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現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!【コミカライズ7巻発売中!】】  作者: しば犬部隊
サイドクエスト "石窯に火を灯せ"

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66話 中立・悪




パワーアップ回です。

 


「なあ、ユト。実際のところどうだったんよ」




「んあー。なんだよ、リバー」




 一仕事終えた塔級冒険者とその友人達が、冒険都市の道をゆく。



 自然と道の真ん中を歩くその姿、無意識の動きに強者としての自負が見え隠れする。




「とぼけんな、スキルだよ。お前のスキルでトオヤマナルヒトを見たんだろ? アイツの言ってたことは本当だったか?」




 リバー。ユトの昔からの友人で、2級冒険者の大男が粗野な動作で頭を掻きつつ、隣のユトへ声をかける。





「……たは。ああ、奴は嘘をついてない。俺の"キャッチ・インザーライ"の結論だ」



 ユト・ウエトラル。塔級冒険者というある種の到達点に至った冒険者。彼は個性派揃いの塔級冒険者の中でも異質な存在だった。




 その才能は決して戦闘向けのものではない。




 スキル、"キャッチ・インザーライ"




 効果はシンプル、他人の嘘が分かる、ただ、それだけのスキル。かの"正義"にも似た、それでいて決して届くことのできないユトの才能の限界。




 その機能は、確かにトオヤマナルヒトが全てにおいて嘘をついていないことを示した。




 全ての言葉に、おいて、だ。



 面白い奴だった。塔級冒険者を相手に、まさか眼中にないと本気で言う同業者がいるとは思わなかった。




 ユトの口元が僅かに緩む。





「はー、天然の嘘発見機のお前がそういうんなら、やっぱあれか。"古代種"の方かー。めんどー、こわ」




 細身の男、少し癖のかかった金髪、女ウケしそうな鋭い顔が特徴の細身の男、スモールがため息をつく。





「トオヤマナルヒトの仕業じゃないんなら、"古代種"か。ハズレの方じゃん」



 3人の仕事は固まった。



 森林の異変は竜殺しの仕業ではない、となれば残る可能性は"古代種"、モンスターの中の異常存在。




 リバーとスモールは仕事の目標が厄介なものになってしまったと嘆いた。





「いや、リバー、スモール。逆だぜ、それ」




「「あ?」」



 嘆く2人に、ニカリとユトが笑う。



 ポケットに忍ばせていた噛みタバコを口に放り込み、モゴモゴさせる。




「俺らは、ラッキーだ。今回の仕事の目標が"古代種"の方でよかったよ。ほんと」




「ユト、どういう意味だよ」




「たは、決まってる。俺にゃ、あの男の方が古代種よりも恐ろしく見えたってことさ」




 べ、と舌を出して噛みタバコを弄ぶ。下品な仕草だが、外見の良い男がそれをすると奇妙にも絵になった。




「……まあ、竜を殺したっつー話はあれだが、ユト、俺には正直、あの水色の髪の女の子の方がよほど化け物に見えたぞ」




「スモールの言う通りだ。それにあのリザドニアン、ユトの背後を取った奴、俺たち誰一人にも気付かせずに、消えて、現れた。ありゃ、秘蹟かなにかじゃね?」





「たは、わかってねーな、お前らも」



 味わい尽くした噛みタバコを、口から取り出し、手のひらで握りしめる。





「スモール、リバー。1つ賭けをせん?」




 パラパラとユトの拳で粉々にされたそれらが、ふりかけのように散らばって。





「賭け? なんの?」




 ユトの言葉に、彼の常識的な友人2人が首を傾げた。





「さっきの竜殺しに絡んだ冒険者。アイツら、明日の朝まで生きてるかどうか、ってのはどうよ?」





 愉快げに、塔級冒険者が笑う。その顔は賭けの結果を確信している顔だった。





 ………

 ……

 …




