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現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!【コミカライズ5巻 2025年2月25日発売】  作者: しば犬部隊
サイドクエスト "石窯に火を灯せ"

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65話 冒険の足音

 




「…………知ってたのか?」



 遠山は目の前の男、塔級冒険者を名乗るカウボーイを見つめる。



 身長は高く、ジャケットのような革鎧の盛り上がり具合、体つきも良い。




 強い。遠山は目の前の男をそう評価する。





「いやそりゃそうだろ。少しでもこの街の情報に耳を傾けりゃアンタの噂はどこでも入ってくるぜ。まあ、眉唾みたいな噂も多いけどな」



 ふにゃりと笑うその顔は、どこか警戒心をほぐすようなものでもあり、それが余計、遠山には気色悪かった。




「…………そっすね」




「だがまあ、あれだな。スラム街の子ども連中を攫ったとか聞いたけど、攫うというよりきちんと保護した感じか。その子らとアンタが喋ってるの見てたけど、ほんとの家族みたいだったよ」




「……冒険者殿、ご助力感謝する。改めてお礼を」



 ラザールが話に入る、律儀な性格ゆえか、それともラザールもこの男をはかりかねているのか。





「おっと、アンタが噂のリザドニアンの奴隷、っとこの言い方は失礼だな。帝国の国家がかりの追跡をかわしたとか、天使教会の十騎士をぶちのめしたとかお噂はかねがね」



 男は差別種族であるリザドニアンを見ても声色や顔色を変えずに、笑ってまた頭を下げた。




「ニコちゃん! 怪我はないディスか?!」




「え、ええ、大丈夫よ。それより! ストルちゃんも怪我はないの?! 心配だわ、あんな風に怖そうな人たちに立ち向かうんだもの」




「あんなのトオヤマやラザールに比べたらカスみたいなものディス!」




「へ? お兄さんと、ラザールさん?」




「あ、……ピューピュー、ピピー」



 そんな会話の横でストルがニコの元へ飛んでいき、わちゃわちゃしている。



 そういえば、ストルとは元々殺し合った仲だということを子供達は知らない筈だ。



 ストルもストルでそれに負い目を感じているらしく、バカなりに誤魔化そうとしていた。




「えーと、もしかしてあの水色の髪の女の子って。天使教会の第一騎士? 塔級冒険者の上澄みと同格とか聞いてるけど……」




 どうやらこの、ユトという冒険者はストルのことも知っているらしい。バカではなく、教会の剣としてのストルのことを。



「ああ、うん。はい。まあ、あれだ。ありがとう、冒険者さん。助かったよ」




「たは! 気にすんなよ。まあ、あれだ。ちょうどよかった。仕事の前の験担ぎになったようなもんだ」




 遠山の雑な誤魔化しに乗ってくれたのだろう、カウボーイ風の男がケラケラと笑った。




「げんかつぎ?」




 遠山が、男の言葉に首を傾げた。



「まあな。んーと、まだ時間あるな。なあ、竜殺し、ここ座ってもいいか? まあ助けた恩をどうのこうの言うつもりはねえんだが、アンタと一度会えたら色々話をしてみたかったんだ」




 男が、元々遠山たちの座っていた席を指差し、人好きのする笑顔のまま問いかける。





「あー……」




 さて、どうしたものか。どことなく胡散臭いが、一応は助けてもらった相手だ。あまり無下にするのも良くないだろう。





「問題ないだろ。ナルヒト。子供達は俺とストルで見ておくさ。それにーー」




 対応に迷う遠山にラザールの助言が届く。



 ラザールがふと、ある方向、正確にはあの絡んできた冒険者達が去っていった方向に目配せした。




「ーーああ、だな。ラザール、()()()()()()()()()()、《・》()()()()()




