12 おまかせ、出来なかった
「そうだよな。丸一日ポカリの残りと水とその辺のグミの実みたいなものしか食べてないんだからな。ああ、その前に一晩道端で寝ていたのか」
そう。俺が向こうで『不幸な事故』に遭ったのは十六時くらい。そしてこの世界で気づいたのは八時。
「あ、あの道端で一晩は過ごされていませんよ。女神様のところで転生の準備をして、この世界に下ろされたのが朝になってからの筈です。それにあちらの世界と時間枠が繋がっているわけではないと思いますし、女神様のところは時間の経過がありません」
「うーん、よく分からないけどそうなんだ。じゃあ今日がこの世界での過ごす初めての夜って事なんだね」
「そうですね。それにしても食べるものですよね」
そう言いながら『お助け妖精』は手の中からふよふよと飛んでアルミのテーブルの上に降りると、どこかにしまっていたらしい食べ物を並べ始めた。
一応ね、途中途中で食べられるものはちょっとずつ集めてはきたんだよ。でもさ、木の実だったり草の実だったり、後は本当に信じていいんだろうかっていう、きのこだったりで、これから先の食料事情がすでに暗雲漂う感じなんだよね。それに俺は絶対に虫は食べたくない。絶対に!
「き、きのこのスープとかはどうでしょう。お水しか出せませんが」
「味のないきのこスープよりはそっちの甘酸っぱい赤い実の方がいいかなぁ。ちなみに魔法で何か食材を出すなんて言うのは出来ないかな」
そう言うと『お助け妖精』はものすごく難しい顔をしてから口を開いた。
「……………………お、おまかせ、あれ~」
壊れたロボットのおもちゃみたいなぎくしゃくとした動きと絞り出すような声に俺は慌てて言葉を続ける。
「あ、あの、無理しなくてもこの実を」
「いえ、私もレベルアップを目指します! おまかせあれ~!」
そう言ってミニチュア幼児の妖精は、ものすごい勢いで腕を回した。
ポンッ!
テーブルの上に出てきたのは草だった。
俺のLv1の雑な鑑定が[食べられる草]と草の名前すら表示させずにその隣にポップアップのような画面を出す。
おまかせ……られなかった……
思わずそう考えてしまった事が伝わってしまったらしく『お助け妖精』のこめかみにものすごい筋が浮かんだ。
「ぐぬぬぬぬぬ」
ポンッ! ポンッ! ポンッ!
[食べられる草][食べられる草][食べられる草]
ああ、グルグルの目どころか、絶望で顔が真っ青になって引きつっている。
「俺が悪かった! ごめんよ」
「! いえ、あの……これは、その……」
「大丈夫だよ! 今日はこの実を食べよう。それで明日は何か味がつけられるようなものを探そう。そうだな、もしかしたら岩塩みたいなものがあるかもしれないし!」
うん。塩があれば、この草ときのこのスープだってイケるかもしれないし!
「う、わぁぁぁぁぁぁぁん!」
「!!!!」
ななな泣いた! え、俺大丈夫って言ったよ? え? 号泣しはじめた『お助け妖精』をどうしたらいいのか全く分からなかった。
俺は環と二人の兄妹だったし、環は癇癪を起したり、絶望して泣くようなタイプではなかった。それに父さんが転勤族だったから、俺自身が小さな子供と関わるような経験がほとんどなかったんだ。
「ほ、本来なら! 『お助け妖精』はお仕えする方が生まれた時からずっとずっと一緒にいて、お助けのレベルをあげていくものなのです! その時、その時にちゃんとお助けが出来るように! でも! アラタ様はお会いした時にはもう十五歳で、わた、私は、お助けのレベルがまだ低くて、低くて、ひく」
「いやいやいやいや! そんなに低くないよ! 君が低いって言うなら、俺なんかどうなるの? しかも職業無職だし。地味にディスられているでしょ。じゃなくて! とにかく、水を出してくれたのも、テント張りを手伝ってくれたのも、食べるものを探してくれたのも、すごくすごく助かった!」
「こ、このようなものしかご用意できなくても?」
そう言ってアルミテーブルの上の[食べられる草]を、涙が表面張力になっているような瞳で眺めた『お助け妖精』に俺は「野菜は大事だよ」と頷いた。
「アラタさまぁ……」
「うん。魔法を教えてくれるんでしょう? あと俺も【鑑定】出来るようになったから一緒に塩を探そう」
「お、おまかせあれ~~~~~~~~」
両方の掌を目の前で広げたら、俺の小さな『お助け妖精』は泣きながらその中に飛び込んできた。
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