 遠山鳴人は、考える。




 さて、彼らと自分達、いったい何が違ったのだろう、と。




 遠山鳴人は、考える。



 これから自分は人間を殺す。この世界に来てから、カンタンに自分の選択に入ってしまったその行為を思う。




 遠山鳴人は、耳を澄ます。



 影に愛された友の力に包まれて、彼らの拠点の屋根裏に潜んだまま、そっと、これから自分が殺す人間の声を聞いた。









「ああ、畜生、いてえ、いてええよお」





 野太い声、うめく。






「くそ、フラッド、指はどうだ?」




「ぶ、ひひ、いでえ、いでええよ…… なあ、薬、薬くれえよ」




「ザバス、骨継ぎ薬をフレッドに使うぞ。いいよな」




 屋根裏に耳を当てて、澄ます。



 そこには生活の音があった。ラザールの調べによると冒険者向けに貸し出されている借家らしい。




 きっと、彼らがここを借りるまで、彼らなりの物語があったのだろう。





 遠山は、屋根裏、薄い建材に寝転んで階下、彼ら冒険者が集うリビングの声をじっと聴き続ける。






「ああ、使え、こんな時の為の備蓄だ! くそ、俺の足もようやく繋がってきた…… 大赤字だ、クソ、クソクソ!」




「おい、ザバス、どうする? あいつら、まさかこのまま黙ってるわけじゃねえよな?」





「ああ、当たり前だ! あの水色の髪の女も、あのリザドニアンも、そしてあの黒髪の男も!! 俺らを舐めたまま、この街を歩かせてやるわけねえだろ」




「だよな! だが、どうする? アイツら、予想以上に強かった、真正面からは無理だろ」




「………この前のあの女、アイツに連絡するか?」




「カラス、か」




「そ、それは流石に……」




「いや、この際だ。それに俺たちは冒険者だ、使えるものはなんでも使う、役に立つもんはなんでも使うんだ、アイツら、許さねえ」




「ああ、そうだ、その通りだ。狙いはあのガキどもだ。アイツらを攫って、人質にしよう、それがいい。なあ? フラッド」




「ぶひ、ひひひ、指、指、まだ動かねえ、けど。奴ら、ひひ、あのそばかすの女の子の指も同じにして、水色の髪のメスガキの目の前で、折ってやる……」





 聞こえる声は、怨嗟の声。



 やったら、やり返される。人の営みと報復の連鎖は決して切り離すことは出来ないものなのだろう。





 遠山鳴人は、考える。




 危険だ。放っておくには怖すぎる。




 いまの遠山には、人殺しの理由なんてそれだけで十分だった。



 ゆっくり、自分の首元に手を当てる。




 それは、遠山鳴人の最強の兵器。



 それは、遠山鳴人が自ら保有し続けることを選んだ力。




 夢の中の、お札の巨人。正体不明のその存在と深く関わる遺物。






 満せ、キリヤイバ。




 欠けた刃が、遠山の首元から引き抜かれる。膝をつき己の首から生えた刃をゆっくりと構える。




 殺意をそのまま武器にしたその機能は、例え世界を渡ろうとも遠山の意に従い続ける。




 がり、がり、がり。



 建材の隙間に、欠けた刃をゆっくり、ゆっくり差し込んでいく。木の繊維を、刃が食い進む。




 がり。




「その意気だ、よし、よし、とりあえず、今日のところはゆっくり休んで……… なんだ? これ」




「お、おい、誰かなんか燃やしてんのか? 煙?」




 目を瞑る。



 亡くしたふわふわの黒毛の友を思い出す。



 あの時の自分は弱くて、愚かで、何も出来ない存在だった。力も、覚悟も、意思もなく。




 だから、奪われた。だから、いなくなった。




 遠山鳴人は知っている、大切なものはある日急に、呆気ないほど簡単に奪われることを。





「もう2度とあんなのは、ゴメンだ」





 ピコン、ピコン、ピコン。




【複数の技能発動 "頭ハッピーセット"、"殺人適性"、"キリの主人"、"カラス殺し"、"拡大する自我" により、行動に補正がかかります。判定なしで、キリヤイバによる殺害に成功します】