 遠山の言葉にラザールが頷き、子供達を別の席に移動するように促す。




 その席には遠山とその男、2人だけが残った。





「お、悪いね。なーんか恩着せがましかった?」




「いや、いい。久しぶりに身内以外でまともな人間と会えた気がするよ」




「たは、言うねえ。まあ、噂通りならアンタもなかなか激動の数週間じゃねえか」




「まあな。あー、場所変えるか? その、かなり周りの視線が……」




 ジロジロ、ザワザワ。野次馬はまだ消えない。




 市場に集まった人間の多くの視線が遠山達に注がれていた。





「いや、ここでいいさ。視線なんざそのうち慣れるさ。にしても面白いな。竜を殺した男が、いまさら有象無象の視線を気にするなんて」



 だが、その男はそんなもの気にしないらしい。イスにどかりと座って、遠山の顔をじっと見つめる。




 この世界の人間に多い、青と緑が混じった碧眼に近い色。遠山の世界で言う西洋人風の顔つきは、わかりやすい美形だった。



「……そーゆー民族でな。人様の視線が気になるんだよ。で、あんた、えーと……」




 遠山も観念して席につく。この奇妙で、妙に人懐こい男は放っておくには不気味だし、邪険にするのも難しい存在だ。




「ユト・ウエトラル、な」




「ユト、ああ、こりゃどうも俺は遠山鳴人。遠山でも鳴人でも呼びやすい方で」




「お、悪いね、気を遣ってもらって。じゃあナルヒトで。いやなに、ずっと気になってたんだよ。竜殺しの話題は俺らの間でも噂になっててね」




「俺ら?」




「これ、似たようなモンあんたも持ってるだろ? ナルヒト」



 ちゃらり、ユトが取り出したのはあのドッグタグ、金色に輝く冒険者章だ。





「それ、ドラ子のタグ…… 冒険者章。じゃあやっぱり、ユト、アンタ……」




「そ、一応正式な身分照会な。塔級冒険者、ユト・ウエトラルってね。まあ、固くなるなよ。いや、竜殺し殿だ。その心配もねえか」



 ヘラヘラ笑うユトからは、ドラ子や、あの時ギルドで出会った銀髪エルフのような威圧は感じられない。





「……ドラ、いや、蒐集竜と同じ、冒険者の最高峰……」



 だが、塔級。



 つまり、あの人外2人と同じ位に位置する人間だ。手放しで警戒を緩められるほど遠山は呑気な男でもなかった。





「あー、まあ、あのお方はなー。化け物揃いの塔級の中でも更なる上澄みっつーか、ぶっちゃけ塔級も戦闘力に関してはピンキリなのよ。俺はキリの方ね」




 たははと笑うユト。自虐的なセリフを吐きつつ机に項垂れる仕草。




 人が無意識に警戒を緩めてしまうような所作だ。



 さて、話が見えない。せめてコイツがどういう人間かだけは知りたいところだがーー




 ピコン。



 その音が鳴り、遠山の視界にメッセージが流れる。



【知識の眷属 ハーヴィーとの友好度が"D 夢の主人"になりました。スピーチ・チャレンジや、会話の中で彼女がたまに力を貸してくれるようになりました】




 あの夢での一件は、現実に影響を及ぼす。



 遠山鳴人はゆっくりと世界に影響を与えて、他者を変えていく。



【塔級冒険者 ユト・ウエトラル。へえ、やるじゃん。さっきの攻撃、ポケットに忍ばせてた小石を指で弾いたっぽいよ。今のアンタじゃ、敵に回さない方がいいんじゃない?】




 夢の中のよくわからないメガネの口調と似たメッセージ。



 知識の眷属、ハーヴィーからの手助けだ。





「……よく言うよ。そんな奴が指で弾いた小石で人間1人吹き飛ばせるかよ」





 把握すら出来なかった攻撃はまさかの指で石を弾いただけという。




 遠山が、夢を共にする眷属の知識をもとにカマをかけて。






「たは」




 ユトが笑った。




 ぞくり、遠山の背筋に冷や汗が流れる。



 ああ、やはりだ、コイツもまた、多くの人間を超えている超越者の1人なのだろう。





「よく見てんなあ…… 正直、気づかれるとは思ってななかったよ。流石、竜を殺すだけはあるわけだ。まあ、レベル差もあるしな。連中どう見ても2レベルがいいとこだろ」



 遠山の言葉に一瞬、素を出したらしいユトが頭をかきながらぼやく。



 びりりとした威圧はしかし、もう消えていた。




「ああ、そういやそんなもんあったな……」



 とりあえず敵対すると厄介なのは理解できた。その上でユトが何を目的でこんなにフレンドリーなのか。




 遠山は少し身構える。



「なあ、それよりよ、ナルヒト。聞かせてくれよ。お前の噂なんだけどよ、レイン・インで竜を口説いてたっての、あれは流石に眉唾だよな?」




「……ソウワヨ」




 身構えていたところに気の抜けるような話。眉唾ではやくマジなのだが、説明が面倒なので遠山は目を逸らしてつぶやく。





「ったは!! お前、まじかよ! その反応! マジ話かよ! 馬鹿や! 馬鹿がおる!」




「うっせ、こっちはあん時、大マジだったんだよ、生きるか死ぬかに近い状況でな」




「たはははは! いやだからってよ! 竜を、しかも2人同時に口説くってのはわけわかんねーよ! なんでそうなるんだよ」




 腹を押さえて笑い始めるユト。





「それは…… いや。なんでだ? ほんと。なんでホストなんだよ」




 改めて言われると確かに意味がわからない。更に意味がわからないのはなんだかんだ竜とのトラブルはホストでクリア出来てしまったことだ。




「たはははは! ナルヒト、お前面白いな! いや、あの人が気にかけるのもわかるよ」




「あの人?」





 何故か、ユトの言葉。あの人というワードが気になって。




「ああ、お前も知ってるだろ? 塔級冒険者、そして大戦の英雄、元勇者パーティ、射手。ウェンフィルバーナ。俺、あの人に憧れて冒険者になったんだ。聞いたぜ? なんか初対面であの人にぶち殺されそうになったって」




「あー……」



 思い出すのは、あの奇妙なエルフだ。



 最初に塔で出会い、それからギルドで出会ったあの女。




 なんかまるで別人のような反応をされて、怖かったのを覚えている。あれ以降、ギルドでも見かけないし、どことなく厄介そうなので記憶の隅に追いやっていた存在だ。




「警戒すんなよ、ナルヒト。俺はあの人に憧れてるが妄信してるわけじゃない。別にあんたに対して思うことは…… まあ、ねえって言うと嘘になるけど、敵意とかじゃない」




「そりゃ安心した。で、俺と話したいことってなんだ。助太刀の恩もある。聞かせてくれよ」




「んー? まあ、1番は直接あんたを見てみたかった。ウェンフィルバーナ。あの人が敵意であれなんであれ、他人に関心持つのをはじめて見たからな」




「……俺、そんなに嫌われてんの」




「ああ、もうおっかねえほどにな。竜殺しの噂が広がるたび、ギルドの地下の空気が悪くなるのよ」




「ギルドの地下?」



「お? なんだ、知らないのか? 俺たち塔級冒険者は基本的に、地下当番って言ってな。持ち回りでギルドの地下で待機義務があるんだよ。まあお勤めみたいなもんさ」




「へえ、知らなかった。塔級冒険者って、たしか冒険者の最上位だよな?」




「お、そうだぜー。俺もその末席、ま、少しはすごい奴なのさ。だが、それはあんたも同じだ」




 指をぷらぷらしながらユトがじっと、こちらを見た。




「どういうことだ?」




「アンタ、蒐集竜の冒険者章持ってるんだろ? 古い慣わしでな。冒険者章ってのは奪うことをよしとされてんのさ。例えギルドで認定されている階級が下のものでも、上の冒険者からそれを奪えば、その冒険者章と同じくらいの実力があるとみなされる。まあ、御伽噺の"狩人"のレガシーって奴だな」




