと共に、廊下で黙って待っていたカールがシャンテルののあとを付いてくる。
エドマンド皇子のこと、後で侍女たちに説明しなくちゃ。
一杯いっぱいの頭で、シャンテルは侍女たちへどう説明するか考えていた。