 影の中、遠山が目を見開いた。



 茶色の瞳に映る光はなく。




 部屋に、キリが満ちてーー





「お、おい、外、外に出ようぜっ!! な、なんか、なんかおかしいぞ! この煙!?」




「いや、違う、これ、霧ーー」





 もう、遅い、何もかも。



 彼らも、遠山も。







「殺せ、キリヤイバ」




 あまりにも、その引き金は軽くて。





「ア?」




 たらーっ、最初に1人、冒険者の男が鼻から血を流した。それの血を止めようと鼻に手をやった瞬間、手の皮膚が破けて、血が弾けた。





「ッあ???」



 ぐるり、目から血を流し、ひきつるような声を上げた瞬間、一目で致死量とわかる血を吐いて、倒れる。




 時間差で、その身体がびくり、びくりと震える。内側に入り込んだキリが冒険者の命を斬り刻んでいく。




「ザバス?!? なん、で、エエエエエエエアアアア」




 仲間の異変に気付いた男、立ち上がった瞬間に頭を抑えて倒れ込む、ざき、ざき、ざき。皮膚が割れて、指の爪が裂かれて、身体中から血を流して、動かなくなる。






 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



 霧の中に血が舞う。



 真っ白に赤が混じる。



 静かの中に叫びが響く。



 遠山鳴人は許さない。自分達に害を及ぼす存在を。



 遠山鳴人は忘れない。世界は常に、自分から何かを奪おうとすることを。





 遠山鳴人は、決めている。



 もう2度と、自分の周りの存在を、失いたくないと思う存在を、世界に奪わせることなど決して。









 ピコン。




【キリヤイバによる殺傷数が一定以上になりました。隠しクエスト"FOG:Dream"をクリアしているので、"キリヤイバ"による魂喰らいが始まります】





「ッーー」




 それは唐突に始まった、屋根裏から聞こえる苦悶と悲鳴がさらに大きく、叫びが形となって浮かび上がる。





 いたい、苦しい、たすけて、おかあさんーー




「ッな、んだ、これ」




 思わず片手で頭を抑える遠山。そのまま力なく、うつ伏せに倒れる。



 耳元に届くのは声だ。拡声器を直接鼓膜にぶつけられているかのような圧で、苦しみに塗れる悲鳴が届く。





 ピコン、ピコン、ピコン




 影の中、わざわざ見えやすいように白い文字でメッセージ。




【キリヤイバによる"魂喰らい"が発動しています。筋力値と精神値による判定を行います】




【判定に失敗した場合、あなたの自我と喰われた魂が混ざり始めます。気をつけてくださーー ざ、ザザザザザちょ、ちょっと!! 遠山鳴人! アンタ、何したの?!】




「ハーヴィーか……! なん、だ、これ」




【クソ! あの耄碌ジジイ! これだから、ああいう存在は! 少し面白そうな人間見つけるとすぐにこういうこと仕掛けやがる!!  遠山鳴人! よく聞いて! 細かいことは省くけど、今アンタマジでヤバい感じだから!】




「知識の眷属、の割に説明が、雑ぅ…… なん、だ、これ、マジで……」




【あ、クソ…… だめ、干渉できない…… 霧が…… 遠山鳴人!! 気合い!! 気合い見せなさい!アンタは今、試されてる!! あ(・)の(・)ジ(・)ジ(・)イ(・)は(・)ア(・)ン(・)タ(・)の(・)契(・)約(・)に(・)縛(・)ら(・)れ(・)て(・)る(・)!(・)!(・) だから! 気合いと根性であのジジイをーー  じゃないと、アンターー】