「ん? つまり、それは」




「あー、そゆこと。さっきの論外の連中はいざ知らず。真っ当な冒険者ならみんなこう思ってる、"竜殺し"は塔級に相当するクラスの冒険者ってな」




「そりゃ、ご多分な評価どうも、だな」



「謙遜すんなよ。最初は誰もが信じてなかったんだ。竜殺しっつーのもなんかの間違い。またあの竜の巫女様が暇潰しになんか始めたくらいだったんだけどな」




「ドラ子、他の奴らからもそんな評価なのか……」




「……ドラ、子? へい、へいへいへい、竜殺しのナルヒトくん。もしかして、もしかするけど、そのドラ子ってのはよ、あの、蒐集竜のことを言ってんのか?」



 遠山の何気ない言葉は、しかしこの世界に住まうものからすれば信じられないものだったのだろう。




 終始ニコニコしていたはずのユトが、ぽかんと口を開けた。




「あー、まずい感じか?」




 遠山が、おずおずと問いかけて。





「たは!」




 ユトの笑いが、響いた。




「たは、たははははははは! おい、おいおいおい、やべーって! やべーってそれはマジで! 竜だぞ?! 塔級冒険者の大半を赤子扱いするような化け物だぜ? それを、あだ名呼びって、しかもドラ子って、お前、たははははは!!」




「ふーん、やっぱ誰から見てもそんな感じの扱いなのか。アイツ」




「いやー、やべー、笑うわ、ほんと。でも、やっぱお前、本物だな」




 ユトは笑いすぎて溜めていた涙を拭い、遠山に向き合う。




「あ?」




「たは、誰もがよ。竜殺しなんざ噂だけの存在だと思ってた。それがどうよ、あれよあれよと言う間にこの街にはお前の足跡がどんどん刻まれていってる」




 ユトが語るのは、遠山がこの街で起こした数々の冒険譚。




「竜が、正式に帝国へお前を探せと命令したり、番にするだなんだの話が出て、かと思えばそれが取り消されたりよ。この辺で一部の人間はお前の存在を信じ始めた」




 指折り数えられていく話は、眉唾にも近いもの。しかし、全て事実だ。



「んで次は、あの生きる伝説、勇者パーティの生き残りとギルドで大揉め。おまけにそこに竜が出てくるってな。はは、聞いただけで面白いわ。まあ、あとは出るわ出るわ、気に入らねえ門番を皆殺しにしたとかなんとか。ああ、スラム街から子どもを攫ったってのは半分本当だったな」




「うへ、そんな噂になってんのかよ」




「まだまだあるぜ? 教会の麗しの主教様の愛人だとか、魔術師の祖、全知竜がお前のパトロンだとか。ああ、これは塔級冒険者で、学院出身の奴に聞いたんだけどな。アイツ、目から血の涙流しながらお前の話してたよ、なんか脳が破壊されたとかなんとか言ってたな」




「その人、大丈夫か?」



 脳が破壊されたという概念はこちらにもあるのか。遠山は歴史の収斂制に思いを馳せる。




「まあ、生きてるから大丈夫だろ。あとはなんだ、この前の街の南部。教会の認可を受けていないスラム街の近くにあった密造酒醸造所の火災、あれも竜殺しの仕業だとかな」




 少し、ユトの声が低くなる。



 じっと、見つめるその視線はなにかを探るようなものだ。




「さて、なんのことやら」




 遠山はその仕事のことをとぼける。教会からの依頼は基本的に秘密のことが多い。



 審問会は言うなれば天使教会の汚れ仕事担当だ。その辺の機微を遠山は理解している。





「おっと、藪蛇か? あんまり聞かないことにするよ。……まあ、あとはあれだな、カラスがアンタを探してる、とか」




 ぽそり。




 何気なく呟かれた言葉は、水に浮かぶ油のようにはっきりと、その会話の中で異物だった。





「……へえ、カラス、ねえ」



 これも、まだ解決していない問題だ。



 スラムでの一件は皆殺しにしたお陰のせいか、追手はまだ現れない。



 だが噂にはなってしまっているようだ。




「んな怖い目するなよ、竜殺し。俺は少なくとも連中と仲良しこよしじゃない。ただ、奴らにはあんまり手を出さない方がいい。カラスの連中は"塩漬け依頼"になるほどの奴らだからな」




「塩漬け?」




「これも知らないのか? アンタ、さてはあんまりギルドに顔を出してねえな? 塩漬けっつーのはアレだ。誰も手を出さないから永遠に、ギルドの依頼板に張り付いたままになってる依頼のことさ」




「……あの取り合いになってる依頼で残るってことは」




 遠山はギルドの早朝の様子を思い出す。



 冒険者の主な仕事、"依頼"と"狩猟"。




 どちらかと言えば、目的がはっきり示され、自分の実力に合ったものを選べる方から依頼の方が人気らしく、いつも依頼状を冒険者たちは取り合いしていた筈だ。





「そーゆこと。"割に合わねえ"、塩漬け依頼ってのは金に目がない冒険者ですら誰もやりたがらねえめんどくさい依頼のことさ。まあ、"カラス"討伐依頼が塩漬けになってるのはもう少しややこしい理由なんだけどな」




「ややこしい理由ねえ…… で、親切なユトさんは俺に警告してくれたってわけか?」




「そゆこと。アンタは運が良い。カラスと揉めた、なんて噂が出ること自体本当は珍しいんだ。奴らと揉めた奴なんて、すぐに報復されて殺されちまうからな。まあ、噂がどうあれ奴らには関わんねえ方がいいってこと」




「ご忠告どうも。俺も好き好んでやばい奴らと関わりたいわけじゃない」




「そりゃよかった。常識があるようで助かるわ。なんせこの街はアクの強い奴らが多いからな。あ、そうだ、ナルヒト、アンタそういやギルドにも目をつけられてるのは知ってんのか?」




「ギルドに?」




「おう、あれだよ。アンタがほら、ティタノスメヤ。あの狩りにくい爬虫類種のモンスターを山ほど商人に卸してるだろ? あれ、ギルドでかなり話題になってんだぜ」




「あー…… あれな。なんか問題があったか?」




「たは! よく言うぜ。全部わかってるだろ? ギルドからしたら金のなる木をずっと逃し続けてるわけだ。テイタノスメヤをあんな数狩る奴ってのは絶妙にいないわけだからな。一級冒険者以上からしたら苦労の割に美味くねえし、2級以下の冒険者だと犠牲者なしで狩ることも難しいだろうしな」




「へえ、それでギルドはなんて言ってるんだ? まさかそのうち、獲物をよこせなんて言ってくるのか?」




「たはは! そうあんまり殺気立つなよ、竜殺し。冒険者にバカは多いが、ギルドは、少なくともあのギルドマスターはバカじゃない。何人かの幹部連中はアンタに対して出頭を命じようとしてたらしいが、あのいいとこ出身のギルドマスターが全部止めてるんだよ。竜殺しとはどうあっても敵対したくないんじゃねえの?」




「ああ、あの頭良さそうな人か。んーむ、苦労かけてんな。顔でも出してみるか?」




「たは、まあいいんじゃねえの。ただ、さっきのバカみたいなのには絡まれるかもな」




「あ?」




「いやなんだよ、竜殺し。微妙なのさ、この街のアンタに対する評価はな」




「どういうことだ?」




「それなりに道理をわかって、ある態度の教養と、自分を見つめる冷静さがある人間なら、アンタの力はよく分かる、アンタがどれだけ綱渡りの立ち回りでこの街を生き抜いているかわかるだろうよ。だけど、それがわからねえ、アンタの苦労や力がわからねえ奴らからしたら、まあ、悪目立ちしてるんだよ、ナルヒト」




「悪目立ち」




「そ、まあ、冒険都市っていうほどだ。血の気が多くて夢見がち、おまけに自信過剰のバカは履いて捨てるほどいる。そう言う奴らからしたら、ナルヒト、アンタはとても鼻につくのさ。"竜殺しなんて大層なあだ名がなんだ、実物見たら大したことねえ、俺だって" こういう風に考えるバカの方がこの街には多い」





「うへえ、じゃあ、ギルドに行くと絡まれるってのは」




「そゆこと。冒険者はバカが多い。ま、俺たち塔級冒険者もみんな新人時代はそーゆーバカに絡まれてきたもんさ。むしろその多数のバカに磨かれて冒険者は大きくなるもんってね」




「バカがバカを磨いても、さらなる大バカが生まれるだけじゃね」




「たは! 冒険者ってのはそう言うもんだろ? バカの王だよ、俺も、アンタも」





「……変なやつだな、ユト」



 ふと、遠山は気づいた。



 自分はこんなに他人とペラペラ話すタイプだっただろうかと。



 高校生の時ならいざ知らず、最近はあまり身内以外とはここまで喋る人間じゃなかった筈。





「ナルヒト、会って間もないけど、アンタにだけは言われたくねえ。おっと、もうこんな時間か。ワリ、偉く長く話しちまったな。実はこれから仕事なんだ。偉大なる竜殺し殿にもまつわる、な」




 ひひ、と喋るユトの声が平面に、平になっていく。



 いつの間にか、野次馬達の数が少なくなっていることに今更気付いた。




 そして、野次馬とはまた別の種類の視線がこちらを見つめていることにも。




「なんだって?」




「……ここ最近、平原地帯と森林で冒険者の行方不明数が激増してる話知ってるか? いや、知らないわな」




「知らねえ。塔級冒険者のユトさんよ。なんでそれが俺に関係ある?」




 嫌な予感がする。




 ()()()()()()()の方に視線を動かす。きちんといる。だか、ストルも異変を感じとっているらしい。無表情のまま、それとなく辺りを警戒している。





「関係あるのさ、竜殺しのナルヒトくん。言ったっしょ。冒険者はバカ揃い。最近街に現れた新参者が、ティタノスメヤ狩りで大儲けしているらしい、奴に出来るのなら俺たちにだって出来るはず、ってな。……アンタの力を理解出来ねえバカどもはこう考えた訳だ」




「ああ…… なるほど。自己責任の"狩猟"に行く冒険者が増えたわけか」




「そゆこと。哀れ勘違いしちまった冒険者が自分のミスとアンタの実力に気づくのは蛇の胃の中に収まった後ってわけよ。まあ、それだけならこの都市じゃよくある話さ。バカが自分の実力を過信してモンスターの餌になるなんざ季節が巡り回るのと同じようなもんだ、だが今回の話はそう簡単には終わらなかった」




「あ?」




「最近、4級や3級の低位の冒険者だけじゃない。それなりに実績を積んで、地に足つけてるはずの2級の連中、そして昨日はついに一級の冒険者まで、森林から帰ってこなかった」