 ぶつり、ハーヴィーからのメッセージが途絶えて。




 目がチカチカする。




【汝の奪った景色を見よ】




 メッセージ。




 景色が見えた。




 その男は、農村の次男坊。



 朝から夜まで働いて、また次の日がやってくる。己で流した汗水は、己を決して豊かにはしてくれない。




 そんな毎日にもあの子がいたから耐えることが出来た、素朴だけどよく笑うおさげの女の子。




 仕事の合間、ほんの少しだけ2人で畑のすみっこに腰掛けて空を眺めて話す時間、男はその時間の為だけに生きていた。



 でも、男はその子を奪われた。己の兄、農家においてその家の全てを継ぐことを許された存在。




 膝を抱えた夜。



 聞こえるのは、寝屋から響くその子の、鳴き声。



 同じ場所から聞こえる、兄の悦びに満ちたうめき声ーー




 男は全てを奪われた、だから、奪う側に回った。




【汝の奪った景色を見よ】




 その男には夢があった、幼い兄弟、老いた両親に少しでも楽をさせてあげるという夢が。



 その男は知っていた、世界はしかし残酷で誰しもが幸せにはなれないことを。



 幸せの総量は初めから決まっていて、世界はそれを奪い合うように出来ていると。





【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】【汝の奪った景色を見よ】





 キリヤイバが、人を殺す。



 遠山鳴人が、敵を始末するそのたびに、流れ込むのは人の想い、人の記憶、人の光景。




 それを全て喰らってゆく。想いも夢も願いも絶望も悲しみも、等しく。





「うえ…… うぉえ……」





 輪廻の仕組みに反する暴虐。




 この世界の歴史において、僅かに確認されている存在。




 魂喰らい。




 他を殺し、その全てを取り込み、己が贄とする存在。




 キリヤイバにも同じ機能が備わっていた。




 枷が外れかけの"霧"の力。全てを保(・)存(・)するその力が遠山の意思に反して働く。





 殺しすぎた、血を吸わせすぎたのだ。





「キリ、ヤイバ…… てめ、なにしてやがる……っ」




 混ざる、自分の中に怨嗟の声と他人の記憶が入ってくる。キリに刻まれる痛みや恐怖が、遠山にも染み込んで。




【魂喰らい 続行】




 古い封印により、忘れていたはずの人の血の匂い、人の魂の味をキリヤイバは思い出してしまっていた。




【合一■ 天之■霧■・国■■霧■に他者の魂を供物として捧げています。冒険者 フレッド・バーキン、ザバス・サヤス、他数名を"保存"しました】



 平原に溜まり、山野に広がる"霧"が、その業を世界に刻む。




【警告 あなたに"魂喰らい"の適性がありません。警告 あなたの自我は完成していません。魂喰らいによる自我汚染が始まります】






 なんで、どうして、俺、もっと、生きたくて、幸せに、なりたかった、見返してやりたくて、家族幸せに。




「あ、アアア……」




 まずい、まずい。




 身体がとても寒い、頭の中に声が響き続ける。自分の家の中に気付けば複数の他人がいるような居心地の悪さ。




 遠山が、ラザールに助けを求めようとするも、声が出せない。いや、正確には自分が声を出しているかがわからない。聞こえないのだ。他人の叫びと嘆きだけが、耳の中に。




「くそ、くそ! キリヤイバ、戻れ、戻れ……」




 かた、カタカタ。



 屋根裏に突き刺したままの欠けた刃を引き抜き、普段通りに命令するもキリヤイバは応えない。




 わずかに揺れるばかりだ。



「何が、何が起きてる……? 魂喰らい? てめ、キリヤイバ、説明書に書いてないような仕様を今更後出しーー」





 ーーあ。