「……仕事に絶対はねえ。どれだけ実力あっても、この仕事はワンミスで死ぬのはおかしい話じゃないだろ」





「ああ、ナルヒト、アンタの言う通りさ。だが、昨日いなくなったのは18人。それも2級冒険者の徒党が2つ、一級冒険者のコンビが一つ、2級と一級の混成パーティーが1つ、同じ日に、同じ場所で消息を絶った」



 とん、とん、とん。



 辺りの席は人で埋まっている。



 なのに、静かだ。ユトが木製のテーブルを指で叩く音が聞こえるほどに。




「………それは」




「場所はもちろん森林。アンタら竜殺しの一味が荒稼ぎしてた場所だ。そしてどういうわけか、つい最近まで元気よく蛇狩りに勤しんでた竜殺しさんたちは、近頃めっきり狩りに出掛けていない、ってな」




 じっと。ユトが遠山を見つめる。




 もう、その顔にはあの人好きのする笑顔は微塵も浮かんでいない。



 あるのは、人類の中の上澄、冒険者の中の最上位。



 塔級冒険者としての、獲物を見る冷たい瞳。





「…….何が、言いたい」




 遠山はゆっくり、つぶやく。獣を刺激しないように、そんな思いが込められたかのような小さな声だ。




「いやなに、人間、色々考えるわけさ。普段なら起きるわけのない異変、それの原因を探るとなると一つ一つ色々な要因を考えて、潰していく必要がある。……そう、可能性の一つにはこんなもんがある。"竜殺し"が自分の狩場を荒らす他の冒険者を疎んでそれを始末しちまった、とかな」




 とん……



 ユトが机を叩くのをやめた。



 おそらくこれが、本当に、ユト・ウエトラルが遠山鳴人と話したかった内容なのだろう。





「……ユト、アンタにはユーモアのセンスはないみたいだ。回りくどい話しやがって。結局聞きたかったのはそれか? わけわかんねー疑いだぜ、それは」





「焦んなよ、トオヤマナルヒト。可能性の一つ、と言ったはずだぜ。まだそうと決まったわけじゃない」




 疑われている。



 森林で起きているらしい異変、その原因として。



 塔級冒険者、あのドラ子と同じ階級の人間が動くような事態らしい。




 そして。




「……トオヤマ!」



 近くの席で待機しているストルがたまらず、声を上げた。




 遠山は冷や汗をかきながら答える。




「ああ、わかってる、ストル。は、ユト、アンタもなかなか悪党だな。人懐っこい演技しやがって。ずいぶんお友達が多いようで」




 辺りを見回す。



 ああ、くそ、やられた。畜生、大バカめ。遠山は自分を呪う。自分がキリヤイバを仕込むときと同じ手口をそのまま、目の前の塔級冒険者にやられている。






 ()()()()()()()




 辺りにいた野次馬や、周りの席に座っていた人間、それが丸々、市民に扮した冒険者と入れ替わっていた。




 おまけに、全員、さっきの連中より格上。





「たは、やっぱ気づくか。ああ、すでに俺の仲間がアンタらを囲んでる。全員2級以上の冒険者だ。あんまこういうやり方は好きじゃねんだけど、まあ、"竜殺し"に"第一の騎士"相手だ。敬意と思ってくれ」




 悪びれることもなく、ユト・ウエトラルが塔級冒険者として言葉を紡ぐ。




 自身と、わずかばかりの緊張があふれる視線。



 プロの顔だ。



 その男の厄介さが、顔付きでわかる。






「チッ、トオヤマ、コイツ……」




 ストルだ。



 おそらくこの場をひっくり返せる鬼札、それがたまらず動き出そうとして。





「はい、ストップ、お嬢さん」




「動かんでくれよ、あんまこういうのは俺も好きじゃない」




 ギリギリのタイミング。



 呼吸の隙間を縫うような動きで2人の冒険者が、ストルの背後を取った。




 突きつけられた細い剣を握る大柄の男と、バカでかい弓を既に引き絞り終えている細身の男だ。





 剣先と、矢尻はストルを捉えていて。





「……チッ、手練、ディスね」



「……あ、アネゴ」



「ストルちゃん……」




 怯えた声を漏らす子どもたち、その声に答えるようにストルが、ふっと笑い、ゆっくりと両手を挙げた。




 良い判断だ、ストル。



 遠山はひとまず、ストルの暴走は起こらないと判断する。





「おーう、リバーにスモール、良いタイミーング。ナーイス」




 呑気なユトの声、遠山と話していたときよりももっと砕けた言い方。




 おそらくこちらが、ユト・ウエトラルが本来の友人に向ける声なのだろう。




「うっせ、いつもやばいことにだけ巻き込みやがって」



「ほんまそれ。ユト、きちんと報酬払えよ」




 ユトに声を向けられて、答える2人の冒険者。ストルを抑えた2人だ。



 殺伐とした中でもリラックスした様子なのはつまり、歴戦の証。




 一筋縄ではいかないだろう。





「はいはいはい、お二人さん、俺が約束破ったことあるかよ」




「「なんっどもあるわ」」



 目の前で繰り広げられる呑気なやりとり。一歩間違えれば人死が出る状況でのこの会話。




 まともな冒険者とはこういうものか、と遠山は少し彼らに対する認識を改めた。





「……仲が良さそうだな」




 ふうっと、息を吐きながら遠山がつぶやく。



 舐めすぎていた。



 これは反省だ。



 遠山鳴人は視線を空に向ける。まさに、してやられたという事だろう。




 どこか、自分自身、今までのやりとりから"冒険者"を"探索者"と比べて舐めていたのかもしれない。




「あ? わかる、コイツらとは幼馴染でよ」




「へえ、いいな。ユト、俺実は今まで友達少なくてな。あんまり他人に頼るとか、そういうのしてこなかったんだよ」



 遠山鳴人は奪われた側の存在だ。




 思春期の頃は人との繋がりを求めて、友達作りに奔走したこともあるが、結局遠山は他者よりも己の欲望に向かい合う生き方を選んだ。




「高校の頃、それが欲しくて色々やってたことがある。人助けしたり、目立ったりしてりゃ、そのうちそれが出来るんじゃないかってさ。あん時はなかなかバカだったな、ほんと」




「コーコー?」




 一人で生きていこうとした、それでいいと一度は結論づけた。



 でも、人は変わる。



 遠山の欲望は、決して完成しない。



 "拡大していく自我.'は時に他人を冒し変えていく、そして同じくその自我は他人によって姿を変えながら拡がっていく。




「やっぱいいもんだよな。いるといないとじゃ自分の人生に置ける選択肢が違ってくる。そう考えると高校生の頃もがいたのは間違いじゃなかったって思えるよ」





 ユト・ウエトラルには頼りになる冒険者の友がいる。1人で生きていくだけの遠山鳴人だと、太刀打ちは出来なかっただろう。




 だが、今はーー






「竜殺し、何の話だ?」




「"友達"の話さ、塔級冒険者」






 遠山鳴人にもまた、頼りになる冒険者の友がいるのだ。





「っ?! ユト!」



 リバーと呼ばれていた大柄の男が唾を飛ばした。



 1番早く、その存在に気付いたのはリバーだが、それでももう遅い。





「っ、おっと、マジ、かー……」




 ユトの顔にぽつり、一雫の汗が浮かんだ。



 その喉仏に、肉厚のナイフの刃が添えられて。





「どうも、塔級冒険者さん。ご紹介に預かった竜殺しの"友達"だ」





 だが、今は遠山鳴人にも"友達"がいる。



 影の牙、ラ・ザールが、塔級冒険者、ユト・ウエトラルの背後を取っていた。




 誰も気づかなかったのだ。誰も知らなかったのだ。




 冒険者達が遠山達への包囲網を広げるその前の段階で、()()()()()で姿を消していたリザドニアンを誰も把握出来ていなかった。





「こ、の」



 細身の男が弓矢の狙いを変えようとーー



「動くな、スモール。このお嬢さんに剣を抜かせちまってる」




「ディス」



 一瞬の隙をつき、ストルが鞘から剣を抜き、大柄の男の喉元に向けている。




 互いが互いに剣を突きつける小康状態。




 戦況は、影に愛された1人の男によって再び、イーブンに傾いた。





「……いや、マジか。いやいや、驚いた。え? あれ? 俺、マジで気づかなかった。リザドニアンのアンタ、どこから、いや、いつから消えていた? スキル、か?」




「なに、昔から影が薄くてね。集団の中から消えても誰も気づいてくれないのさ。まあ、うちのボスから言われていた仕事が終わって戻ってみれば、なにやら険悪な雰囲気だったようだから、つい、ね」



  ラザールの目はニコリともせず、ユトを見下ろしている。




「ヒュー、声渋。つい、で喉笛にナイフ当てられたらたまったもんじゃないよ、ほんと」



 戯けるユト。



 空気がさらに重くなる。沈黙が痛いほどに積もっていき。




「ユト」




「なんだ、ナルヒト」




 遠山の声が、それを破った。





「俺たちは、違う」



 その言葉は、シンプルなものだ。単純で言葉足らずにも近いそれ。





「……………たは」





 ユトが自分の顎を撫でようとして、喉元に添えられたナイフに気付いて苦笑した。





「疑うのは勝手だ。論理的に考えて確かに状況からすると俺たちは怪しい。だが、俺たちは何もしていない」




「たは…… それを信じられる証拠は? 竜殺し、アンタはここ数日、暴れ過ぎた。アンタが動くたびこの街には大きな波紋が起こっている。冒険者ギルドの忠実なワンワンの俺としたらさ、アンタのことが気になるのは仕方ないっしょ」



 とん、とん、とん。


 ユトの指がまた、テーブルを叩き始めた。




「その冒険者が消えた日の俺たちの目撃証言を集めてみればいい。えらくたくさんお友達がいるみたいだし、簡単だろ」




「ふーん、アンタ、肝が恐ろしいくらいに座ってるな。これでも俺、一応塔級冒険者なんだけど」




「お前こそ、首元にナイフ突きつけられてるのに中々度胸があるじゃないか」



 短い言葉を交わす2人。



 どちらかの号令でこの場は血に染まることになる。




「………さて、どうしたものか」




 とん、とん、とん。






「ユト」



 面倒だ。もう。



 遠山は短く、呼びかける。





「うん?」




 ユトの指の動きが、止まった。





「ーーどうでもいいんだ」



「うん?」



 遠山の口から漏れたのは紛れもない本音。



「正直言うと。俺は、俺自身と俺の周りの人間のこと以外心底どうでもいい」



 自分達が、他の冒険者に何かをした?



 それの疑いをかけられている?