 言いかけて気付いた。



 あの夢の中に存在する、あの怪しい存在。



 筋骨隆々、梵字みたいな字で埋め尽くされたお札。烏帽子と神主みたいな装束に身を包んだあのマッチョ巨人。




「……てめえの仕業か、お札マッチョオオオオオオ……」




 キリヤイバと名乗るあの不審人物との会話を端的に思い出す。



 キリヤイバ、供物、魂、自我、隠しクエスト、霧の夢。




「あの、クソ野郎…… 契約ガン無視か、よっ」




 夢の中で交わしたあの存在との、担保のない取り決め。



 いかなる方法をもっても、こちらに不利益を与えない。




 先日交わした約束はしかし、なんの意味もなかったようだ。現に今、キリヤイバによって異常が発生している。



 このままでは、まずい。生き物としての本能が告げている、このままでは、自分が自分ではなくなる。それはある意味、死よりも恐ろしい事態で。




 ピコン



【技能 "戦闘思考" 知性値によるボーナスが発生します】




「いや、まだ、だ。考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ」




 パニックに陥る遠山をとどまらせるのはそれまでの人生で身につけた技能、スキルや魔術のような特別なものではない、人間がその人生の中で得ることのできる生きる為の力。




 それが遠山の思考を止めない。




 今わかる材料だけで、この事態に対応するしかない。お笑い草だ、自分の扱う武器によってこんな窮地に陥ることなど。




【警告 "魂喰らい"により、あなたの魂と他者の魂が同化しています。肉体値による対抗ロール…… 失敗、同化が進みます】




 農村の匂いがする。饐えた堆肥の臭いだ。遠山の記憶と、彼が今殺した男の記憶が混ざり始める。




「おれ、兄貴に、何ひとつ勝てなくて…… だから…… いや、いやいや、違う、俺はそんなの知らねえ、俺はお前じゃない…… やめろ、入ってくるな……」




【警告 "魂喰らい"により、あなたの自我と他者の自我が混じり合います。技能 "拡大する自我"により、更に他者の自我との同化が進行しています。精神値による抵抗…… 失敗】




「おれ、痛い、霧に、全部刻まれて、ここで、死ぬんだ…… 違う!! 殺してんのは俺だ!! 死ぬのはあいつらだ! ……アイツら、って、俺……?」





 混ざり合う、混じりあう。



 魂を喰らう者は、他者の魂に侵される。多くの人が他人に影響を受けるように。



 遠山鳴人という個人を、他者の魂が侵していく。




 己のあり様を無理矢理に歪められる感覚、常人であれば既に人格を壊されている状況。



 しかし、遠山鳴人はやめない。




「考えろ…… 考えろ、考えろ考えろ……」



 肉体は他者の魂を受け入れきれず痺れたまま。


 精神は他者の魂に浮かされ溶け始める。



 だが、その知性だけは、遠山鳴人を遠山鳴人たらしめる知性だけはまだ諦めていない。




「考えろ、メッセージ、知識がある、まだ、考察出来る…… 知識、……ハーヴィー……」




 動き続ける脳みそが、少しづつ、少しづつ糸口を手繰る。



 知識の眷属、ハーヴィー。彼女が残したメッセージ。思い出せ、さっき、つい、さっきまで





 ピコン




【魂喰らいによる自我侵食に対して、知性値で抵抗開始……… INT6 …… 部分的成功】




 肉体も、精神もだめだった。



 だが、遠山鳴人にはまだそれがある。たった1人の人生、考えることだけはやめなかった男に宿るのは確かな知性。






「契約……!」




 あ(・)の(・)ジ(・)ジ(・)イ(・)は(・)ア(・)ン(・)タ(・)の(・)契(・)約(・)に(・)縛(・)ら(・)れ(・)て(・)る(・)!(・)