 バカバカしさで込み上げる笑いを押し込めながら、遠山はユトを見る。





「誰が成功しようと、失敗しようと。誰が生きようが死のうが本当にどうでもいい」





「………あ?」




「知ったことかよ。なんで俺がいちいち他人の邪魔したりする必要があるんだ。心底、どうでもいいぜ。いいかよく聞け、塔級冒険者」




 がたん。



 椅子から立ち上がり、遠山がユト・ウエトラル。塔級冒険者を見下ろして。







「こっちはそもそも、お前ら(冒険者)なんぞ、眼中にねえんだよ」



 その言葉を放つ。



 ぶわり、辺りを囲んでいるやつしの冒険者達の殺気が膨らんでいくのが分かった。



 目を丸くして、固まっている塔級冒険者は




「…………たは」




 ゆっくり、口元に笑みを浮かべて。




「たははははは!! へい、ヘイヘイヘイ、聞ーたかよ! スモール、パイン! たはは! こりゃいいや、確かにそう言われちまったら納得するしかねえわな!」




 破顔一笑。



 目の端に涙を溜めながら、腹を押さえて塔級冒険者が大笑いし始める。



 威圧はもう、消えていた。




「………てめえ、試したな?」




 遠山が、深く息を吐く。



 再び、ガタンと音を立てて椅子に座り直した。




「たは、いや、いやいや、悪い! マジで今のはこっちが悪かった。アンタにぶっ殺されても文句は言えねえよ。真面目なタチでな、仕事で手抜きができねーのよ」



 手をぷらぷら振りながら、ユトが笑う。




「スモール、リバー、お疲れさん。もういいぜ」



 ユトの合図で、ストルを抑えていた冒険者達が武器をゆっくり収める。周りの野次馬たちの敵意も少しずつ静かになった。




「ストル、ラザール、サンキュー。もう大丈夫だ」



 遠山の合図でストルが剣呑な雰囲気のまま、しぶしぶ剣を納める。



 ラザールの、いいのか、という視線に頷くことで肉厚のナイフをユトの首から下げられた。





「いやー、申し訳ねえことしたな。ナルヒト。いやいや、久しぶりに肝が冷えたっつーのか、確かに竜殺しには今更他の冒険者なんぞのことなんか関係ないわな」




 にっこにっこしながらユトが笑う。その顔に先程の暗さはない。



 おそらく、初めから全てがブラフだったのだろう。





「ユト、アンタの仕事ってのは……」




「ああ、お察しの通り。"森林地帯での異変の調査、もしくはそれの解決"、だな。まあ、あれだよ、塔級冒険者っつても一部のイカレを除けばギルドの使いっ走りみたいなもんさ。幹部連中への報告書にきちんと書いとくよ、竜殺しは無関係だってな」




「それはありがたいんだが、どうして急に疑いが晴れたんだ?」




「え、だって、もう大体この異変の原因、俺わかってるし」




「は?」




 ケロッと言い放つユトに、遠山が口をポカンと開ける。




「……竜殺しさん、気持ちはわかるぜ。コイツはこういう奴なんだ」




「なんか、ほんと、すまん…… 竜殺し殿」



 ストルを抑えていた手練れ2人が、疲れた顔で呟く。おそらくユトの芝居に付き合わされたのだろう。



「あー? なんだよ、スモールにリバー。禿げそうな顔してよー、ああ、そうだ。俺は大体この事態に目星をつけてんのよ。腕利きの冒険者の行方不明、本来ならば起きえない狩場での異変、まあ、"古代種(エルダー)"の仕業だろ」




「エルダー?」




「あ? おいおい、ナルヒト、いくらアンタが冒険者ギルドに顔出してないからって、冒険都市にいてエルダーを知らねえってことは…… ああ、ありそうだな、確か冒険奴隷だったか」




「ああ、無知なもんでね。ユト、下手に疑いをかけられて仲間達には苦労させてるんだ。それくらい教えてくれてもいいんじゃねえの」




「うーん、まあ、そりゃそうだ。エルダーってのはまあ、なんだ。冒険者でいう塔級冒険者みたいなもんさ、要はモンスターの中の規格外の存在を、ギルドでは"古代種(エルダー)"って呼んでんのよ」




「エルダー…… 古い時代からいるってことか?」




「んー、まあ大方その通りだ。大戦の時代から存在が確認されている種、ヘレルの塔にしか存在しない種類、あとは今回の奴みたいな例外、まあ、一言で言えば分類するのが面倒くさい常識外のモンスターを指す名前だな」




「今回の奴みたいな例外……?」




「ああ、たいてい、エルダーってのはまあサイズがでかかったり、気配が出たかったりしてすぐに見つかるもんさ。でも、今回のは狡猾だ。今んとこまだみつけることもできてねえ。まあ、だからこそアンタにも疑いがかかってるんだけどな、……長く生きたモンスターの中には人と同じくらい頭の良い奴もいやがる。人の頭脳に、モンスターの力、そんなエルダーも過去には確認されててな」




「今回の異変はソイツの仕業だと?」




「まあ、可能性はそれが1番だな。冒険者の勘って奴さ。竜殺しが自分の商売敵を始末していたとかいうアホみたいな予測よりは、だいぶ現実よりだろ」




「ほんと、てめえいい性格してるな」




「褒めるなよ。まあでも、アンタと話せてよかった。今度はゆっくり飲みにでも行こうや。竜を落とした男の話とか超聞いてみてーし」




「お前のペース苦手だからやだ」




「たは! そんなつれねえこと言うなよ、竜殺し。さて、そろそろ仕事に戻るか。いや、今も仕事なんだけどさ」




 ユトが立ち上がる。その所作には隙はない。




「……ユト・ウエトラル」




「なんだ? トオヤマナルヒト」



 色々言いたいことはあるが、一つの事実を遠山は思う。



 塔級冒険者の仕事に絡まれたのはムカつくが、一つ、意趣返しを。




「手助けありがとう。助かったよ」



 嫌味のつもりだ。



 にいっと笑って、礼を呟く。




「ーーたは! ほんとアンタ、面白いな! あ、そーだ、ナルヒト。迷惑料代わりだ、アンタらがさっき話して内容に役立ちそうなこと教えてやるよ」




 同じく、にっとユトが笑った。




「あ?」




「俺の出身は西領の田舎街なんだけどよ、唯一自慢出来るのが肉料理なんだ。ソーセージがなんとか話してたよな?」




「どこから聞いてたんだよ、てめー」




「たは! あー、ナルヒト。平原地帯にいる獣毛種、ジャイアント・ボアと、ホーンラビット、この2種類の肉でソーセージ作ってみな。割合は確か、ジャイアントボアが7割、ホーンラビットが3割、だったか。多分、冒険都市で売ってるどのソーセージよりも美味いものに仕上がる筈だ」