 高い知性が、たどり着くのは知識の眷属が遠山に残したメッセージ。




「縛られてるんなら、これは、おれにとっての不利益じゃ、ない?」




 前提が違ったのだ。



 この事態は、あのお札マッチョが己に叛意を翻したのではない。



 その前提のもと、頭を回す。



 魂喰らい、自我、同化、キリヤイバ、拡大解釈、適性、霧、奪った景色。



 自分の認識している情報を整理し、ゆっくり息を整える。





「……魂…… これが、俺を……」




 仮説が出来た。



 オカルトじみた話だが、異世界転移の時点で今更だ。



 今、自分は、自分が殺した"魂"とやらに苦しめられている。キリヤイバの機能には魂と関わる力があった。今、それが初めて機能しているのだ。



 それにより、今自分は危険な目に遭っている。便利だから、使えるから、必要だからとよく考えもせずに、"遺物"を使い続けたリスクがここで爆発したのだろう。





「……ヒヒ、今更か」



 少し考えて、笑う。



 夢のなかで、それは承知していたはずだ。キリヤイバとそれにまつわる存在のリスクを承知した上で運用を決めた筈だ。




 成人した大人の判断。ならば、責任を取るのも自分で無ければならない。




「……これは、反省だ。次回に活かすよ、だから、今は」




 考えろ、考えろ、考えろ考えろ。



 じゃあ、どうする。"魂"とやらが今、俺をこんなにしているのなら、どうすればーー





『なんで、俺たちがこんな目に』



『なんで、俺、死なないと』



『よくも、殺してくれたな、ぜったい許さない』





 キリヤイバが、いつのまにか全ての冒険者を始末し終えたらしい。



 魂を喰らう、魂を保存するそのヤイバが遠山鳴人に死者の声を届けたーー













「は?」




 ピコンーー




 溶け合う自我の中で届いた魂の声。



 遠山鳴人が始末した冒険者たちの魂の声。




「なんで、お前らが被害者ヅラしてんの?」




 シンプルに、それがムカついた。




【技能 ーー発動】




 色々考えたが、今の魂の一言でそのスイッチが入った。



 探索者の脳はダンジョンに満ちる酔いで壊される。


 その中でも遠山鳴人の脳は格別に壊れている。酔いの呼び水となるのは、恐怖、興奮、そしてーー









「殺しても、殺したりねえな、マジでムカつくぜ、お前ら」





 怒り、だ。




  ゴミ掃除は、徹底的にしなければならない。




 その薄汚れた魂ごと。





【技能 "頭ハッピーセット" 発動】





「死、諸共に殺す、死ね」




 その"魂"ごとーー



「皆殺せ、キリヤイバ」



 かた、かた、かた。



 欠けた刃の震えが止まって。




 ああ、最初からその力はすでに遠山鳴人のモノだった。




『アーー』



 キリが、主人の命令通り、更に消化しやすいようにその魂を真白の霧で包んだ。







 ピコン。






【目撃者、全員死亡。勢力評価変化なし。犯罪歴、無し】





………

……

…



〜冒険都市アガトラ人気No.1新聞社 "赤馬新聞" 二面記事より〜



朝靄に香るはずのその街角はその日だけは様子が違った。冒険者向けの賃貸住居の近所に住むオサナ・ホンジジン氏はその日、日課の散歩中にある異臭に気づき、すぐさま近くを巡回中の教会の警ら隊に通報。



複数の騎士が、現場に駆けつけるとそこには身体を全てズタズタに裂かれた死骸の山が発見された。



しかし、奇妙なことに教会による調査は死骸を埋葬した時点で打ち切られる。



なんと驚くことに警羅隊の出した結論は"事件性なし"



赤馬新聞はこの教会の不可解とも言える対応に、巷で噂の"審問会" 、教会に仇なす者を秘密裏に処理する組織の実在の確信を更に深めることとなる!



親愛なる冒険都市に住まう読者諸兄の知識欲、帝国を照らす真実を求めるため、赤馬新聞はこの事件を追い、さらなる真相究明に努める決意を固めるのであった!


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― 新着の感想 ―
これまで不幸な経緯があってゲスになったのは可哀想だけど、殺したことは至って当たり前の報復だからね…… この件に関しての被害者面は許されない
魂喰らいに対抗できないの意外に思ってたけど、よくよく考えれば共感性も持ち合わせてるもんな…そのうえで欲望を優先するから最高なんだが そして出てくる度に思うけど頭ハッピーセット名前の割にめっちゃ強い能力…
[一言] 鬼か怪異かと思いきや札マッチョ神なんかwしかも二柱混ざってる的な?しかも八百万とかじゃない数えられる方か。そんなんに恐れられるわんこ、気になります
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