「モンスターの肉でソーセージ?」




「そ、獣毛種は野生の獣や家畜に味が似てるし、食いやすい種族だ。奴らの肉はとにかく脂が乗ってて美味い。ま、味のばらつきはあるかもだがその辺は愛嬌だろ?」




「……そうか、だからドラ子のとこで食べた肉も……」



 話をどこから聞かれていたのか。気になることはあるがひょんなことからパン屋事業に役立つことを聞けた。




 真偽はともかく、試してみるのもいいだろう。




「ま、そゆことさ。竜祭、アンタらも何かするんだろ? 楽しみにしてるぜ、ナルヒト。スモール、リバー、次は平原地帯と森林だ。ギルドからお小遣いもらうために働くぞ」




「ていうか危険手当欲しいんだけど」




「お嬢さん、失礼。またな」




「チッ、次はねーディス。優男に大男」




「おー、こえー」



「じゃーなー、竜殺しと愉快な仲間たち、お互いこの素晴らしき街の住人だ、これからも仲良くしよーぜー」




 手を振りながら去っていくユト・ウエトラル。配下の冒険者達もそれに倣って散らばっていく。




「……つかみどころのない奴だったな、ナルヒト」




 去っていく塔級冒険者の背中を眺めながら、ラザールがため息をついた。




「だな、厄介な連中が多くて嫌になるよ。だが、ラザール助かった。これ以上ないタイミングでの登場だったぜ」




「ふ、まあな。と、言いたいところだが、冷や汗がびっしょりでね。ナイフを突きつけていたのは俺だったが、生きた心地がしなかったよ。あれが人類の臨界点、レベル5以上の人間というわけだ」




「あー、レベル制あったな、そういや。ストルもおつかれさん。お前がいて助かったよ」




 どっと、疲れた。


 思ったより、冷静だったストルにも助かった。





「ふん、トオヤマ、らしくないディスね。あのいけすかない塔級冒険者は、まあ、敵ではないのでいいでしょうけど、ニコちゃんに乱暴しようとした奴ら、あのゴミ共を逃すなんて」




 ストルはしかし、少し不機嫌そうに口を尖らせた。



 どうやら、連中、あの最初に絡んできた冒険者を逃したのが第一の騎士は気に入らないらしい。




 その様子に、ラザールは少し笑って。



「逃す?」



 遠山は、無表情のまま、首を傾げた。




「そうでしょう、私ならあの場で全員始末出来ました。冒険者同士の諍いディス、たとえ騎士であろうとも、いえ、この状況なら間違いなく私たちが罰せられることなどなかった筈ディス」




「ああ、なるほど、ストル、君は1つ誤解をしているな」




「……どういう意味ディスか、ラザール」




「簡単さ、我らが竜殺しは非常に残念なことに、そこまで優しい人間ではないということさ」




「え?」




 ぽかんと、ストルが首を傾げて。





「ストル」




「……ディス?」



 遠山が立ち上がり、ストルの水色の髪にぽんと手を置いた。



 ストルが嫌がる様子はなく。




 塔級冒険者とのやりとりは疲れた。



 だが、まだ仕事は残っている。



「ニコ達を頼む。今日はみんな疲れたろ。宿に帰って休もう、俺とラザールは、少し()()()()()()()()()()、行こう、 ラザール」




「ああ、ナルヒト、ついていくよ」




 ぽんぽんと、ストルに続き、子ども達全員の頭を撫でた後、遠山がある方向に向かって歩き出す。



 その目はまっすぐ、ある奴らが去っていった方角を見ていた。




「あ、待って、トオーー」




 水色の髪の子どもが、歩いていく大人達の背中を眺める。ついていこうと、前に動きかけた足はしかし、背後にいるスラムの子ども達の方を向いた。




「……ああ、なるほど。フン…… 私は、あなたにとって、こども、ということですか……」





 ストルの呟きが、遠山を追いかけることも、届くこともなかった。





 ピコン




【サイドクエスト "石窯に火を灯せ" のオプション目標を達成しました。塔級冒険者ユト・ウエトラルとの和解に成功したため、 "美味しいソーセージ"の製法を学びました】




 ピコン



カルマ()クエストが発生します】



【条件達成 属性が中立・悪】



【カルマクエスト "ゴミ掃除" を開始します】



【クエスト目標 ゴミを全て始末する】




読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!



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[気になる点] 「おーう、リバーにスモール、良いタイミーング。ナーイス」 「たははははは!! へい、ヘイヘイヘイ、聞ーたかよ! スモール、パイン! たはは! こりゃいいや、確かにそう言われちまったら…
[気になる点] ゴミ掃除・・・あっ…(察し) [一言] うんまぁ、あのゴミ共が馬鹿すぎるから、何するか不確定要素過ぎるしトオヤマがそのままにするわけは無いよね・・・
[一言] ソーセージで大事なものはケーシングだ それ以外は単なる好みだ
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